◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ？にお気楽転生者が転生《完結》

特に進展が無いね

　さて、珱嗄達は十六夜とレティシアを置いて収穫祭の会場へとやってきていた。アンダーウッドの大瀑布が轟音たる水音を立ててその迫力を惜しみなく見るもの全てに与える中、飛鳥と耀はやや興奮気味だ。ノーネームの水源である水樹の苗は、この滝の水を生み出している水樹の大木から生まれているのだが、それを知った飛鳥達は更に高揚し、その瞳にキラキラと純粋な光を宿している。珱嗄はそんな二人の後ろに立ってその無邪気さに苦笑し、黒ウサギは一度見た事があるのか、はたまた箱庭出身故に慣れているのか同じ様に笑みを浮かべていた。

　今回の収穫祭の主催者のコミュニティは、『龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・クリフ)』とその連盟であり、これも大きな力を持つコミュニティの一つである。珱嗄としても、そのコミュニティの実力者がどれ程の物か、十六夜ではないが気になっている。神様に返上した事で、ギフトによる全能性を失い、代わりにギフトによる特化性を手に入れたが、それを大々的に使用した事は一度も無いのだ。一応簡単な手ごたえを掴むために一人の時に軽く使って見たりもしているのだが、やはり使いこなせるかと言えばそうでもない。未だ何が出来て、何処まで出来るかは不明なのだ。

　とはいっても、珱嗄はギフトを使わずともその身体能力だけで十分強過ぎるのだが。

「ん」

　珱嗄はふと視線を斜め上の方へと向けた。その先からやって来たのは白夜叉と最初にあった際に会った幻獣、グリフォンだ。どうやら珱嗄達を迎えに来たようで、段々と速度を落として珱嗄達の前に降り立つとその口を殆ど動かさずに話し始めた。だがまぁその言葉が分かるのは動物と話せる耀や黒ウサギ位で、珱嗄と飛鳥、ジンは全く分からない。かといってそれで困る訳でもないのだが。

「さて、話はウサギちゃん達に任せよう。面倒だし」

『久しいな、箱庭の友よ』

「YES！ お久しぶりです！」

「此処が故郷なんだ」

『ああ、サウザンドアイズも参加する様でな。戦車(チャリオット)を引いてきたのだ』

　珱嗄達を余所に話す黒ウサギと耀は、久々に友人と会った事で嬉しそうだ。だが話の内容が分からない珱嗄達からすれば、つまらないにも程がある。

「ふむ……こうかな？」

『む？』

「やぁ鳥類」

『ああ、久しいな。我が友の知人よ』

「酷いな。俺とは友達になってくれないのかい？ 全く、幻獣も心が狭い」

　珱嗄とグリフォンが会話しているのを見て、耀達は驚愕に眼を見開く。

「珱嗄さん、言葉が分かるのですか！？」

「今覚えた。一応、前の世界で妙な言語を喋る奴は腐るほど居たから、言語習得は得意なんだ」

　具体的に言えば数字で喋る鉄球少女とかだが、あれは規則性があったから解読出来ただけで、そもそも種族の違う幻獣の言葉を理解するなど不可能に近いのだが、珱嗄は今まで使用していた言葉の力であるスタイルの基礎を使ってそれを補っているのだ。神様に返上したとはいえ、相手の気持ちを理解するスタイルの基礎位ならまだ使える。故に、その読心術とも呼べるスタイルの一端と、類稀な言語習得能力を利用して、なんとなく会話を成立させているのだ。実際の所、珱嗄はグリフォンの言っている事は分かっていない。こんなことが言いたいんだろうなと先読みして、それに対する答えを言っているのだ。

「得意って……種族が違うのに……流石人外」

「褒めるなよ」

『だがなんのギフトも無く、種族の壁を乗り越えて会話して来たのはお前が初めてだ』

「そいつは重畳。さて、それじゃあ案内してもらおうか」

『ああ、それでは私の背に乗ってくれ』

　グリフォンの言葉に黒ウサギとジン、飛鳥はその背に飛び乗った。そしてグリフォンがゆっくりと浮上すると、耀もグリフォンの空を蹴る力を借りて同じ様に飛び上がる。

「珱嗄さんは乗らないの？」

「わはは、大丈夫大丈夫。俺はお前らに後れを取るほど鈍くない」

「……ふーん、それじゃあどれ程の物か見せて貰うね」

「期待しとけ」

　珱嗄の言葉を聞いて、グリフォンと耀はその翼と足に力を込めて飛ぶ。珱嗄はその速度に少し感心するも、一息吐いてトントンと足を地面にぶつける。

「さて、俺も行こうか。まぁどれ程のもんかと思ったけど……大した事は無かったな」

　珱嗄はそう言って、その場からふっと姿を消した。珱嗄が立っていた場所に残されたのは、地面に深々と残った足跡と、それを中心にした小さなひび割れだった。