◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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魔王と珱嗄の他愛のないやり取り

 さて、翌日。

 珱嗄との一晩中に及ぶ訓練を終え、一睡もしていない飛鳥はよろよろと十字剣を杖代わりに十六夜達の前に現れた。

 その姿を見て十六夜達はネズミ達同様誰かに襲われたのかと勘違いし、飛鳥に駆け寄った。

 

「おい、誰にやられた!?」

「ちがっ……」

「血? 怪我しているのか、黒ウサギ!」

「はい! 今すぐに医者を呼んできます!」

 

 十六夜が疲労で倒れた飛鳥を抱えて、黒ウサギは急いで医者を呼びに行った。勘違いは勘違いを呼んで取り返しが付かなくなる。

 

「しっかりしろ、お嬢様!」

「十六夜……君………珱嗄……さんが……!」

「珱嗄が……? まさか、珱嗄の奴も!?」

 

 十六夜は飛鳥の言葉をまた勘違いし、珱嗄までもが飛鳥と同じ様にピンチなのかと思った。だが、知っての通り珱嗄は化け物だ。そんな相手を窮地に陥れる相手など、勝ち目が無い。

 冷や汗を流す十六夜。飛鳥はそんな十六夜を見て焦る。

 

「そうじゃないの……十六夜君……これは……珱嗄さんが……」

「は?」

 

 既に黒ウサギが医者を呼びに行き、耀も部屋を飛び出す様に付いていった。そんな中、勘違いは飛鳥の踏ん張りで解けたのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「やー、悪い悪い。傷を直すの忘れてたよ」

「あのね……もう少しで死ぬ所だったじゃない!」

「大丈夫だって。多分」

「多分!?」

 

 その後、珱嗄が何処かで朝食を食べて優々と戻ってきたので、飛鳥は瀕死の状態からどうにか戻ってきた。珱嗄のギフトでなんとか傷を直す事が出来たのだ。

 そして珱嗄は回復して喚き立てる飛鳥にただケタケタ笑って対応した。一応飛鳥が死んだとしても、珱嗄には蘇生のギフトが有る。例を挙げれば現実を虚構に出来るギフトとか、そんなのだ。いざとなればスタイルでも蘇生が可能だ。

 

「全く。修行とかいってあんなに鬼畜な方法とって……それに、面白半分でセクハラしないで欲しいんだけど!」

「言ったじゃん、不可抗力だって。それに、あれ位やらなきゃお前如きが強くなるなんて夢のまた夢だぜ」

「……はぁ…」

 

 珱嗄の言葉に飛鳥は溜め息を吐く。最早この人外は扱いきれないのだ。

 

「さて、そんな事より今日は耀ちゃんの決勝戦だっけ? 応援しに行かないとね」

「ありがとう」

「いやいや。そっちの方が面白いし、気にしなくても良いよ」

 

 応援に行くと言った珱嗄に礼を言ったのは勘違いを解いて戻ってきた耀だ。珱嗄が帰ってくるまでの間にレティシアが黒ウサギと耀を連れ戻しに行ったのだ。誤解は解けた物の、心配だったのは本当で、少しの間ほっと肩の力を抜いていた。

 

「とはいえ、耀ちゃんのギフトって面白いよね。多分、俺の持ってるギフトの中にもないぜ?」

「そうなの?」

「うん。だって回りくどいし」

「………珱嗄って中々に最低だよね」

「自覚はしてるよ」

 

 珱嗄はそう言ってゆらりと笑った。一番問題児らしからぬ雰囲気と行動を取る物の、その人格は一番問題有りな珱嗄。他の三人の問題児を簡単に丸め込み、疲れさせるやり取りは、ある意味黒ウサギの心労を減らしていた。

 

「さて、それじゃあ頑張っていこうか」

 

 珱嗄は最後にそう言って、くるりと回った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ん……珱嗄は?」

「知らないけど……?」

 

 夕刻、耀のギフトゲームをVIP席で見ていた十六夜がそう聞くと、飛鳥が辺りを見渡しながらそう言い返した。この席はサラマンドラの好意で用意して貰った席で、今回の依頼を受けた事によるちょっとした優遇だ。

 だが、この場に珱嗄の姿は無く、応援すると言っていたのに少しだけ心配になった。無論、珱嗄自身ではない。珱嗄が何をしでかすか、という心配だ。

 

「おんしら、あの男はどうした?」

「いや知らねえけど居ねぇんだよ」

「ふむ……まぁ、あ奴の事だ。どこかで見ておるだろうよ。ほら、耀の試合を始めるぞ」

「おう」

 

 白夜叉も珱嗄がいない事に少し首を傾げたが問題はないと判断してゲームを開始する。白夜叉からのアイコンタクトをえた今回の審判役、黒ウサギが一つ頷いてゲームを始める為に声を上げた。

 

「それでは皆様! これより火龍誕生祭のメインギフトゲーム! 造物主達の決闘の決勝戦を開催死体と思います! 審判役はこのサウザンドアイズの専属ジャッジでおなじみ、黒ウサギが務めさせてもらいます!」

 

 黒ウサギの声で歓声が上がり、ボルテージはどんどん上がっていく。

 

「……そういやよ、白夜叉。黒ウサギの見えそうで見えないあのスカートはなんだ? チラリズムなんて、趣味が古すぎるぜ」

「ふっ、おんしほどの男が、真の芸術を理解できておらんとはな……」

「何?」

「良いか。真の芸術とは、己自身の飽くなき探求心。真の芸術とは、己が宇宙の中にある!」

「己が宇宙の中、だと?」

「それは乙女のスカートの中も同じ。見えてしまえば唯の下品な下着でも、見えなければ芸術だ!」

「見えなければ、芸術か!!」

 

 白夜叉と十六夜が変態トークを繰り広げている。ちなみに、見えそうで見えないスカートというのは、なんとも言い難いエロさがあると思う。

 

「今こそ共に確かめようぞ……この世に、奇跡が起こる瞬間をな……!」

「白夜叉……」

 

 白夜叉と十六夜はお互いにふっと笑い、黒ウサギに向かって双眼鏡を構えたのだった。

 

「あ、あの……」

「見るな。馬鹿が移る」

 

 そんな姿にサンドラが何か言おうとするも、兄のマンドラは教育に悪いとばかりにそう言い捨てた。また、飛鳥もそんな二人に呆れ返って溜め息を吐き、少しだけ思考に耽っていた。考えている事はラッテンフェンガー、ハーメルンの笛吹きについての事だ。

 

「……そんなこと、ある訳ないわよね」

 

 現在、飛鳥の膝の上で寛いでいる群体精霊が、魔王の配下の者とは思いたくなかったのだ。ラッテンフェンガーに魔王が関わっていると知ったからには、少しだけ、不安になった。

 だが、そんな不安とは裏腹に、ゲームは進んで行く。耀とコミュニティ、ウィルオウィスプの一人は白夜叉の合図と共に衝突したのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 さて、その頃、ゲームのテンションとは真反対に動く存在の影が三つ。一人は斑模様の服を着た少女、一人は露出の多い女性、一人は大きな笛を持った男だ。

 彼女達は所謂魔王と呼ばれる存在で、今回の魔王襲来の予言に出てきた人物である。

 

「……始めるよ」

「「YES、My master」」

 

 少女の言葉に二人の男女が頷く。少女が乗っている大きな笛の容姿を持つ悪魔も、戦いの準備が出来たとばかりに大きな風を吹かせる。

 そして、眼先でギフトゲームが始まったのを見て、少女が動きだそうとした所で、少女の背後から声がした。

 

 

 

「見つけた」

 

 

 

 三人は驚愕に眼を見開いて背後へ振り向く。そこには青黒い髪を少し跳ねさせ、青黒い着物を着流している男がいた。ゆらりと口元を吊り上げて、少女達に視線を送る。

 

「貴方、誰?」

「お前こそ誰だ」

「見つけたって言ったんだから、知ってるんじゃないの?」

「知らないけど?」

「………」

 

 珱嗄は、少女を、黙らせた。

 すると、少女の配下なのか二人の男女が少女の前に出て珱嗄にたいして戦闘態勢を取った。

 

「アレ? やるの? だるいなぁ……」

「舐めてんじゃねぇぞ……兄ちゃんよぉ!」

 

 動き出そうとする男。だが、その動きだしの前に珱嗄は男の懐に入っていた。そして男の耳元に口を近づけて小さく言う。

 

「舐めたら汚いだろ」

「っ!?」

 

 見えなかった。対峙した男も、露出の多い女も、魔王である少女も、珱嗄の動きが全く見えなかった。それはつまり、それほどの速度を珱嗄は持っているという事である。

 

「……それと、この笛は返そう」

「な、いつのまに……」

「悪いけど手品は好きなんだよ」

 

 珱嗄はそう言って無刀取りよろしく奪い取った笛を男に返した。そしてそのまま笛を受け取った男から数歩距離をとる。

 すると、少女はそんな珱嗄の実力が高い事を理解し、珱嗄に質問した。

 

「貴方、何処のコミュニティ?」

「生憎とノーネーム所属なんだよ」

「嘘……貴方みたいな人がノーネーム?」

「そうだよお嬢ちゃん。俺は君みたいに立派なコミュニティには入ってないんだよ」

 

 それを聞いた少女は少しだけ考えた後、珱嗄に視線を送った。その姿は何処までも飄々としていて、気まぐれな狐の様な印象を得た。

 だが、珱嗄の実力は本物だ。全てを見た訳ではないが、先程の一合を見れば十分だった。

 

「それで、貴方は何が目的で此処に来たの?」

「俺の目的、ね。それは―――」

「?」

 

 珱嗄はすっと少女に向けて指を差した。指を向けられた少女はその手を隠し尽くす袖を口元に持っていき、首を傾げた。

 珱嗄はそんな少女の事を見て口元を吊り上げ、こう言った。

 

 

「お前を俺の物にしてアイドルに仕立て上げるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 


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