◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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レズ……じゃ、ないね……うん

 大楼閣の廊下を悠々と歩く珱嗄を先陣に、黒ウサギ、白夜叉、女性店員と続いていた。何故白夜叉でなくこの大楼閣に入った事も無い珱嗄が先を歩いているのか、それは珱嗄の歩幅と歩く速度がこの中で一番速かったからであり、特に理由は無い。勿論道を知っている筈も無いので後ろから白夜叉が指示している。

 

「なぁ白夜叉ちゃん。さっきから何処に向かっているのか知らないけど、牛魔王なんて大層な名前の牛の気配なんてさっぱりないんだが」

「ふむ……まぁ確かにそうじゃが、気配を消せる者など幾らでもおるし、実際牛魔王もそれ位出来る実力者じゃ」

「ふーん」

「まぁ、おんしは出来ておらんようじゃがの?」

 

 白夜叉は珱嗄に向かって得意げに、フフンと鼻で笑った。珱嗄はそんな白夜叉に対して特に何も言わなかった。

 故に、白夜叉は勝ったと思った。珱嗄と出会ってからずっと白夜叉は珱嗄のペースに乗せられぱなしだった。一矢報いたなぁと得意げになるのも仕方ないだろう。だが、それは間違いだ。珱嗄は本気でやれば気配を完全に消すことが出来ないわけじゃない。だが、珱嗄の存在感や圧力というのは簡単に消せるほど小さくない。消そうとしても、溢れ出てしまうのだ。

 

「ん……ウサギちゃん、ちょっと俺の後ろに」

「え? あ、はい」

 

 ふと、何かに気が付いた珱嗄は黒ウサギを自身の背後へ、そしてその次の瞬間だった。

 

 自然ではありえない程、日差しが強くなった。温かな光は肌を焼く熱線となり、珱嗄達に降り注ぐ。だが、自分達は明らかに襲撃を受けていると、四人全員が判断する前に、事は終わっていた。珱嗄がパチン、と指を鳴らすと、熱線の向かう方向が全て『反転』した。降り注ぐ熱線を放つ敵へ、放たれた熱戦が牙を剥く。

 それに気付いた敵は、攻撃を止め、炎と共に珱嗄達の目の前に降り立った。

 

「随分と物騒じゃないか、誰だよお前」

「貴様こそ誰? そこの帝釈天の眷族を庇う所を見ると、やはり仏門の使いか」

「生憎と無宗教だ。通行の邪魔だ、牛魔王の首を取ってから出直せ小娘」

「貴様……我が義兄を侮辱するか……!」

「悪いね、基本的に全員馬鹿にしてるんで」

「やるか? この大楼閣から一片の塵も残さず消し飛ばしてやる」

 

 目の前に降り立ったのは、幼さが残る顔立ちの少女だった。黒髪をたなびかせ、大層豪華な雅な服装。背中が大きく開いた格好は、幼さの中に妖艶さを見出している。しかしその表情は牛魔王を侮辱されたことによる怒りに歪み、その手に生み出した金色の炎が珱嗄に向かって揺らめいていた。

 一触即発。珱嗄の様な、出会いがしらに誰でも馬鹿にする様な手合いと、常時お堅い彼女の様な手合いは相性が悪い。あまり仲良くなれる様な性格ではないだろう。

 

「やめておけ、鵬魔王よ。おんしがやるにはそ奴はちと強過ぎる」

「……白夜王……それはどういう意味ですか? こんな見知らぬ礼儀知らずに負ける私だとでも?」

「そうだ。正直、おんしがそ奴に一撃でも入れられたら奇跡じゃ」

「……ふん、確かめてみれば分かることです」

「わはは、血気盛んなクソガキだな。白夜叉ちゃん、俺こいつ気に入ったわ」

「じゃったら私の顔を立てて見逃してくれ。おんしに暴れられたら大楼閣が崩壊してしまう」

 

 珱嗄は白夜叉の言葉に楽しげに笑う。そして白夜叉に鵬魔王と呼ばれた少女は、なんだか戦う雰囲気でも無い相手と白夜叉の言葉から、不満気ながら炎を消した。

 彼女は鵬魔王。牛魔王と並ぶ七大妖王の一人だ。その金色の炎と人の姿を取ることから、彼女の正体は大鵬金翅鳥(たいほうこんじちょう)、ガルーダとも呼ばれる最高位の神鳥である。牛魔王とは義兄妹であることから勿論仏門嫌い。

 

「まぁやり合う気は更々ないけど、ウサギちゃんを見る眼は気に入らないな」

「……」

「まさかお前……所謂レズって奴か? ウサギちゃんの身体は確かにナイスバディだけど、あまりなりふり構わずそういう趣味を振りまくのは止めた方が」

「誰がレズだ! 例えそうだとしても仏門の畜生にそんな感情を抱くか!!」

「まぁなんだ……そういう趣味でも俺は否定しないよ。うん、世間の目は厳しいだろうけど、頑張れ」

「待って、なんで貴様の中では私がレズで確定しているの?」

「……」

「黙らないで、まだ話は終わってない!」

「本題に入っても良いかの?」

「白夜王、このまま話を変えることは私の名誉に関わるわ!」

 

 不名誉な扱いに憤慨する鵬魔王。珱嗄はもう何も言うなとばかりに慈悲の視線で鵬魔王を見ながら首を横に振り、白夜叉はどうどうと宥めながらもう話は終わったんだと言い聞かせる。

 黒ウサギも女性店員も、目の前の鵬魔王の正体を察して驚愕してはいるが、それ以上にそれを子供扱い、もとい変態扱いで手の平の上に転がしている事の方がびっくりだった。確かに白夜叉の方が鵬魔王よりも格上ではあるが、この光景の中心はやっぱり珱嗄だ。

 

「さて、レズ魔王――――じゃなかった、鵬魔王ちゃん。本題に入ろう。牛魔王何処よ」

「貴方は後でじっくり話をする必要があるわね……それと、長兄は不在よ」

「は?」

 

 此処まで来て、牛魔王には会えないようだ。

 

 


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