◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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レティシアドキドキ添い寝ボイス小説

「あの、少しいいだろうか?」

 

 夜も更けてきた中、そろそろ寝ようと思った自分の寝室の扉がノックされ、その奥からは聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。そして、起きていると短く告げた後、扉を開けるとそこには、いつもの服では無く身軽な寝間着を身に纏ったレティシアが枕を持って佇んでいた。

 

「どうした……と言われると、少し返答に困るのだが……その、だな……主殿はこの箱庭に来てまだ日も浅い……だからっ! ちょっと物寂しいのではないか、と思って……」

 

 顔を俯きがちにしていて、月明かりくらいしか明りになる物が無い部屋ではその紅潮した顔はあまり見えなかった。

 レティシアの言葉が建前の様に聞こえて、本当の理由は別の所にあるんじゃないかと思えてくる。が、それでもそれを聞かせないだけの迫力が今のレティシアにはあったので、自分には聞けない。

 

「だから、添い寝を……だな。他人の温もりというのは、中々馬鹿に出来ない安らぎがあるんだ……だから、私が……」

 

 俺が不安だろうと思って、こうして来てくれたのか。そう思うと、心がじんわりと暖かくなってくる。この箱庭に来たからには、両親も友人もなんもかも捨てる覚悟をしてきた筈だったのだが、どうやら自分は覚悟が足りなかったようだ。

 

「ありがとう……って……ああ、主殿が喜んでくれたのなら……私も勇気を出した甲斐があった」

 

 そう言うレティシアを部屋に招き入れ、自分は布団に入って横になる。すると、レティシアの顔を見上げる事が出来る。見れば、レティシアは持って来ていた枕に顔を半分埋めて、少し恥ずかしそうにおずおずと枕を自分の枕の隣にぽすっと置いた。枕に付いたレティシアの甘い匂いが、少しだけ鼻孔をくすぐる。

 

「そ、それじゃあ……失礼するぞ、主殿……恥ずかしいから、背を向けてくれ……」

 

 自分が背を向けると、意を決した様に自分の隣にゆっくりと横になるレティシア。これから寝るというのに、緊張しているのかリボンも取らずに腕にすっぽり収まる少女の姿のままだ。

 でも、その小さな身体が近くによると金色の長髪が揺れて、微かに香って来た枕の匂いがぐっと強くなる。そして、レティシアに対して背を向けているので、背中から伝わる温もりが、なんとも心地良かった。

 

「ど、どうだろうか……? あ、主殿?」

 

 少し不安なのか自分の反応を待つレティシア。

 

「そ、そうか……気持ちいい、か……えへへ、良かった。それにしても、主殿の身体は温かいな……それに、私とは違ってなんだか……男の身体という感じがする……」

 

 男の身体、と言われても少し微妙だが、喜んでもらえたのなら自分としても嬉しい物がある。

 

「主殿……この箱庭は、きっと主殿もきっと楽しんでもらえる世界だ。それに、黒ウサギや十六夜達も居る……なにも不安になる事は無い」

 

 ああ、確かに黒ウサギも十六夜達も少し癖のある物の、基本的に良い奴らだ。きっとこの世界において、自分を助けてくれるだろう。でも……

 

「え、私か? ……ああ、私もいるよ。主殿達が救ってくれたこの命……主殿が必要としてくれるのなら……」

 

 そうじゃない。主とか恩人とか自分には関係ないのだ。

 

「そんなの関係無い……って、え? レティシアだから傍にいて欲しい……って……えええっ!? いや、その、だな……そんなことを正面から言うなんて……その……!」

 

 きっと振り向けばレティシアの可愛い赤面顔が見れるんだろう。あわあわと背中越しに伝わる動揺が、悪戯心をくすぐってくる。思わず意地悪したくなる。

 

「あ、主殿! こっちを向いてはっ……ぁぅ……!」

 

 自分は身体の向きを変えてレティシアの顔を覗き込んだ。思った通り、顔を真っ赤にしている。それに、少しだけ嬉しそうでもあった。

 

「わ、私……やっぱり自分の部屋で―――ひぁ!? あ、主殿! 抱き締めるなんて……その……」

 

 逃げようとしたレティシアを、抱きしめて逃がさない。しばらく弱々しい抵抗をするレティシアだが、少しずつ抵抗しなくなってきた。

 

「全く……主殿は子供みたいだな……甘えん坊というか……ふふ」

 

 くすくすと笑うレティシア。その自然な笑みが凄く可愛くて、愛おしい。抱きしめる腕に自然と力が入る。

 

「んっ……主殿、少し苦しい…」

 

 その言葉が無ければ、自分はもっと力強く抱きしめていただろう。はっとなって少し力を緩めた。

 

「ふふふ、主殿の身体はたくましいな。男性特有の固さがあるし、柔らかい肌の下にちゃんと筋肉がある。布と羽毛の枕とは違うが、腕枕というのは中々……悪くない」

 

 どうやら随分と緊張はほぐれたのか、レティシアは自分の腕をさらさらとした髪を付けて枕にして、その感触を確かめていた。この腕に乗った重さが、レティシアの存在感をより強く感じさせた。

 

「主殿……人と人が近づけば……こんなにも、温かいものだな」

 

 その言葉に、レティシアが自分の身体を更に近づかせてきた。自分の腰に手を回し、もっととばかりにぎゅっと抱きしめてくる。触れる場所が増えると、その体温と香りに瞼が重くなってくる。

 

「ん……主殿、眠いのか? ふふふ、もう夜も遅いんだ。そろそろ寝よう……おやすみ」

 

 その言葉を最後に、自分の意識は闇に沈んで行く。心地いい眠りの世界に、身体が溶けて行く。そんな中でも、レティシアの温もりと甘い香りだけは、いつまでも自分の心に安らぎと癒しを運んできてくれたのだった。

 

「……眠ってしまったな……案外、可愛い寝顔をしている……なぁ主殿……主殿が私の為にルイオスに啖呵を切った時、私は石になってしまっていたけど、言葉は届いていたんだ……あの時の主殿は、弱々しくて、戦う力は持たない脆弱な存在だったけれど、とても……格好良かったぞ」

 

「そうそう、私はこれを言いに来たんだ――――」

 

 

 

 ――――ありがとう。私の主殿……。

 

 


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