◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

102 / 107
最強

 ―――勝てるかじゃない、勝つんだ。

 

 そんな言葉を、あの十六夜が言った。あの勝気で、傲慢で、快楽主義で、自分が負けるなんて微塵も思ってない様な態度を取ってきた、あの逆廻十六夜が、そう言ったんだ。

 

 ―――無茶かも知れねぇ、でも……俺は勝ちたい!

 

 あんな十六夜は、初めて見た。相手が珱嗄さんだったからかもしれないけど、私は初めて見た。真剣で、必死で、何が何でも勝ちたいと思ってる十六夜の顔は、ほんのちょっと格好良いと思った。

 今まで理性的で、理知的で、強くて、私達よりもずっと大人みたいに見えていた彼だけど……今この時だけは、私達と同い年で、年相応の、負けず嫌いの男の子。初めて私は彼を、本当の仲間だと思えた気がする。

 私に出来るのは、友達の力を借りることだけ。でも、友達の為なら……なんだってやる覚悟は出来てる。私の使う力は、友達の為の力。だから今、黒ウサギたちが必死に取り戻そうとしたあの旗を取り戻す為に、私に出来る事は何でもやろう。

 十六夜の作戦は、1人の負担が大きい。私は勿論、飛鳥、黒ウサギ、ぺストの負担だって大きい。それになにより、ジンの役割が一番危険だ。正直、成功する確率は高くない。

 

 でも、私達の中で最も強く、最も知識を持ち、最も戦略を練ることに長けているのは十六夜だ。相手、環境、自分の戦力、ギフト、全部を考慮して練りあげた作戦なのだろう。なら、私達にそれを拒否する理由は無い。

 

「うん、やろう」

「ええ、異論は無いわ。私も動けるようになったし、あの珱嗄さんに一発ぶちかましてあげようじゃないの」

「YES! 黒ウサギも精一杯尽力するでございますよ!」

「まぁ、マスターには色々とからかわれてきたし、一枚噛ませて貰うわ」

 

 私達戦闘員側の意見は一致している。十六夜も、私達の返答に笑みを浮かべながら頷いた。多分、十六夜は私達が嫌だと言えばやらないだろう。彼はぶっきらぼうではあるけれど、とても仲間想いの男だ。それは良く分かってる。

 だから、私達戦闘員側の人間達が拒否しない事はある程度予想していた筈だ。彼が覚悟を決めたのなら、負けず嫌いの私達がそれから逃げるなんてあり得ない。

 

 つまり、後は『彼』次第。

 

「……おチビ、お前はどうだ?」

 

 十六夜が、ジンに視線を向けて聞く。

 そう、この作戦は一番危険な役割であるジンがやりたくないと言えば、出来ない。何故なら、それを強制する事は出来ないからだ。仲間だから、最も危険な役割を押し付けることは出来ない。

 

 でも、私達は信じてる。ジン、貴方がこの作戦を受け入れてくれることを。危険を承知でお願いしてるのは、分かってる。だからこそ、私達を信じて欲しい。貴方を最も危険な場所へと置いてしまうけれど、私達は貴方の事を必ず護って見せる。

 

 そして、ジンが出した答えは―――

 

「やります。僕はノーネームのリーダーです。皆さんが命を賭ける以上、僕だってその覚悟は出来てます!」

 

 是、だった。

 

「上等だ! おチビ!」

「ええ、流石ジン坊ちゃんでこざいます!」

「それでこそリーダーね」

「ありがとう、私達を信じてくれて」

 

 後はもう、珱嗄さんに立ち向かうだけだ。

 不思議と、怖くは無い。過去の珱嗄さんを思い返してみると、彼はいつだって私達の一歩後ろにいて、時には風の様に前へと駆け抜けていくし、時には嵐の様に私達を掻き回す。

 誰も言葉にはしなかったけれど、そんな珱嗄さんがいたから、ちょっとだけ安心出来た。心地良かったと言っても良いかな?

 間違っている事は、間違っているとはっきり言わないで、それとなく正してくれた。ちょっと意地悪な方法ではあったけど、そのおかげで私は友達がお金や物で成り立つものじゃない事を知った。

 

 飛鳥も、十六夜も、皆珱嗄さんに対する愚痴をぼやくけれど、きっと本心じゃ珱嗄さんを悪くは思っていない筈だ。その内心は、尊敬か、友情か、羨望か、憧れか、仲間か……どれにしたって、私達は結局のところ問題児なんだけどね。

 

 ちょっと違うけれど、珱嗄さんも友達なのかな? 悪友って感じだけどね。珱嗄さんもそう思ってくれてると、嬉しいな。

 

「じゃ、行くか……あのにやけ面、歪めてやろうぜ」

「当然、弟子は師を超えるものよ」

「頑張ろう」

 

 十六夜、飛鳥、そして私……そこに珱嗄さんを加えた四人で、私達はこの世界に来た。でも、今は珱嗄さんが敵で、残された私達が立ち向かう。

 思えば初めてかもしれないね。珱嗄さんと本気で戦うのは。それも、十六夜と飛鳥や、黒ウサギたちと一緒に戦うのも、きっと初めて。

 

「さ、作戦会議は終わったか?」

 

 珱嗄さんが首を傾げ、相変わらず楽しそうにゆらゆら笑う。その後方で、安心院さんが少し苦笑気味に下がるのが見えた。何か話していたのかな?

 

「ああ、終わったぜ。そっちも何やら話してたみてぇじゃねぇか」

「ん、まぁそうだな……ちょっとした雑談をしてたんだ」

「ヤハハ、余裕じゃねぇか……ま、時間も惜しいし、さくっと終わらせようぜ。ギャラリーも増えて来たしな」

 

 十六夜の言葉に、ハッとなる。気が付けば、周囲には多くのギャラリーがいた。白夜叉、サラマンドラ、蛟劉さん、そして様々なコミュニティの人達……それに、白髪金眼の少年を始めとする異様な集団も。

 この場に居る全コミュニティが、私達の行き先を見つめていた。真剣な表情で、特に白夜叉はいつものふざけた雰囲気を消して、事の顛末を見守っている。

 

 巨龍騒動で知っている人もいるかもしれないが、そうでもなくともアジ=ダカーハを打倒した珱嗄さん。

 そして、ノーネームでありながら快進撃を見せる私達の勝負。しかも、旗が掛かった勝負。

 

 考えてみればこれは、今後の箱庭に関わって来る大勝負だ。

 

 なにせ、黒ウサギの話では私達のコミュニティはかつて、最も多くの魔王を倒した最強のコミュニティだったのだから。

 

「じゃ、掛かって来い。手加減位はしてやれるぞ?」

 

 そっか、つまりこの戦いは……『(さいきょう)』を取り戻す為の、戦いってことだ。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。