◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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巨人族一掃

 珱嗄が笑った。

 アンダーウッドの地下都市、陽の光ではなく人工の光に満ちた広大な空間で、楽しく、騒がしく、嬉々として、開催された収穫祭。この収穫祭の初日、一ヵ月にも及ぶ祭の一番最初に起こったイベント。本来ならば、ギフトゲームの一つですら開かれなかった筈の時間で、誰も予想し得なかったこの事件。

 

 だがそれ故に、珱嗄は楽しく笑う。

 

 面白い面白い。やっぱり箱庭はこうでなくてはならない。珍しいモノの商売や、綺麗に造られた造形物、希少な作品の展示、そんなありきたりで外の世界でも体験した様なイベントなど必要ない。欲しいのはただ一つ、

 

 

 ――――楽しめる娯楽(面白いこと)のみ

 

 

 さぁ始めよう。次のイベントの相手は誰だ?

 

 普通の人間よりも、ずっと大きく巨大な人間。不気味な仮面を顔面に、握る拳は破壊の為に、収穫祭を混乱に陥れ、馬鹿正直な悪行を。

 

 

 やってきたのは、巨人の大軍。

 

 

 迎え撃つのは、笑う人外。

 

 

 笑って笑って、最後に笑う。楽しく踊る、人外と巨人の戦演舞(たたかい)をご覧あれ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「―――面白くなってきた」

 

 珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。そして、街の一角で建物や人を襲う巨人の大軍を見下ろす様に『宙に立つ』。そして、珱嗄は普通のトーン、声量で、淡々と言った。

 

 

 

「こっちを向けよ」

 

 

 

 その言葉だけで、巨人達は珱嗄へ視線を向けた。そして、そのまま動きを停止する。珱嗄の見下ろす視線に、強大な威圧感を感じた。それだけで、動けなくなった。

 

「やぁ巨人達、泉ヶ仙珱嗄だ―――」

 

 珱嗄はそう挨拶して、片手を上げた。そして、この状況を一瞬で解決出来る最悪のギフトを今ここで発動させる。

 

 

 

 ―――『嘘吐天邪鬼(オーバーリヴァー)

 

 

 

 嘘は反対。反転させて、天邪鬼。正直者の、裏返し。嘘を吐いて、真実を。真実の様な嘘、反転する現実、幻想を現実へ、現実を幻想に。嘘から出た真も、身から出た錆も、全て一気にひっくり返す。

 嘘も、真も、正義も、悪も、感情も、理性も、性格も、目的も、意見も、状態も、過去も、未来も、空も、大地も、上下も、左右も、強さも、弱さも、威力も、硬さも、生も、死も、何もかもを反転させて、しっちゃかめっちゃに掻き回す。気まぐれ故の、嘘遊び(ごらくひん)。それが『対』を統べるこのギフト。

 

 

 その効果は、事象の反転

 

 

「―――よろしく、は出来そうにないな」

 

 

 珱嗄のその言葉と同時、目の前に立っていた全ての巨人が、糸が切れた様に倒れ出す。その活力溢れる巨大な身体からは一切の生気を感じられず、目の前の全ての巨人が『生を反転した結果』死んだ。死因など無い。ただただ生きていたのと同じ様に、死んだのだ。

 

「まぁ冥土の土産に名前位は覚えてけ」

 

 そう言って珱嗄は、圧倒的なギフトを行使して、人間の幻獣―――巨人を指先一本触れずに一掃した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「何これ? え? 何コレ?」

 

 ペストは目の前の光景に呆然としていた。

 事の始まりは、急だった。前夜祭ということで、地下都市を歩いて回っていた珱嗄達の前に、いきなり巨人の大軍が襲撃を仕掛けて来たのだ。だが、珱嗄とぺストの行動は早かった。

 ペストに住民の避難を指示した珱嗄は、巨人の足止めをすると言って向かっていった筈だ。なのに、避難を促し始めてものの数分で巨人が一掃された。避難の意味が無い。

 

「おーすペストちゃん。もういいよ」

「……どういうこと? マスターは何をしたの?」

「事象を反転させるギフトを使った」

「あーなるほど、そういうこと―――ってなるか!! 反則よ反則! どんなギフトよ!」

「神様がくれたギフトだ」

「馬鹿なの!?」

 

 珱嗄の言葉に、ペストは叫んだ。事象を反転させるギフトなんて、聞いた事もない。なにをどうしたらそんなギフトが生まれるというのか。

 だが、目の前にいる男は3兆もの年月を生きた人外。神話級の因果を一人で背負っていてもおかしくは無い。故に、こんなギフトを保有していてもおかしくはないかもしれない。

 

「ところでペストちゃん」

「……何?」

「倒れた巨人がさ」

「……うん」

「倒れた拍子に結構建物壊したんだけどさ」

「まぁそうね」

「あの建物って俺らの借りた部屋がある奴じゃね?」

「…………そうね」

 

 珱嗄が指差した先そこには……珱嗄達の為に用意された個室がある建物があった。その一角に、倒れた巨人の拳が突き刺さっている。

 

「……知らんぷりで行けるか?」

「私がチクるわ」

「やったら全裸写真公開な」

「私は何も見なかった」

「よし」

 

 珱嗄とペストは、とりあえず何が起こったのかを知らんぷりで通すことに決めた。

 そして、まだ他の場所でも暴れている巨人を一瞥して、とりあえず黒ウサギたちが来るまで大人しくしていようと決めたのだった。

 

 


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