◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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白夜叉ちゃん妹属性(笑)

「というか貴方、少し前から思ってたんだけど……一体幾つなのかしら? 時折私達の事をガキだのお嬢ちゃんだの言ったり、自分の事を若くないとか言うけれど、本当の所はどうなのかしら?」

 

 こう言ったのは、久遠飛鳥。

 現在珱嗄及び、飛鳥、耀の三人は黒ウサギの案内の下、コミュニティ【ノーネーム】のリーダー、ジン・ラッセルの下へと案内されていた。そしてその足で黒ウサギは髪の色を黒神めだかよろしく赤く染めて世界の果てへと失踪した十六夜を探しに駆けて行った。その速度は珱嗄から見て、中々に遅かった。

 

「俺の年齢が気になるのか? まぁ教えてあげるのは吝かではないけれど、正直冗談だろって思うだろうし……」

「もう! じれったいわね! 『正直に自分の年齢を教えなさい!』」

 

 飛鳥は自分のギフト、自身の霊格より格下の相手を支配するギフトを使って珱嗄にそう命令した。彼女の思った通りなら珱嗄は命令通り自身の問いに答える筈。

 だが、その思惑は通用しない。人間が人外に勝とうモノなら、まずは人間を止める所から始めるべきだろう。つまり、

 

「ははは、それがお前のギフトか。まぁアレだ……良いんじゃない? お嬢様っぽくて」

 

 珱嗄にはなんの効果も発揮しなかった。

 

「なっ……!」

 

 ガタッと椅子から立ち上がり、驚愕する飛鳥。これまで命令をすれば誰もが従って来たのだ、初めて命令を跳ねのけられたのなら、吃驚もするだろう。

 だが、命令とは関係なく珱嗄はゆらりと笑ってその問いに答えた。

 

「教えてやるよ、ギフトも教えてくれたしね。俺の年齢は―――」

「失礼」

「あ?」

 

 珱嗄は年齢を答えようとして、遮られた。割りこんできたのは虎の様な獣人。スーツを着ていて、何処か紳士的な雰囲気の中に悪意が潜んでいる気配を感じる。

 珱嗄はその似非虎紳士を一瞥し、一瞬で興味が失せた。

 

「コミュニティ、フォレス・ガロのガルドさん……」

 

 そう言ったのは先程まで空気だった二人の内の一人、珱嗄達の入るコミュニティのリーダー。ジン・ラッセルだ。齢11歳の少年で、少しでも威厳を持ちたいのかダボダボのローブを身に付けているが、実際にはなんの威厳もない。

 

「え? 何? フォース・エロのニャンコちゃん?」

「フォレス・ガロのガルドです!」

「え、だって見てみ? この紳士を取り繕った様な雰囲気に託けて飛鳥ちゃんと耀ちゃんの身体をやらしー目で見てるぜ。わはは」

「い、いや! そんな事は無いですよ?」

 

 焦るニャンコ。図星の様だ。この分だと黒ウサギの事も狙っていそうではある。言ってしまえば女性を雑種に食い散らかしそうな感じだ。

 

「で、何の用だニャンコ」

「ガルドです」

「いいじゃないか。どうせ序盤で出て来て最終的に咬ませ犬としてフェードアウトしてく、幸運にも名前を与えられたモブキャラでしかないんだし」

 

 それを聞いた彼はぐさっと何か心に刺さった様に項垂れてしまった。まぁ元気を出してくれとしか言いようがないだろう。珱嗄はそう思いつつ、運ばれてきたコーヒーを口に含み、黙った。これ以上は話が進まないと思ったんだろう。

 

「もう少しデカイイベントが欲しいなぁ……そう、それこそ初期装備で魔王を相手にする様な……」

 

 珱嗄はそう呟いて、飛鳥達とガルドの話が終わるのを待つ。いつしか珱嗄の年齢の話は後回しにされてしまっていたのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「はい、という訳で。飛鳥ちゃんと耀ちゃんがフォース・エロのニャンコちゃんとギフトゲームをする事になりました。はい拍手」

 

 その後、結局珱嗄の言った通りの展開になった。そして十六夜を連れて帰って来た黒ウサギと合流し、サウザンドアイズの支店の一つへとやってきた珱嗄達はその一室で話していた。

 乾いた拍手が鳴り響く。飛鳥と耀は中々やる気で、十六夜は面白そうに笑みを浮かべ、黒ウサギは肩を落とし、珱嗄は心底どうでも良さそうにだらけていた。

 

「いやおんしらいきなりやってきて随分とまぁ勝手じゃのう?」

 

 こう言ったのは、このサウザンドアイズの支店にやって来ていたサウザンドアイズの幹部、白夜叉である。白髪和服ロリという容姿に反して随分と威厳を持っている少女だが、これでも元魔王。白夜の精霊であり夜叉の精霊というトンデモ人物である。

 ちなみに、サウザンドアイズというのは、特殊な【瞳】のギフトを持った者たちを中心とする群体コミュニティ。箱庭のすべての地区、層に精通する超大手商業コミュニティで、各地に支店を持つ。東区画の箱庭3345外門に本拠を構えている、まぁ凄いコミュニティという訳だ。

 

「はぁ、正直どーでもいいんだよね……元魔王だの妖精だの言われてもいまいちピンとこない上にあまり強そうでもないし……」

 

 珱嗄は本当にどうでも良さそうだ。白夜叉の下へやってきた理由はこんな話をする為ではないのだ。

 

「さて、それじゃあ本題に入ろうか」

「待て待て待て、この状態は何かがおかしい気がするんじゃが」

「何がだ」

 

 見てみると、確かにおかしな状況だ。何故なら、珱嗄が上座に座り、対面に十六夜達が並んで座っている。本来なら上座にはこの中で一番偉い白夜叉が座る筈だ。

 では白夜叉は何処に座っているか? それは簡単。上座だ。但し、上座に座る珱嗄の膝の上という条件で。

 

「十六夜ちゃん。何かおかしな所あるか?」

「ちゃん付け止めろ。……いや特に無いな」

「嘘じゃろ!?」

「ほら、おかしな所なんて何もない。話を続けよう?」

 

 今この場において、白夜叉と珱嗄だけがこの状況のおかしさに気付いている。だが、他の全員は気付いていない。何故なら、この場において珱嗄のギフトが発動しているからだ。

 珱嗄式ギフトの一つ、あらゆる違和感を払拭するギフト【平常運転(ノーマルインテクション)

 これによって珱嗄と白夜叉を除く全員がこの状況を普通の物だと思っているのだ。

 

「あはは、こうしてみると白夜叉様も珱嗄さんも和服ですからまるで仲の良い兄妹のようですね!」

「んなっ!? 黒ウサギ、おんし何を言っとるか!?」

「本当だね。珱嗄さんは容姿は整ってるから見た感じ良いお兄ちゃんに見える」

 

 黒ウサギと耀がそう言う。白夜叉はどういう状況なのか全然分かっていなかった。

 

(どういうことじゃ!? 何かのギフト……いやギフトの気配はしない……となると本当に? いやいやこの状況はどう見てもおかしいじゃろ! 一番怪しいのはこの儂を膝に乗せとるこの男じゃが……どういうことじゃ……?)

 

 勿論、珱嗄はギフトの発動を隠蔽するギフトを発動させている。最早この場は珱嗄の手の平の上だ。

 

(わはは、元魔王って言うからちょっと悪戯したくなったんだけど、大したことないね)

 

 珱嗄は膝から降りればいいのにそうしない白夜叉の慌てる表情を見て、ゆらりと笑うのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「全く……おんし、随分と盛大にやらかすのぅ……」

 

 その十分後、珱嗄は存分に楽しんだ後ギフトを解除。白夜叉に席を譲って下座に座り直すのだった。

 

「わはは、元魔王といってもこの程度かと思っちゃったぜ。まぁそういきり立つなよ、器が知れちゃうぜ?」

「むぅ……まぁ良い。で、おんしらが来た理由はなんじゃ?」

「はい。実はこの御四方のギフトを鑑定していただこうかと思いまして。春日部さんや飛鳥さんのギフトは大体予想が付くのですが、十六夜さんや珱嗄さんのギフトはもう意味不明で……それに、御自身のギフトを知るのも良いと思いまして」

 

 黒ウサギは疲れた様子の白夜叉にそう説明する。すると、白夜叉はため息を吐いて頭を抱えた。

 

「此処まで辿り着くのに10分も掛かる物じゃろうか……」

「頑張れ白夜叉ちゃん」

「おんしのせいじゃろうか!」

「はいはい謝るよ。表面上」

「心から謝罪せんか! 膝手ごと頭を垂れて!」

「はははやなこった」

 

 珱嗄と白夜叉、人外と元魔王。この二人の力関係は、やはりというか人外>元魔王という図式になるのだった。

 

 


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