◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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白夜叉へのアプローチ

 珱嗄とペストとレティシア、サンドラの四人は白夜叉をアイドルユニットに道連れにする、もとい勧誘すべく意気揚々とサウザンドアイズの支店へとやって来ていた。

 開店早々に入店し、白夜叉の居る座敷へと問答無しに足を踏み入れた。この四人の実力と珱嗄の強引性が加われば最早止めることなど不可能で、白夜叉も吃驚するほどの速度で彼らは侵入を成功させた。

 

 なんせ、今目の前に戸を蹴破って入った後流れる様な動きで音も無く四人ともぴしっと並んで座って見せたのだ。その連携というかシンクロ率は最早100%以上、満点を上げて良い程だ。白夜叉もその動きの滑らかさ、速さ、唐突さに言葉を失い、戸を蹴破ってから1秒も無くこの状況を作りあげた彼らに賞賛を与えたい程だった。

 

「さて白夜叉ちゃん。交渉を、始めよう」

 

 四人の真ん中に座る珱嗄がそう言って、ゆらりと笑う。その纏う空気はまさしく重要会議の交渉の場そのもの。白夜叉は一気にその雰囲気に呑まれ、ごくりと唾を飲んだ。

 

「いやいやいやいや! ちがうじゃろう! おんしらいきなり過ぎて付いていけんぞ!?」

 

 そして此処に来てはっと気づく。珱嗄もそりゃそうだと舌を出した。ペスト達も同じ様にそっぽを向いた。

 

「おんしらちょっとシンクロ率高過ぎやせんか? どう考えてもおかしいじゃろ」

「これが練習の成果だ。最早お前なんて足元にも及ばない程にこいつらは輝きだしたのさ。アイドルとしてな」

「アイドルとして魔王と吸血鬼と東のフロアマスターを起用したのかおんしは!? 魔王を俺に服従させろとか意味深に言うからどんな事かと思えば!」

「だがそれを言うのはもう遅い」

「ホントじゃよ! 何故そんな面白そうな事に私を呼ばんのだ!」

 

 白夜叉はそう言ってキラキラした眼を珱嗄に向けた。珱嗄はその言葉に悪戯っ子の様な眼を白夜叉に返した。

 白夜叉の表情が固まった。

 

 

「言ったな?」

 

 

 珱嗄の言葉が異様に良く響く。そして、珱嗄に並んで座っていた魔王達が同情と嘲笑の笑みを浮かべた。白夜叉はどういう事かは分からないが自分が失言してしまった事に気付いた。

 だが、珱嗄にとってはもう此方の物とばかりに白夜叉の様子はどうでもよかった。

 

「お前、俺のアイドル計画が面白そうと言ったな?」

「あ、ああ」

「協力してくれと言えば協力してくれると見て良いんだな?」

「まぁ……そうなるかの」

「よし」

 

 珱嗄はそう言うと立ち上がる。そしてそれに続く様にペスト達も立ち上がった。珱嗄が蹴り破った戸から出て行くと、ペスト達は白夜叉に迫っていく。

 白夜叉は迫ってくる彼女達に青褪めた顔をして若干後ろに下がった。

 

「お、おんしら何を……」

「今日から貴方も私達の仲間だ」

「ようこそ私達のユニットへ」

「さぁさぁ行きましょう白夜叉様?」

「ま、まさか!」

 

 白夜叉は戸を出たところで此方を向いている珱嗄に視線を向けた。そしてその眼が合う。珱嗄の眼は語っていた。『諦めろ』と。

 そしてその視線の意味を理解した時、白夜叉はその細腕や足を少女達に掴まれ、ぞんざいに持ち上げられる。

 

「ま、待て! 私は衣装とかそういう事に協力しようと!」

「はいはい、行きますよー」

「話を聞け!」

「貴方の意見は聞いていない」

「魔王! おんし若干私怨が入っとるじゃろ!」

「マスターに目を付けられたらもう諦めるんだな」

「レティシアァァァ!! おんしルイオスの件で私がしてやった恩を忘れたかああああああ!!」

 

 かくして白夜叉は強制連行される。珱嗄の横を抱えられた白夜叉が通って行く。そして向かうのは何時もの練習場。

 珱嗄は連れ去られる白夜叉を見て、ぽつりとつぶやいた。

 

「白夜叉ゲット。愛称はワンちゃんです」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「何故私がこんなことを……」

「案外楽しい物だぞ」

 

 白夜叉は何時サイズを知られたのかピッタリなトレーニングウェアを着用して気だるそうに練習場にいた。目の前ではペストとサンドラが協力してストレッチをしている。その光景はお互い美少女故に扇情的に見える物の、その中身は火龍と疫病の魔王だ。違和感しかなかった。

 

「というかこのメンツで本当にアイドルをするのか? ちと豪華すぎやせんか」

「魔王がいる時点で諦めてる」

「おんしも中々あ奴の影響を受け取る様じゃな……」

「そんなつもりは無いのだが……」

 

 本人からすればそんなつもりはないのだが、実際の所所有物として存在する彼女達はかなり珱嗄に影響を受けている。あの強引さと人の話を聞かない所などそっくりだ。

 

「それで、その本人はどこだ?」

「マスターは後から来る。先に私達で練習をしよう。白夜叉は音楽を聞きながら踊りの振り付けを覚えてくれ。私達が踊るから」

「……ふむ……それじゃあ見せて貰おうかの」

 

 そう言ってレティシアが指示を出す。どうやらまとめ役はレティシアが一番向いているようだ。

 白夜叉がヘッドホンを付けて三人の前に座る。三人はお互いの立ち位置を確認して立ち、曲が再生されると踊りだした。

 

「!」

 

 白夜叉は三人の踊りに目を奪われた。その流れる様に次へ次へと繋ぐ動きの綺麗さ、お互いにお互いが何処にいるかをしっかりと把握している協調性、そして曲の迫力に負けない力強い動きが一つになって目が放せない。三人の頬から流れ落ちる汗すらも、激しい動きに乱れる髪すらも、全てが彼女達を飾っていた。綺麗、以上に美麗。そのステップ一つ取っても真似出来るか分からない完成度。そして何より、彼女達の瞳の輝きが、自分の心を掴んで放さない。

 

 何時しか見ている内に白夜叉には彼女達が本当のステージで踊っているかのような錯覚を覚えた。周囲の光景すらも引きこむそのダンスと輝きは、まさしくアイドル。

 

 若者達の憧れ、偶像とも言われる輝く星。

 

 そしてその踊りが曲の終わりと共に終了すると、もっと続いて欲しいと思いながら感動を抑えられず、何時の間にかその眼からは涙が、その小さな両手からは惜しみない拍手が、その心からは溢れんばかりの賞賛があった。

 白夜叉のそんな様子に三人は照れ臭そうに笑みを浮かべた。

 

「どうだった?」

「凄かった……何と言うか……凄いとしか言いようがない!」

「でも白夜叉様もここに混ざるんですよ?」

「……そういえば……でも、出来るかの?」

「出来る。そう信じて私達はやってきた」

 

 三人から伸ばされた手に、白夜叉は少し躊躇う。この手を取って自分も輝けるかと少し不安に思った。だが、そんな白夜叉の背後から言葉が掛かる。

 

「俺が認めたんだ。自分を信じろよ白夜叉ちゃん。お前は、そいつらと一緒に輝くんだ」

 

 振り向けば自分をアイドルにすると豪語した男、珱嗄が立っている。その笑みは自信に満ち溢れており、白夜叉が輝けると信じて疑わないと目が語っていた。

 

「……分かった。私もその言葉を信じよう」

 

 白夜叉はそう言って、口端を吊り上げ三人の手を取った。

 

 

 

 


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