◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

5 / 107
とりあえず数が多い

 ノーネーム

 

 数あるコミュニティの中でも、名前やコミュニティを表す旗印を持たない弱小コミュニティの事を、総じてそう呼ぶ。

 また、珱嗄達問題児と人外の4人が加入した黒ウサギ達のコミュニティもまた、名無しの弱小コミュニティ、【ノーネーム】。過去、大きな名声と実力を持っていたというコミュニティだったそうだが、とある魔王とのギフトゲームに参加する事になり、土地の命も、仲間も、恩恵も根こそぎ奪い取られてしまったらしい。

 

 そこでコミュニティ復興の為に召喚されたのが、珱嗄達。つまりは強力なギフトを持っている人材を他世界から呼んで強力してもらおうという他人任せかつ自分勝手で苦し紛れの策。

 その結果呼び出されたのは、十六夜という規格外のギフトを持つ問題児や、飛鳥という支配者のギフトを持つお嬢様や、耀という親密な動物の能力を使役するギフトを持つ無口少女。そして珱嗄という膨大な数のギフトを持ち、かつ新たなギフトを創り出せる人外だ。

 

 苦肉の策は成功以上に大成功、いやそれ以上に厄介な存在を箱庭に招き入れてしまった。下手すれば魔王よりも恐ろしい存在が来てしまったのだ。魔王程度でどうこう出来るほど、人外という存在は甘くない。

 

 さて、そんな人外こと珱嗄だが、現在荒廃したノーネームの拠点の談話室で同じく呼び出された三名と共に寛いでいた。

 とりあえず、荒廃した拠点は世界の果てに失踪していった十六夜がその先で八つ当たり気味に倒した水神から貰った水樹によって水には困らなくなったものの、未だ土は死んでおり、木々もない。まだまだ復興には時間がかかりそうだ。

 

「というかよぉ。珱嗄のギフトがどんなもんかは知らねぇが、この廃れた土地をどうにか出来るんじゃねぇのか?」

「確かにそうね。貴方のギフトがどんな物は知らないけれど、出来るんじゃないの?」

「出来そうだよね。珱嗄のギフトがどんな物は知らないけど」

 

 三人は唐突にそう言う。実際、彼らの言うとおり珱嗄がその力を振るえば忽ち元の豊かな状態に戻すことは可能だろう。

 だが、珱嗄はゆらゆら笑って首を横に振った。

 

「嫌だ。そんなのつまらないぜ」

「なんでよ」

「お前らはアレか、どこでもドアがあればタケコプターは要らないってタイプか? 何でもギフトで解決すれば良いってもんじゃないんだぜ? 結果までの過程も重視した方がいいのさ」

 

 珱嗄はかつて友人が言った台詞をそのまま言った。

 

「ふーん、まぁ一理あるな。やっぱり自分の手でどうにかした方が達成感ありそうだ」

「ま、そう言う事にしておきましょ」

 

 十六夜と飛鳥はそう言ってこの話題を切り上げた。

 空は既に夕刻。もうじき日も落ちて暗くなってくる時間帯である。

 

「そういえば、珱嗄の歳って幾つなの? 結局さっきはガルドが来たから聞きそびれたけど」

 

 そこへ、春日部耀の話題振り。ガルドとの会談までに話していた珱嗄の年齢の話だ。珱嗄はその話題にそういえばと思いだし、飛鳥と十六夜は共に興味深そうに珱嗄へ視線を向けた。

 

「んー、幾つに見える?」

 

 珱嗄はそこそこのおばさんが言いそうな返しをする。すると、十六夜達は少し考えた後、順に答えた。

 

「18」

「25」

「敢えて14」

 

 上から飛鳥、十六夜、耀の順。珱嗄はその答えに苦笑した。まだまだ常識の範囲内、問題児は結局の所、珱嗄にとってまだまだ普通の域にいる唯の人間だった。

 常識に囚われない考え方の出来る子供の方がまだ正解に近付けるだろう。馬鹿な子供なんてふざけて「1億歳!」とか言い出すのだから。

 珱嗄はそんな問題児達にゆらりと笑って正解を教えた。

 

 

 

「―――――全員外れ。俺の年齢は3兆7504億8392万1234歳、だ」

 

 

 

 珱嗄の答えに、時間が停まった。十六夜は冷や汗を流し、飛鳥はカタカタと音を立てながら紅茶のカップを口に含み、耀は無表情で猫の頭をただひたすらに撫でている。

 

「とんでもない冗談は止めてくださいませこのお馬鹿様!」

 

 そこへ黒ウサギがやってきて、聞いていたのか珱嗄の頭をハリセンで叩いた。珱嗄はそんな黒ウサギに視線を向け、苦笑する。

 

「だから信じられない年だって言ったんだよ。ちなみに嘘じゃない。俺は地球が氷河期の時に生まれ、地球が滅ぶまでの7500億年を地球上で過ごし、滅んでからは宇宙空間で3兆年の時を過ごした。手紙が来なかったら多分そろそろ死んでやろうかなぁと思ってたんだぜ?」

「な、な、な……!」

 

 言葉も出ない黒ウサギ。彼女自身、200年は生きているが、珱嗄はそれ以上。箱庭の中で言っても一番年上かもしれない。

 ギフトも規格外なら年齢も規格外。問題児以上に化け物だった。

 

「えええええ!? さ、三兆!? どれだけの時間を過ごしてるのよ! というか人間がそんなに長く生きてられるわけないわ! まして、宇宙空間では呼吸すら出来る筈がない!」

「それが出来るギフトを持ってるってことか……」

「正確にはそれが出来るギフトも持ってるって所だな」

 

 珱嗄は飛鳥の驚愕と十六夜の言葉を軽く流した。

 だが、十六夜は見た目と違って意外と頭が働く方である。珱嗄の言葉になにかしらの結論に至った様な顔をした。

 

「なぁ珱嗄……お前、一体幾つのギフトを持ってるんだ?」

 

 疑問。年が年なだけに、ギフトの数も複数個有るのではないかと思ったのだ。

 勘が良いな、と珱嗄は笑った。飛鳥と耀、黒ウサギもその十六夜の言葉にはっとなる。珱嗄のギフトがどのような物か分からなかったが、複数個の恩恵を持っているとなれば、今までの行動の説明も付く。

 

「此処までのお前の行動で、ギフトでないと説明出来ないのは、水面歩行、俺の速度に付いてくる身体能力、黒ウサギとの勝負の時の螺子とルールの改竄、カードのシャッフル、カードの修復、白夜叉の支店での違和感の払拭、白夜叉にギフトの発動を悟らせなかった事、合計で8個。最低でも八つの恩恵を持ってる事になる。まぁ叩けばもっと出てきそうなもんだが、そこの所どうなんだ?」

「わはは、まぁ言ってる事に間違いは無いね」

「まぁ隠しておきたいのなら別に深くは問わねぇが、教えてもらえるもんなら是非知りたいところだな」

 

 十六夜は目を細くして珱嗄に問う。ギフトの数もその内容には劣るがれっきとした自身の情報。明かす事で自身が敗北することになる事だってあり得るのだ。

 故に、話さなくても良いし、話してくれるのなら儲け物という所だ。

 

 だが、十六夜だけでは無く黒ウサギ達も知りたい、という思いを眼に浮かばせていた。

 珱嗄はそんな彼らの視線に対し、やはりゆらりと笑って両手を広げた。

 

「まぁ教えるのは吝かではないぜ。教えた所で対処出来るようなもんでもないだろうしね」

「ほぉ、じゃあ教えて貰おうか。幾つだ? 100か、200か? それとも……1000か?」

 

 十六夜は珱嗄の年齢からそれくらい持っててもおかしくは無いなと思える数を挙げる。黒ウサギ達もその位持っていてもおかしくは無いなと考える。

 だが、それでもまだ常識の範囲内。少しは常識以上の考えをする様になったようだが、それでもまだ序の口。

 

「まだまだだね。まぁお前らが俺の恩恵の数がどれ程多くて、どれ程強いのか気になるのも分かる。十六夜ちゃんに至ってはかなり好戦的だし」

「バレてんのなら話が早いけどな」

「まぁどんなもんかは気になる所ね」

「少しだけ……」

 

 珱嗄は正直でよろしい、と笑みを浮かべた後に立ち上がり、歩く。そしてさながら探偵の解決シーンの様に口を開く。

 

「まぁ好戦的なのは結構。俺のギフトは基本的に人にとって幸せ(プラス)に働くモノと不幸(マイナス)に働くモノに分かれる。まぁ要するに、異常(アブノーマル)に働くギフトか過負荷(マイナス)に働くギフトか、ってことだ」

「なるほど、そいつは凄そうだ」

「でもまぁ、案外簡単かもしれないぜ?」

 

 珱嗄はくるっと回って十六夜達の方へ向き、両手を広げながら笑う。

 

 

「1504京4672兆2132億2354万0102個の異常(アブノーマル)ギフトと600京3221兆1291億4359万0333個の過負荷(マイナス)ギフト、合わせて2104京7893兆3423億6713万0435個のギフトを持つ、俺に勝つ事位」

 

 

 珱嗄の言葉は、先程と同じ様に時間を停止させた。恩恵の数が2000京を超えている、そんなの勝ち目が無い。

 

「こ、こいつは面白ぇ……!」

 

 十六夜はそれでも尚、強がって笑うが、その瞳は笑ってない。引き攣った笑みに頬を伝う汗、珱嗄に挑もうという意志は既に無くなっているようだった。

 

「で、なんだっけ? 俺と一戦交えようって話だっけ?」

「「いや、良いです! ごめんなさい、私達が間違ってました!」」

 

 飛鳥と耀は吃驚するほど息を合わせて立ち上がり、直角に身体を折って勢いよくそう言った。自分自身の力と珱嗄の実力を比べて勝てると言える程自信が有るわけでも世間知らずという訳でもないつもりだ。

 強者への挑戦は勇敢と言えるが、負けると分かってて挑むのは無謀、蛮勇というものだ。

 

「まぁいいか。俺は365日、24時間どんな勝負も受け付けるから、挑戦したくなったらおいで」

 

 珱嗄はそう言って、この会話を終わらせたのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 それから少しして、珱嗄は一人ノーネームの拠点の屋根の上で寝転がっていた。正直言って、珱嗄にはノーネームが如何こうしようと関係無いし、復興させてやろうという気概もない。やるなら勝手にどうぞ、という所だ。

 だから、下の方で十六夜とジンがフォレス・ガロの差し金でやってきた奴らを相手にごちゃごちゃやってようと、黒ウサギ達が風呂に入って寛いでいようと珱嗄は手を出さない。

 

「覗きはするけどね!」

 

 珱嗄は珱嗄式ギフトの一つ、他場所の光景を見るギフト【進光景(プレイバック)】を発動させ、黒ウサギ達の入浴シーンを現在進行形で覗いていた。人外も中々に人間らしい事をする。

 

「それにしても、十六夜ちゃん達も中々子供っぽいよねぇ……自分の力を過信して、序盤はイケイケだけど後半痛い目に遭う、そういうのが実に俺好みだねぇ、げらげら」

 

 珱嗄は笑う。そしてそのまま立ち上がり、上から十六夜達のやり取りを見守る。石を飛ばして敵を蹴散らしたり、好き勝手に変な事を言いまくったりしている光景は、随分と面白そうだ。

 多分、この世界はめだかとは違う原作なのだろう。主人公として立てるのなら、あの十六夜辺り。

 

「まぁこの先どうなるかは別として、中々面白そうだ」

 

 そう呟いて、珱嗄は口元をゆらりと吊りあげた。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。