◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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魔改造開始

 珱嗄と飛鳥はアンダーウッドの地下にて対峙していた。そこにはペストもおり、一触即発な雰囲気が空間を包んでいた。ディーンは出していない上に、十字剣も構えていない。正真正銘、丸腰だ。

 

「さて、とりあえずお前みたいな貧弱もやし娘には長時間戦えるだけの体力は期待出来ないので、短時間でぱぱっと勝ちに行く戦い方を叩き込もうと思います。感謝しろ小娘」

「偉そうね……」

「実際偉いからな。その貧相な頭によーく叩きこんでおけ、弱肉強食って言葉をな」

「あの、珱嗄さん? なんかいつもより言動が辛辣なんですけど……?」

「黙れ! 俺の事は教官、もしくは先生、もしくは師匠、もしくは親方、もしくは指令、もしくはリーダー―――」

「選択肢多過ぎよ! いいわよもう! 珱嗄先生、これでいいでしょ!」

「――と呼ぶな!!」

「呼ばせない選択肢かよ!!」

 

 飛鳥は赤いドレスを翻しながら勢いよく突っ込んだ。珱嗄とペストはそんな飛鳥に対して見下す様な視線を送る。荒い息をしながら、飛鳥は珱嗄達に視線を返した。ともかく、修行自体は早々に始めなければならないだろう。ゲーム開始まで時間は限られている。

 

「……それで、私は何をすればいいのかしら?」

「お前にはまず、何回か死んでもらおうと思う」

「………は?」

「ペストの黒死病で死に、俺の反転で蘇生、それを10回位繰り返します。結果、生死を行き来した存在として、霊格がなんとなく向上する気がします。ギフトがパワーアップする気がします」

「気がするだけ!?」

 

 珱嗄は自信満々にそう言った。そして飛鳥はそれに間髪入れずにツッコミを入れた。

 とはいえ、元々霊格というものは、存在そのものの格を表すものだ。神話に出てくるような幻獣であれば、その格は勿論高くなってくるし、普通に生まれた普通の人間であればその格は当然低いものになる。飛鳥の様にギフトを持って生まれていようと、ただの人間には変わらない飛鳥の霊格は高くない。

 

 人間の中で霊格が高い者と言えば、それこそ珱嗄の様に3兆年もの長い時間を生き抜いた人外のような存在だ。謂わば、神仏に関わるといったような、人間という枠組を超えた者にならなければならない。ちなみに、霊格とは世界から与えられた恩恵であり、霊格を得る方法は主に2通りある。

 

 先祖が神仏である等、出自に特殊な事情がある。もしくは世界に功績・代償を与えるか、である。

 

 珱嗄の場合は、出自が世界を管理する神であることや、3兆年もの年月の中で少なくとも、3つの世界で偉業を成し遂げて来たこともあり、霊格が高いのだ。

 

「良く漫画とかであるでしょ? 死の淵から蘇った者は何かしらのパワーアップを果たして戻ってくるって」

「漫画の中の話でしょ!」

 

 というわけで、生死の境界を行き来した所で霊格が上がる訳は無い。珱嗄もそれを分かって言っているのでぶっちゃけこれはお約束のボケとツッコミだ。というより、後天的に霊格を引き上げるなど容易くは無い。

 

「とまぁ冗談はここまでにして……真面目に行こうか」

「……」

「飛鳥ちゃんには以前、少なくとも多少の対人格闘が出来る程度まで稽古を付けた。だから今回は少なくとも十六夜ちゃんと5分間全力で戦っても善戦出来るまで成長して貰う」

「なっ!? 十六夜君と全力で戦えば、私は1分も持たないわ!」

「だから、出来る様になって貰うって言ってんだよ」

 

 珱嗄は至って真面目だ。これから1週間のゲーム中断期間の中で、十六夜とやりあえる位まで成長させるつもりなのだ。

 だが、飛鳥には運動神経がない。運動能力もない。格闘術の才能など一切ない。精々護身術程度くらいが関の山だ。

 

 しかし、珱嗄はそんな状況をひっくり返す。

 

「運動神経皆無な飛鳥ちゃんを、運動神経抜群な飛鳥ちゃんへ反転させる。そして、格闘術の才能が無い飛鳥ちゃんを、格闘術の才能を秘めた飛鳥ちゃんに反転させる。これで下準備は完了だ」

 

 才能が無いなら、反転させればいい。才能がある、という風に。そうすれば珱嗄の修行次第で高い成長をする事が出来る。神格すらも秘めた反転のギフトは、それを可能にしてしまうのだ。

 

「貴方のギフトって何なの? 私、良く分かってないのだけど……」

「謂わば、全ての事象を反転させるギフトだ。名前は『嘘吐天邪鬼(オーバーリヴァー)』だ」

「何それ、勝てる気がしない」

「まぁ俺以上の霊格を持つものは反転させられないんだけどね」

「あ、詰みね」

 

 飛鳥は珱嗄の霊格が高いことを知っている。3兆年の人生の時点でそれは理解できているし、珱嗄の言葉を信じるのなら、そのギフトには神から与えられたことによる、神格付与がされている筈ということも理解している。故に、珱嗄以上の霊格・神格を持つ者などそうはいないだろうということも、理解している。少なくとも、この下層には存在しないだろう。ジンの言う様に、三桁以上の階層ならば分からないが。

 

「とりあえず、長々と話していても仕方ない。お前が習得するべき技術はたった一つだけだ」

 

 珱嗄は空気を切り替えて、そう言う。元々時間の少ない中で飛鳥がいくつも何かを覚えられるとは思っていない。故に、まずは一つの技術を特化させて覚えこませた方がいいのだ。才能や運動神経は準備出来る、後は努力次第である。

 飛鳥もそれを理解し、珱嗄の視線をまっすぐに見返した。そして問う。その覚えるべきたった一つの技術を。

 

「……何かしら?」

「『返し技(カウンター)』」

 

 珱嗄はそう答えた。飛鳥の覚えるべきたった一つの技を。相手の攻撃を受け流し、自分の攻撃だけをぶつける返し技。後の先を取る、極めることが出来れば最強の最高戦術の一つ。

 ごくりと息を呑んだ飛鳥は、それでも無理矢理笑って見せた。

 

 

 


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