◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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飛鳥、再修行

 吸血鬼の古城攻略の為の準備は、着々と進められていた。

 まず、十六夜の指示でサラは『巨人達の相手をする部隊』と『ゲームをクリアするための部隊』の二部隊を編成し始めている。これはおそらく順調にいけば直ぐに終わるだろう。

 次に、十六夜達は十六夜達でゲームクリアの為の戦力分けをしていた。

 

 黒ウサギは審判故にゲームに参加出来ない。ので、巨人達の相手をすることになった。ジンとペストもその補助にあたる。そして、十六夜は勿論古城の攻略へと空へ。残る飛鳥は―――

 

「此処に残れ」

 

 十六夜の冷たい言葉によって待機を命じられた。勿論、そんな指示を飛鳥が享受する訳もなく、十六夜と飛鳥は口論をすることになる。

 元々、飛鳥は戦闘を行う人員としては、ギフトが戦闘向けでは無い。『威光』というギフトは、あくまで他に対する干渉のギフトであって、自分にはなんの効果も持たない。故に、例えディーンという脅威のギフトが付いていようと、飛鳥自身が貧弱な人間である以上それは強さに繋がらない。

 

 十六夜はそれを察している。飛鳥もそれを分かっている。いや、分かっていない。飛鳥は分かっていない、自分がどれだけ弱いのか。忘れている、珱嗄の言葉を。単身ではあのガルド・ガスパーにすら勝てはしないという現実を。

 

「無理だろ、なぁ飛鳥ちゃん」

「!?」

「……珱嗄」

「久しぶりだね十六夜ちゃん。ゲームクリアは順調かな?」

「……まぁな、今回はお前の助力はいらなそうだぜ?」

 

 十六夜は珱嗄の言葉ににやりと笑いながらそう言った。珱嗄は十六夜のそんな態度に、そいつは重畳と笑って返す。そして、その視線を十六夜からそのまま飛鳥に戻した。

 飛鳥は珱嗄の視線にぐ、と息を呑む。十六夜は飛鳥を珱嗄に任せて、そのまま去って行った。同じ様に、黒ウサギやジンも空気を呼んで部屋を出て行った。唯一人、ペストを残して。

 

 部屋の中で、飛鳥を見つめる珱嗄とペスト。そこには沈黙しかなかった。誰も言葉を発さず、珱嗄とペストの視線に、飛鳥はしばらく耐えていたのだが、俯いてしまった。

 そして、そのまま俯いていたのだが……ふと漏らし始めた。

 

「……分かっているつもりよ」

「何が?」

「私が……弱いって事くらい」

 

 飛鳥は言った。自分が弱いと。だが、珱嗄は返した。以前と同じように。

 

「いや、分かってない。お前はお前がどれ程弱いのか全く分かっていない」

「っ!?」

「一回、お前に稽古を付けたことがあったよな。まさかあれだけで少しは強くなったとでも思ってんのか?」

「それは……」

「違うな……それに、お前は自分の持ってる力の事さえも、分かってない」

 

 珱嗄の言葉に、飛鳥は眼を丸くして顔を上げた。自分の力が分かっていない、というのはどういうことだ? 自分の力は、自分が一番知っている。この力と一番一緒にいたのは、自分なのだから。

 

 しかし

 

 しかしだ。目の前にいる珱嗄は、かつて2000京ものギフトを使いこなしたギフトのスペシャリストでもある。その中には、『威光』の上位互換のギフトもあったとも聞いている。それならば、自分以上に自分の力を知っていてもおかしくはない。

 

「お前の力は、ただ命令して従わせるだけの支配者みたいなギフトじゃない」

「?」

「この世界に来て、俺らは幾つかのギフトを見て来た筈だ。その中には、あのペルセウスが保有していた石化の悪魔、『ゴーゴンの威光の恩恵(ギフト)』や、今回見た『バロールの威光の恩恵(ギフト)』があっただろう」

「……うん」

「お前のギフトも『威光』という名のギフトだ。つまり、お前のギフトは『威光』ってギフトのジャンルに分類される訳だよ」

 

 だが、珱嗄の言っていることは少し違う。彼女のギフトは、『威光』のジャンルに含まれるのではなく――――

 

 

 

 ―――威光というジャンルそのもの

 

 

 

 

 石化を相手の霊格に与える威光、死を相手の霊格に与える威光。それは様々ではあるが、彼女の威光もまた、相手の霊格に何かを与える威光なのだ。そして、彼女が今までにその力でやってきたことを考える。

 

 霊格が劣る者を従わせる。霊格を他人に上乗せする。霊格でギフトの力を底上げする。等々やってきたが、つまり彼女のギフトは、『恩恵の極大化』が出来るのだ。凡百なギフト一つでも、飛鳥が使えば天下無双の無敵なギフトと変化する。

 

「お前の力は、俺の力と同等の価値を持つ」

 

 珱嗄は言った。飛鳥は訳が分からなかった。

 

「ま、それでもお前が強い訳じゃない」

「……意味が分からない」

 

 飛鳥はまだ理解していない。自分の力の凄まじさを。

 

「まぁいいだろう。さしあたり――――鍛え直してやるよ、小娘」

 

 珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。飛鳥はそんな珱嗄の表情を見て、少し前の鬼畜な修行を思い出す。自然と引き攣った笑みが浮かんだ。

 そして、すぐさま部屋の出口へと駆け出す。いや、逃げ出した。だが、

 

「ぎゃふん!」

「逃げちゃ駄目よ」

 

 それはペストによって阻止された。脚をひっかけられてこけたのだ。

 

 その数分後、別の場所へ移動した十六夜達の耳に、飛鳥の悲鳴が聞こえたのだった。

 

 

 


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