◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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嵐の前のなんとやら

 それから珱嗄達はサラに連れられて、貴賓室へと連れて来られていた。

 

「えー……まずは自己紹介といこうか。私はサラ=ドルトレイク、『一本角』の頭首をやっている。サラマンドラのサンドラとは姉妹の関係になるな」

「結構なシスコンと見えるな……」

「!? ……何故そう思う?」

「ふ、腰布のトコにサンドラのブロマイドが見えているぞ」

「こ、これは……違う!?」

 

 どうやらサンドラの兄、マンドラと同じ様に、姉のサラも重度のシスコンの様だ。というか、東側の下層で始めたアイドル活動がこんな所まで浸透しているのは、やはり珱嗄の手腕だろうか。

 まぁ兄のマンドラからサラに伝わった可能性もあるが、この分だと結構広範囲でこのアイドルグループの名は広まっていると見てよさそうだ。

 

「こほん………まぁ、それはいいとして……両コミュニティの代表者にも挨拶願いたいのだが……やはり彼女はいないのか?」

「ええ、まぁ……ウィラは滅多なことでは領地から離れないので。此処は参謀である私から御挨拶を」

 

 サラの言う『彼女』とは、アーシャやジャックが所属するコミュニティ『ウィル・オ・ウィスプ』のリーダー、ウィラ=ザ=イグニファトゥスのことだ。他からは『蒼炎の悪魔』と呼ばれている。

 生死の狭間を行き来し、外界の扉にも干渉出来るという大悪魔。このコミュニティがある北側の下層では、最強のプレイヤーと噂されている人物だ。なんでも、『マクスウェルの魔王』を封印したとかで、五桁の領域でも最上位の実力を持っていると言っても過言ではないらしい。

 

 とはいえ、それはあくまで噂であり、実態はどうなのかは分からない。それに、例え彼女が五桁最上位の実力を持っていたとしても、『ウィル・オ・ウィスプ』が五桁のコミュニティになるわけでもない。

 五桁からはコミュニティの組織力が重要視されてくるからだ。何故なら、単騎で高い実力を持っている者が一人コミュニティにいたとして、五桁に上がってその一人が打倒されれば、直ぐにコミュニティが崩壊するからだ。

 

 これは、珱嗄にも言える事実である。言ってしまえば、珱嗄の実力は五桁どころでは無い。それなのに五桁のコミュニティに『ノーネーム』が上がれないのは、それだけの戦果と成果、そして旗を取り戻していないからだ。例えそれが揃って五桁へ上がったとしても、珱嗄が倒される事で戦力が崩壊するのなら意味は無い。

 

「まぁいいだろう。そうそう、そちらの噂も耳にしているぞ、ジン」

「え?」

「なんでも五桁のコミュニティ『ペルセウス』をノーネームが潰したとか。それに、あの『黒死斑の魔王(ブラックパーチャー)』を倒したのも貴殿らなのだろう?」

「……というか、珱嗄さんですね」

「は?」

 

 そうだ。確かにそれはノーネームの戦果として方々に知れ渡ってはいるが、実際それを行なったのは珱嗄一人である。

 ペルセウスの件は珱嗄が一人で暇潰しにやったことだし、ペストを倒した件に至っては遊び半分で珱嗄が倒してしまっただけだ。しかも、隷属させてアイドルにしてしまうという突拍子もない行動付きである。

 

「………それが本当なら、この男の実力は……」

「まだ珱嗄さんの底を見た訳ではないですが……僕の見立てでは……三桁あたりまでなら戦っていけると思ってます」

「……なんでノーネームに?」

「宝くじ当てた感じです……」

「ランダムに召喚したら当たった的な?」

 

 珱嗄がそう言うと、ジンとサラは揃ってため息を吐いた。ジンとしては、確かにコミュニティの復興に使える有能な人材が欲しかったのだが、珱嗄という人材は有能過ぎて逆にいらなかった。

 

「ま、まぁなにはともあれ……サラマンドラを助けてくれた事には感謝している。礼を言わせてくれ」

「わはは、大丈夫大丈夫。代わりにサンドラちゃんのあんな所やこんな所をじっくりと見させてもらってるから」

「貴様ぁぁああああ!!!! サンドラに何をしたぁぁぁあああ!!」

「ハッ、お前の持ってるブロマイド……サンドラはどんな格好をしているかな?」

「……み、水着……!?」

「それを撮影したのは俺だ。しかも、シチュエーションは風呂場だ……此処まで言えば、分かるな?」

「つまりお前はサンドラと一緒に風呂に入ったというのか!?」

「その結論は色々すっ飛び過ぎでございます!!」

 

 サラはわなわなとしながら戦慄し、黒ウサギがいい加減突っ込んだ。久々に出て来たハリセンが、中々良い音を響かせて活躍したのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 その後、珱嗄はサラとノーネーム、ウィル・オ・ウィスプの話し合いの中、気配を消して抜け出していた。

 

「前夜祭ってことで色々展示されてはいるけれど、面白そうなのはなさそうだなぁ……」

 

 地下都市を歩く珱嗄の傍には、ペストがいた。ペストとしても別段話し合いに興味ないようであったし、彼女は珱嗄に隷属している魔王だ。珱嗄のいる場所にいるのが彼女の立ち場だろう。

 

「ギフトゲームは三日目以降みたいだし、マスターも少しは大人しくしていたらどう?」

「まぁ何かイベントを起こしてみるのも一向に構わないんだけど……めんどうだからいいか」

「そういえば、十六夜のヘッドホンは見つかったのかしら? あの快楽主義者が収穫祭参加を退いてまで探すと言ったものだし、大事なモノなんじゃないの?」

「ああ、あれか……いや見つかってないだろうな。だってヘッドホンは耀ちゃんのカバンの中にあるんだから」

 

 珱嗄の言葉に、ペストは眼を丸くした。それはどういうことだと思ったのだ。普通に考えれば春日部耀が十六夜のヘッドホンを盗って、カバンに入れたということだが、彼女にそれをやる理由も動機もない。

 とすると、誰かが耀を嵌める為に耀のカバンへ入れたということになるが……

 

「まさか……マスター」

「いや俺は入れてねぇよ。確かに十六夜が俺に此処へ行く権利を譲ったけど、それだったら戦果を競うゲームで本気出してたわ」

「……まぁそうね」

「それに、十六夜ちゃんも大体想像付いてるさ」

 

 疑問の表情を浮かべるペストに、珱嗄はゆらりと笑ってそう言う。

 

「わはは―――ああ、暇だ」

 

 


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