◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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十六夜メイド

「……おかえりなさいませ、お嬢様方」

 

 唖然。

 

 フォレス・ガロとの勝負の後、春日部耀が負傷した物の勝利を収めた黒ウサギ達の凱旋に応えたのは、メイド服姿の逆廻十六夜の姿だった。

 仏頂面を隠す事もせずに腰に手を当てて佇み、黒ウサギ達を迎え入れる。元々、その身体から生み出される大きな力はギフトによる物で、実際は平均的に背は高い物の細い身体をしている十六夜は中々女物の服装を着こなしていた。

 

 流石の珱嗄も着こなせるだろうと思ってはいたが、男の意地という物を汲みとってミニスカートではなくロングタイプのメイド服に譲歩している。故に、清純で素朴なメイド服を仏頂面の不良が着こなしているというのは中々どうして、違和感満々であった。

 

「ど、どうされたんですか十六夜さん! その御姿は!?」

「知らねぇよ。珱嗄の奴とギフトゲームをして、負けて、気絶して、起きたらこの姿だったんだ。なんでもこの姿でお前らを出迎えるのが勝者である珱嗄の報酬らしいぜ。ギアスロールに定められた事だったからかお前らを出迎えねぇと脱げねぇ様になってるらしい」

「似合ってるだろ? くははっ」

 

 珱嗄はそう言って腹を抱えて笑う。そんな珱嗄に十六夜は歯噛みして睨みつけるが、何処吹く風、珱嗄はゆらりと笑って十六夜の視線を受け流した。

 

「くそ……オイ珱嗄。出迎えたんだからもうコレ着替えても良いだろ?」

「ああ、うん。そうだね」

 

 珱嗄は笑いを堪えつつ、珱嗄式ギフトの一つ。衣装を換えるギフト【衣換え(メイクアップ)】を発動させ、元の学ランとズボン、黄色いTシャツを十六夜の着ているメイド服を取り換えた。

 日常でもギフトが役立てる珱嗄のギフト量は中々どうして、便利極まりない。元々、珱嗄の持つギフトの三分の一は基本的に日常の中で使えるギフトだ。呼称するなら生活ギフトである。

 

 例を挙げるなら遠くにある物を引き寄せるギフトや課せられた課題や仕事を想像通りに終わらせるギフト、なんかがある。生活の中でギフトを惜しみなく使えるというのは、十六夜達から見て羨ましいと思える物だった。

 

「そうそう、ニャンコとの勝負はどうだったよ飛鳥ちゃん達」

「まぁ春日部さんが怪我を負ったけど……一応勝ったわ」

「そうかい。そいつは重畳」

 

 珱嗄の問いに飛鳥が答えた。そしてその答えに珱嗄は一つ頷き、時間を巻き戻すギフト【跡戻り(バックトラック)】を使って春日部耀の身体の時間を戻し、怪我を負う以前の状態に戻す。その結果、怪我はテープの巻き戻しの様に消えて行った。

 

「怪我は俺が直してやるよ。治さないけど、直す位はしてやる」

「本当に規格外ね貴方の力って」

「まぁ元が元だからね」

 

 まだ十六夜達には明かしていないが、珱嗄のギフト……というよりスキルは元々一つ。

 

 ―――思考をそのまま現実にするスキルを創るスキル【嗜考品(プレフェレンス)

 

 このスキルにより、このギフトにより、珱嗄は長い時間の中で数多くのスキル、もといギフトを生み出してきたのだ。

 だがそれこそ異常。この世界で言うのならギフトを生み出せる存在であるのだ。珱嗄は。

 ギフトは神や修羅神仏、精霊、悪魔、星達によって与えられた恩恵である。それを、自由自在に生み出せるとなれば、それはそれらと同等の存在と言う事になる。

 与えられたギフトを行使して勝負し、その頂点に立つ魔王とかそういう次元では無い。ギフトゲームをする為の道具を与える側、ゲームをする子供達にゲームを買い与える親の側なのだ。

 

 それが人外の領域。サッカーをする素人小学生に混じって全力を出すサッカー選手の様な、卑怯さと圧倒的な実力差、時間が経てば追いつけるとかそんな次元では無い。最後まで勝ち逃げるのである。

 

「で、他には? どうやら昨日の内にそこの少年と十六夜ちゃんがなにか話してたみたいだけど、それは別に雑談じゃあないだろう?」

「……まぁな。で、おチビ、どうだったんだ?」

「あ、はい。一応十六夜さんの言ってた通り、フォレス・ガロに旗印を奪われたコミュニティにはそれぞれ旗印を返還しました。あと、僕達ノーネームが打倒魔王を目標にするという事も一応……」

 

 打倒魔王。これが十六夜のノーネーム復興方法。その為に魔王を倒す為の戦力と、それを指示するコミュニティの連携を作るつもりなのだ。その最初の第一手が、フォレス・ガロとの勝負を利用した打倒魔王宣言と、旗印返還。

 どうやら十六夜は十六夜で、ノーネームの復興には乗り気の様だ。とは言っても、一番手っ取り早いのは珱嗄がそのギフトを駆使してくれることなのだが、珱嗄はコミュニティ復興には興味が無い。寧ろノーネームのままでもいいんじゃね? とまで思っている位だ。それは望めない。

 

「とはいえ、気になるのはガルドの様子がおかしかった事ね」

「おかしい?」

「はい。ガルドは吸血鬼化しているようでした。自我は無く、力の限り暴走して襲い掛かってきました」

「ふーん……」

 

 吸血鬼。この世界において、その存在がどのような物かは知らないが、基本的には人を襲い、吸血し、生き永らえる鬼。弱点としてポピュラーなのは日光。説は色々あるが、水流や銀の弾丸、大蒜、十字架といった物も弱点として様々な物語に出て来ている。マイナーな物としてはまぁ波紋とかもそれに当たる。

 

「吸血鬼、ね。俺も長い時間生きてるけど、吸血鬼に会ったのは数回位だね」

「有るのかよ」

「今更何言ってんだ。俺は神様にだって会った事が有るんだぞ」

「えええええ!? それは本当でございますか!?」

「本当だよウサギちゃん。随分と気が合う神様だったから仲良くさせて貰ってるぜ」

 

 珱嗄がそう言うと、更に黒ウサギは眼を丸くして驚いた。十六夜達は最早驚くを通り越して溜め息を吐く。正直、もう驚き疲れたのだ。

 

「さて。怪我は直ったし、耀ちゃんはとりあえず医務室のベッドに寝かせてきなよ。ほら十六夜ちゃん、男だろ。ぼーっとしてないで運べ」

「はいはい、分かったよ……黒ウサギ、手伝え」

「あ、はい!」

「私も行くわ。今回の春日部さんの怪我は私にも責任があるもの」

「いってらー」

 

 十六夜が耀を抱えて部屋を出る。黒ウサギが案内に同行し、飛鳥も同じ様に部屋を出て行った。

 

「少年はどうする?」

「僕はちょっと子供達の様子を見てきます」

「おー」

 

 そしてジンも働いている子供達の様子を見に、部屋を出て行った。そうして珱嗄は部屋に一人になる。そしてそのままゆらりと笑った。

 

「全く、くだらねーことでよくもまぁやる気を出せるもんだなぁ」

 

 そしてそう呟いて、口元を更に吊り上げる。そしてその視線を窓に移してその手をその方向へと突き出す。

 

 

「さて、やぁ吸血鬼ちゃん。入って来いよ、俺はお前を『檻迎』しよう」

 

 

 珱嗄はその手を握り、引っ張った。そしてその後そう言う。すると、窓が開いて金髪幼女が部屋の中に強制的に入れられた。そしてその言葉通り、幼女は何処からともなく現れた檻によって閉じ込められた。

 スタイル【誤変換使い】

 言葉を間違える事で間違えた言葉を現実にするスタイルである。例えば、今の様に歓迎という言葉を檻迎という形に誤変換することで檻を生み出し監禁する形で出迎えるという状況を作った。

 ちなみに幼女が部屋に引っ張られたのはギフトである。先程紹介した、遠くにある物を引き寄せるギフト【吸引制(ウィズドローイング)】である。

 

 また、スタイルとはめだかボックスの中で登場した力である。言葉によるコミュニケーションを基盤にした共鳴し(ともになき)共振し(ともにふるえ)共感する(ともにかんじる)言葉(スタイル)

 スタイルとは様々なパターンがあるが、基本的には言葉を様々な形に現実にする力なので、言葉の通じる相手には基本的に通用する。そして今のがその内の一つ『誤変換使い』である。

 ちなみに言っておくが、流石にスタイルの数まで京を超えたり億を超えたりしていない。精々指で数えられる程度だ。

 

「な……これは……」

「やぁやぁ吸血鬼ちゃん。金髪幼女とはまたベタだね」

「この檻はお前のギフトか? 私に一切悟らせずにここまで……」

「まぁギフトと言うよりは……いいか。それで、お嬢ちゃんは誰だ?」

「私は……レティシア=ドラクレア。元々このコミュニティに席を置いていた元魔王の一人だ」

 

 レティシア=ドラクレア。箱庭の騎士と呼ばれる純血の吸血鬼である。元はノーネームになる前のこのコミュニティに在席していた元魔王の一人。

 

「なるほど、元魔王。だがまぁそれにしてはギフトもその覇気も感じられない。本当に吸血鬼かどうか疑わしい物だけど、まぁいいや。それで? 何をしに来たんだ?」

「……このコミュニティが打倒魔王を掲げたのを聞いた。それで、このコミュニティを任せられるが実力を測りに来たんだ。ちなみに、フォレス・ガロのガルドを吸血鬼化させたのは私だ」

「へー」

「……興味無さそうだな」

「興味無い。吸血鬼っていう属性は金髪ロリっていう要素と掛け合わせれば萌え要素になるけれど、正直俺はノーネームがどうなろうとどうでもいいし、こんないきなりな展開で新キャラ登場とか言われてもねぇ?」

 

 珱嗄はメタ発言をぶち込みながらそう言う。するとレティシアはどうにか檻から出ようと檻の破壊を試みるが、その前に珱嗄が檻を消した。

 そして、珱嗄は佇むレティシアの下まで歩み寄り、目線の高さが合う位置まで屈んだ。

 

「?」

「……お嬢ちゃん。ここまで無警戒に俺を近づかせた時点でお前負けてるぞ?」

「!?」

 

 バッと後方へとバックステップで下がるレティシア。珱嗄はそんな彼女を見てゆらりと笑いながら屈んでいた体勢を戻して佇む。そして眼をすっと細めてゆらりと笑った。

 

「ふむふむ、元魔王とは言った物の……その力は殆ど失ってるみたいだね。つまりは雑魚なわけだ」

「っ……貴様、何者だ?」

「泉ヶ仙珱嗄。面白い事が大好きな、唯の人外だぜ」

 

 珱嗄の言葉にレティシアは顔を歪める。実力を測りに来た、とは言った物のコレは予想外。全盛期の自身以上の実力を持っていると一目で分かった。コレは最早人間では無く、怪物だ。と彼女は思う。

 そしてそんな怪物を自分の元居た場所であるこのコミュニティに置いておくのは不安極まりなかった。

 

「さて、実力を測るだったか……いいぜ、ちょっくら力比べと行こうか」

 

 だがそんな不安を余所に、珱嗄は楽しそうにそう言った。

 

 

 

 

 


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