由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。   作:オロナイン斎藤。

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由比ヶ浜悠斗は彼女達を微笑ましく見守っている。

 

突然ですがここで前回の由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。を振り返ってみましょう。

 

俺が生徒会でお仕事をしている間、我がスウィートマイエンジェルこと由比ヶ浜結衣が奉仕部に持ち込んだのは『手作りクッキーを食べて欲しい人がいるけど自信がないので手伝って欲しい』という依頼だった。

 

生徒会での仕事を終えて俺が家庭科室に向かうとそこはまさに戦場。地獄絵図。カオス。這いよれ比企谷くん。悶絶雪ノ下さんだった。うん、長い。

 

そのあとはなんやかんやでこの依頼を雪ノ下に任せることに。今まで周りに合わせてばかりだった妹が容赦の二文字を知らない雪ノ下に核心を突かれる。

 

しかし妹は折れるどころかその言葉を真摯に受け止めて頭を下げた。

 

これまでの依頼でも常に優勢を保ち続けていた雪ノ下が今回言葉を失うというまさかの展開。あの時の雪ノ下の動揺っぷりはマジで傑作だったのと妹の成長にお兄ちゃんはとても感動しました。

 

そして雪ノ下先生のお料理教室再開、と、まぁ前回はここまで。

 

だがしかし物事ってばそんなに上手く進むわけがないんですよね。知ってました。

 

実のところ雪ノ下は物事を教えるのが上手くないのだ。

 

いくら優秀だからといって教えるのも上手いというのは嘘っぱちでそれはまた別の話である。

 

極論を言えば雪ノ下は天才であるが故にできない奴の気持ちがわからない。どうしてそこで躓くのか、どうして理解できないのかが理解できないのだ。

 

こう言ってしまうと雪ノ下が悪いように見えてしまうので捕捉しておくと、雪ノ下は充分頑張っていた。

 

「由比ヶ浜さん、そうじゃなくて粉をふるうときはもっと円を描くように。円よ円。わかる?小学校でちゃんと習った?」

「かき混ぜるときにちゃんとボウルを押さえて。ボウルごと回転してるから、全然混ざってないから。回すんじゃなくて切るように動かすの」

「違うの。違うのよ。隠し味はいいの。桃缶なんてどこから取り出してきたの?そういうのは今度にしましょう。そんな水分入れたら生地が死ぬわ。死地になるわ」

 

...あの雪ノ下が疲弊しすぎていつもの鉄仮面が割れていた。うちの妹がお手数おかけしてすいませんって感じですホント。

 

そこで、どう教えれば伝わるのか頭を抱える雪ノ下となかなか上手くいかずに落ち込む結衣を見かねた比企谷が「なんでお前ら美味いクッキー作ろうとしてんの?十分後に俺が本当の手作りクッキーってやつを食べさせてやりますよ」と言い出した。

 

比企谷が何を企んでいるのかはわからないが、その言葉を自分が作ったクッキーに対する否定だと受け取った結衣は俺達を引っ張って退室。

 

そして現在に至る。

 

「時間ね。入りましょう」

 

「これで美味しくなかったらヒッキーのこと馬鹿にしてやるんだから!」

 

「......」

 

結衣ちゃん、それはフラグやで。

 

「比企谷くん、入るわよ」

 

雪ノ下が扉を開くと再びバニラエッセンス特有の甘い匂いが身体中に降り注いでくる。

 

世の中もこんだけ俺に甘かったらいいのに、なんてくだらないことを思いながら先頭の雪ノ下に続いて家庭科室へと入った。

 

 

 

 

はてさてレッツ試食タイムである、が目の前の皿にはとても既視感のあるクッキー...のようなものが盛り付けられていた。

 

「これが『本物の手作りクッキー』なの?形も悪いし、不揃いね。それにところどころ焦げているのもあるじゃない」

 

比企谷が作ったと思われるクッキーを見た雪ノ下が怪訝そうな顔をしながら言った。

 

「ぷはっ、大口叩いたわりに大したことないとかマジうける!食べるまでもないわっ!」

 

俺の後ろから顔を出した結衣ちゃんがクッキーを見て指をさしながら馬鹿にしくさっていた。

 

......いやいや結衣ちゃん。すげぇ馬鹿にしてるけどあなたが作ったのと大差ないと思うんですが...って、んん?

 

「まぁそう言わずに食べてくださいよ」

 

馬鹿にされているのにも関わらず何故か比企谷は余裕の笑みを浮かべていた。なにか考えでもあるのだろうか。

 

「...二人とも待ってくれ。俺が先に食べる」

 

俺はクッキーを手に取ろうとした二人を制する。雪ノ下は何も言わずに手を引き、結衣は驚いた表情で一歩後ろへと下がった。

 

あの比企谷の表情は明らかに勝利を確信している。それにこのクッキーを見てから俺の中でずっと何かが引っかかっている。...どうして俺はクッキーごときでこんな真剣になってるのだろうか。

 

俺は歪な形のクッキーを一つ手に取ると口のなかに放り込む。

 

「...ほう、なるほど」

 

すると思わず感嘆の吐息が漏れた。けっして美味かったわけではない。というか普通に不味い。吐きそう。しかし、()()()()()()()()だったので耐性があった。

 

...まさかあれを二度も食べることになるとは思いもしなかったわけだが。

 

まったく見た目からしてわかったはずなのに身体を張るとか俺ってばとんだ芸人気質だな。次は熱湯風呂かな。

 

俺の反応を見た結衣が不思議そうな顔をしながらクッキーを口に入れた。

 

「うえぇ...あんま美味しくない...」

 

当然ながら美味しくなかったらしい。

 

「...そっか。わりぃ、捨てるわ」

 

比企谷は目を伏せながら言ったが、雪ノ下は先程から訝しげな視線を向けている。どうやら彼女は気づいているようだ。

 

「ま、待って!別に捨てなくても...それにほら、言うほど不味くないし...」

 

「...じゃあ満足してもらえるか?」

 

比企谷が笑いかけると、結衣は無言で頷いて誤魔化すように明後日の方を向いた。

 

「まぁ、さっき由比ヶ浜が作ったクッキーなんだけどな」

 

「やっぱりか...」

 

ここでネタばらしである。しれっとさらっと比企谷が真実を告げた。

 

「...は?...え?え?」

 

結衣がすっとんきょうな声を上げて目をぱちくりさせながら俺達を見た。どうやら何が起こったのか理解できていないらしい。

 

「比企谷くん、よくわからないのだけれど。今の茶番になんの意味があったのかしら?」

 

今まで黙りこんでいた雪ノ下が不機嫌そうな顔をしながら口を開いた。

 

「まぁ聞けって。これは友達の友達の話なんだがなーーー」

 

「いや比企谷、お前友達いねぇだろ」

 

「そうね。そもそも友達の友達、という時点でダウトじゃない。結論だけ言ってもらえると助かるのだけれど」

 

「ぐっ...」

 

俺と雪ノ下の連撃に比企谷は苦虫を噛み潰したような顔をするが、すぐに立て直した。

 

意外とメンタル強いなこいつ。さすが自称ぼっち(笑)である。

 

「つまりあれだ。男ってのは単純なんだよ。話しかけられるだけで勘違いするし、手作りクッキーってだけで喜ぶの。ですよね?先輩?」

 

「いやここで俺に振るなよ...まぁわからなくもないけど」

 

実のところ『手作り』という言葉の付加価値は大きい。例えばバレンタインに女の子から「チョコあげるね。もちろん市販のやつだよ」と言われるのと「チョコあげるね。もちろん手作りだよ」と言われるのでは印象が全く違う。

 

ていうか、もちろん市販のやつってなんですか。まったく眼中にない証拠じゃないですか。照れ隠しにしてももう少し言葉を選んでください。

 

それに「もちろん手作りだよ」というのは()()()()()()()()()もちろん手作りなのか、()()()()もちろん手作りなのか、どちらかハッキリさせてほしい。モヤモヤしますね。

 

まったく女ってのはつくづく油断ならない生き物やで...。

 

ちなみに「時間がなかったので“市販”のやつですけどあげます。まぁ私から貰えるなら先輩はなんでも嬉しいですよね」なんて言ってくる後輩は論外である。

 

受験生だったから仕方ないんだろうけどわざわざ市販を強調する必要はないと思うんですマジで。彼女は本当に一言も二言も多い。

 

でも受験が終わって後日に「バレンタインにちゃんとしたの渡せなかったので...その...今回はちゃんと手作りですから」と言ってチョコを渡してきたのは俺的にとてもポイント高かったです。二段階でチョコ渡してくるとかどんなテクだよ。ホントあざとい。

 

「だから別に何かあるわけでもなければ、はっきり言ってそんなに美味しくないクッキーでいいんだよ」

 

「美味しくない...うっさい!」

 

結衣が比企谷を目掛けて手近にあったビニール袋やらなんやらを投げつける。当たっても痛くないものを選んでいるあたり結衣ちゃんなりの優しさなんだと思います。多分。

 

「まぁなんだ、その、お前が頑張ったって姿勢が伝われば男心は揺れんじゃねぇの」

 

「そういうものかしら...」

 

比企谷は物を避けながら言ったが、雪ノ下はそれを疑問に思ったのか腕を組みながら思考にふけていた。この完璧主義者さんめ...。

 

「...ヒッキーも揺れるの?」

 

「あ?あーもう超揺れるね。むしろ優しくされただけで好きになるレベル。つーか、ヒッキーって呼ぶな」

 

うわー、適当だなこいつ。

 

「ふぅん...」

 

「ところで由比ヶ浜さん、依頼の方はどうするの? 」

 

「あれはもういいや!今度は自分のやり方でやってみる。ありがとね、雪ノ下さん」

 

結衣は雪ノ下の方へ振り返ると満足そうに笑っていた。

 

 

 

今回の結衣からの依頼は一応解決ということで幕を閉じた。

 

後日、家で結衣が自分なりのやり方で作ったクッキーの試食(毒味)をさせられ、それの過剰摂取により腹痛で一週間学校を休むなんて思いもしなかったわけだが。

 

...本気で死ぬかと思った。

 

 





そんなわけでやっはろー!
第9話 続・ヘルズキッチン回でした。いかがだったでしょうか。

前回の話は強引にぶっちぎった感が否めない上に
なんかモヤモヤしたので結局解決編までやりました。
とりあえず自分のなかでは一段落って感じです。

お料理できない女子ってばどうしてこんなに魅力的なんでしょうね。不思議。
女の子は料理ができなければいけないという世の風潮といいますか、そういうのいろいろな何かと相まって魅力を引き立ててるんだと思います。多分。

でもそれに甘んじて「私、料理とかできないんですぅ~(きゃるん)」みたいなこと言っちゃうやつはアウトオブ眼中なわけですが(死語)

要は何事も頑張る女の子は可愛い、ということ。
毎度ながら適当なまとめでした。ちゃんちゃん。


今回もまた更新予定日に間に合いませんでした。すいません。
あれですよ、あれ、学生の本分は勉強ですから(すっとぼけ)

次回更新予定は3月7日です。どうせまた2日くらい遅れるんだと思います。生温かい目で見守ってやってください。


あと皆様お気に入り登録や評価などありがとうございます。感想なども頂けるととても嬉しいです(強欲)

今後ともよろしくお願いいたします。


ディメンションドライバー回は多分ありません。次は戸塚とテニプリすると思います。





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