◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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赤くなったおでこ

 さて、覚えているだろうか? 久遠飛鳥の出会った群体精霊の一匹を。ラッテンフェンガーのコミュニティを名乗り、その事で今回の魔王一派の一人、ラッテンの操るネズミに飛鳥毎襲われた件を。

 あれはラッテンフェンガーを名乗った事への怒りでラッテンが襲撃したのが原因なのだが、現在その群体精霊は何処に行ったのか?

 

 答えは簡単。久遠飛鳥と共に、コミュニティラッテンフェンガーの下にいたのだ。

 

 あの最初の魔王襲撃の際、飛鳥はラッテンにより気絶させられ、最終的にラッテンフェンガーに匿われた。そしてそこで見つけたのが、赤い巨兵。ディーンと呼ばれる巨大な鉄の戦士だった。

 飛鳥はそこにいたラッテンフェンガーの者達にギフトゲームを仕掛けられた。威光のギフトで、そのディーンを服従してみせろと。さすれば、そのディーンによって飛鳥に勝利を齎すと。

 飛鳥はそのゲームに乗り、そして勝った。ディーンを見事服従してみせたのだ。

 

 ディーンの性能は凄かった。拳の一発で壁を砕き、その歩みで地を鳴り響かせる。まさしく巨兵。

 そして、その巨兵は今――――

 

 

「ディーン!」

 

 ――ディイイイイイイイイイイイイイ!!!!!

 

 轟音と共に、自らの主を襲撃した張本人。魔王一派の一人、ラッテンをその圧倒的な力を持って薙ぎ払っていた。

 

「くっ……! シュトロム!」

 

 ――ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 巨大な嵐の悪魔と巨大な紅の巨兵が衝突し、紅の巨兵がその拳で次々と嵐の悪魔を砕いていく。肩に乗る主、久遠飛鳥の期待に応える様に、その力はシュトロムを容易く捻じ伏せる。

 

「貰った!!」

 

 だが、あくまでディーンを使った戦闘は飛鳥にとっても初めて。その使い慣れていない戦闘には隙が生じる。シュトロムという巨大な囮に集中していたその背後から、ラッテンは迫っていた。

 

「っ―――ディーン!」

 

 だが、ラッテンはディーンの性能を侮っていた。その巨体故にそこまでの速度は出せないと思っていたのだ。それは思い違い、ディーンは素早く振り返り、その振り返り様にラッテンをその手を使って掴み上げ、締めつけたのだ。

 

「がっ……!?」

「もう良いわ、ディーン」

 

 ディーンは飛鳥の指示に手を緩め、ラッテンを開放する。咳き込むラッテンとは対象的に、飛鳥は仁王立ちでラッテンを見下した。

 

「これで蹴りあげられた借りは返したわよ? でも、此処で終わりというのは詰まらないでしょう?」

「……?」

「貴方に一曲分の演奏時間をあげる。その笛の音で私に服従しているディーンを服従してみせなさい」

 

 絶体絶命のラッテンに、飛鳥は強者の台詞でチャンスを与えた。それが出来れば、貴方にも勝利の可能性はあるぞ、と。

 

「……いいでしょう。それでは一曲、奏でさせて貰いましょう……ラッテンフェンガーのハーメルンの笛吹き、とくと御鑑賞あれ」

 

 ラッテンと久遠飛鳥の決着は近い――――

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 また、その頃十六夜とヴェーザーの方はというと

 

「ぐっ―――!」

「どうしたどうしたぁ! 急に大人しくなっちまったじゃねぇか」

 

 十六夜がもう何度目になるか吹き飛ばされ、地面に叩き付けられていた。大したダメージは無い物の、十六夜はいつしか言葉数も少なくなり、その拳も何処か力が無い。

 ヴェーザーはそんな十六夜に少し眉を潜めた物の、十六夜は戦意が無くなった訳じゃない。

 

「気にいらねぇな」

「あ?」

 

 気に入らないのだ。戦っている相手、ヴェーザーの行動が

 

「持ってんだろ? 俺が懐に入る度に狙ってた隠し玉、これが決まれば俺に勝てるっていうその気概が、ああ気にいらねぇ!!」

「……ちっ……ああ、いいよ。死ね、このクソ餓鬼!」

 

 互いにもう拳と笛の叩きあいはもう飽きた。ここからは、一撃必殺。当たれば相手を砕ける力のぶつかり合いだ。拳を握り、笛を回す。力の余波が互いを包み、風が頬を吹き抜けた。

 

「おおおおおおお!!!」

「らああああああ!!!」

 

 動きだしは同時。お互いの距離の中心で衝突し、拳と笛は互いの肉体へとその刃を届かせた。

 そして、勝利は―――

 

 

「ちっ……安い挑発なんかに乗るんじゃなかったぜ……」

 

 

 十六夜に上がった。

 今の一撃で、ヴェーザーの召喚の触媒である身の丈ほどの笛が壊れたのだ。それはヴェーザーがこの箱庭に存在するために必要な媒体。それが破壊されれば、当然、その身は消え失せる。

 

「そう言うなよ。俺は結構楽しかったぜ?」

「はっ……ま、達者でな」

 

 十六夜の言葉に笑って、短く告げた後ヴェーザーは消えて行った。

 

 十六夜VSヴェーザー  勝者:逆廻十六夜

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ラッテンのピンチとヴェーザーの敗北が進んでいた頃、珱嗄と魔王ペストはというと

 

「頑張れ頑張れ」

「このっ……!」

 

 盥落としは一旦なりを潜め、真面目に戦闘が行なわれていた。だが、その戦闘に黒ウサギとサンドラは参加出来ずにいた。

 何故なら、珱嗄と魔王の間には圧倒的なまでの実力差があったから。

 

「えいっ」

「あうっ!」

 

 珱嗄は盥を24回落とした後、激昂したペストにる黒い風の攻撃を全て軽々と躱していた。しかも、珱嗄とペストの距離は1m程しか離れていない。攻撃が全て読まれているのだ、ペストは。

 しかも、珱嗄は攻撃の合間合間にペストの額にデコピンを打ってくる。現在、ペストの額は少し赤くなっていた。

 

「いい加減にしなさい!」

「おっと」

 

 ペストはその両手を薙ぎ払う様に振って珱嗄の頭を狙うも、珱嗄は上体を反らすことでそれを避ける。 珱嗄はスタイルを使える。スタイルとは相手の気持ちを理解し、言葉を届け、現実的なコミュニケーションを図り、言葉を現実にする技術であり、次元を超えた力だ。故に、言葉の通じる相手には通じるし、言葉の通じない相手には通じない。

 そして、このスタイルの基礎の基礎。相手の気持ちを理解する部分は、気持ちが理解出来る故に相手の動きが予測出来るという先読みを可能にしていた。

 

 ここで攻撃しよう、という気持ちが読める。ここは一旦下がろう、という気持ちが読める。逃げよう、という気持ちが読める。必殺技を出そう、という気持ちが読める。

 

 全部読めてしまうから、確実に先手が取れるし、動きだす前に止める事も出来る。現在の珱嗄の様に、攻撃を全部躱すことも出来るのだ。

 

「どうしたペストちゃーん。盥も使ってないのに随分と梃子摺ってる様だけどー?」

「うるさい!」

「わー怖い顔。アイドルは笑顔が大事だぜ?」

「ひゃっ……ちょ、やめ……な、さい!」

「っと……少しくすぐっただけじゃないか」

「このセクハラ野郎!」

「いてっ」

 

 ペストとじゃれていた珱嗄の頭を背後から誰かが叩いた。いや、珱嗄が敢えて避けなかったのだ。

 そして叩いた相手は、ヴェーザーとの戦いを終えてやってきた十六夜。黒ウサギとサンドラが一件の屋根の上で観戦しているのと、珱嗄の魔王が遊んでいるのを見て頭を抱えたのだが、そうも言ってられないと介入してきたのだ。

 

「なんだ、十六夜ちゃんじゃないか。終わったの?」

「ああ終わったよ。てかテメェギフトの無効化はどうしたんだよ。なんで盥持ってんだコラ」

「馬鹿かお前は。俺がお前の選んだギフトを素直に使うと思ったか。最初に言っただろう、天邪鬼なんだぜ俺は」

 

 珱嗄と十六夜のやり取りを見て、少しだけ呆気に取られていたペストだが直ぐに気を取りもどして後退した。そして珱嗄の相手が十六夜に変わったのを見て少しだけ安堵した。

 

「ヴェーザーは負けたのね……ラッテンももうじき消えちゃう、か……もう良いわ。此処で全員、皆殺しにしてあげる」

 

 ペストは先程までのギャグっぽい雰囲気を払拭し、その袖から大量の黒い霧を生み出した。それは、死の風。触れただけで死を運ぶ最悪の力。

 

「おいおい、殺す程度かよ。俺は殺された程度じゃ死なねえぞ?」

 

 だが、珱嗄はそんな大量の死の恩恵を見てもゆらりと笑うばかり。十六夜や黒ウサギ、サンドラが驚愕しているなか、珱嗄だけは余裕淡々とそう言った。

 

「どうするつもり?」

「どうもしないけど?」

「……ふーん。なら、これで終わりよ!」

 

 ペストはそう言って、街へと死の風を叩き付けた―――

 

 

 

 

 


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