◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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ゲームクリア

 刺された珱嗄が、刺したリンへと一歩、また一歩と歩を進める。それに応じる様に、リンは珱嗄の放つ殺意のプレッシャーから逃れる様に一歩、また一歩と足を退いた。

 リンのギフトは、空間・時間操作の類のギフトであり、基本的に彼女に攻撃は『届かない』。当たらないのではない、届かないのだ。当たる前に距離を操作されてしまうから。

 攻略法は、ギフトを発動される前に一瞬で接近すること。珱嗄にとっては造作もないことだが、こうして一歩一歩詰め寄っているのは、それ相応のプレッシャーと威圧感でリンを追い詰める為。

 

「う……」

「どうした?」

 

 リンは、基本的に戦闘中でも無邪気さを忘れない可愛らしい少女だが、この時ばかりは違った。そんな暇は無い。無邪気に天真爛漫楽しんでる暇などないのだ。それほどまでに、今の珱嗄は圧倒的に強かった。

 

 

 だが、

 

 

「え?」

「やぁ」

 

 

 リンが後ろに下がっていると、誰かにぶつかった。思わず後ろを振り返ってしまうリン。そこには、女性がいた。見た目的には美少女といって差し支えない容姿だが、纏っている余裕淡々とした落ち付いた雰囲気が、見た目より遥かに大人びた印象を与えた。

 そう、安心院なじみだ。珱嗄の恋人、現時点において6兆年の歳月を生きた本物の人外、全知全能の悪平等である。

 

「貴方は……?」

「ん? 僕かい? 僕の名前は安心院なじみ、親しみを込めて安心院さんと呼びなさい」

「あ、どうも……?」

「それで、少し問いたいのだけれど……珱嗄の腹部から決して少なくない夥しい量の血液が流れ出ているのは……なんでかな?」

「………わ、私が……刺した、から?」

「そうかい、それじゃ――――」

 

 安心院なじみは、何もしなかった。何もしなかったけど、何かをした。結果、リンは大きく仰け反り、唐突に訪れた衝撃に……吹き飛んだ。

 地面を転がり、身体を土塗れにしながら、ナイフを地面に突き刺して止まる。

 

「――――え?」

 

 リンは呆然と表情を固める。そして、顔を上げた視線の先……安心院なじみは、とんでもない形相で怒気を放っていた。

 

 

 

「殺してやろうか、小娘」

 

 

 

 安心院なじみはこうして怒りを露わにする理由。それは、珱嗄が普通の人間と同じになったからだ。同じ、というのは『不死身のスキル』を失って、殺されたら本当に死ぬ存在になったということ。

 今の珱嗄がどのようなギフトを持っているか知らない彼女からすれば、珱嗄が死んで蘇る安心は出来ない。勿論、自分のスキルが通用するのなら幾らでも蘇生するが、ここは別世界。下手すれば、珱嗄が死んで二度とその温もりを感じられなくなる可能性もあったのだ。

 

 だから怒る。自分と珱嗄を引き裂こうとする者を、許さない。

 

「よーなじみ、お前ゲームには参加出来ないんじゃなかったっけ?」

「さてね、僕としては星の加護を得るギフト『星間被光(スタースタート)』を使えばゲームの参加資格位簡単に獲得出来るんだよ」

「ふーん」

 

 リンの心境としては、あ、これ詰んだ。といったもの。前門の人外、後門にも人外だ。まさしく四面楚歌、この二人の前では如何なる逆境をも平伏し、この二人の進む道には如何なる敵も道を開ける。絶対に勝てない相手、絶対に勝てない人外。

 

 

 人の枠を外れた存在、ソレが人外。

 

 

 本来ならば、敵対するべきでは無かった。

 

 

「さて……今のはアレか? 怒りのエネルギーに比例して相手をぶっ飛ばすスキル『暴徒暴投(ストレスブレイク)』か? ストレス発散系のスキルの」

「そうそう、見てたらどうやら空間操作、距離を操作する能力みたいだったからね。そんなの関係無く『ぶっとばす』結果を現実化させるスキルなら、関係無いだろう?」

 

 そんなギフトがあってたまるか、とリンはぶっちゃけ思った。問答無用で怒りの矛先をぶっ飛ばすギフトなど、防ぎようがないではないか。しかもそれがただのストレス発散の為の力というのだから、恐ろしい。彼女は一体どんなに凶悪なギフトを持っているというのだ。

 

「で、珱嗄……その傷は大丈夫? 治そうか?」

「ん……あー、うん……もういいや。なんか可哀想になってきたから」

 

 珱嗄はそう言って、戦意を喪失した。なじみが現れてからというもの、リンの怯えようが半端ではない。どう見ても戦意を喪失……いやぶっ壊されている。こんな状態の少女を敵として葬ることは、珱嗄でなくとも気が引けるだろう。まして、絶対に戦わなくても良い、倒さなくても良い相手だとすれば尚更だ。

 

「治してくれ、なじみ」

「良いよ、ちゅーしてくれたら」

「お前、相変わらずだな……」

「僕をこんな風にしたのは珱嗄の癖に」

 

 安心院なじみは頬に両手を添えて頬を赤くしながらそう言った。3兆年もあればまぁ色々ヤッちゃってるのだが、なじみとしては行為よりキスの方が気に入っているようだ。

 例えるのなら、全裸よりもチラリズムの方が興奮する、みたいな感じである。年中発情しているような色魔ではないのだ。口移しでスキルを譲渡するスキルもあったこともあって、代わりになじみは珱嗄限定でキス魔になっちゃったようだけれど。

 

「時と場合は一考すべきだと思うけど?」

「………うん、ちゅーしよう」

「思考時間1秒にも満たなかったな……仕方ない」

 

 反転すれば治る傷ではあるものの、珱嗄としても恋人であるなじみに、しばらくの間寂しい想いをさせていたことを悪く思っていないわけではない。ここは大人しく、可愛い恋人の要求を呑むとしよう。

 

「♪」

 

 珱嗄は安心院なじみの前に立ち、彼女の顎をすっと少し上に上げた。なじみはそれでキスしてもらえると思ったのか、上機嫌で目を閉じた。リンはこの隙に逃げるべきであるにも拘らず、まだ幼い少女故に大人の恋愛というモノへの好奇心から、目を離せないでいる。

 そして、珱嗄の顔がゆっくりとなじみの顔に近づいて、

 

 

 

「んっ………」

 

 

 

 なじみのそんな短い嬌声と共に距離を零にした。くっついた唇と唇は啄む様な軽いキスを数秒続け、そして離れた。

 

「これでいいか?」

「ふぁい……」

 

 安心院なじみは、満足気にへにゃっと笑みを浮かべると、珱嗄の腹部の傷を一瞬で治してみせたのだった。

 そして、それと同時。ギアスロールが降ってくる。そこにはこうある。

 

 

 

 ――――第三勝利条件が達成されました。

 

 

 

 


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