◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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修行という名の虐め

 ギフトを使うのはどのギフトゲームでも普通な事で、むしろ以前の珱嗄に課せられたギフトを制限するようなルールは普通はない。ギフトはあくまでその人物の力であり、それを縛るなど対等ではないからだ。

 ゲームを行なう側として、ゲームを開催する側として、どちらの側であろうと全力を出せない相手を倒して楽しいだろうか。

 例えばわざと負けて貰って嬉しいだろうか? 例えばじゃんけんで自分は二つの手を封じてグーだけを出すから勝っても良いぜと言われて嬉しいだろうか? つまり、そういうこと。珱嗄がギフトを制限させられた際は、あくまで実力差が圧倒的だったからだ。

 でも、今の珱嗄はギフトを一つしか持ってないのでギフトを縛られる事はない。これを縛れば最悪後味の悪い勝負になるのだ。

 

「つまり、今なら勝てるかもよ? そのディーンでもなんでも使えばさ」

「……」

 

 対峙しているのは珱嗄と飛鳥。ディーンを従えたとはいえ飛鳥自身が弱いことには変わりがない。故に珱嗄との修行は不定期ながら続いているのだ。

 最近ではお互いギフトを使っても良いという条件で模擬戦をするばかりだったのだが、珱嗄のギフトが一つになってからは初めてなのだ。そして飛鳥がディーンを従えてからも初めての修行。

 

 珱嗄は戦闘を手段を幾つも失い、逆に飛鳥はディーンという最高の武器を手に入れた。確かにこれなら飛鳥にも分がある様に見える。

 

「……そう、ね。いいわ、それならこの世界に来てからというもの、貴方に対してたまりにたまった鬱憤を晴らしてあげる。貴方に最初に敗北を送るのはこの私とディーンよ!」

「いいね、出来るもんならやってみろよ。お前程度、ギフトを使わなくても倒せるぞ。お嬢ちゃん」

 

 飛鳥は傲慢に笑い、珱嗄はゆらりと笑った。ディーンに乗っているせいで珱嗄が飛鳥を見上げる形になるが、飛鳥は珱嗄が自分よりも高みから見下ろしている様な錯覚を得た。

 

「さぁ始めようか。扱きの時間だ」

 

 珱嗄のその言葉と同時、飛鳥はディーンを動かし、珱嗄はそれに対して迎え撃った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ペストとレティシアは珱嗄による指導でアイドルを目指す少女達であり、それ以前に珱嗄の所有物だ。隷属させられた魔王と吸血鬼。珱嗄がこの世界で行なった真面目なギフトゲームはルイオスの時とペストの時の二回。他はかなり簡単なお互いに不利益にならない程度のギフトゲームだ。

 そして珱嗄はその二回でとんでもなく大きな物を手に入れている。箱庭に来てからまだ数週、とんでもない順応性だ。

 

「マスターはどこだろうか?」

「知らないけど、どうせ何処かで遊んでるんでしょ」

「ふむ……案外飛鳥や黒ウサギなんかと一緒にいるかもしれないな」

「あの金髪の男とかは候補に入らないの?」

「十六夜はマスターに入浴シーン撮られてからデータを虎視眈々と狙っているからない」

「成程ね」

 

 二人の幼女がきょろきょろと周りを見渡して話す。その様子は中々微笑ましい物があったのだが、その中身は吸血鬼と魔王だ。下手に関われば命はない。

 

「あ、リリ。珱嗄を見なかったか?」

「レティシア様! 珱嗄さんですか? 確か飛鳥さんと修行に行くって中庭の方へ行きましたよ」

「ありがとう」

 

 きつねの獣人娘であるリリに珱嗄の行先を聞いて二人の幼女は動きだす。珱嗄は目を放すと何をするか分からないのだ。

 

「修行か……飛鳥も強くなろうと頑張ってるのだな」

「強くなって魔王を倒す、立派な目標だこと」

「だが現にペストは倒された。案外、実現出来るやもしれない」

「……まぁ、マスターの気まぐれで掻き乱されないと良いけど」

「それはそうだ」

 

 最近ではペストもレティシアを習って珱嗄をマスターと呼ぶ。自身が消えて行ったラッテンとヴェーザーにそう呼ばれていたから少し違和感が残る物の、悪くはない響きだった。

 そして二人がしばらく歩いて、辿り着いた中庭。ディーンの赤い装甲が見えた時、ああ見つけたと思っただけだったのだが、二人の表情は一気に驚愕に染まった。

 

 倒れたのだ。ディーンが。あの赤い巨兵が轟音と共に崩れた。ディーンが呻き声を上げて背を地面に付け、立ち上がろうとしたところでまた轟音が鳴り響き、強制的にその身体を地面に倒された。巨体が地面に勢いよく叩きつけられた事で巻き起こった強風が二人の身体を吹き抜ける。

 

「こんなもんか」

 

 珱嗄のそんな声が聞こえて、二人はその声の方へ視線を向ける。そこにはディーンの腹の上に乗った珱嗄が飛鳥の首を掴んでいる光景があった。

 別に首を絞めている訳では無く、首をただ掴んでいるだけの様で飛鳥の顔に苦悶の表情はない。そこにあったのはただ珱嗄が勝ち、飛鳥が負けた、という結果だけだった。

 

「ん、おお二人とも。どうした」

「ま、マスター。今の轟音はマスターのギフトか?」

「んにゃ、違うよ。ただちょっと蹴っただけだ」

「……」

 

 二回の轟音、それは珱嗄がディーンの腹を凄まじい速度と威力で蹴り飛ばした音だった。

 

「っと、それじゃあ今日の修行は終わりだ。今度はもうちっとディーンの使い方を考えるんだな」

 

 珱嗄はディーンから飛び降り、二人の前に着地する。そしてディーンの上に残った飛鳥にそう言って笑い、その場を後にする。

 二人はアイコンタクトで即座に判断し、レティシアが飛鳥の下へ、ペストが珱嗄の方へと付いていった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「少しは手加減すれば良いのに」

「ははは、してるよ。ディーンを壊さない様にするのは骨が折れたぜ」

「……マスターはあの子をどうしたいの?」

 

 ペストは珱嗄の隣でそう言った。珱嗄はペストの問いに対してゆらゆらと面白そうに笑いながら、当然の様に答える。

 

「アレは強くなるよ。これからもっとずっとね。ああ、楽しみだ」

 

 

 


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