◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
それから四日。会談からは一週間後、つまりゲーム当日という訳だ。
この一週間。魔王であるペストの振りまいた疫病、黒死病は多くの者達を床に伏せた。これはサラマンドラやノーネームだけに留まらない。今回の火龍誕生祭に参加した全コミュニティに及ぶ影響だ。
また、この中には当然サラマンドラのメンバーもいるし、ノーネームからは春日部耀がその病に侵された。戦力的に言えば珱嗄の制限も有ってそこそこ削られた状況ではある。が、特に気にするまでもなかった。少なくとも、珱嗄から見れば自分が負けることなど一切考えていない。
さて、ゲーム開始まで残り数分。珱嗄達はペスト達と対峙し、その時を待っている。
「待ち侘びたわ、この時を」
「本当にね。今日からお前はアイドルだ」
「そうね、今日から貴方は私の玩具よ」
珱嗄はゆらゆら笑って、ペストは見下すような笑みを浮かべた。そしてそのまま睨み合う。
「定刻になりました!」
「それじゃあ、ゲームを再開するわ!」
かくして、黒ウサギの報告とペストのゲーム開始宣言により、ゲームは再開された。此度のゲームはプレイヤー側の勝利条件がとても複雑だ。偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。これは砕く事が出来て、掲げる事が出来る物が無いといけない。この答えは、既に十六夜が出している。
ハーメルンのステンドガラス。この火龍誕生祭には100枚近くのステンドガラスが持ち込まれており、その絵はそれぞれ違う。そしてそれはハーメルンの伝承がテーマになっている物なのだ。故に、偽りの伝承である絵のガラスを砕き、真実の伝承の絵のガラスを掲げる。これが今回の勝利条件だ。
そして、今回のプレイヤー側の作戦として、その役目はジン達が率いるサラマンドラとノーネームの非戦闘員が担当している。ペスト達と戦うのはあくまで戦闘員だけで良いのだから。
戦力的にはプレイヤー側の不利なのだが、勝利条件を見ると中々ホスト側に不利に出来ている。何故なら、ホスト側は24時間の経過以外に勝利する事が出来ないのだから。
「さて……戦闘は任せて俺はちょくちょく手を出すとしようかな」
ゲームが始まり、早々に戦闘は開始された。ラッテンとシュトロムはステンドガラスを掲げる役目をしているジン達の邪魔へ、ヴェーザーはノーネーム側の頭脳とも言える十六夜の打倒、そしてペストは黒ウサギとサンドラを相手に圧倒的な実力を見せつけていた。
そんな中、珱嗄はゲーム開始宣言で一斉に動き出した面々とは違って対峙していた場所から一切動いていなかった。使って良いギフトは一つだけ、使用回数は5回、これは絶対。
とはいえ、珱嗄にはギフトを使わなくても良い身体能力と、スタイルがある。正直スタイルはギフトでは無くコミュニケーション故に制限が掛かっていない。使い放題である。
「そんで俺が今回選んだギフトは……」
珱嗄が選んだギフト、それは十六夜があの20個の中から選んだ物とは別の物だった。
十六夜の選んだギフトは、ギフトを無効化するギフト【
「これだな」
珱嗄はペストの方へ視線を向けた。ペストはその視線に気付き、身構える。黒ウサギとサンドラの攻撃を捌きながら、珱嗄の攻撃を警戒した。
「えい」
「ふぎゅ!?」
ガツンという嫌な音が鳴り響き、咄嗟にペストは頭上に奔った激痛に涙目になりながら頭を両手で押さえた。そしてその痛みの原因を見て眼を丸くする。
「た、たらい!?」
「盥を落とすギフト【
完全なネタギフトである。使用回数、残り4回。珱嗄はそんなギフトで勝とうというのだ。馬鹿にしてるも程がある。
「ば、馬鹿にしてるn―――ごげっ!?」
「はははははっ、良いリアクションだぞペストちゃん! ほれもういっかーい」
「このっ……みゅっ!?」
盥が落ちてくる事が分かっている故に、避けようと移動するペスト。だが、その避けた先でまた盥が落ちてきた。いい加減頭が痛い。だがこのギフトは絶対に相手に盥を落とす物なのだから。
「残り2回か……じゃあこの辺で一旦止めとこうかな」
「っ~~~……痛いわね……というか最初のダメージが盥ってどうなのよ……」
「よそ見するなよ」
「! ―――危ないわね」
珱嗄に気を取られていた傍から、黒ウサギ達の攻撃が来た。だがそれを間一髪紙一重で防ぐペスト。そして視界を広くして冷静になる、とそこに珱嗄の姿はなかった。
「どこへ……むきゅっ?!」
そこへもう馴染みの出来てきた痛みが奔った。4度目、だがこれはギフトじゃない。真上を見ると珱嗄が二つの盥を持ってゆらりと笑っていた。
「ま、まさか………」
「そう、これはさっきお前の頭を打った盥だ。拾って来たぜ」
珱嗄はペストの頭に落ちた後地面へと落下して行った盥を拾ってもう一度上から落としたのだ。これならギフトを使った訳ではないので使用回数には関与して来ない。
「さて、お前はゲームが終わるまでに何回盥を落とされるかな?」
珱嗄はそう言って、ペストの頭にまた盥をぶつけたのだった。
◇ ◇ ◇
珱嗄が魔王相手に遊んでいる中、十六夜はヴェーザーと一対一で激闘を繰り広げていた。ペストによって神格を与えられたヴェーザーは大幅にパワーアップしており、その力は十六夜を上回っていた。
拳と身の丈ほどの笛がぶつかりあう度に、その威力は拡散し、地面を、壁を抉った。互いに笑みを浮かべ、この戦いを楽しむ。強き者同士が戦う時、その戦いは拮抗している時ほど両者に戦うことでの悦楽を与える。それこそ、傷ついても苦しくても笑みを浮かべてしまう位に。
傷付ける事が怖い者や戦いたくもない者はそう言った気持ちは分からないが、本当の力を持った者というのはその力を振るえる相手が居る事が何より幸せなのだ。
「ははははっ!!」
「ふはははは!!」
高笑いをしながら拳と笛が激突する。お互いがその威力の高さに後ずさりする。そしてまた地面を蹴ってぶつかる。その繰り返し。
その拳の一撃が地面を抉り、その笛の一撃が木々を薙ぎ払う。当たればお互い一撃必殺の威力を持った攻撃の嵐。防御は最低限に、自分達の攻撃を相手に与える為に少しでも多く攻撃を放つ。
「おらぁ!!」
「ぐっ……!」
拳を放つ十六夜、だがそれをヴェーザーは受け止め、笛によるカウンターで十六夜を吹き飛ばした。地面にぶつかり、砂煙が撒き散らされるが、その煙を掻き消して十六夜は飛び上がった。多少かすり傷が出来ている物の、戦闘には支障ない。
「お返しだヴェーザー!」
「なっ……ぐはっ……!」
不意を打った攻撃でヴェーザーを後退させる十六夜。お互い実力はかなり拮抗していた。
「ははは、いいじゃねーか。だが、まだまだだな。これが神格を得た悪魔の力だ!」
「おわっ!?」
そのパワーアップした速度の蹴りで十六夜はまた吹っ飛ばされてしまった。
「ぐ……ははは、いいねいいね。随分と俺好みなバージョンアップしてきたじゃねーか!」
「そいつはどうも」
「楽しくなってきたぜ。ヴェーザー川の化身、いや……本物のハーメルンの笛吹き!」
十六夜はそう言って、歯を見せながら極々楽しそうに凶悪な笑みを見せたのだった。