◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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一時休止

「それで? 珱嗄はなんでこの世界に?」

 

 しばらく抱き合っていた後、なじみは珱嗄にそう聞いた。

 何故かと問われれば、異世界からの手紙が来たからだが、そういえばあの手紙の送り主が誰だったのかを珱嗄は知らない。どうやら、黒ウサギ達の意向で呼びだされた様なのだが、黒ウサギ達自身にはあの手紙を送る力はなさそうだった訳だし、正直言えば、誰にこの世界に呼ばれたのかは謎のままだ。

 なので、とりあえず見知らぬ手紙によって呼び出されたということだけを、珱嗄は伝えた。

 

「変な手紙が来て、開封したらこっち来てた」

「ふーん……まぁ地球が太陽に呑みこまれてからは、スキル無効化スキルは発動する意味なくなったからね。手紙に付与された移動スキルが発動しても抵抗出来なかったのかな……?」

 

 顎に手をやって、訝しげにそう呟くなじみだが、珱嗄はどうもその姿に懐かしさを感じていた。やはり、珱嗄だって、珱嗄といえど、珱嗄にしても、好きな女性と離れていれば、その時間は体感的に長く感じてしまうのだろうか。

 とはいえ、今こうして再会し、同じ時間を同じ場所で過ごせている事実には、少しばかり頬が緩んでしまうのは、二人の人外にとっても恋愛という観点から見れば、普通の人間と同じ、普通の反応だった。

 

 現在の仲間達の現状を知っている珱嗄と、知らないなじみ。現状把握が出来ていようがいまいが、お互いの心境は等しく『余裕がある』といえる状態。これからどうするのか、それを考え数百近くの考えを出せる位には落ちついていた。

 

「とりあえず、この世界がどんな世界なのかを教えてくれるかい? 珱嗄」

「修羅神仏ぱやっぱー」

「随分と面白そうな世界なんだね、僕達のいたシュールギャグなバトルとは無縁そうだ」

「え、伝わったの?」

「そんな訳無いじゃないか」

「だろうな。というか、スキルで知ればいいじゃねーか」

 

 ここにこうして自分の力でやって来れたということは、安心院なじみは珱嗄と違ってスキルを保有したままここへやってきているということだ。元々、珱嗄のように神様がその世界でのみ使える制限を掛けた力を持っていた訳ではなく、れっきとした自分の力として自由の利く力をなじみ達スキル保有者達は持っていた。故に、別世界にやってきた所でそれが失われることはない。

 

「んー、まぁそうなんだけどさ……うん、そうしようかな。僕的にはあまり気が進まないけれど、緊急事態だしね」

 

 そう言うと、なじみは情報収集スキルを発動させ、この世界がどういうものなのかという情報だけを収集した。傍目では眼を閉じて立っているだけに見えるが、その実はとても凄まじい力が働いているのだ。

 とはいえ、彼女は平等を売りにしている存在。世界の情報だけで、主要人物や存在しているコミュニティの詳細等々は意図的に拒否していた。

 

「――――……なるほど、ギフト、修羅神仏、コミュニティ、幻獣、ギフトゲーム、魔王……うんうん、知ったかぶったけど、改めて面白そうだね。珱嗄はどこのコミュニティに入ってるの?」

「ノーネーム」

「………ノーネームってアレだよね? 旗印を持たない最弱のコミュニティだよね?」

 

 なじみはどんなコミュニティがあるのかは知らないが、コミュニティというもの自体の常識や知識は先の情報収集で知っている。だからこそ、ノーネームという旗を持たない最弱無名の雑魚コミュニティに珱嗄が所属しているというのが信じられなかった。

 何故なら、珱嗄はかつて彼女が生まれた世界で無敵を誇った世界最強の男なのだ。それは彼女にとって絶対で、なにより信じられた常識であり、概念であり、一種の決定事項だ。それが、この世界ではそうではない。最強は、認められていないのだ。

 

「そうだ、最弱で無名で雑魚な、いてもいなくても同じ様な極矮小な、有象無象の中に、俺はいる」

「………珱嗄はそれでいいのかい? 無名で、唾棄される様な、ゴミ捨て場みたいな扱いの中に混じって、偽りの最強を振りかざす奴らから馬鹿にされるんだぜ? 珱嗄は、それでもいいのかい?」

 

 珱嗄の言葉に、なじみは疑問を問いかける。それでいいのかと。だが、珱嗄はゆらりと笑って即答する。

 

 

 

「―――だからこそ、面白い」

 

 

 

 頂点に立った世界から、そこで得た全てを捨ててやってきた。この一番下にいるという立場は、下剋上するには丁度良い。

 

「知ってる筈だぜなじみ、お前が好きになったのは、こういう男だ」

「………全く、探していた時間が随分と長く感じたからかな? 懐かしい気分だよ。そうだったそうだった、変わらない様でなによりだぜ。惚れ直しちゃったぜこの野郎」

 

 珱嗄はそんな彼女の言葉にふと笑った。相変わらず、傍目では分からないいちゃラブを繰り広げる二人だ。行き過ぎた愛は、触れ合いなど無くても伝わってしまうのだ。恐らく、浮気した場合、どんなに離れていても即刻バレるだろう。最早直感レベルだ。

 

「で、珱嗄は今何しちゃってるの?」

「魔王と戦ってる仲間を応援してる」

「あ、珱嗄は戦わないんだ!?」

「まぁ一回魔王と戦って隷属させちゃったからさー、二度目は飽きちゃって」

「………魔王の隷属ってそう簡単に出来るものじゃないと思うんだけど」

「テヘペロリシャス」

「始めて聞いたよそんな言葉!」

 

 珱嗄となじみは、そんな感じでほのぼのと、別れていた時間を埋める様に話し続けた。

 

 


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