◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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珱嗄の鬼畜ギフトゲーム体験版

 ギフトゲーム。誤変換すると義父とゲーム。いやそんな事はどうでもいいのだが、十六夜達はゲームの説明を受けた後、黒ウサギによる体験版ギフトゲームを受けさせてもらえる事になった。

 というのも、説明を終えた黒ウサギの提案だったのだが、その際に若干面倒そうな顔を浮かべた十六夜達問題児三人に対し、この程度も出来ないなら正直いらね。といった感じの挑発を吹っ掛けたのだ。案の定、じゃあやってやんよと挑発にむざむざ乗った問題児達。珱嗄の感想としては、

 

(こいつらチョロいな)

 

 の一言に限る。とはいえ、珱嗄はそんな挑発に乗る必要も義理もないのでその場から動かない。

 そんな珱嗄に黒ウサギは若干焦った様な声で歩み寄って来た。

 

「えと、あの貴方はやらないのですか? 体験版ギフトゲーム……?」

「ああ、やらない。だってやる意味も義理もないし、そこのアホな三人と違ってそんなやっすい挑発に乗るほど俺も若くないしね」

 

 ピクッと三人の眉が動いたが、気にせずに珱嗄は黒ウサギにそう言った。

 その言葉に対し、黒ウサギは肩を落として三人の下へ戻っていく。正直言って、彼女にはギフトゲームを体験させる事以外に目的が有ったのだが、この際仕方ないと結論付けたのだ。

 

「で、では御三方にゲームの説明をさせていただきます。ルールは簡単」

 

 パチンと指を鳴らし、魔法の様にカジノにありそうなギャンブルテーブルを取り出す黒ウサギ。そしてその短いスカートのポケットからトランプ一式を取り出し、シャッフル。

 

「このテーブルに散りばめられた裏面のトランプをそれぞれ一枚選び、53枚のカードの中からK・Q・J・ジョーカーの絵札、計13枚のどれかを引く事が出来れば御三方の勝利となります。引けなかった場合は黒ウサギの一人勝ちでございます」

「ほお、意外と単純なルールだな、分かりやすいぜ。それで、俺達は何を賭ければいいんだ?」

「いえ、今回はギフトゲームがどのような物かを御理解頂く為の予行演習ですので、賭けや報酬は無しで結構です。強いて言うのなら、賭けて頂くのはご自身のプライドですね」

 

 ノーリスクノーリターン。それが体験版。初心者に対する配慮である。

 だがこの問題児達は、刺激を求める思春期真っ只中の少年少女。賭けも何も無い唯のゲーム等、つまらない。

 

「嫌だね。何か報酬が無いとつまらない」

「……そうですね。それでは黒ウサギが何か一つ言う事を聞く、というのでどうでしょうか」

「そうか……」

 

 黒ウサギの言葉に、三人の中で唯一の男。逆廻十六夜がその視線を黒ウサギの豊満な胸に寄せた。珱嗄はそんな十六夜に苦笑する。

 そして黒ウサギがその視線に気づいて身体を抱き締める様に一歩後ろに下がった。

 

「性的な事は駄目でございます!」

「チッ」

「わっはっは、随分とまぁ思春期真っ盛りじゃねーの十六夜ちゃん。なんなら俺が何でも願い事を叶えてやっても良いぜ? ウサギちゃんに勝ったらね。報酬はそれでどうだ? ついでだ、三人とも叶えてやるよ」

「性的な事は?」

「有りでどうだ」

「乗ったァ!!!」

 

 珱嗄の提案は、かなり魅力的だったのか黒ウサギが少し渋ったものの、通った。珱嗄を除く4人に対してリスクが無いというのが案が通った一番の要因だろう。

 だが、珱嗄にそんな事が出来るのか黒ウサギは疑問だった。しかし、珱嗄にはそれが出来る。何故なら、それが出来るだけの力を珱嗄は持っているのだから。

 

「それでは始めましょう」

 

 黒ウサギは三人にカードのチェックをさせた上で、そう言った。そしてカードがテーブルの上に散りばめられ、十六夜が先陣を切ってテーブルの上に立ったその時、珱嗄の口元がゆらりと弧を描いた。

 

「―――っ!?」

 

 瞬間、カードが全て小さな螺子でテーブルに留められた。テーブルを叩こうとしていた十六夜の手が止まる。そして、背後に居た飛鳥と耀の二人の表情にも驚愕が浮かんだ。

 何故なら、二人がカードのチェック時に絵札に付けた目印がどのカードにも無くなっていたから。

 

「わはは、俺がそんな簡単に勝たせると思ったか。俺は願いを叶える報酬を支払うんだぜ? イカサマを許す筈が無いだろう」

 

 珱嗄は三人の背後にあった大きめの岩に寝転がってそう言った。使ったのは小さな螺子をカードのある座標に計53本突き刺し、カード全ての時間を巻き戻し、再度シャッフルしたのだ。

 珱嗄式スキル、否。珱嗄式ギフトの一つ、時間を巻き戻すギフト【跡戻り(バックトラック)】と対象を別対象と入れ換えるギフト【神経衰弱(ターゲットシャッフル)】。螺子に関してはただ持っていた螺子を投げて突き刺しただけ。

 

「なっ……! ギアスロールが……!?」

 

 黒ウサギが驚愕の声を上げる。その手元にあるのは、このギフトゲームを開始する際に生み出された、ルールやプレイヤー、報酬と賭け品が書かれた契約書、ギアスロール。

 そのギアスロールが何故か、書き換えられていた(・・・・・・・・・)のだ。ルールの部分に先程までは書かれていなかった一文が現れていたのだ。それが、

 

 

 ―――イカサマが発覚した場合、問答無用で敗北となる。

 

 

 という物。この文はギアスロールに記された正当なルール。つまり、十六夜達は正々堂々、正面からルールに則って、黒ウサギを打倒しなければならない訳だ。

 珱嗄式ギフトの一つ、ルールを書き換えるギフト【謀規則(メディカルルール)】。もはや何でもありである。このような事が出来れば、もはやギフトゲームで負けることなど無いだろう。最悪、勝利条件を都合の良い様に書き換えればいいのだから。

 

「さあガキ共。真正面からそのウサギちゃんに勝ってみろよ」

 

 珱嗄はそう言って、意地悪そうにゆらりと笑った。

 

「……ちっ……仕方ねぇ……俺は自分の運って奴を信じてやるよ」

 

 そう言って十六夜が引いたカードは、数札。つまり、敗北である。珱嗄はその様子を面白そうに笑った。

 最終的に、彼ら三人の内、絵札を引いたのはいない。三人共黒ウサギの前に敗北したのだ。

 

「わはは、自分の力を使わないと何も出来ないんだな。調子に乗ってるからだぜ?」

「……っ、じゃあテメェは絵札を引けんのかよ?」

 

 珱嗄の言葉に十六夜が悔しそうに突っかかる。その後ろでは飛鳥と耀が共に恨めしそうに見ていた。珱嗄はそんな三人を見て、まだまだ子供だなぁと改めて思いながら立ち上がり、テーブルの前に歩み寄った。

 そして、一枚のカードを螺子毎外して黒ウサギに投げ付ける。

 

「っとと……えーと、なっ!?」

 

 引いたカードは、ジョーカー。つまり絵札である。珱嗄は53枚の内1枚しかないジョーカーを引いて見せた。

 そして後ろで驚愕している三人に振り向いて、ただただ笑って見せた。

 

 それがより一層三人の悔しさを誘うのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「くそ……何時か絶対負かしてやる」

「ええ、絶対よ絶対」

「……」

 

 三人が黒ウサギに連れられて黒ウサギのコミュニティに移動している途中、珱嗄の後ろでそう言う。珱嗄は楽しげに黒ウサギの隣を歩いている。その表情は実に楽しそうだ。流石は3兆年も生きた人外。平気で大人げない行動を取って見せる。

 普通の人間で例えるなら、大人が小さな子供を殴り飛ばす並に大人げなく、えげつない。この例は物理的だが、珱嗄の場合は精神ダメージだ。より酷い。

 

「でだ、ウサギちゃん。此処だけの話なんだけど」

「なんでございましょう?」

「ウサギちゃんのコミュニティってそこそこ問題有るでしょ?」

「っ!」

 

 珱嗄は誰にも聞こえない様に、黒ウサギにだけ聞こえる様に、そう言った。そしてその言葉に黒ウサギは眼を見開いて驚愕する。その様子は暗にそれが事実である事を物語っていた。

 そして珱嗄はそんな黒ウサギに苦笑し、その頭にぽすっと手を乗せた。

 

「まぁその程度でコミュニティ入りを拒否する程俺もコミュニティを選ぶつもりはないから安心したまえ」

「……ありがとうございます」

 

 黒ウサギは珱嗄の言葉に少し俯きがちにそう言った。コミュニティに入るのなら別に黒ウサギのコミュニティで無くても良い。それこそ、ルールの書き換えというギフトを持つ珱嗄ならどのコミュニティでも喜んで歓迎してくれるだろう。

 だが珱嗄は敢えて黒ウサギに味方することを選んだ。どうせ勝つのなら何処に入っても同じ事だ。

 

「あ、でも珱嗄さん! 先程のギアスロールを改竄する、なんて横暴はやめてくださいね?」

「はいはい。確かにルール書き換えたのはちょっとやりすぎたかなって思ってるよ」

 

 基本的に、ギアスロールに対するギフトは無効化される。それは珱嗄のギフトも同じ事。

 だが今回珱嗄が弄ったのはギアスロールではなく、それによって決められたルール。ルールを改竄した結果、ギアスロールにも変化が起きた、というのが実際の所。これならギアスロールに間接的な干渉が可能なのだ。

 

 しかしそれも今回限り。珱嗄としても、そんな勝ち方はあまり面白くない。十六夜辺りならその辺あまり気にしないのだろうが、その辺が快楽主義者と娯楽主義者の違い。無駄に娯楽を貪ったりせず、そこに自分で決めた決め事や誇りという物が有る。故に、黒ウサギの言葉は珱嗄も拒否しなかった。

 

「さて、それはそれとして……後ろを向いてみ?」

「え?」

 

 振り向く珱嗄と黒ウサギ。背後には付いて来ている飛鳥と耀。だがそこに、十六夜の姿は何処にもなかったのだった。

 

 

 


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