◇4 問題児たちが異世界から来るそうですよ?にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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更なるチートが異世界入り


 ここは地球では無く、何処までも広がる宇宙空間。

 だが、そこに少し奇妙な存在がいた。男が居たのだ。黒いインナーを着て黒袴を履き、上から青黒い着物を着て緑色の腰布で雑に締めた服装。宇宙空間でそんな格好をしている事もおかしいが、何より身体が潰されない上に無重力空間を優々と歩いている所が人間離れしている。

 彼の名前は、泉ヶ仙珱嗄。神の趣向で週刊少年ジャンプの人気漫画、めだかボックスに転生した転生者である。そして、彼は転生後めだかボックスの物語を終えた。

 

 主人公である黒神めだかも寿命で死に、登場人物達もとある人外の少女以外全員死んでいった。残ったのは彼とその人外の少女のみ。彼らは物語が終わっても生き続けたのだ。大きな力を持ち、研鑽して来た彼は、自分と同等と言わずとも面白い事を起こせる人材を探した。そんなことをしている内に時間は経ち、気付けば地球も太陽に呑み込まれる形で消え去った。そのまま宇宙で暮らし始めて約3兆年。とりあえずは人外の友人と同じ時間を生きてみたものの、対して面白くはなさそうだった。

 

「あーあ、そろそろ死んでやろっかなぁ~」

 

 人外の少女が少し散歩に出ている間、そう呟く事も有り。

 と、そこに珱嗄以外の奇妙な物が現れた。

 

「手紙?」

 

 そう、手紙。宇宙空間に漂う手紙。先程まではそんな物は無かったのに突然現れた。珱嗄はゆらりと笑ってそれを手に取る。そして何の躊躇いも無く開いた。内容はこうだ。

 

 

 ――――悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの〝箱庭〟に来られたし。

 

 

 その文面は、珱嗄の口元を吊り上げた。望む所、というのが彼の考え。最早老人というには年を取り過ぎた彼。その身に秘められた力の数と質はまさしく人外。

 そして手紙は光を放つ。そして珱嗄は感じ取った。自身が世界を渡るのを。

 

「来られたしって……これじゃあ来いやコラって感じだなぁ」

 

 苦笑し、珱嗄は光に包まれ、宇宙の空間から消えた。

 

 こうして本当の意味で、めだかボックスは物語を終える事になる。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 そして、気が付けば空の上。上空何百mの所に珱嗄はいた。眼下には湖、周囲には三人と一匹の同じ境遇者達。珱嗄はその三人と一匹を少し見た後、空中で体勢を立て直した。

 

「めだかボックスに転生した最初を思い出すなぁ」

 

 上空からの落下。これは珱嗄にとって特に問題では無い。寧ろ懐かしさを感じる程度の物なのだ。

 そして珱嗄を除いた三人と一匹はそのまま湖へと落下し、珱嗄は水面へと着地した。跳ねる様な音と共に三人と一匹は水面に顔を出し、すごすごと不満気に岸へと上がる。服はびしょ濡れ、叩き付けられたダメージも多少はあるようだ。実に不満気な表情が浮き出ている。

 珱嗄はそんな彼らを見て、おもしろそうにゆらりと笑い、水面を歩きながら同じ様に岸に上がった。

 

「ったく……場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

「………。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

「そう。身勝手ね」

 

 軽口を叩いているヘッドホンの少年と気丈そうな少女。そして最後に無口なショートカットの少女は猫を抱き抱えながら無言で濡れた服を絞っていた。

 

「というか、オマエ。なんで水面に着地したんだ? それがお前の力か」

「そうだね。あらゆる所に立つだけの簡単な力だよ」

 

 珱嗄はヘッドホンの少年からそう問われ、苦笑しつつそう返した。どうやらこの問いからして、この目の前にいる少年少女は何かしらの力を持っているらしい。そして彼らの様子と態度から、それは恐らく自身達からしても強力な物なんだろう。

 

(この世界でもスキルは使える、と。これならスタイルも使えそうだなぁ……さて、どうしたものか。こいつら全員プライドの高いだけのガキみたいだし、どうも気乗りしない)

 

 珱嗄はそう思いつつ、彼らの会話を聞いている。どうやら自己紹介をしている様だ。

 

「お前じゃない。私の名前は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。で、そこの猫を抱えてるあなたは?」

「春日部耀。以下同文」

「そう、よろしく春日部さん。で、そこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

 どうやら無口っ子もプライドが高そうだ、と珱嗄が思っているとヘッドホンの少年は両手を広げてなにやら自慢げに自己紹介を始めた。

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

「そう、取り扱い説明書を作ってくれたらそうするわ」

「マジかよ。今度作っとくわ」

 

 おそらく気が合わない二人の皮肉を込めあった会話に珱嗄は面倒そうに頭を掻いた。餓鬼のお守りをする為に来たわけではないのだから。

 

「で、そこの着物の貴方の名前は?」

「ん? ああ、見たまんま普通で温厚な泉ヶ仙珱嗄です。気まぐれで天邪鬼で娯楽主義と三拍子そろった普通の人間なので、用法と容量を守った上で適当な態度で接してくれお嬢ちゃん」

 

 とりあえず何も思い付かなかったから一個前の十六夜君の自己紹介を真似してそう言った珱嗄。そんな自己紹介に十六夜は皮肉を感じたのか少しむっとし、飛鳥の方はクスリと笑った。

 

「素敵な自己紹介ね。でも貴方は私とそう年齢も違わないでしょう? お嬢ちゃんなんて呼ばれる筋合いはなくってよ?」

「ははは、それもそうだね。悪かった、飛鳥ちゃん」

「分かってくれたならいいのよ」

 

 実際、珱嗄の年齢と飛鳥の年齢差はとんでもなく激しい。それこそ桁が違う程に。なにせ、地球の氷河期から生き続け、地球が滅ぶまでの7500億年を生き抜き、その後宇宙空間で3兆年程生きて来た男だ。十幾つの少女じゃ見たとおり、文字通り、経験が違う。むしろ敬語で話すべき年上なのだ。

 だが、珱嗄としてはそんな事を気にする様な小さい器を持っている訳でもない。子供がわーきゃー騒ごうが喚こうがさらっと流して穏便に済ますだけの度量は持っている。つまりは大人なのだ、この場の誰よりも。

 

「おいおい、楽しそうに話してんじゃねぇよ。お前、今の自己紹介は皮肉のつもりか?」

「確か十六夜君だったか。いやいやそんなつもりはないぜ? これといった自己紹介が思い付かなかっただけだよ」

「ほお、それにしては随分と即答だったようだが?」

「思い違いだよ。それに、お前如きに皮肉を言う程俺はお前に興味を持ってないんだ。悪いね」

 

 珱嗄の吐く毒に十六夜はぴきっと青筋を立てた。気の短い所は見た目通りだな、と珱嗄は考えつつゆらりと笑った。そして、十六夜は怒りのままに珱嗄の懐へ入り殴ろうと拳を突き出した所で、珱嗄に踏みつけられていた。

 

「は?」

「気の短い男は総じて器も小さいんだ。あまり気を悪くするなよ」

 

 珱嗄はそう言ってゆらりと笑う。そして十六夜の背中から足を退けてそのまま十六夜を立たせた。

 やった事は簡単。直進した来た彼の背中に回り込んで前のめりな体勢の身体を背中から地面に蹴り倒し、踏みつけただけ。その速度が踏まれた本人からは認識出来なかったのだ。

 

「さて、気の短い彼もいる事だし……そろそろ説明役の子が出てきてくれても良いと思うんだけどなぁ」

「それもそうね……というか、貴方は気付いていたの? 十六夜君?」

「ちっ……ああ、生憎とかくれんぼじゃ負けなしだぜ。お前も気付いてんだろ?」

「……風上に立たれたら嫌でも分かる」

「へぇ、面白いなお前」

 

 立ち直りの早い十六夜は、目をすっと細めた。

 

「で、貴方も気付いてるのよね?」

「何に? お前ら何に気付いてんの? うわー怖いわー、見えないのに何か……いる! とかいう中二展開はやめて欲しいかなってお兄さん思うんだけど」

「………まぁ気付いている様だから話を進めるわ」

 

 勿論珱嗄も気付いている。岸近くにある木の後ろに此方の様子を窺っている人物がいる事に。そしてその人物こそ、彼らを呼んだ人物でもあるのだ。

 

「で、まぁそんなに殺気だってたら出て来れないだろう? ほれ、何もしないから出ておいでお嬢ちゃん」

「や、やだなぁ皆々様。そんな狼みたいな顔で睨まれると黒ウサギは死んでしまいます? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵にございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

 出て来たのは青い長髪を持ちウサミミを生やしたちょっと露出の高い少女。その台詞からはどうにか場を収めようという思惑と十六夜達に対する関わりたくないオーラが汲み取れた。

 対する彼らの反応は、

 

「断る」

「却下」

「お断りします」

 

 の拒否。

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪」

 

 自身を黒ウサギと言った少女はもはや投げやりだ。

 だが、そんな中でも黒ウサギは珱嗄達に鋭い視線を送っている。どこか品定めをしているように。

 

「おいおい、お前ら。そんなんじゃ社会でやっていけないぜ? まだ子供の内は良いけど、大人になってからは大変なんだ。ほら、ウサギちゃんの話をちゃんと聞いて、どういう状況なのかちゃんと確認しよう」

「おお……問題児様方の中にも常識と良心のある方がいらしたのですね!」

「おーよしよし。こんな役目に就いて災難だったね。ほら、もう少し頑張ってみようか」

 

 珱嗄はそんな三人と違って黒ウサギを支援した。そしてそんな珱嗄に感動し涙を流す黒ウサギの頭を撫でて優しくそう言う。黒ウサギは珱嗄の優しさに更に感動していた。

 だが、そんな黒ウサギの感動とは裏腹に、珱嗄は黒ウサギの頭を撫でながらウサミミをさり気なく弄っていた。

 

「あいつの言葉絶対うすっぺらいだろ」

「耳を全力で弄りにいってるわね」

「ちょっと私も触ってみたいけど。本物なのかな?」

 

 三人は黒ウサギに聞こえない様に珱嗄の行動を見てそう小さく会話する。そしてその会話聞きとった珱嗄は本物なのか疑問を持った春日部耀に視線を送って、撫でていない方の手でサムズアップした。

 どうやら本物の様だ。

 

「さて、気を取り直して説明宜しくウサギちゃん?」

「うう……はい! 任せてください! 張り切っていっちゃいますよ!」

 

 黒ウサギは両手を胸の前でぐっと握り、やる気に満ち満ちた顔で珱嗄にそう言った。そして、こほんと咳払いをし、珱嗄達に両手を広げて笑顔でこう言った。

 

 

「ようこそ、『箱庭の世界』へ! 我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかなと召喚いたしました!」

 

 

 珱嗄はそんな言葉を聞いて、ゆらりと笑う。もしかしたら箱庭繋がりで呼ばれたのかなぁと思ったが……ギフトゲーム、中々に面白そうな響きである。

 

「ギフトゲーム?」

「そうです! 既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大力を持つギフト所持者がオモシロオカシク生活出来る為に造られたステージなのでございますよ!」

 

 両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。珱嗄達はそんな黒ウサギの説明を興味深そうに聞いている。何せ、神や悪魔や精霊や星といった物まで出てくるスケールだ。この問題児+人外が興味を持たないわけがない。

 そしてその説明を聞いた、久遠飛鳥が質問する為に挙手した。

 

「まず、初歩的な質問からしていい? 貴方の言う我々とは貴方を含めただれかなの?」

「YES! 異世界から呼び出されたギフト所持者は箱庭で生活するにあたって、数多とあるコミュニティに必ず属していただきます」

「嫌だね」

「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの主権者(ホスト)が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

 今の反応は逆廻十六夜がコミュニティに入らないと言っただけの反応、黒ウサギの顔に必死さが窺えた。珱嗄としてはその反応に様々な疑問が浮かんだが、どうせ黒ウサギたちのコミュニティは弱小コミュニティで、起死回生の一手として自分達を呼び出したとかそんなところだろうと自己完結させた。

 

「……主権者(ホスト)ってなに?」

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。

 特徴として、前者は自由参加が多いですが主権者(ホスト)が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。主権者次第ですが、新たな恩恵を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればすべて主権者のコミュニティに寄贈されるシステムです」

「後者は結構俗物ね……チップには何を?」

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間……そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然――ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

 ギフトゲームの説明は以上。確かに面白そうではある。

 

(ってことはここではスキル=ギフトってことか。スタイルに至ってはコミュニケーションだし)

 

 珱嗄はめだかボックスの世界で【嗜考品(プレフェレンス)】というスキルを持っていた。これは考えた事をそのまま実現するスキルを創るスキルである。

 これによって、珱嗄は3兆7504億8392万1234年と213日のこれまでの人生の中で多くのスキルを生み出している。その数、2104京7893兆3423億6713万0435個。日常の些細な事までスキルで解決出来てしまう生活を送っていた珱嗄のスキル量は人外以上に化け物だった。

 

 そしてこの世界において、スキルはギフトとイコール。ということは、珱嗄がもし殺し合いや喧嘩でのギフトゲームをした場合、相手はこの全スキルを、全ギフトを相手に戦わなくてはならないのだ。

 また、この全てを無効化出来たとしても、新たなスキルが創れる以上珱嗄の手は無くならないのだ。どうやって勝てというのだと思う。

 

「ま、それはそれで面白い」

 

 珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。

 

 






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