◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄となじみが眺めている光景の中で、吸血鬼の古城内にいる春日部耀らは、前話で語った勝利条件の謎を解いた。黄道十二宮の欠片を集め、その他十四の星座の欠片を集め、そして本物のレティシア=ドラクレアが眠る玉座の間へとやって来たのだ。
謎を解いたのはヘッドホンを紛失して軽く鬱だった春日部耀。ヘッドホンの件の罪滅ぼしという訳ではないけれど、仲間であるレティシアを取り戻すことは、ノーネームにとって重要事項ではあるだろうと考えたのだ。それに、この状況下で共に行動しているアーシャや六本傷の子供達が傷付くのも気が引けた。
解けたのだって、殆ど偶然みたいなものなのだから。黄道十二宮について、春日部耀が知ったのは箱庭に来てからだ。ペルセウスの一件の後、正確には珱嗄が星を消滅させた一件の後、この箱庭の旗は星座に関係している事がある、という結論から、彼女はノーネームに残った書物から星座に付いて調べたことがあるのだ。
まぁ、その時点で特になにかしらの成果を上げられていなかったから、彼女としては結構切迫した様子でありとあらゆる書物に手を伸ばしたものだ。三日続かなかったけれど。
とはいえ、ペルセウスのルイオスには悪いが、珱嗄がペルセウスの星座を消滅させたことで耀は謎を解くことが出来たのだ。素直に感謝の意を示しておこう。対象は珱嗄だが。
「どちらにせよ、この状況下で謎が解けたのは行幸だよね……ゲーム再開時に何かしらのアドバンテージが得られればって事で動いてたけど……」
「でもいいじゃねぇか、耀のおかげで子供達をより早く助けられるんだからさ!」
「うん……あぁでもヘッドホン……」
「まだ引き摺んのかよ……」
耀は黄道十二宮の欠片を片手で弄びながら、うーと唸った。すると、
「う……うぁ……あっ……!」
玉座に座する魔王、レティシア=ドラクレアが眼を覚ました。
どうやら、彼女を攻撃しようとする、古城に近づく、といった行動を取るとレティシアの影……十六夜が対峙したあの偽レティシアが現れる様なのだが、こうして本物のレティシアが起きたということは、外で戦っていた十六夜は、偽レティシアを倒したのだろう。
「レティシア、起きた?」
「……耀、か……! 私は……魔王に戻ったのか……」
レティシアは、目覚めて直ぐに状況を把握した。そして、次の瞬間この一件が終わった後に珱嗄から何をされるかを不安に思った。
どうやら、彼女はこのギフトゲームがクリアされることについては、何の心配もしていないらしい。というのも、珱嗄という化け物がいるのだから、ゲームがクリアされないなんて一切思えなかったのだ。
「……マスターはどうしている?」
「え、珱嗄さん? 珱嗄さんは……分からない……巨龍を捻子伏せてたから多分どこかで見てるんじゃないかな?」
「……嫌な予感がする」
「まぁレティシアは珱嗄さんプロデュースのアイドルだもんね……傷を負ったら怒られそうだね」
「頑張るとしよう……」
レティシアがそう言うのを聞いて、耀は最後の欠片を仕掛けに嵌めこんだ。
「それは――――」
レティシアが何をしているのか聞こうとしたその時だった。地鳴りが響き、古城が揺れた。雷の轟音が鳴り響き、そして、最強の存在の鳴き声が聞こえて来た。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!』
腹の底を振動させる様な、重く、荒々しく、暴風の様な咆哮。そう、巨龍が再び現れたのだ。
「なんでっ……!?」
「まさか……耀、それはゲームクリアの為のものだったのか!?」
「そう、だけど……間違ったみたい……」
春日部耀はしゅんと俯いて、居心地悪そうに声を小さくした。だが、それは違う。彼女の解答は間違っていない。間違っていないが、正答ではないのだ。
十三番目の太陽を、見逃しているのだ。
彼女の用意した十二の黄道の欠片は、確かに正しい位置に嵌めこまれた。
だが、第四の勝利条件にある『玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命指導者の心臓を撃て』を見てみると、『正された獣の帯』とある。これが十三番目の太陽を読み解く鍵だ。
正された、ということは間違えられていた、ということだ。これは第三の勝利条件にある『砕かれた獣の帯』にも掛かっている。
簡単に言えば、天体分割法を使うことは合っているが、その分割法は時代遅れなのだ。
この古城は衛星の役割を持っていた。ということは、吸血鬼は天体分割法が生み出された当初よりも、遥かに近代的な天文学を学んでいたということなのだ。故に、黄道……つまり太陽の通り道にあった星座は、十二の星座だけではないということだ。
それが、十三番目の太陽……箱庭に存在はしないが、本来ならば太陽の主権に数えられてもおかしくはない、黄道に存在する十三番目の星座
―――蛇遣い座
この欠片が足りていない。故に、第三の勝利条件は不十分なのだ。しかし、ゲームをクリアしようとしてしまったから、強制的にゲームが再開されたのだ。巨龍が現れたのも、そのせいだ。
「くっ……私が巨龍を抑える! その内に勝利条件を完成させろ! おそらく、何かを見落としている!」
レティシアは、焦燥と苦々しい思いを胸に、そう叫んだ。
だが、ふと聞こえた
あの、ゆらりと響く最強の男の声
――――墜ちろ
次の瞬間、抑えつけようとした巨龍が、大きな力によって捻子伏せられた。