◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ？にお気楽転生者が転生《完結》

遊ばれ飛鳥

　今ほど、強敵を前に安心した時はないわ。

　春日部さんと、十六夜君、私、そこに珱嗄さんを加えた四人でこの世界へと喚ばれて、思えば遠い所までやってきたと思う。

　ペルセウス相手に珱嗄さんが星を消滅させたあの日から、私達は必死に戦ってきた。本当に必死に、戦ってきたんだ。それが無駄じゃなかった、無意味じゃなかった、今この時、ようやく実を結んだ。

　それがとても―――誇らしい。

　十六夜君の作戦に乗った私は、春日部さん達も同じ気持ちだと知って、柄にもなく昂揚している。負ける気なんてさらさらないわ。だって、私達が今敵に回しているのは……珱嗄さんなんだもの。勝ち負けじゃなく、珱嗄さんが私達にその拳を向けて立ち塞がっているという事実が嬉しい。

　だってそうでしょう？ あの人が、私達なんかよりもずっと強く、頼もしいあの人が、私達を認めてくれたってことだもの。味方としてでは無かったけれど、敵として戦う相手として、私達を認めてくれた。

　こう言ってしまえばなんだけれど、弟子冥利に尽きるというものじゃない？

　あの人に鍛えて貰ったカウンター、死ぬ思いをして会得した。

　あの人に貰った恩恵、才能、それが私をもっと強くしてくれた。

　だからこそ、私は珱嗄さんにだけは強くなった自分を認めさせたい。このカウンターの技術も恩恵の使い方も、全部珱嗄さんに鍛えて貰ったからきっと珱嗄さんには全部お見通しだと思う。だから多分私の戦術は全て通用しない。私単体で珱嗄さんに勝つ事は絶対に無理だと断言出来る。

　でも、私単体で勝つ必要は無い。だって私には今、十六夜君や春日部さん、黒ウサギ達という信頼出来る仲間がいるんだから。たった一撃、たった一撃入れられれば私達の勝ちだというのなら、私が決定打である必要は何処にもない。

　それこそ、今ここには十六夜君や黒ウサギ、春日部さんという私なんかよりも決定的な一撃を放てる人材が揃っている。なら、それをサポートするのが私の役目……出来るわ、だって私達は問題児(なかま)だもの。同類のやりたいこと、やりそうなことくらい、簡単に分かる。

「でも……私だって大人しくしているのは性に合わないのよね」

　あら？

　自然と、そんな言葉が漏れた。珱嗄さんが移っちゃったかしら？ 私の口端が吊りあがって、笑みを浮かべているのが分かる。そして、私の考えとは裏腹に、私の身体は珱嗄さんへと一直線に向かって行った。十字剣で空気を斬って、自分の出せる最高速で珱嗄さんに迫った。

　ああ―――どうやら私は、サポートに徹せるほど真面目な性格はしていないらしい。

　身体が勝手に動く。珱嗄さんと戦っているから、昂揚した身体がサポートに徹してくれない。私が一撃を入れるんだとばかりに、暴れ回る。

「十六夜君！」

「ああ！」

　十字剣を下から斬り上げる様に振るうも、バックステップで珱嗄さんはそれを躱した。でも、私は振り上げた剣を地面と水平に構え、十六夜君を呼んだ。

　すると、私の意図を察していたのだろう。十六夜君は私が呼ぶと同時に、水平に構えた剣の上に着地した。普通なら、人間一人分の重みを私が支えられる筈もない。

　でも、それを補う術を私は持っている。

「ディーン！！」

「DEEEEEEEN！！」

　ギフトカードからすかさずディーンを召喚、現れたディーンは十字剣の下に手を差し込み、十六夜君の着地の為の地面となる。

　そして、十六夜君はタイミング良く珱嗄さんの下へと跳躍した。入れ替わる様に私はディーンの手の上に乗り、珱嗄さんの下へとディーンを走らせる。

「珱嗄ぁぁぁぁあああああ！！」

「良いねぇ、問題児なりに連携してるじゃないか」

　迫りくる十六夜君の拳を、珱嗄さんはぱしんと乾いた音と共に受け止め、投げ飛ばす。でもそこで終わりじゃない。間髪入れずのディーンの押し潰す様な拳が珱嗄さんを襲った。

　これなら―――

「残念」

　当たる、そう思ったその瞬間だった。珱嗄さんのそんな言葉と同時、地面に向かって振り下ろされていた筈のディーンの拳が、青空へと振り上げられていた。

　いや違う、私達が存在していた筈の天地が反転したのだ。つまり地面は空になり、空が地面になった。その結果、ディーンと私は頭から地面に落ちることになり、ディーンの拳は空を切ったのだ。

　ごしゃ、と自重でディーンが地面に落ちた。私の身体も遅れて地面に落ちていく。

　やっぱり、珱嗄さんの反転は規格外だ。十六夜君は反転を無効化したようだけど、その恩恵を砕く力は周囲にまで作用する訳じゃない。あの反転をどうにかするのを十六夜君が『諦めた』のは、理解出来る。潔い判断ね。

「飛鳥！」

「ッ！？ 春日部さん―――！」

　そんなことを考えていると、背中を打つ筈だった私の身体を春日部さんが空中でキャッチしてくれた。彼女は空が跳べるから、天地反転の効果は薄かったらしい。天地が反転した瞬間に体勢を逆転して直ぐに立て直したんだろう。頼もしい。

「ありがとう、春日部さん」

「ううん、友達だから」

「っ……？」

　お礼を言うと、春日部さんはくすぐったそうにはにかんだ。な、なんだか春日部さんが可愛い……胸がきゅんきゅんする……な、なにかしらこの気持ち……か、顔が熱くなってきた。

　はっ！ 今私春日部さんに御姫様だっこされてる！？ は、恥ずかしい……あ、でも春日部さんの胸が腕に当たって……結構柔らか―――って違う！！

「珱嗄さんね！？」

「わはは、飛鳥ちゃんの春日部さんに対する恋愛感情の有無を反転した」

「元に戻せ！！」

　珱嗄さんの反転はずるい。私に春日部さんに対する恋愛感情が無いことを反転出来るなんて、末恐ろしい能力ね……これがあればハーレム作成も一瞬ね。まぁ安心院さんがいるから無いでしょうけど。

「舐められてるわね……！」

「遊ばれてるんじゃない？」

「か、春日部さん……もう大丈夫だから下ろして……！」

　春日部さんの匂いで頭がくらくらしてくる。これ以上春日部さんとくっついていたら心臓が爆発してしまうわ。早急に珱嗄さんを倒して元に戻して貰わないといけないわね……！