◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄のアイドル教育は日々行なわれている物の、24時間365日ずっと行なわれるわけでは、勿論ない。行なわれる時間は決められており、レッスンの時間はサンドラのスケジュールも見て3,4時間程だ。
つまり、アイドル候補としての時間はその3,4時間程であり、その他は珱嗄もあまり命令をしたりしないので自由時間はかなり多かった。
そんな中、珱嗄の所有物たるレティシアやペストの生活と言えば、かなり自由気ままなものだった。
基本的にペストは珱嗄と一緒にいるようにしているらしく、最早十六夜達の認識としては珱嗄とペストのペアはセットと考えられている。
そしてレティシアの方はかなり真面目な性格故か、仕事が無いと落ちつかないのか、それは分からないが珱嗄といる時間よりは黒ウサギ達と居る方が遥かに多かった。
今回はそんなレティシアの日常に視点を当てて行こうと思う。
◇ ◇ ◇
「は? 珱嗄の奴ギフト失っちまったのか?」
「正確にはマスターの了承の下本来の持ち主に返上したようだ」
「おいおい珱嗄はそれで良いのかよ」
「マスターはいつも通り笑ってたよ。元々マスターにとって2000京のギフトなど手品の様な物だったようだ。特に大事でもないらしい」
「ほぉ……」
「ということでマスターの保有するギフトは一つになった」
現在、レティシアは十六夜と共に談話室でそんな会話をしていた。
ああちなみにこの日常編は時系列が関係していない。あくまで番外編の様な物で、本編には関与しないのでそこの所宜しく。
「成程。ってことはかなり弱くなったって事か?」
「いや……案外そうでもなさそうだ。私もそう思ってペストと一緒にマスターに組み手を挑んでみたのだが……」
「どうだったんだ?」
「二対一にも関わらず瞬殺されてしまった。両手を使わせる事も出来なかったよ」
その言葉に十六夜は眼を丸くした。両手を使わずに魔王と吸血鬼のコンビを瞬殺。そんな縛りプレイが自分にも可能かと問われれば、無理だ。むしろ負ける可能性もある。珱嗄によってその脅威は去ったとはいえ、ペストのギフトにはなんら支障がない上に、レティシアも自分より遥かに長い年月の中で魔王と呼ばれた吸血鬼だ。そんな二人が組んだ時の実力は、計り知れない。
「ってことはこの先も珱嗄に頼って良さそうだな。つっても、最近はヴェーザーと戦ったりして楽しませてもらったけどな。ヤハハっ」
十六夜はそう言って歯を見せて笑う。その表情は純粋に快楽を貪っている様な快楽主義者に相応しい純粋な笑みだった。
十六夜もまた高い実力と大きな力を持つ少年。珱嗄曰く、主人公と呼ばれる存在とのことだ。
「ははは、それは良かった。元箱庭の騎士として、この世界を楽しんでもらっているのなら重畳だな」
「ああ。っとそうだ、今珱嗄の奴はどうしてんだ?」
「ペストと一緒に風呂場にカメラを仕掛けに行ったが」
「そうなのk……止めろよ!」
「え? いやそれくらい別に……」
「お前大分珱嗄に毒されてんなぁオイ!?」
十六夜はそう言ってレティシアに驚愕する。最初に出会った頃のレティシアは結構まともな性格をしていた筈なのだが、この数日ですっかり珱嗄に汚染させてしまっている。故に、風呂場にカメラという犯罪に寛容になっている事が驚きだった。
「いや女子風呂では無く男子風呂の方を……」
「何故敢えてそっちに行ったんだよ!?」
「十六夜の裸を取って将来的に始めるアイドルグッズ販売店に置くらしい。三枚買うと私達のプレミアム水着ブロマイドがランダムで貰えるように設定するのだと」
「確かお前とサンドラとペストと白夜叉だったよな……ってことはコンプリートするつもりなら最低でも十二枚買わないと行けねーのかよ! 俺の裸を何に転用してんだコラ!」
「この世界は地球とは違うから肖像権とか言えねーだろわはは、と言ってた」
レティシアの言葉に十六夜は走りだす。向かった先は風呂場、狙いは珱嗄とペストの仕掛けるカメラの回収だ。アイドルデビューした場合、四人の容姿は十六夜主観で見てもかなり整っているので、多くのファンがつくだろう。その内、コアなファンが自分の裸体映像を買って行く。最悪、ホモやゲイと呼ばれる人種が買っていくかもしれない。背筋が凍る話だ。
「おおおぉぉぉおおうぅぅかあああああああぁぁぁぁ………!!!」
ドップラー効果を巻き起こしながら駆けて行く十六夜の後ろ姿を見ながら、レティシアは一人、ぽりぽりと頬を掻きながら呟く。
「……本当はもう撮影済みというのは……言わない方が良さそうだ」
懐からレティシアが取り出したのは、十六夜の裸体が珱嗄の編集で美化された表紙のDVD。タイトルは『異世界美少年お風呂日記~俺の裸に……酔いしれな!~』だった。