◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、珱嗄は龍を抑えつけながら自身のギフトカードの変化に気が付いた。ギフトネーム以外に、妙なマークが付いている。どうやら、ルールにあったペナルティを課せられた印という奴らしい。このままでは珱嗄は『串刺し刑』『磔刑』『焚刑』のいずれかを課せられることになる。いくら反転のおかげで死なずに済むとは言っても、この状態のままにしておくのは珱嗄的にもちょっと面白くない。下手すれば十日後に珱嗄は串刺しにされるか、磔にされるか、火炙りにされるのだから。
「これはルールだからなぁ……反転しても意味ないか」
珱嗄は以前、2000京のギフトで黒ウサギの体験版ギフトゲームでルールを改竄したことがある。そこで、黒ウサギと約束しているのだ、『ルールの改変は今後一切しない』と。
故に、ここで珱嗄が自身に課せられたペナルティを『ペナルティが課せられる』を反転させて『ペナルティが課せられない』に変えたのなら、それは反転した通りにルールの方が勝手に変わるだろう。ペナルティが存在しないゲームへと。
珱嗄のギフトは、神から直接与えられているが故に、神格すら宿っている。それに加えて3兆年もの年月で培われた珱嗄の霊格が加われば、それこそ、あらゆる相手に通用する程に。故に、珱嗄はそのペナルティを放置しておくことにした。放置して尚、何もしないでおくことも決めた。ゲームはゲーム、反則なんてつまらない真似はしない。
ここは十六夜達に任せてみるのも面白い。きっと勝てるさ、あの3人の問題児は、人類史上最も強力なギフトを持ってやってきたのだから。
「ま、レティシアちゃん位は助けておこうかな? どうせ、時が来れば姿を見せるだろうし……ウサギちゃんも直に『審判権限』でゲームを中断させるだろうしね」
黒ウサギの『
「さて」
『GUUUU………!』
巨龍は未だ、その巨大な口を地面に縫いつけられたままだ。
身体が暴れるので、周囲の建造物なんかはかなり崩壊していたが、不思議なことに死傷者はいない。というか、実際には逃げる途中で龍に押し潰されて死んだ者や怪我をしたものもいるのだが、そういった人々を珱嗄は死んだ端から、怪我を負った端から、全て反転させて治した。よって、死んだ者は死んだと思う暇もなく蘇り、怪我を負った者は痛いと感じる暇もなく完治するという状態のまま、龍の被害領域から避難することに成功した。
故に、死傷者はいない。巨龍と戦った訳ではないので、避難した者はペナルティには課せられない。
ああ、そうだ。珱嗄がペナルティを課せられた理由を話していなかった。
つまり、このゲームにおいてゲームマスターであるレティシアと交戦した者は、例外なくペナルティを負うことになる訳だ。しかし、珱嗄がこのゲーム開始から戦闘を行ったと言える相手は、目の前でその口を塞がれている巨龍だけである。
故に、珱嗄がペナルティを負った。ということは、珱嗄はレティシアと戦ったということ。しかして、珱嗄が交戦した相手は巨龍のみ、なのにペナルティを負った。
巨龍はレティシア、ということになるので、珱嗄はペナルティを負ったのだ。
珱嗄は笑う。自分はここ3兆年程、傷らしい傷を負っていない。戦闘も一方的で、つまらない人間ばかり。人生を、物語を、アニメの世界を楽しむには、珱嗄は少しばかり強くなり過ぎた。
なのに、今現在においては久方ぶりに楽しい思いをしている。会った事もない巨大な龍に会った。見た事もないものが腐るほどある世界に来た。そしてなにより、時間制限有りではあるものの、自分にダメージとも言える
―――
「全く、飽きないね。この人生は」
珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。
◇ ◇ ◇
それからしばらくして、黒ウサギによる『
そこで、だ。十六夜達と合流した珱嗄は、巨龍以外の敵性存在を知った。
それは、巨龍と同時に出現したという吸血鬼の城。それは今現在も上空で浮遊しているとのことだ。
そして、このゲームで言うゲームマスター……つまりはレティシアの他にも、黄金の竪琴を持っていたフードの女性他数名の敵がいるようだ。そして、ここからが本番。レティシア=ドラクレア、箱庭の騎士と呼ばれた純血の吸血鬼が作りだしたこのギフトゲームが、どのようなものなのか、どう攻略するのかを話し合う会議が始まる。
「まず始めに、言っておきたい事がある」
切りだしたのは、ドラコ・グライフ『一本角』の頭首。サラだ。
現在自分達が直面している相手、魔王だが、現在進行形で北、南も別の魔王によって襲撃を受けているらしい。東の階層支配者である白夜叉や、北の階層支配者である『サラマンドラ』『鬼姫』連盟が、対処に当たっているとのこと。
そしてもう一つ、珱嗄の持っている黄金の竪琴は無事だが……サラ達が管理している『バロールの死眼』が盗まれたとのこと。死の恩恵を振りまく最悪の瞳が敵の手に渡ったのだ。これは、由々しき事態である。
「だから言ったのに、破壊しとけばいいのにって」
「む……それはまぁ……返す言葉もないが……」
「そんなことは良い、それよりもっと大きな問題があるだろ。此処と南と北……三ヵ所同時に魔王が襲撃するなんて普通じゃねぇんだろ? なら、この三ヵ所に出現した魔王を統率するもっと強大な魔王がバックについていると考えられる」
「その通りだ。我々もその可能性が高いと考えている」
十六夜の指摘は御尤も、サラもそれに同意し、他のメンバーも緊張に表情を強張らせた。
過去、魔王同士で徒党を組んだなど、そうそうある事例ではない。しかも、現状突き当たっている自分達の敵、魔王ドラキュラのゲームは壮大かつ強力なスケールだ。なにせ最強種、龍の純血を使ってくるくらいなのだから。
他二ヵ所で同等の魔王が暴れていることだけでも驚愕する事態なのに、さらにこのスケールの魔王を三人も従える強力な魔王が動きだしているというのだから、ぞっとしない。
「つってもまぁ……珱嗄が三人で暴れるのを想像すればまだ冷静になれるけどな……」
『あー……』
「なんだ、やってやろうか? ん? 大暴れしちゃうよ俺」
「止めてください!」
十六夜の言葉に全員の緊張が若干緩んだ。十六夜なりに緊張をほぐそうと気を使ったのだろう。すると、それに対して珱嗄が不服そうにそう言ったが、黒ウサギが全力で止めに入った。
珱嗄という強い味方がいる事は、少なからず……いやかなり全員の士気を高めることになった。考えてみれば、巨人族に対して絶大な強さを誇るペストや、そうでなくとも珱嗄に次ぐ実力を持つ十六夜がいるのだ。まだ諦めるには早過ぎる。
「ま、他の魔王はそこの奴らがどうにかすればいいさ。白夜叉ちゃんやサンドラちゃん達がいるんだ、なんとかなるさ。俺プロデュースのアイドルは、そう簡単に負けはしないよ」
珱嗄はそう言って、心配ないと笑う。魔王程度に負ける、アイドルではないのだから。
「……まぁ、こっちはこっちの問題を解決しないことには始まらないのは確かね」
「そうだな」
こうして少しは空気も雰囲気も柔らかくなった所で、飛鳥の言葉を皮切りに会議が再開される。どうやら少しはクリアな思考に切り替えることが出来たようだ。