◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
ほどなくして、もう一度巨人達の大軍が襲撃を仕掛けて来た。それも、今度は最初とはケタ違いの数で、だ。何をしたいのか、目的は判明しているとはいえ、今度は前回とは状況が違っていた。巨人達だけではなく、此方の動きを悪くする策略なのか―――濃い霧が辺り一帯を覆い、包みこんでいた。
そしてなにより、巨人族を率いているのかは分からないが、黄金の竪琴を奏でるフードの人物が一人。その音色はこちらの動きをさらに妨害する効果を持つ。聴覚、視覚、嗅覚を惑わせ、奇襲を仕掛けられた『
戦闘員である『一本角』と『五爪』のコミュニティが壊滅状態に追い詰められた。
しかも、これは襲撃され始め、警鐘が鳴るまでの間、ほんの僅かな時間の中での出来事である。黒ウサギは即座にその場にいない耀と飛鳥の下へ駆けていき、ジン達はその場で作戦会議を行なうことになった。非戦闘員の一般人は既に、『
「珱嗄さん、とりあえず貴方とペストには巨人達の足止めをお願いしてもいいですか? 出来れば掃討して貰いたいですけど」
「あいよー、リーダーの仰せのままに」
そして、珱嗄はジンの指示で巨人の相手を務めることになった。まぁ、作戦云々を考えるのなら、珱嗄が掃討しなくても、足止めだけでなんとかしてくれるのだろう。さしあたってはしばし足止めに徹してみるとしよう。ジンも珱嗄が素直に掃討してくれるとは思っていないようであることだし。
「ん――――……おお、面白そうな奴がいるじゃないか」
珱嗄は巨人の大軍の奥、濃霧の中でもはっきり気配を察知していた。嗅覚と視覚、聴覚を乱されたからと言って、珱嗄の気配察知能力にはなんの支障もない。珱嗄は所謂直感―――第六感的な超感覚を用いて気配を察知している。それは、殺意、戦意、悪意、といった人間が誰しも持っている感情を感じ取ることで、相手の気配を察知しているので、ぶっちゃけこの妨害程度意味を持たない。もしこれが珱嗄にとって妨害に成りえるものだったとしても―――反転してしまえばいいのだ。
「視界良好、邪魔する者は無し。うんうん、良い感じじゃないか」
珱嗄は額に手を当て、遠くを見る様にして笑う。そして、珱嗄の視線にフードの人物も気が付いたようだ。まぁ、視線を隠す事無く気配も寧ろバラすつもりで見ていたのだ。気が付かないようなら、珱嗄も興味を示さないだろう。
「さて……巨人はペストちゃんに任せるとして……あそこのフードちゃんの持ってる玩具を取りあげるとしよう」
珱嗄はそう言って、ギフトを発動させる。まだまだ可能性の秘められたこのギフト、使い様は工夫次第。
例えば、空間と距離の操作。珱嗄は自分のいる位置と、フードの人物のいる位置の座標を頭の中で計算する。そして、その点と点を線で繋げて、自分と相手の位置関係を対極と位置付けた。そして、対極ならば『反転』出来る。珱嗄は自分の位置を反転させる。
「――――!?」
「やぁ」
珱嗄は一瞬にしてフードの人物の位置まで移動した。瞬間移動といって差し支えない、このギフトによる転移。フードの人物は驚いて堅琴を弾く手を止めた。その隙を、珱嗄は見逃さない。
「もーらい」
「っ!」
珱嗄は堅琴を取りあげる。フードの人物は取り返そうと手を伸ばしたが、珱嗄に対して近接戦闘を挑むのは、愚策中の愚策。愚の骨頂、無意味極まりない。
伸ばした手は手刀によって叩き落され、珱嗄の蹴りによってフードの人物は吹き飛んで行った。
「……ふむ、これならまだ自分の足で移動しても変わらないか……長距離移動の時だけ使うとしよう。座標計算が面倒だけどね」
珱嗄はそう言って、その手で黄金の堅琴を弄んだ。
◇ ◇ ◇
ペストは、珱嗄が来ないので、巨人退治は自分の仕事なのだろうと判断し、その黒い死の風を存分に振るって巨人を掃討していた。濃霧による影響は多少あるものの、死の風で吹き飛ばせば全く問題ない。
それに、ペストの存在自体が巨人に対して絶大な力を持つのは実証済みだ。
「全く……マスターに負けてから……歌って、踊って、そしてこうして戦って、ほんと……飽きないわね」
ペストはそう言うが、表情は楽しそうだった。隷属してからまだ時間はそう経っていない。言ってしまえば火龍誕生祭から収穫祭までの短い間だ。だがそれでも、珱嗄のめちゃくちゃさに付き合っていれば………そんな短い期間もずっと長く感じた。
「グォオォォォオオオオ!!」
「うるさいわよ」
襲い掛かってくる巨人を、その手の一振りで薙ぎ払う。一払いの死の風が、数百の巨人を有象無象の如く、平等に、死を与えて潰して行く。
「全く、大変ったらありゃしないわ」
ペストはそう言って、愉快に笑みを浮かべる。その建前の裏、気分で言えば、清々しい気分だった。