◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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珱嗄の劣勢

 珱嗄に対して、十六夜の考えた作戦を実行するべく、十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ、ペストが行動を開始する。

 全員が全員、珱嗄に対して全力の攻撃を、一瞬の間もおかない早さで始めたのだ。十六夜が殴り掛かり、ソレをいなした珱嗄にディーンの拳が振り下ろされ、それを躱した先に飛鳥の剣が待っており、それを受け止め投げた瞬間耀が踵落としを繰り出し、それを軌道を逸らすことで躱すと黒ウサギが髪を真っ赤に染めて拳を繰り出して、それを受け止めると背後から十六夜が。そんな感じで連続した攻撃を絶え間なく繰り出してくるのだ。

 

 珱嗄はそれをなんとか紙一重で躱し続けるものの、十六夜達の速度がどんどん上がっていく。恐らく、全員がお互いの無駄を補い合うことに慣れて来たのだろう。その結果、無駄の無くなっていく連携が加速していくのだ。

 珱嗄としても、人数の多さと連携の上達速度に、ほんの少しだけ押され始めていた。そもそも、珱嗄から決定的な攻撃を受けていないのだ、十六夜達は。だから無傷で、掠り傷程度の傷のままでいられる。

 

 だが、そんなことは十六夜達全員が分かっている。分かっていてそうしているのだ。決定的な一撃を加える為に、虎視眈々とその時を待っているのだ。

 

「はぁああああ!!」

「っ……良い連携だ、お兄さん困っちゃうねぇ」

 

 耀の蹴りに、それを受け止めながら珱嗄は言う。だがその言葉の途中で飛鳥の剣が迫り、伏せて躱すと真下から十六夜の拳が迫る。凄まじい連携速度、躱す為の時間が全くなくなって来る。そしてソレを躱す為に反転を使っても、立て直しが早過ぎる。

 まるで、珱嗄の反転を読んでいるかのように、互いが互いを支え合って体勢を立て直してくる。しかも、その間もギフトが通用しない十六夜の攻撃が迫り、ソレを躱す間に体勢を立て直した飛鳥達が攻撃を再開する。

 

 まるで、反転を引きだされている気分だった。

 

 これほどの連携を躱し続ける珱嗄も珱嗄だが、珱嗄を追い詰める程の連携も凄まじい。珱嗄が反撃に出れば崩れるであろうこの連携だが、珱嗄は何故か攻撃しない。

 あたかも、防御に全力を置いて、それを十六夜達が抜けるのかを試しているかのような感覚。

 

「ッ最初から攻撃するつもりなんてないってかァ!?」

「わはは、だって攻撃したらお前ら一発でダウンしちゃうだろ?」

 

 十六夜のとび蹴りを躱しながら、尚も挑発する珱嗄。続々と攻撃の嵐の中で正確に躱していく珱嗄の身体には、一切の傷が無い。まだ彼らは勝利条件である一撃を、入れられていないのだ。戦いが始まってから、およそ30分は経っているというのに―――

 

「ヤハハッ! 舐めたこといってくれんじゃねーか!」

「ええ、不愉快ね!」

「おっと?」

 

 十六夜の回し蹴りをジャンプして躱した珱嗄に、飛鳥の十字剣による攻撃が迫る。空中では躱せない、普通なら。珱嗄は空を蹴って更に跳躍し、飛鳥の剣を躱す。

 だが十六夜達に驚愕の色はない。その位やってのけてもおかしくはないだろうと思っているからだ。寧ろ、これからだとばかりに動きを止めない。

 

 汗だくになりながらも、チャンスを探す。息は切れ、汗が地面に流れ、それでも動きは加速していく。まだまだ止まる訳にはいかないのだ。

 

 珱嗄が攻撃の手を休めない十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギに意識を向けている所で、不意打ちの様にペストが黒い死の風を叩きつけてきた。

 

「喰らいなさい!」

「ッ……やるねぇ……!」

 

 珱嗄はその攻撃に一瞬硬直するも、直ぐに動く。死の風の向かう先を反転し、跳ね返した。

 しかし、ペストはソレを予想していたのか、既にその場には居らず、寧ろ死の風に隠れて珱嗄の近くに接近していた。

 

「隙あり―――貰ったわ!!」

「わはは……盥娘はまだ懲りないみたいだな」

「はぎゅっ!?」

 

 接近してきたペストの頭上に、珱嗄はチョップを落とした。いつかの盥攻撃の様な衝撃に、ペストは涙目になるも、グッと痛みを堪えてその場に伏せた。

 その行動に怪訝な表情を浮かべる珱嗄だが―――そこには黒ウサギが黄金の槍を構えて立っていた。しかも、既に放たれる瞬間だ。

 

「これ、は―――!」

「インドラの槍!!!」

 

 珱嗄の肉体に、その槍の穂先が迫る。これは穿った、そう思った。事実、穂先が珱嗄の肉体から本の数cmの所まで迫っていたからだ。

 

 しかし、珱嗄はギリギリソレを躱した。身体を強引に捻り、青黒い着物を破りながらも、その肉体には一切傷を付けずに躱した。体勢は崩れたものの、今の一撃は珱嗄に届くかもしれなかった一撃―――それを珱嗄は紙一重で躱してみせた。

 ゆらりと笑い、黒ウサギの表情を覗き見る。が、黒ウサギの表情には、不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「―――まさか……!?」

「もぉぉらったぁぁぁあああああああ!!!!!」

 

 ペストが作り出した黒い風、反転して上空へと上って行ったあの黒い風、それに隠れて上空から迫っていたのだ―――十六夜が。

 その右拳が太陽に重なり、十六夜の決定打をほんの一瞬隠す。

 

「ぐっ……」

 

 その右拳から、『光の柱』が出現する。それは、星を砕く一撃――この辺り一帯を吹き飛ばす事の出来る最強の一撃。恐らくは、珱嗄でさえも直撃を受ければ唯では済まないだろう。星を砕く威力など、常識の範囲外の力なのだから。

 だがしかし、この一撃はもうすぐそこまで迫っていた。気付いた時にはもう遅い。黒ウサギの槍を躱し、体勢の崩れている珱嗄は、それを躱せるかどうか分からない。

 

 

 そして―――

 

 

「うらぁぁあああああああ!!!!!」

 

 

 十六夜の咆哮と共に、その光の柱が落とされた―――

 

 


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