桐原静矢になったけどとりあえず最強目指す   作:田中

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審判しました。

開始の合図で真っ先に動いたステラさんが剣で一輝くんに斬りかかるもそれを避ける。避けたことに賞賛し、自身の能力の説明をし出すステラさん。説明は負けフラグである。説明後にさらなる追い打ちを行うステラさん。一撃一撃が重そうに見える。だが、一輝くんはそれを容易くとは言わないが受け流している。あの程度なら俺でもできるので俺は驚かないが観客席の生徒の中には驚いている人もいる。

 

「こんな面白そうな模擬戦やるなら呼んでくれたらいいのに桐やん」

 

西京先生が来た。俺の後ろの観客席から体を乗り出している。危ないからやめなさい。

 

「聞き付けてくるのは分かっていたし、貴女がいると準備長引きそうだったんで仕方ないかなと思いました」

 

「そういうことを正直に言うところ直した方がいいよ」

 

「西京先生だから正直に答えてるんですよ」

 

実はこの人がとても苦手である。おちゃらけてるように見えるのに隙が無い。抜き足を普段から使うから、いつの間にか近付かれて反射で攻撃して怒られる。まぁ遠目で見ていたことが抜き足を受けてしまった原因だし、抜き足されるかもしれないと分かっていても見てしまうのだ。別に女性として好きだから目で追っているわけでは無い。動きを参考にしたいから見ていただけだ。

 

「桐やんはどっちが勝つと思う?」

 

「黒鉄君が勝つと思います。これは賭けてもいい」

 

「ほぅ、なぜそう思う?」

 

理事長まで会話に入ってきた。というか普通に考えれば一輝くんが勝つに決まっている。データでは圧倒的にステラさんが有利。だが体術や剣技の載っていないデータなんて意味無い。圧倒的に身体能力の差が結果を出す。

 

「黒鉄君の身体能力は僕や東堂先輩と同じくらいですよ?この程度の動きしかできないステラさんは真っ先に伐刀絶技を使って倒すべきだった。長期に渡って剣をぶつけ合えば観察眼が優れている黒鉄君が有利になる。だから黒鉄君が勝つんですよ」

 

「去年まで虐めてた相手をそこまで言えるのは桐やんくらいだよ。どちらが勝つかは概ね桐やんの言った通りになるな」

 

「自分の意思ではなかったんですが」

 

「それでも虐めてたことには変わりないだろ」

 

理事長まで俺を苛めっ子呼ばわりだ。解せん。だが事実であるから反論はできない。

 

「はいそうですね。僕が悪かったですよ」

 

「それだけでなく、私を理事長にしたりと人の人生を狂わせすぎだな」

 

「いやいや、貴女満更でもないでしょう。狂わせていないですよ。少なくとも俺のおかげで黒鉄君は救いのチャンスが生まれたんですよ」

 

「「俺?」」

 

「桐やんはたまに裏が出るから面白いけど、もっと上手く隠さないとだめだな」

 

いや、めっちゃ上手く隠してますよ。隠してなけりゃクラスメイトに好かれたりしてないし、ここまで人が寄ってくることなんてない。

 

「肝に銘じておきますよ」

 

「桐原、お前が何を企んでるのか。どこまで想定通りなのかは知らないが生徒を巻き込むことだけは許さないぞ」

 

「なぜそれを今言うんですかね。でも誓いますよ。僕は犠牲を出すような道を選びません」

 

「それならいい。桐原、試合が動くぞ」

 

「目が変わりましたね。これ、もう剣技を見切ったのか……速いな」

 

一輝くんの目が守りから攻めに変わることで状況は一変した。まず、ステラさんが攻めることができなくなった。一輝くん程の剣客を相手にギリギリ防げているのだから凄いと言えるが、もう剣を見切られたステラさんには攻める手立てが無い。自分がさっきまで使っていた剣技で攻撃してくることに驚愕と焦りが見える。故に自分の剣を変えなければならないと錯覚し、変えてしまう。しかし、太刀筋を変えて切り掛かったところで一輝くんに防がれる。

 

「太刀筋が寝ぼけているよ」

 

名言である。そして次の瞬間には一輝くんの刀がステラさんの体を肩から斬った……ように見えた。だがステラさんの伐刀絶技である【妃竜の羽衣】がステラさんを守る。これは剣技でステラさんが勝つことはできないという意味を持つ一撃だ。つまり、ここから先はステラさんは伐刀絶技を使ってくる。だがそれは一輝くんも同じだ。

 

「…認めてあげるわ。この一戦、私が勝てたのは確かに魔力の才能のおかげだって」

 

ステラさんはすでに勝った気でいるようだ。ま、そう思うのも無理は無い。相手は魔力が少ない。魔術戦になれば勝てると思ってしまうだろう。

 

「イッキ、貴方の努力を認めてあげるわ。だから、最大の敬意を以て、倒してあげる。―――蒼天を穿て、煉獄の焔!!」

 

ステラさんを中心に炎が吹き荒れる。観客にまで被害がいきそうなくらいだ。ちなみに俺は大丈夫だ。魔力というのは便利であり、それを障壁として使っているためダメージはない。

 

「さすがの魔力操作だねぇ。桐やんありがとう」

 

西京先生もついでに守れるよう障壁を伸ばしている。西京先生程になると普通に守れるがそれは面倒に思うだろう。だからこそお礼を言ってくれるのだ。

 

「確かに、僕は魔道士の力を持っていない…でも、ここから退くわけにはいかない」

 

決意した目だ。きっと一輝くんは使ってくれるだろう。伐刀絶技【一刀修羅】たった1分だけで全魔力を使い、身体能力を極限まで上げる技。今日この模擬戦の審判に対する報酬と言える。【一刀修羅】を使っている状態の一輝くんを見ることで自分の剣がどこまでいけるのかを見極める。

 

「【天壌焼き焦がす竜王の焔】!!」

 

「だから考えた。最弱が最強に勝つためにはどうすればいいか。そして“至った”。――――【一刀修羅】!!」

 

なるほど、魔力が上がったと錯覚する感覚がわかった。確かに魔力を一気に消費するようになればそう見えるのも分かる。ステラさんは魔力が上がったと感じているみたいだ。掲げていた炎の剣を一輝くんへ向かって振り下ろす。振り下ろされることで高密度の炎が一輝くんを襲う。だが、そこに一輝くんはいない。すでに移動していた。ちなみに、炎は射線上にいた俺に襲いかかってきたが全力で防いだためダメージは無い。だが疲れた。そう何度も耐えれる威力ではない。

ステラさんは一瞬で自身の背後に回った一輝くんに気づいた。

 

「在り得ない!魔力も、上がってる!?」

 

「上がったんじゃない。なりふり構わずに、全力で使ってるんだ!」

 

「だからって、そんな急激に身体能力が上がるわけなんてない!」

 

ステラさんの気持ちもわかる。俺もタネを知らねければそう感じていただろう。一輝くんの魔力量からするならば二倍にすることすら、時間制限が付く。普通ならばそこで満足し、それを行使する。だが、一輝くんは普通では無いことをやってのけた。

 

「それもそのはずさ。だって僕は、『その文字に偽りなどない全力』を使っているのだから」

 

【一刀修羅】を思いつくなんて流石主人公だろう。俺は桐原くんに憑依して3日目くらいに同じことをしようとしたが、体への負荷が大きすぎるどころではなく、加減ができなかった。それは魔力量が多いから起きることで、一輝くんの魔力量がベストなのだ。黒鉄一輝のみが使える技だ。

それでもステラさんは諦めず炎を一輝くんに当てようとする。だが、それに当たることなく距離が縮まっていく。

 

「僕の“最弱”を以て、君の“最強”を打ち破る!」

 

ほぼ零距離になり刀を振り下ろす。その刀は先ほどと違い、【一刀修羅】により強化されているのでステラさんの【妃竜の羽衣】ごと体を切り裂いた。といっても幻想形態なので外傷はない。そして、斬られたステラさんはその場に倒れる。

 

「勝者、黒鉄一輝!」

 

俺の宣言に観客席の歓声が湧くということはなく、ポカーンとしている。まさか落第生が紅蓮の皇女たるステラさんに勝てるとは微塵も思っていなかったのだ。観客から見た二人をドラゴンボールで例えるならヤムチャがSS悟空に勝ったようなものだ。唖然とするのも分かる。観客の反応を見ていたら一輝くんも倒れた。魔力が無くなったのだろう。どこぞの爆裂魔法を使う少女を彷彿させる。

 

「理事長か西京先生のどちらかはステラさんを運んでください。僕は黒鉄くんを運ぶので」

 

俺が言った瞬間、西京先生は消えた。出口を見れば逃げていく姿が見えた。そのことに理事長はため息をつき、フィールドに降りてきてステラさんを丁寧に運ぶ。文句1つ言わずやってくれるとは……ま、俺が運んだら色々まずいだろうし当然か。

倒れている一輝くんを背負い、俺も闘技場から出て行った。

 

 

 

 




次回、ヒロインにしようと思った(ヒロインにするとは言っていない)珠雫登場。
そして次の次の次辺りに桐原くん無双をするということをお約束しましょう。
選抜って一回負けた人でも他全勝していれば選ばれることができますかね。例えば棄権する人の内片方を二敗にすることで選ばれるとか。それ次第で今後が変わる件。

また次回もよろしくお願いします。

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