◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄達が巨人を虐げた―――否、退けた後。珱嗄とペストは巨人達の屍の上でのんきに談笑していた。話の話題は様々、アイドル活動の事だったり、巨人達の手ごたえだったり、奪った黄金の竪琴のことだったりだ。
とはいえ、未だ作戦会議をしているのかは分からないが、ジン達の動きがあるまではこうしていようと判断したらしい。
「そういえばさー、この竪琴さっきのフードマンから奪ったんだけど、」
「ええ」
「ファの音だけなんかヴァ! って感じだったんだよねー」
「あはは、それ面白いわ! あははははっ」
「だよなー、わははは」
ほのぼのした空気。だが巨人の屍の中だ。
のんきな会話。だが巨人の屍の中だ。
どうでもいい雰囲気。だが巨人の屍の中だ。
結局の所、殺伐とした場所で如何にほのぼのとした会話をしようが、結局なんとなくぶち壊しなのであった。
「というか、その琴壊れてるんじゃないの?」
「じゃ、『壊れてる』をはんてーん」
「なんとそこには『直っている』竪琴が!」
「「いえーい!」」
なにげなくハイタッチをする二人。普段と違って本当にのんびりした空気だ。まぁ一仕事した後の達成感的な物だろう。
とそこに、二人を見つめる影が一つあった。仮面を付けた女性だ。珱嗄もペストも、彼女の存在には気が付いているが、無視していた。敵意はないし、特に敵対勢力というわけでもなさそうだったからだ。彼女はしばらく二人を見つめていた後、踵を返してその場から消えた。
「誰?」
「知らね。仮面付けた変人ちゃんでしょ」
「そうね、気にせず行きましょう」
「あ、そうそう。さっきどさくさ交じりに耀ちゃんのお部屋に行って、これを拾って来たよ」
「壊れたヘッドホン?」
珱嗄が懐から取り出したのは、十六夜が頭に掛けていたヘッドホンの残骸だ。どうやら、最初の襲撃の際に死んだ、巨人の拳が貫いたのは耀の部屋だった様だ。そして、ピンポイントで十六夜のヘッドホンを打ち砕いたらしい。なんというか、どんまいである。
「でもそれ直せるんじゃないの?」
「反転させれば簡単だね」
「直さないの?」
「敢えて直さずに持ってようぜ。ここで壊れたって事は、別にこの先いらないってことだよ」
「成程ね。それは言えてるわね」
珱嗄とペストは、結局終始そんな会話で巨人の上を楽しんだ様だった。
◇ ◇ ◇
さて、どうやら耀達はヘッドホン云々、巨人云々で話し合いがあった様だが、まぁそんな事はすでに解決済みな訳で、早々に時間は経った。
という訳で、十六夜とレティシアの合流である。二人はとても気分良く、高らかに笑いながらアンダーウッドの大瀑布へとやってきていた。勿論ヘッドホンは頭に乗っていないが、それでも十六夜はいつもどおり、ヤハハと楽しげに笑っていた。
「なぁレティシア、こりゃあ絶景じゃねぇか! 抱きしめたい位だぜ!」
「それは良かった。私としては十六夜が楽しそうでなによりだ」
「抱きしめたいからさっそく抱きしめてくるぜ! ひゃっはー!」
「………ふふふ、何故だろう。ここは慌てて止めるべきなのだろうが……マスターといると十六夜が可愛く見えてくるな」
アンダーウッドの大瀑布へと飛び出して行った十六夜を、レティシアはそう言いながら遠い目で見送った。最早止めようとも思わない些細な行為だったのだ。レティシアにとって十六夜の行動は。
と、レティシアの下へ珱嗄とペストがやってきた。もうジン達が苦労している中で自由に行動しまくりである。
「やぁレティシアちゃん」
「マスター……少し見ない内に色々やらかしたみたいだな」
「あ、分かる?」
「マスターが数日放っておいて何もしていないとは思えないのでな」
「聞いてよレティシア。マスターったら事象の反転なんてチートギフトを手に入れたらしいのよ。もう呆れちゃうわ」
「………事象の反転かー……また……規格外なのきたなー……」
レティシアは頭を抱えた。2000京のギフト量、と言われても困ったのだが、こうも馬鹿みたいに2000京のギフトと吊り合う質のギフトを持ってこられても困る。
「……マスター。くれぐれも悪用しないでくれ?」
「さぁどうかな!」
「しないでくれ!」
「さぁどうかな!!」
「レティシア、諦めた方が良いわよ。人の言う事を素直に聞くマスターじゃないのだし」
「天邪鬼だけにね」
「「うるさい」」
珱嗄の言葉に、二人は仲良く突っ込んだのだった。