◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、ここらへんでそろそろ、このアンダーウッドという場所で繰り広げられているギフトゲームの、勝利条件達成の為の攻略についてを語ろう。
まず最初の前提条件として知っておいてもらいたいのは、吸血鬼という種族の事についてだ。
彼ら、彼女らが日光を苦手としているのはご存じだろう。多くの伝承、多くのフィクションの中でも、吸血鬼というのは大体、日光によって死滅する。この、箱庭を除いては。
彼らが箱庭にやってきた、その昔の時代。以前も言ったかもしれないが、箱庭の治安は全くと言っていほど良くなかった。秩序は乱れ、独裁はそこかしこに存在し、好き勝手に暴れる荒くれ者達に満ち満ちていた。
吸血鬼達の箱庭における偉業は、今でも残っている。乱れに乱れた秩序を但し、階層支配者制度を立ち上げ、その偉業として吸血鬼のトップ―――レティシア=ドラクレアが全権階層支配者の地位を獲得した。
ここまでは前提話の大前提の設定話。本番はこの後だ。
レティシア=ドラクレアが全権階層支配者となった暁には、太陽の主権が与えられることになっていた。『黄道十二宮』と『赤道の十二辰』、合わせて二十四の太陽の主権の内の、一つを。だがここで大問題が発生する。
―――吸血鬼に取って太陽の光は天敵である
これはレティシア達吸血鬼の王族であっても例外ではない。まして、王族に従う普通の吸血鬼達がその太陽を『憎く思う』のは仕方が無いだろう。それこそ、太陽を支配出来る権限が手に入るとすれば、行動を起こしてしまう程なのだから。
吸血鬼の民衆は太陽の主権を奪うために、
その結果、王族は死んだ。レティシアの家族も例外なく、磔刑の上に焚刑に処され、後に串刺しにされ、抜かりなく太陽の光で地面の染みにされ、殺された。レティシア以外は、殺された。
勿論、太陽の光に弱いのは反逆者も、そうでない一般吸血鬼も同じ。クーデターを起こされた王族が日光で死んだのに、一般の、無関係の、なんの罪もない、普通の吸血鬼が無事で済む筈が無い。
つまり、王族と共に普通の吸血鬼達も死んだ。完膚なきまでに死滅させられた。
残ったのは、魔王討伐の為に出ていたレティシアと反逆の吸血鬼達。
帰って来たレティシアは、その光景を見て絶望した。未だ降り注がれる日光に蝕まれる身体を放置して、絶望した。
まぁその後、何者かの介入があったものの、一悶着あったものの、それが原因でとあるギフトゲームが始められた。レティシア=ドラクレアが、同族殺しの魔王となったギフトゲームが。その結果、反逆者は全員レティシアという魔王に殺された。終わりに残ったのは、魔王となった最後の吸血鬼、
レティシア=ドラクレアだけだった。
◇ ◇ ◇
さてさて、この話を経て、このゲームの様々な要素を挙げてみるとしよう。
まず、吸血鬼の古城。この建物がなんであるのか、ということだ。
吸血鬼とは、元々箱庭の外からやってきた外来種である。その時に一緒にやってきたのがこの吸血鬼の古城である。そこで、このギフトゲームの名前『SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING』を直訳してみる。すると、太陽の同期軌道、イコール太陽と特定の角度を保って飛行する、人工衛星の軌道を指す言葉となる。
つまり、この吸血鬼の古城というのは言ってしまえば人工衛星というものになるのだ。
ここから察せられるのは、このゲームが『太陽』とその『軌道』に関係しているゲームだということだ。
勝利条件その三、砕かれた星座を集め、獣の帯を玉座に掲げよ。この中にある獣の帯というのが、『太陽』と『軌道』に関係しているとするのなら、『
此処まで来ると、最早知識の問題だが、もう少しお付き合い頂こう。
黄道十二宮の十二の星座は、太陽の軌道線上を三十度ずつずらして星座の領域を分ける天体分割法で用いられる。そう、『分割』するのだ。
これが、勝利条件にもある『砕かれた星座』を読み解く鍵となる。さて、これまでの情報を組み合わせて見よう。
―――『獣の帯』は、黄道十二宮、十二の星座を示す『
―――『砕かれた星座』は、『
―――勝利条件『砕かれた星座を集め、獣の帯を玉座に捧げよ』は『獣帯によって分割された十二の星座を集め、玉座に捧げよ』へと変換される。
そして、この勝利条件を読み解いた上で、吸血鬼の古城……人工衛星なら神造衛星の構造を見てみる。この古城には、十二分割された城下街がある。そしてその一つ一つの区域ごと、その外郭の壁に十二宮を示す記号があった。
更に、この古城には十二の星座が刻まれた欠片と、その他にある十四の星座の欠片がある。
すると、ここで一つの間違いが出てくる。砕かれた星座を天体分割法と読み解いたことが、正しくも間違いになるのだ。何故なら、玉座に掲げなければならないのだから、それはれっきとした『物』でなければならない。
そして、このゲームにおける正答。砕かれた星座というのは、『天球儀』を指し示す。砕き、捧げることが出来る『形ある物』、天球儀に。
故に、この欠片を玉座の仕掛けに正しく嵌めこむことで、ゲームはクリアとなる。そう、本当に正しく、誤りなく、嵌めこまなければならない。
十三番目の太陽を、見落としてはならない。
◇ ◇ ◇
珱嗄となじみは、なじみの転移スキルによってアンダーウッドへとやって来ていた。安心院なじみは以前の珱嗄に数で劣るものの、質は負けずとも劣らないスキル―――ギフトを一京保有している人外だ。以前の世界では、実質出来ないことなど一つもない、文字通り全知全能の存在だったのだ。
言ってしまえば、箱庭という世界を滅亡させることくらいは普通に出来る。
「あれだけあったスキルを全部失ったって……随分と弱体化したんだね、珱嗄」
「球磨川君だって言ってただろう。スキルなんてただの手品みたいなものだ、無くても困らない」
「でも今の珱嗄なら僕に勝てないと思うけど?」
「わはは、お前に勝てようが勝てなかろうが困らない。負けるつもりもさらさらないしね」
「負けず嫌い」
「生憎と、俺は我儘なんでね」
珱嗄はまだ、なじみに『
話されないのなら、聞く必要はない。珱嗄はなじみが聞けばきっと教えるだろうが、二人の信頼は固い。故に、お互いの何でもを知る必要はないのだ。
愛し、愛されているのなら、それでいい。
「それで、どうするのかな? 僕はこのゲームの参加資格が無いから手出し出来ないけど」
「あれ? なんで?」
「だってこのゲームの参加資格は『獣の帯に巻かれた全ての生命体』、僕は星座なんて概念が存在しない無から生まれたから、獣の帯なんて言われてもねぇ」
「成程」
安心院なじみにはそういう理由でこのゲームに参加する資格がない。太陽暦もない、星座もない、寧ろ太陽自体が存在しない、無の中から生まれた存在故に、その身に巻かれた獣の帯なんて存在しない。
「んー、それじゃあしばらく見てようかな。巨龍が下りてきたら次は殺そう。龍って美味いかな?」
「料理してみようか。珱嗄を探してる間、何もして無かった訳じゃないんだぜ? 花嫁修業は3000回ほど修了してきたんだ」
「それだけ聞くと結婚出来ない奴みたいだな」
珱嗄となじみは、アンダーウッドで暴れる巨人達や飛鳥達、そして空で戦う十六夜達を地面に座って眺める。どう見てもこの惨状を眺めるにはおかしい穏やかな表情で、珱嗄となじみは楽しそうに笑みを浮かべた。