◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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飛鳥の悩み

 珱嗄達は魔王が来るまでの間は暇という事で、何も常時警戒していろという訳ではないので自由行動を許可されていた。その結果、その日は各々自由に動き回り、それぞれ楽しく過ごしていた。

 春日部耀は白夜叉の提案でサラマンドラの開催しているギフトゲームの出場。結果的に翌日の決勝戦へと上り詰めた。

 逆廻十六夜はジンや黒ウサギと共に街を見て回り、比較的穏やかな時間を過ごした。

 そして久遠飛鳥は街中で出会った群体妖精の一匹と共に街を見て回り、その群体妖精が自称した所属コミュニティ、ラッテンフェンガーという名前を聞いて襲い掛かって来たネズミ達に若干の怪我を負わされた。

 

 そして現在はその全員が今晩を過ごす温泉宿に集まって寛いでいた。ちなみに珱嗄は特に興味もなかったので十六夜達が街へ出ている間、既に温泉宿でゴロゴロしていた。

 

「ふぅ……流石はサウザンドアイズの温泉ね。浸かってるだけで傷が癒えたわ」

 

 さて、その中で唯一何者かに襲撃された飛鳥は温泉に浸かりながら一人、息を吐いていた。群体妖精は御湯の上に浮かべている桶の中でキャイキャイと遊んでいるが、そのテンションとは反対に飛鳥のテンションは駄々下がりだ。

 その理由は、先の襲撃で思う所があるからだ。どんな相手かは知らないが、飛鳥を襲ったのは大量のネズミ。飛鳥の威光のギフトが有れば簡単に従属させる事が出来る相手だ。

 だが、今回そのギフトは一切効果を発揮しなかった。その理由としては、飛鳥よりも霊格の高い人物による支配を受けていたから、というのが飛鳥の見解。

 

 今まで自分の命令は珱嗄やルイオスといった格上の人物以外には関係なく効果を発揮していた。まして、ネズミという小さな存在には問答無用の効力を発揮する筈だった。

 それなのに、ただ自分より格上の相手が関わっていたから、という理由だけで飛鳥のギフトはてんで役に立たなくなる。元々飛鳥は自分自身での戦闘に疎い故、ギフトが効かなくなるとただの非力な少女となる。

 相手次第で自分の強さがはっきりと別れてしまうこのギフトは、あまり使い勝手が良いとは言えないのだ。

 

「……悔しい……でも、使いこなしてみせる……ギフトを支配するギフト……!」

 

 御湯の中で膝を抱えて、強い意志と共にそう決める。おそらく、十六夜や耀、珱嗄と比べても、飛鳥の実力は一番下だろう。確かに強い力だが、飛鳥より格上の相手はこの箱庭に五万といるのだから。それこそ、この七桁の外門で梃子摺っている様では魔王を倒すなどとても無理だ。

 

「ギフトを使いこなすのなら、やっぱり……ギフトを一番知っている人に聞くのが一番よね」

 

 そこで飛鳥が思い付いたのが、珱嗄の存在。2000京ものギフトを使いこなす人外だ、たった一つのギフトすら使いこなせない飛鳥にとってこれほど指南を受けたいと思える存在はいない。

 

「珱嗄さん………教えてくれるかなぁ」

「呼んだ?」

「わきゃああ!?」

 

 ここは女子風呂。故に飛鳥は裸である。そこに、珱嗄は唐突に現れた。なんの躊躇いも無く、何の恥じらいもなく、何の悪びれも無く、堂々と、ゆらゆら笑って、その姿を現した。

 

「な、な、なんで此処に居るのよ!」

「俺が何処に居ようと俺の勝手だろう」

「変態!」

「わはは。悪いがガキの身体には興味はない。俺を誘惑したいなら最低でも3兆年生きた平等な人外レベルになってからおいで」

 

 珱嗄に罵倒を吐きかける飛鳥だが、珱嗄はそんな飛鳥に対して笑い飛ばす様にそう言った。遠回しに、お前の身体には色気も何も無いと言っていた。

 

「……で、何か言う事はないかしら?」

「謝罪が欲しいのなら謝ろうか?」

「……もういいわ」

 

 珱嗄は飛鳥の諦めた様な様子に苦笑し、珱嗄式ギフトの一つ。衣装を入れ換えるギフト【衣換え(メイクアップ)】を発動させ、全裸からバスタオル姿に衣装を換えた。

 飛鳥は十六夜メイドの件でそのギフトを知っていたおかげもあって、驚かずに自分の身体を覆うバスタオルが現れた事を冷静に理解し、取れない様に片手で抑えた。

 

「それで、俺に何か用があるんじゃないの?」

「まぁ……そうなんだけど……」

「……ギフトを使いこなせる様になりたいってか」

「!」

「どうやらネズミ相手に痛い目みたそうじゃねーの。わはは、ざまあみろ」

 

 珱嗄の言葉に若干ぐさりと来て肩を落とした飛鳥。珱嗄はそんな飛鳥を見てゆらりと笑い、しゃがんでいた状態から立ち上がる。そしてそのまま御湯の上を召喚された時同様歩いた。

 

「……それ、最初会った時にもやってたわね」

「ああ、あらゆる場所を歩くだけのギフト。名前は【歩劫者優先(ウォーキングトラベラー)】だ」

「本当……いろんなギフトを持ってるのね」

「まぁね」

 

 珱嗄のギフトに少しの嫉妬と羨望を向ける飛鳥。

 だが珱嗄はそんな飛鳥の言いたい事を既に察している。察した上で少しだけ意地の悪い選択を持ちかけた。

 

「なぁ飛鳥ちゃん。俺は知っての通り多くのギフトを持ってる。その中には『ギフトを譲渡するギフト』も有るんだぜ?」

「!?」

「例えば、無条件に相手に命令を下せるギフトなんかを君に譲渡すれば、君はその悩みから解放される。霊格だのなんだの関係無く、格上も格下も全部まとめて屈服させる事が出来るからね」

「それは……」

「さ、どうする?」

 

 珱嗄の甘い言葉。正直言えば、欲しい。そんなギフトが有れば、この悩みからも解放され、十六夜達ともタメを張れるだろう。

 だが、飛鳥はそんな甘言に迷いつつも、自身のプライドと誇りを取った。

 

「いらないわ。私は、私のギフトを使いこなして強くなりたいのよ!」

 

 珱嗄はそんな飛鳥の言葉を聞いて、ゆらりと笑う。一瞬とはいえ、迷った心はこうも簡単に立ち直れない。それなのに、こうやって立ち直ってくる辺り、彼女の心の強さが垣間見えた。

 

(へぇ、こいつは面白い)

 

 珱嗄はそう思って、水面で振り返る。

 

「いいね、面白いじゃないか。久遠飛鳥、お前の悩みをお前の思う様に解決してやるよ」

 

 珱嗄はそう言って、飛鳥に手を差し伸べた。

 

「ありがとう。それではよろしく、珱嗄先生?」

 

 飛鳥はそう言って、珱嗄の手を取った。

 

 だが、このまま終われば綺麗にまとまる筈だったのだが、この物語はシリアスまたは真面目な雰囲気は稀にしか出てこない。故に、

 

「ごちそうさま?」

「っ――――!!?」

 

 珱嗄の手を取った事でバスタオルがひらりと落ち、珱嗄の視界に艶めかしい少女の若干紅潮し、濡れた肌が晒された。太くも細すぎもしない脚、そこから腰とウエストへの曲線と15歳にしては発育の良い胸、その全てが珱嗄に見られていた。

 

 そして、次の瞬間。珱嗄はその場から転移ギフトで消え去り、飛鳥は顔を真っ赤にしながら珱嗄の顔が在った空間にそのビンタを空振ったのだった。

 

 

 

 

 


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