◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
「あの! お待たせしました!」
俺は現在、火龍誕生祭で知り合った北のフロアマスターのサンドラと待ち合わせをしていた。ぱたぱたと燃える様な赤い髪をたなびかせて駆け寄ってくる姿は、随分と微笑ましい物がある。
これはデートだ。だがこの光景において俺と彼女はきっと恋人に見えない事だろう。だが、いかんせん彼女と俺の容姿と背丈は違い過ぎて、恋人に見えるかどうかは微妙だ。
「はぁっ……はぁっ……あの、すいません。待たせちゃいました?」
俺の目の前で膝に手を着いて息を整えながら上目遣いでそう言う彼女は、紅潮した頬と少し申し訳なさそうな瞳も相まって、とても可愛らしい。そんなに待っていないと告げると、ホッとした様な表情を浮かべて微笑んだ。
「えーと、貴方と初めてデー……お、お出掛けするって思ったら……どんな服を着て行こうか迷ってしまいまして……えへへ……に、似合ってますか?」
サンドラの言葉に、彼女の服装を見る。いつものお腹が見える民族衣装の様な服装では無く、現実世界で良く見た洋服を着ている。鎖骨と肩が見える薄黄色のワンピースの上に、ブラウンのカーディガンを羽織っている。靴は少し上げ底のサンダルで、いつもとは違って髪には新しい髪留め、薄くだが化粧もしているようだ。結論を言うと、とても可愛い。
「か、可愛い、ですかっ……えへへ、そんなにストレートに言われると恥ずかしいです!」
そう言ってプイッとそっぽを向くサンドラだが、その表情は笑っている。感情を隠せないタイプだ。少しクスッと笑ってしまう。
「あ、笑いましたね? もうっ、貴方のそういう所は好きじゃありませんっ!」
苦笑しつつ謝る。
「はい、許してあげますっ! それでは早く行きましょう! 時間が経つのは早いんですから!」
サンドラに手を引かれ、俺は少し足をもつれさせたが、自然に笑みを浮かべてサンドラに付いていった。
◇
「わぁっ、凄いです!」
サンドラが目の前の光景に目をキラキラさせて歓声を上げた。容姿相応年相応の反応に微笑ましくなる。
俺達が来たのは『
「ほら、行きましょう! 私はフロアマスターですから、このゲームの全体は把握してるんですよ、だから最適な巡回ルートはばっちりですっ!」
ぐいぐいと引っ張るサンドラの楽しそうな顔を見て、こっちも楽しくなる。
「え、楽しそう、ですか? それはそうですよ、だって……あ、貴方と……一緒、ですから……うぅ…」
後半語尾が聞こえない程小さくなっていくサンドラの言葉に、恥ずかしいなら無理して言わなければ良いのにと思った。
「だ、だって! 私と貴方は……その……恋人、ですから……えへへ」
照れ臭そうにそう言うサンドラ。可愛い。
「も、もう! まだ遊んでもないのにこんなこと言わせないでください!」
そっちが勝手に言ったのに。
「いいんです! ほら、行きますよ!」
俺はずんずん進んで行くサンドラに少し早足で追い付き、隣に並ぶ。そして手を自然に握った。
「あ……手を……あはは、これも思い出……ですねっ」
にこっと太陽の様な笑顔を浮かべるサンドラ。そしてふと何か思いついたかのように手を放して、意を決した様に俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
「手を繋ぐより、こっちの方が……恋人っぽいですね……えへへ」
幸せそうにぎゅっと腕を抱き締めるサンドラ。柔らかな感触とサンドラの匂いが感じられて、こっちとしても嬉しい。
「最初はあの出し物で―――」
サンドラの案内で、俺達の遊園地(仮)周りは始まった。
◇ ◇ ◇
「ふふふ……あー楽しかったです!」
時刻は既に夕刻。日はもう少しすれば沈み、暗くなってくるだろう。
「まさかあんなギフトを使ってくるなんて
今はベンチで休んでいる。暗くなってきたからか乗り物や出し物はイルミネーションが光輝き、とても綺麗だった。
「え、私の方が凄かった? ……褒めても何も出ませんからねっ」
にまにまと笑いながらそう言うサンドラ。可愛い。
「あ、そうそう。知ってますか? このイベントではこの時間帯に開始される乗り物があるんです。一緒に乗ってくれませんか?」
断る理由は無かった。前の世界の遊園地を思いだして随分と楽しませてもらったのだ。もう少し位付き合うさ。
「あはっ、それじゃあ行きましょう! なんでも、ゆっくりと円を描く様に回るゴンドラらしいですよ」
それは観覧車では?
「かんらんしゃ……ですか? さぁ、それは分かりませんが……恋人二人で乗ると……その、もっと親密になれるそうです……」
少し恥ずかしそうにワンピースの裾を握るサンドラ。俺はそんな彼女の手を掴み、見える観覧車モドキの方へと引っ張った。
「あわわっ……! ははっ……あははっ! そんなに慌てなくてもちゃんと乗れますよ!」
少し吃驚した後、俺が観覧車に乗る事に賛成な事を察して笑った。そして笑いながら駆け足になる俺の後ろをそう言いながら付いてくる。
こういう風にコロコロと表情を変える彼女が、やはり愛おしい。
「わぁー……大きいですね……」
しばらく走れば、すぐに辿り着いた。目の前に佇む巨大な観覧車モドキ。幸い並ぶ人は少なく、すぐに乗る事が出来た。
「あははっ! 昇ってます、昇ってますよ!」
はしゃぐサンドラが遠ざかる下を見ている。沈みかけている夕陽が彼女の顔を照らした。それはあまりにも綺麗で、余りにも可愛らしい。俺はそんな彼女の事を、一人占めしたくて、感情が膨らみ、抑えきれなくなった。
「? どうしました? わひゃっ……ななな、な、なにを!?」
気付いたら肩を掴んで、サンドラの眼を見つめていた。きっと、俺の顔は今赤いだろう。サンドラの素っ頓狂な声を上げて俺の行動に目を丸くしている。
「――――………」
俺の真剣な表情を見て、彼女は俺の眼を見つめ返した。そして、顔を真っ赤にして少し迷った後、その大きな瞳をすっと閉じた。
「ん……」
俺と彼女の距離が少しづつ近づき、やがて零になる。伝わる鼻息と唇から感じるのはお互いの感情。
「―――はぁ……えへへ、ファーストキス……ですね」
恥ずかしそうにそう言うサンドラは、本当に嬉しそうに笑っていた。夕日が沈み切り、暗くなった中でイルミネーションの光が代わりに彼女を照らした。
「今まで、なんとなく付き合ってきたんですが……改めて、私の気持ちを受け取ってください」
サンドラは俺の首に手を回して鼻と鼻がくっつく程顔を近づけて、にこっと笑いながら続けた。
「好きです……大好きです……私はまだ小さいですけど、この身体に収まりきれないくらい、たまらなく好きなんです」
サンドラの気持ちは、小さな子が抱く恋愛と間違えた親愛ではない。れっきとした恋愛感情だ。それは、誰がどう言おうと確かなのだ。
だから俺も、素直な気持ちで返そう。
「んむっ……はぁ……えへへ、良かったです。これからずっとずっと……一緒にいてくださいね! 私の恋人さん……」
観覧車モドキはもう回りきっていて、下に辿り着く。だが、店員は俺達の姿を見ると、扉を開けずに見逃した。その際、俺に向かってウインクをした。
サンドラもそれに気付いたようで、少し照れくさそうにしながら
「もう一周、ですね」
そう言ったのだった。