◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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黒ウサギのちょっと恥ずかしい夢

 時刻は深夜。地球では殆どの人々が就寝し、明日の為に活力を充電する時間である。そしてそれは箱庭でも変わらず、ノーネームのメンバーはそれぞれの寝場所で睡眠を取っていた。

 その中で起きているのは人間を止めて最早睡眠を必要としなくなった珱嗄と夜型の生物である吸血鬼のレティシアの二人だけだ。その二人も夜は別段何かしなければならない事がある訳でも無いので談話室でテーブルを挟み、箱庭だけにカードゲームやボードゲームを雑談を交えてやっていた。

 

「ふむ、チェックメイト……か。これで私の38戦38敗だな」

「俺に勝つならもう少し意外性のある打ち方をするんだな」

「はぁ……箱庭の騎士もこの化け物には勝てないか……全く黒ウサギも面倒な奴を呼び出したものだ」

「そのおかげでお前も此処に戻ってこれたんだけどな」

「違いない」

 

 レティシアは先程までやっていたチェスの駒を片付けながらジト目で珱嗄を見てそんな会話をする。そして最後には嘲笑して片付けたチェスのボードと駒をふっと消した。

 珱嗄はそんなレティシアに意地悪そうに笑ってソファの背もたれに身を任せた。

 

「それにしても、こういう風に夜を過ごして数日。そろそろやる事も尽きてきたな」

「夜を過ごすってなんだかエロい響きだよね」

「マスターはこんな幼い私とそういう意味で夜を過ごしたのか?」

「まさか。この作品内でそんな生々しい展開がある訳ないだろ」

「まぁそのつもりだったら私はマスターとの距離をどう測って良いか分からないからな」

 

 若干のメタ発言があった物の、そんな会話をする二人は中々に気があっているようだ。

 

「さて……それじゃあゲームをしよう。この箱庭らしく、人外と吸血鬼のギフトゲームを」

「どんな?」

「ん、こんな」

 

 珱嗄がそう言うと、ギアスロールが生み出された――――

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 場面変わってここは黒ウサギの寝室。月のウサギであり箱庭の貴族である黒ウサギにも、睡眠は必要で、ベッドに入ってすやすやと寝息を立てていた。

 

「う~ん……」

「おい、ウサギちゃん。起きろ」

「はぇ? うぅ……ん……どうしたんれすか……珱嗄さん」

 

 黒ウサギは眠気眼を擦りながら上体を起こし、若干舌が回っていない声を上げた。そんな黒ウサギの隣には珱嗄が立っていて、いつも見たいな笑みが無い事に少しだけ首を傾げる。何か起きたのかと寝起きながら心配になる辺り、黒ウサギの人格が分かるだろう。

 

「どうした、じゃないだろ?」

「え……んなっ!? おおおおお、お、珱嗄さん!? 一体何を!?」

 

 珱嗄はベッドの上で上体を起こした黒ウサギを押し倒してその上に乗った。黒ウサギはこの急展開に付いていけずに慌てふためく。寝起きだから体温が高いのか顔も髪も赤くして珱嗄の身体を押し返そうとする。だが全然押し返せていない。珱嗄との力の差が顕著に出ている。

 

「いやいや、考えてもみろよ。お前みたいなスタイルの良い美人がいるのに、なにもしないなんてそれこそ失礼だろう」

「いや、あの、美人だなんてその、えええええ……!」

「ほら、こんなに顔を赤くして……可愛い奴だなぁ」

「おおお、珱嗄しゃん! おち、おち、落ちついてくだ……あのその…!」

「慌てる様も、可愛らしい」

 

 珱嗄がそう言って黒ウサギの顎に手を添える。そしてそのまま黒ウサギの寝間着のボタンを上から外して行く。

 第一ボタンを外せばその綺麗な鎖骨が見え、第二ボタンを外せば胸元が覗く。第三ボタンを外せば黒い下着と共に胸が全開に、第四ボタンを外せばおへそが現れ、第五ボタンを外せば上半身が全て露わになる。

 珱嗄は前が開いた寝間着を広げ、その白い肌におへそ辺りから触れるか触れないかの様な微妙なタッチですーっと胸の下まで指を這わせた。

 

「ひゃっ……う、ん……や、やめ……」

「可愛い声だ」

 

 珱嗄は黒ウサギの耳元に口を近づけて息を吹きかける様にそう言う。そして黒ウサギはそんな珱嗄の攻めに甘美な喘ぎ声を上げるしかなかった。

 珱嗄の為すがまま、その抵抗は次第に微かな物へと変わっていく。

 

「は……ぁ……はぁ……はぁ……く…ん……!」

 

 羞恥心と珱嗄の攻めに頬を紅潮させ、若干汗ばむ黒ウサギ。珱嗄はそんな黒ウサギの頬に手を当てて髪をすっと掻き上げた。

 

「ウサギちゃん。愛してるよ」

「珱嗄……さん」

 

 そして珱嗄の唇が黒ウサギの唇に、そっと触れた―――

 

 

 

「はっ!?」

 

 

 

 ―――ところで黒ウサギは目が覚めた。

 

「はっ……はっ……はっ……ゆ、夢でございますか……私ったらなんて夢を……」

 

 夢オチ。最初に珱嗄が言っている通り、そんな生々しい展開がこの作品にある訳が無い。

 

「はぁ……まだこんな時間ですか……でもすっかり目が覚めてしまいました……うぅ、珱嗄さんにどんな顔をして会えば良いのやら」

 

 黒ウサギはそう言って汗ばんだ身体を拭く為にタオルを出し、寝間着を脱いで拭いていく。そして何時もの様に露出の高い衣装を着て部屋を出た。 

 向かう先は談話室。まだ空は明るくなっていないが紅茶でも入れて飲もうと思ったのだ。それに、今ならレティシアが起きているだろうと考えたのだ。

 

「はぁ……」

 

 黒ウサギは溜め息をついて談話室の扉を開け、中に入った。そこには珱嗄とレティシアが向かい合って座っており、その視線は此方へと向いていた。

 

「ほら、俺の勝ちだ」

「ふむ、黒ウサギが起きてくるとは予想外だったな……まぁ仕方ない。黒ウサギも座ると良い、紅茶を淹れてくる」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 黒ウサギは二人の会話がどんなものか分からないが、言われるままに珱嗄の対面に座った。そしてレティシアが紅茶を入れるべく部屋を出て行くと、珱嗄と二人きりである事に気付いた。

 

「………」

「………」

「どうしたよウサギちゃん」

「ひゃいっ!? い、いえなんでもありません!」

 

 気まずかった。少なくとも黒ウサギにとってはこの珱嗄と二人きりという状況が先程の夢と相まってかなり気まずかった。眼を合わせる事も出来ず、黒ウサギは視線を下に落としてばかりだ。

 

「あ、あの! さっきのレティシア様との会話はど、どういう……?」

 

 それでも勇気を振り絞って珱嗄に話題を振った。珱嗄とレティシアは勝負をしていたようで、黒ウサギが来た事で珱嗄が勝ったようだが、どういう内容なのかは分からなかった。

 

「ん、ああ。簡単なギフトゲームだよ。俺とレティシアちゃんで賭けをしたんだよ。朝までにこの談話室に誰かが起きてきたら俺の勝ち、起きて来なかったらレティシアちゃんの勝ちっていうね。だからウサギちゃんが起きてきたから俺の勝ちで、レティシアちゃんは負けた代償として紅茶を淹れに行ったのさ」

「な、なるほど……」

 

 とすると、自分が起きたのはまんざら珱嗄と関わりの無い事では無かったらしい。黒ウサギは先程の夢も珱嗄が見せたのではないかと少し疑いの眼を向けた。

 

「ん?」

「あ、あの……先程私が見た夢は珱嗄さんが見せたんですか? 私を起こす為に……」

「ははは、なんの夢を見たのかはさておき俺はそんな事はしてないぜ。大体、今の俺にはそんな事出来ないし」

「え?」

「2000京のギフトは神様に返上したからね。今の俺にあるギフトは一つだけだ」

「そうなんですか? あれ? ってことは……!?」

 

 黒ウサギは珱嗄のギフトが消えた事には驚きだが、それ以上に羞恥心が湧きあがってきた。先程の夢は珱嗄が何もしていないのなら自分自身が見せた事になる。

 夢は現実で体験した事と自分の妄想や願いが混ざり、無意識下で望んでいる展開を見せたりする。それくらいは黒ウサギも知っている。が、それが本当なら黒ウサギは珱嗄に襲われる(あんな風な)展開を無意識に望んでいるという事になる。

 

「あ、あぅ……」

 

 黒ウサギはレティシアが紅茶を持って来た後も、しばらく顔と髪を赤くして沈黙していたのだが、珱嗄とレティシアは敢えてそれには触れなかったのだった。

 

 

 

 


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