◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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魔王襲来(笑)
嵐の前の静けさ


「ところで、私は一体何をすればいいのか……」

 

 そう言ったのは、晴れて珱嗄の所有物となった純血の吸血鬼、レティシアである。元々は箱庭の騎士として名の知れた人物ではあった物の、今では全盛期の力の殆どを失い、元魔王とはいえかなり弱体化している。

 結局、珱嗄の所有物になってノーネームに戻ってきたは良い物の、何をすればいいのかさっぱり皆目見当も付かなかった。

 という訳で、レティシアがそう言って聞いた相手は当然の事所有者の珱嗄だ。

 

「別に何もしなくても良いんじゃねーの?」

「そういう訳にもいかない。私も曲がりなりにノーネームの一員になったのだ。何かしないと……」

「ふーん……仕事したい人か。面倒な性格だね」

 

 珱嗄はそんな彼女に対してとても面倒そうに対応する。所有権があるとはいえ基本的に放置していたのだ。といってもレティシアはそれを納得しない。騎士としての使命感とかそんな物が残っているのだろう。

 本当に、心底面倒だった。

 

「……じゃあ、肩を揉め」

「了解。マスター」

 

 珱嗄は適当に命令する。レティシアはそれに対して従順に従った。寝っ転がる珱嗄の背に跨り、肩に手を掛け、力強くぐいぐいと押し始めた。そのテクニックは中々の物で、珱嗄としても少し見直す所だと感じた。

 元々、珱嗄は疲労感なんかは全部ギフトで消し去る事が出来る。それでも珱嗄は基本的に疲労をあまり感じないのでそんな事は滅多にしないのだが、やはりマッサージというのは良い物だ。

 

「あー……あれだ。孫にマッサージして貰ってる爺の気分だ」

「それを言うなら私の方が年上だろう。一応これでも吸血鬼だぞ。大抵の人間の何倍も生きている」

 

 レティシアはそう言うが、実際に珱嗄の年齢を知らないからこそ言える事だ。珱嗄はそんなレティシアに苦笑し、それじゃあお互いの年齢とか色々自己紹介しようかと提案した。

 ただマッサージするだけというのもなんなので、レティシアはそれを受け入れる。女性に年齢を聞くのは少しマナー違反と言えるが、最早そんな事を気にする様な年でも無いので、お互いそんなマナーを持ち合わせていないのだ。

 

「では私から。名前はレティシア=ドラクレア。年齢は五百を超えてからは数えていないが、恐らく千は超えてると思う」

「億は超えてるのか?」

「いや、流石にそこまで生きてはいない筈だ」

「ふーん……まぁいいや。じゃあ次俺な……名前は泉ヶ仙珱嗄。年齢は……約3兆だ」

「……」

 

 珱嗄の言葉にレティシアは肩を揉む手を止めずに黙った。そして少しの静寂の後、珱嗄の背中に小さく問いかけた。

 

「……で、本当は幾つなんだ?」

「いやだから、3兆歳だって」

「嘘だ! そんなに長い間生きている人間など聞いた事もない!」

「人外だからね」

「……」

 

 珱嗄はそう言ってゆらりと笑った。レティシアはそんな珱嗄に驚愕しながらも若干不満気に肩揉みを再開した。傍から見れば金髪ロリが大の男の背中に馬乗りになり、一生懸命肩を揉んでいる光景。なんとなく親子に見えなくもなかった。所謂、親孝行する娘の図である。

 

「ん、もう良いよ」

「分かった」

 

 珱嗄はレティシアを止めて背中から降ろす。そして上体を起こしてぐいっと伸びをした。

 ペルセウスを倒してから二日程。十六夜達が行なっているコミュニティ復興の為の行動とかに参加していないので、暇で仕方が無い。

 

「暇ならば黒ウサギ達を手伝ったらどうだ? マスター」

「んー……まぁ暇つぶしの道具は一応あるんだけど……」

 

 そう言って珱嗄が取り出したのは、一通の手紙。宛先は何処かのコミュニティの様だが、内容は少し興味を惹かれる物だった。

 

 【火龍誕生祭】

 各コミュニティの集まる美術・工芸品の展覧会及び様々なギフトゲームが開催される大きな祭りである。主権者は北のフロアマスターであるコミュニティ、サラマンドラのリーダーである。

 面白そうではある物の、行きたいとは思う物の、動くのがだるいというのが、珱嗄がまだこのコミュニティに居る理由。無いだろうか? やらないといけないけど動くまでに時間が掛かるという様な状況が。今の珱嗄はソレだ。

 

「……行くのだるいなぁ~。動きたくねぇ……」

「流石は三兆歳……老人魂が染みついてるな」

「ま、それでもいいけどさ。俺としては一人で向かうのも吝かじゃないけどこういうのは連れが居ないと面白くないよね」

「連れ、だと?」

「そうだよ。こんな物があったらあの問題児達が行かない筈が無いだろう。だから、この手紙をアイツらにも見せてやろう」

 

 そうすれば、きっと珱嗄の思い通りに展開は進む。あの快楽主義者や退屈に飽き飽きしているお嬢様達の事だ。当然行こうとするだろう。宛てなら白夜叉でも頼ればいいし、なんなら珱嗄を頼ってくれば転移のギフトで移動するのも良いだろう。

 

「さて、それじゃあレティシアちゃん。この手紙を黒ウサギが隠してたと言ってあの三人の誰か……そうだな、耀ちゃん辺りに渡しておいで。その結果アイツらがこの祭りに出ようと動き始めたら黒ウサギの味方をしてやってくれ。きっと、俺の思い通りに動くぜアイツら。なんせ、全員チョロいからね」

「……分かった。では行ってくる」

 

 珱嗄の命令に、レティシアは手紙を受け取って部屋を出て行った。ちなみに彼女は原作の様にメイド服を着ている訳ではない。赤い普段着を着ている。

 だが、珱嗄は自分の事をマスターと呼ぶことから、メイド服でも着せてやろうかと考えている。とはいえ、それはまた何時かの話で珱嗄はメイド服の件について考えるのを止めた。

 

「全く……チョロいのはレティシアちゃんもなんだけどね」

 

 珱嗄はそう呟き、また寝っ転がるのだった。

 

 


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