◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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巨人族の襲撃理由

 さて、何故此処で巨人が襲撃して来たかだが、元々この収穫祭で『龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・クライフ)』のコミュニティはこれを予期していた。

 十年前、このアンダーウッドを襲撃した魔王がいた。そして、壮絶な戦いの後、その魔王は滅ぼされたのだが、その残党がいたのだ。それが今回の巨人の軍勢。しかも、調べによればこの巨人族だけではなく、殺人種とも呼ばれる幻獣すら集まり始めているとのこと。

 

 これはアンダーウッドへの復讐と見ているが、彼らの上には更に巨人や幻獣達を操る何者かが居てもおかしくは無い。それらを踏まえて、彼らの目的は一つ。

 紀元前五世紀にまで遡って語られるケルト神話の中に記述された巨人の物語。その中で語られる巨人の王、バロールの所持していたという神眼。一度瞼を開けば、太陽の如き光と共に、死の恩恵を強制する最悪の恩恵。

 

 

 ―――バロールの死眼

 

 

 現在は石化しており、使い物にはならないが、適性のある物が使えばそれこそ、全ての生物に死を与える恩恵となるだろう。

 

 この収穫祭でノーネームやウィル・オ・ウィスプが直々に招待状がやってきたのは、功績を認められたこととは他に、この魔王の残党による襲撃に対応してほしいという考えもあったのだ。事実、それは珱嗄とペストによって一度阻止されたし、今後の対策も立てやすくなるだろう。

 

 だが、ウィル・オ・ウィスプもノーネームも、この話に無条件で首を縦に振った訳ではない。疑問点が多かったからだ。魔王の残党が何を目的に襲撃してくるのかは理解出来た。が、それがそのまま二つのコミュニティが協力する理由にはならない。

 まず、こういう事態に陥ったならば、『階層支配者(フロアマスター)』に相談すべきなのだ。こういったルールを無視して暴れる無法者を取り締まり、裁くのが『階層支配者(フロアマスター)』なのだから。下層で燻っているコミュニティが協力して解決するような事態では無いのだ。

 

 しかし、そんなことはサラも分かっていた。ならどうしてそうしないのかというと、南の階層支配者がペストが現れた同時期に討たれたのだ。

 

 

 新たに現れた別の魔王によって

 

 

 故に、現在の南側に階層支配者はいない。

 そこで階層支配者がいなくなった南側が取ったのは、『龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・クライフ)』の中の一つ、『一本角』のトップであるサラ=ドルトレイクを『階層支配者』へ就かせ、『龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・クライフ)』を五桁のコミュニティへ昇格させること。

 その為の収穫祭。この収穫祭の成功は、サラを『階層支配者』にすることと『龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・クライフ)』を五桁へ昇格させるかどうかも掛かっているのだ。

 

「今は手段を選んでいる場合では無い……どうか、南側の安寧の為に……協力してくださらないだろうか」

 

 言えば、南側のピンチ。階層支配者を失い、その後継を立てる為の収穫祭での襲撃。これが失敗すれば、アンダーウッドは無法者によって支配されるだろう。それは、絶対に阻止しなければならない。

 

「わはは、それは良いとして……これからどうするんだ?」

「!? 珱嗄さん!」

 

 貴賓室でそう会議をしている重い雰囲気の中、今までいなかった珱嗄が入口に立っていた。ペストがいない所を見ると、巨人族の掃討に置いてきたようだ。五桁相当の実力を持つ魔王であり、巨人族の伝承において巨人族を滅ぼした、『治療法の確立していない病』である黒死病を操る彼女は、巨人に対して抜群の相性を持つ。一人だろうと、その死の風の一振りで数百の巨人を薙ぎ払えるだろう。

 

「巨人を駆逐して、その後どうするんだ?」

「……おそらくはまた襲撃があるだろう……その黒幕を打倒することが出来れば……!」

「黒幕って誰だよ」

「分からない……が、その為の手段として『バロールの死眼』を両コミュニティのどちらかに譲渡しようと思う」

 

 サラは、そう言う。バロールの死眼は、適性のある者でないと使いこなせない。この場合で言えば、生と死の境界を行き来出来る大悪魔、『ウィル・オ・ウィスプ』のリーダー、ウィラ=ザ=イグニファトゥスや、8000万の死霊を背負い、黒死病による死の恩恵を持つペストがそうだ。

 だが、ここで珱嗄に適性が無いかと言われれば否だ。何故なら、珱嗄はその力の一端で『生と死の反転』が実行出来る人外だ。言ってしまえば『見れば殺せるバロールの死眼』よりも、『その気になれば殺せる嘘吐天邪鬼(オーバーリヴァー)』の方がよっぽど強力である。

 ぶっちゃけ、『未解決』を『解決』に反転させたらこの事態は終結するのだが。

 

「いらね、豚にでも食わせな」

「いや……一応強力な死の恩恵なのだが……」

「ていうかさ、ソレが目的って分かってんだったら破壊すればよくね?」

「いや……破壊出来なかったから封印しているのだが……」

「貸せ、ぶっ壊す」

「待て待て待て待て、一応強力なギフトなんだから壊されるのは困る!」

「譲渡するんだろ? 寄越せ、壊す」

「君は人の話を聞かない奴だな!?」

 

 珱嗄が手を伸ばすが、サラはバロールの死眼を護る様に両手に握り締め、後ろに隠した。

 珱嗄はそんなサラの行動にため息を吐くと、そこら辺に会った椅子に座った。

 

「なぁウサギちゃん」

「は、はい? なんでございましょうか?」

「これ全部十六夜ちゃんに投げない?」

「面倒事は全部丸投げでございますか!? 幾ら十六夜さんでも酷いですヨ!?」

 

 珱嗄のボケは、今日もなげやりに好調だった。

 

 


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