◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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諦めない限り

 迫りくる光の柱は、地面を抉り、広い範囲で亀裂を生んだ。吹き飛ぶ石や地面の破片、噴き上がる砂煙、そして辺りに核爆弾の様に光を散らす巨大な光の柱。

 その柱の真下には、珱嗄が居た。直撃、確実に当たったという手応えが十六夜にはあった。集束する光と共に、柱が消え失せ、十六夜も念の為後方へと大きく下がる。

 

 ―――どうなった?

 

 誰もが今の攻撃の結果に身を乗り出していた。ギャラリーも、ノーネームの仲間も、そして安心院なじみも。

 光の柱の威力からして、既に今の攻撃は規格外と呼べるだけの物なのだろうということは誰もが理解している。しているのだが、あの珱嗄だ。珱嗄ならば―――と、考えてしまうだけの強さを、彼は持っている。あの光の柱に対して、何か防御策を講じていたのではないか? ギリギリで躱していたのではないか? そう考えてしまう。

 

 しかし、それでも尚……彼らは願った。全力でやった。直撃だった。如何にあの珱嗄であろうと、ほんの少し位の傷はつけられたのではないかと。付けられていて欲しい、と。切に。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

 十六夜は肩で息をしているものの、まだまだ余裕がある。体力的には大分削られているが、珱嗄が反撃して来なかった故に無傷なのだ。戦うだけの余力は、まだある。そしてそれは、他のメンバーも同様だ。仮に珱嗄が未だ健在だとしても、再度戦うだけの力は残っている。

 だが、同じ手が通用するのは格下まで。珱嗄に同じ手は通用しないだろう。それをやってのけるだけの技量も、彼らにはない。

 

 

 なのに、現実は非常だった。

 

 

「―――いやはや、驚きを通り越して感心するね。まさか俺が此処まで追い詰められるとは思ってなかったよ」

 

 

 立ち込める土煙の中から、そんな声が聞こえた。声音に、ダメージの色はない。土煙の向こうから、その声の主が歩いてくる音が聞こえる。段々と近づいてくる足音と同時に、うっすらと人影が見えた。歩く動作に乱れはなく、着実に近づいて来ている。

 

 そして、土煙から青黒い着物が姿を見せた。黒い袴、緑色の腰布、黒いインナー、青黒い着物、少し撥ねた髪の毛を揺らしながら、珱嗄は、目の前に現れた。

 

 見た所、傷はない。怪我もなければ、服装に乱れもなく、そして土の汚れすらついていない。これ以上なく、万全だった。そしてそれは、攻撃の失敗を意味する。

 

「流石にこれだけの実力者を数人相手にしてってのは、ちょっと無理があったかねぇ。さっきの一撃も、当たれば確実にヤバかった……でも、空中からの攻撃ってのが不味かったな」

「なんだと……!」

「光の柱は、十六夜ちゃんの拳から発生している。なら、その拳の矛先をちょいとずらしてやれば、俺には当たらないだろう? 地面に足を付けていれば少し難しかったが、空中なら身体をちょいと押すだけで簡単にずらせたよ」

「っ……!?」

 

 珱嗄は、十六夜の攻撃を前にギリギリ手を伸ばしていた。迫りくる柱と共にいた十六夜の服を掴み、そして横へと引っ張った。拳を振り抜く際に十六夜の身体は捻じれる、それと同じタイミングで捻じれる方向へと服を引っ張ったのだ。

 結果、身体が思った以上に回転した十六夜は、その光の柱を珱嗄の直ぐとなりの地面に放ってしまったのだ。それはつまり、十六夜の攻撃が失敗に終わったということ。

 

「ただ、見事な連携と知恵だった。流石にひやっとしたぜ」

「あれだけやって無傷かよ、ちょっとショックだぜ」

「うんうん、これほどの連携を見せられちゃあ俺も大人しくしているのは行儀が良くない。今度は折れ時からも反撃させて貰おうか」

 

 珱嗄の言葉に、全員が身構えた。

 

 瞬間―――黒ウサギが後方へと吹き飛んだ。

 

「―――……え?」

 

 誰かが漏らした声。黒ウサギが居た場所に、珱嗄がいる。幾らなんでも速過ぎる―――一切目視出来なかった上に、黒ウサギがなにをされて吹き飛んだのかも分からなかった。それもそうだ、吹き飛んだ黒ウサギでさえ、何をされたのか分からなかったのだから。

 ただお腹に少し、痛みを感じることからお腹に打撃を喰らったのだろうということは、予測出来る。

 

 吹き飛んだ黒ウサギは立ち上がり、珱嗄を見据える。同時に、飛鳥達の視線も珱嗄へと移された。

 

 しかし、そこに珱嗄は既にいない。

 

「なにっ……!?」

「後ろだよ、ほら!」

「うぐっ!?」

 

 驚愕する十六夜の目の前で、耀が空中へと投げ出された。腰を前に突き出すように身体を反らせ、受動的に宙へと身体を投げ出している。

 そして、耀が立っていた場所には、片脚を軽く上げた珱嗄。耀を背後から蹴りあげたのだろう。但し、手加減はされている。本気だったら、黒ウサギも耀もこの時点で死んでいるからだ。

 

 どうする! どうする!! 十六夜は考える。珱嗄が攻勢に打って出たということは、今までの様な時間稼ぎも、隙を作る連続攻撃も崩されることを意味する。

 

 となれば、十六夜達も取れる手段はもう残り少ない。幸い、耀と黒ウサギはまだ続行可能だ。ならば。

 

「……っ……全員、話した通りの作戦で行く! おチビ! 分かってるな?」

「……はい、分かってます!」

 

 全員に呼び掛ける十六夜。特に、名指しで指されたジンが前に出た。珱嗄は内心で首を傾げる、あの子に何が出来るのかと。非戦闘員で、かつ持っているギフトも強力ながら今の状況では活用できそうにない。ならば、どうするつもりだ―――?

 

「いっくぜぇぇええ!! 珱嗄ァ!!」

「わはは、掛かって来い十六夜ちゃん―――真正面から叩き潰してやる」

 

 しかし、地面を蹴り、第三宇宙速度で接近してきた十六夜に、珱嗄は笑う。ゆらゆらと笑って、受け止める。拳を受け流し、蹴りを逸らし、追撃を躱して、空いた隙に掌底を叩きこんだ。十六夜の胸から、みしみしと嫌な音が響く。

 だが、走る激痛を堪えて、十六夜はまた前に出た。これには珱嗄も驚きである。ただの人間の身体で、珱嗄の一撃に耐えるとは思わなかったからだ。

 

 十六夜の肉体の耐久力が、珱嗄の想像よりも高かった。

 

「うるぁあ!!」

「っと、おらっ!」

「ッ……!」

 

 抉りこむ様な回し蹴りを、珱嗄は身体を反らして躱し、逆に通り過ぎる足首を掴んで後方へと投げ飛ばした。危なげなく着地する十六夜だが、足首に軽い痛みを感じた。みると、履いていたズボンに珱嗄の手の痕が残っている。凄まじい握力で掴まれたらしい。

 

「……ちっ……足首痛めたか」

「その気になれば折れたけどな」

「つくづく、嫌になるぜその強さ……!」

「いずれお前らが超えるべき強さだったんだ、今とは超えろとは言わないから、せめて一撃くらい入れて見せろ―――お前らにはソレが出来ると、俺は思ってる」

「高く買っておいでで……!」

 

 珱嗄の言葉に、十六夜だけでなく飛鳥達も微かに笑みを浮かべる。それほどまでに高く買ってくれているのなら、是非も無い。俄然やる気が湧いてきたという表情だ。

 

「行くぞ珱嗄、もう少しだけ付き合って貰おうか!」

「良いぜ、時間はたっぷりあるさ。諦めない限り、幾らでも付き合ってやるよ」

 

 言葉と同時、珱嗄と十六夜がまた……地面を蹴った。

 

 


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