◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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巨龍抹殺

 珱嗄となじみは、巨龍に近づいてくる気配を察知しつつ、ほのぼのと会話をしていた。

 近づく気配とは、十字剣を振るう飛鳥、ペガサスの力を十全に発揮して十六夜を運ぶ耀、そしてその拳に星を砕く力を温めている十六夜の三名。どれも箱庭屈指の問題児達である。

 

 このゲームのゲームマスターであり、そしてノーネームの仲間であるレティシア=ドラクレアを救うため、珱嗄が抑えつけている巨龍の心臓を撃つ。彼らの目的はそれだ。だが、相手は巨龍。幻獣の中でも最強種と称される純血の龍だ。その巨大さはといえば、それこそ珱嗄の抑えている頭だけで人間数千数万を重ねても勝てない程。まぁそれを下顎の皮を掴んで抑えつけることで暴れさせない珱嗄も珱嗄だが。

 とはいえ、その大きさゆえに何処に心臓があるのかは全く分からない。口から入って心臓まで突き進むかしない限りは、まぁ不可能だろう。

 

「さてさて……珱嗄、あれが君の今のお気に入りかな?」

「ん?」

「見てれば分かるさ。今ここに向かってる―――金髪のクソ生意気そうなクソガキと、茶髪の貧乳と、赤いドレスのプライド高そうな小娘、この子達を見る君の視線は、かつてのめだかちゃん達を見る視線と同じだ」

「んー……まぁそうだな。といっても、めだかちゃん達みたいな仲間だとか友達だとか先輩後輩だとかそういう……なんていうの? 好意的な関係、というわけじゃない」

 

 珱嗄の言葉に、なじみは首を傾げる。仲間じゃない、友達じゃない、先輩後輩というわけでもない、といっても敵という訳でも無い。ならば何だというのだ? そういう疑問を抱いた表情だった。

 珱嗄はそんななじみの表情に苦笑する。そして、その視線をもうかなり近くまでやってきている問題児達に送りながら答える。

 

「アレらは問題児。俺に従順でなく反抗的で、友好でなく生意気で、本能的でなく理性的で、協力的でなく打算的で、敵意でなく出し抜く意思を抱き、友情よりも目的を取り、お利口でなく無邪気で、結局個人個人の目的の為にお互いを利用し合っている。勝てないと分かっていながら強者にのみ牙を剥く。友達なんて温い温い、本当の仲間なんてとても言えやしない」

「じゃあなんなのさ、君達はこうして知り合っているし、こうして行動を共にしてる。赤の他人でなければ友達でもなく、敵でも無く、仲間でも無い関係なんて成り立たないぜ?」

「そうだな……さしずめ」

 

 そこまでいって、十六夜と耀が巨龍へ辿り着いた。まだ大天幕は開かない。送れて飛鳥も辿り着く。三人は巨龍の頭の前に珱嗄がいることを確認した後、それぞれアイコンタクトもせずに一つの作戦を決定、即実行に移しだす。

 

 

 

「―――一緒に問題を起こして迷惑を振りまく関係、『悪友』って所だろ」

 

 

 

 十六夜を抱えた耀が巨龍に向かって十六夜を思いっきりに投げ落とす。

 

 

「十六夜!」

 

 

 高速で巨龍に向かって落ちる十六夜が、巨龍の身体をその拳で叩く。星を砕く一撃は、巨龍の身体全てを地面に叩き落した。

 

 

「お嬢様ァ!!」

 

 

 そこへ飛鳥が駆けつけ、地面に落ちた巨龍の身体をディーンの力で地面に押さえ付ける。恩恵の極大化により強化されたディーンは、その圧倒的なパワーをもって巨龍を抑えて放さない。

 

 

「珱嗄さん!!」

 

 

 そして、三人の視線が珱嗄に向いた。ここまでの流れを見ていた安心院なじみがハッとなって隣の珱嗄を見る。全体を見てみれば、珱嗄の目の前に一直線に巨龍の身体が地面に着いているではないか。そして、その珱嗄はゆらりと笑いながら巨龍の目の前で拳を振りかぶっている。

 

「まさか――――」

 

 安心院なじみは眼を見開いた。箱庭学園でも全く見られなかった珱嗄の全力の拳、それが今目の前で繰り出されようとしている。

 

 

 

 

「消えろ!! デカブツがぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

 

 

 

 珱嗄が、楽しそうに大声でそう叫び、地震かと思う程地面を揺らしながら足を一歩前に踏みこむ。そして、その拳を目の前の巨龍に向かって

 

 

 

 

 ――――叩き付けた

 

 

 

 

 

 音は無かった。ただ、巨龍の頭蓋に拳がめり込んでいた。事実、巨龍の身体にはなんの異常もきたしていなかった。だが、それでも巨龍の身体が硬直していた。静けさが、空間を包みこむ。

 

「これは……?」

 

 十六夜が困惑の表情で呟く。だが、変化はここから。巨龍が声にならない呻き声を上げた。そして次の瞬間、その大きな口から大量の血を吐き出した。

 

 

 ―――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!

 

 

 叫び声が大きくなる。そして、巨龍は鈍い地響きと共に―――倒れた。

 動かない。何故なら、自身の身体の中心、その大きな心臓が……『破裂していたから』。

 

 珱嗄の拳、それこそ一撃で地面を割り、空気をも寄せ付けず、音さえ置き去りにしていく最強の拳は、その衝撃を巨龍の身体全域に響かせ、そして心臓を破壊したのだ。巨龍の姿が消えていく。伝承から顕現した存在が、宇宙の正しい軌道へと戻って行った。

 

「―――……なるほど、確かにあの子達は問題児だね………そして君もね、珱嗄」

「わはは、楽しいぜこの世界は。好き勝手やっても怒られない」

「今までも好き勝手やってたくせに」

「全力で好き勝手やっても怒られない」

「それは確かみたいだね」

 

 乾いた様な苦笑を浮かべながら、安心院なじみは言う。そして、珱嗄はなじみに満足した様な表情を向けながら言う。

 

「好き勝手ついでだ。なじみ、この惨状を元に戻しといてくれ」

「え」

 

 珱嗄が親指で指した先、そこには

 

 

 

 巨龍の身体が地面に叩きつけられた拍子に崩壊した、アンダーウッドの惨状があった。

 

 

 

 


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