◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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変化と圧倒

 吸血鬼の古城攻略は始まる。

 十六夜達は珱嗄と飛鳥の修行が終わった翌日、全ての準備を整え終えたのだ。吸血鬼の古城を攻略する幻獣部隊と、襲い来る巨人らを迎え撃つ迎撃部隊を編成し、尚且つそれらをどのように動かしていくかを考え、そして主力メンバーをどう振り分けるかを試行錯誤した。

 

 結果、十六夜やサラらが主力として率いる攻略部隊と、飛鳥が主力として率いる迎撃部隊となった。

 

 飛鳥としては攻略部隊に参加したかったのだが、それでは修行した成果を披露する機会が失われてしまう。折角巨人という最高の的が大軍を率いてやって来てくれるのだから、自分なりの修行の仕上げをしてみたいと思うのは当然のことだろう。まして、普段から強いと思っていた十六夜に、曲りなりにも勝利を得られる実力を得たのだから、それを存分に振るってみたいと思ってしまうのは、まだ思春期で青春を楽しむ年頃の飛鳥なら尚更だ。

 

 ということで、現在は攻略部隊が古城に飛び発つために一ヵ所に集まっていた。そこには十六夜やサラの姿もあり、見送りの為に飛鳥達も同様にそこにいた。ちなみにこの場に珱嗄はいない。ペストはいるが、彼女も珱嗄の行方は知らないようだった。

 元より自由奔放でマイペースに、自分勝手に動く人外故に、その行動を予測する等不可能に近い。

 

「じゃ、行くか!」

 

 十六夜のそんな言葉と共に、幻獣部隊はその翼をはためかせ、空へと飛翔する。風を切り、目指す先は吸血鬼の古城。ゲーム開始から3日という時間が空き、アンダーウッドを護る為の戦いが、再開された。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 その時、珱嗄はというと、アンダーウッドにはいなかった。その表情はいつもと違って違和感を感じているような怪訝なもの。

 その居場所は、東のノーネーム拠点だった。相も変わらず、水樹によって出来た水路や耕された土地以外は廃れてしまっているこの拠点に、珱嗄は怪訝な表情で立っていた。

 

 アンダーウッドは大丈夫だろう。あの十六夜に鍛えに鍛えた飛鳥がいるのだから、よっぽどの敵が現れない限りは大丈夫だ。

 ちなみに珱嗄がどうやって遠く離れた拠点にやってきたのかといえば、フードの女性との戦いで使った座標反転だ。流石に数時間やそこらで来れない所に拠点はあるので、脅威的な身体能力を持つ珱嗄でも反転を使ったのだ。大体の距離は分かっていたので、東のどこかしかに反転した後は、走って移動したのだが。

 

「……なんだろうなぁ……この違和感というか、妙な予感というか……」

 

 違和感、それは別に嫌な予感というわけではない。何というか、本当に妙なことが起こりそうな予感だ。別にイベント発生フラグを建てた覚えはないので、更に首を傾げてしまう。

 

「この奇妙な気配…………んー、どっかで……」

 

 そして、何者かの気配を感じた。どこから、というわけではない。この箱庭の世界から一枚壁を隔てた向こうから感じる、という感じなのだ。それはどんどん近付いて来ている。この箱庭の世界への扉を、力づくでこじ開けようとする様な勢いで。

 珱嗄は眉を潜めて身構える。とりあえず何が来ても良い様に警戒だけはしておいた。

 

 

 

 ――――ズザザザザズズズズアッザアゾッゾゾゾゾゾゾゾゾオゾゾゾゾゾゾゾオッザザザザザゾゾゾ!!!

 

 

 

 何かが収束されるような音がその場に響く。そして、珱嗄の背後、その空間がぐにゃりと歪み、曲がりくねってひび割れる。その気配を感じて珱嗄は咄嗟に振り返った、だがあらゆる意味で遅かった。その気配は既に珱嗄の目の前まで迫っていた。ひび割れた空間は大きな穴を開け、その中から一つの存在が飛びだしてきた。容姿は人間と同じだった、だが、その強大な力を感じさせる気配は、珱嗄にその両手を付きだし、襲い掛かった。

 

 

 そのあまりの勢いに、珱嗄は対応出来ず――――その存在の放つ気配に包みこまれた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 その頃、アンダーウッドは混乱の海に巻き込まれていた。

 空を飛んで行った十六夜達を見送った後、しばらくして巨人達が大軍を引き連れて突然現れたのだ。そして、驚愕で動けなかったアンダーウッド側の巨人撃退部隊を余所に、巨人達は先制攻撃としてその巨大な拳を振るった。

 

 建物は破壊され、仲間が吹き飛んだ。そうしてやっと我に帰る。

 

 

 だが、一人だけ――――飛鳥だけは動いていた。

 

 

 巨人が視界に入ったと同時に、動いていた。ギフトカードからディーンを召喚し、即座に命令を下す。その内容は、『巨人達を掃討せよ』。赤い巨兵はその命令に従順に従い、目の前にいる巨人へ攻撃を開始する。

 そして、飛鳥はディーンの肩から跳躍し、手近な巨人の首を切り付けた。切断しなくてもいい、彼らは人間の幻想種であって、その身体の造りは人間と同じなのだ。つまり、首にある頸動脈を断ち切ってしまえば簡単に殺せるのだ。

 

 死んだ巨人の肩から別の巨人の下へ跳躍し、迫りくる巨人を普通の人間とイメージする。飛鳥のスタイルは『返し技(カウンター)』、攻撃されなければ反撃出来ない。しかし、巨人というバカでかい的であるのなら、切り付けるだけでどこかしらには当たるのだ。

 

「遅い! 遅いぞ有象無象の肉塊共!!」

 

 飛鳥の口調がどこか皇帝っぽくなっていた。どうやら巨人を圧倒している自分に酔っているようだ。力を手にした物は、図らずして強気になるものなのだ。

 例外は、それを長い時間を掛けた努力で手に入れた者や、その力の危険性を理解して使っている者。飛鳥は三日という短い時間でそれを手にしてしまった故に、かなり慢心していた。

 

「邪魔だ!!」

 

 迫りくる巨大な拳を紙一重で躱し、その拳を切りつけながら巨人の頭へをその腕を駆ける。『威光』のギフトを持って十字剣の恩恵を極大化し、強化する。

 それだけで飛鳥の持つ十字剣は何者にも勝る、鋭く硬い刃へと進化するのだ。

 

『DEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEN!!!』

「ふははははははははは!!!!」

 

 飛鳥とディーンが巨人以上に暴れまわる。巨人を倒そうと編成された部隊は、その強さを見て再度身体を硬直させ、唖然とする。たった一人の力が、ここまで状況を変化させるのかと慄いた。

 そして、士気は高揚する。あの少女がいれば、我々に負けは無いと。

 

 

「あの少女に続けええええええええええ!!!!!」

 

 

 部隊のリーダーが叫んだ。その叫びに反応が返る。

 

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

 

 巨人達を恐れない。希望は目の前で光り輝いていた。

 

 

 


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