由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。 作:オロナイン斎藤。
「せんぱい!せんぱいってば!起きてくださいよ~」
どこかから甘ったるい声が聞こえたかと思えば身体が揺れていた。
ハッキリしない不透明な意識の中でどうにかして重い身体を起こすと、目の前に誰かが立っている。
まだ覚醒しておらず、ぼうっとしたまま焦点は定まっていないものの、この耳に残るような声の人物に検討はついていた。
「...おはよう、今日も愛してるぜ」
「...なんですか寝ぼけてるんですか?そういう台詞はもう少しいいムードの時に言ってください。やり直しです。テイク2でお願いします」
早口で捲し立てるように言った彼女の顔は真っ赤だった。珍しく照れていらっしゃる。というかテイク2ってもう一回言うんですかこれ。まぁ言わないんだけどな。
「何度も言ったら稀少価値が下がるから言わん。また今度な」
「んーもう!いけず!」
ぷんぷん!と自ら効果音(?)的なものを言っていた。これ自分で可愛いと思ってやってるんだろうなぁ...まぁ可愛いんだけども。
「あー、はいはい。あざといあざとい」
「またそうやって言う!あざとくないですってば!」
「いやいや充分あざといだろ。俺じゃなかったら勘違いしてるぞ」
「いやだなぁ、素でやってるのは先輩だけですよぉ」
これが彼女なりの処世術だということは知ってたけど、我が彼女ながら黒いなぁ...。
いや、たしかに他の男に素でやってたらパイセン激おこなんですけどね?
「それに...先輩にだったら別に勘違いされてもいいんですよ...?」
ささやくような声。抜け目なく計算された上目遣い。角度もバッチリ決まっているそれは小悪魔に、いたずらに、ある種の情欲を掻き立てる完成された表情だった。
並大抵の男子ならコロッと堕ちるであろう。
だがしかしーーー
「...やっぱあざといわぁ」
「もう!」
そうは言ったものの実のところ少しだけグッときてしまった自分がいた。悔しい。
「そういや言ってた時間よりも早いな」
上機嫌で隣に座っている彼女に俺は書類整理をしながら問いかける。ちなみに雑務は内容的にそこまでヘビーでもなかったので全体の二割だけ比企谷にやってもらい、帰宅を命じた。定時前に帰らせる俺ってばまさに上司の鏡、ミラー上司である。
「はい。今日はトレーニングだけだったのでいつもより少し早く終わりました!」
ビシッと敬礼を決める彼女。いつもながらあざと可愛い。
「というかこの書類の量はなんですか...奉仕部ってこんな大変でしたっけ?」
「その言い方だと奉仕部が年中暇みたいじゃねぇか」
その指摘はあながち間違ってないけども!依頼なんて月に二回くるかどうかだし、奉仕部なのにほとんど奉仕してないのはどうかとは思うけども!
「だって暇なのは本当じゃないですかぁ。この学校に入学してから何回かここに来ましたけど先輩はいつも寝てるし雪ノ下先輩はずっと本読んでるし...あ、そういえば雪ノ下先輩はどうしたんですか?」
「雪ノ下は休みだ。でも新入部員が入ったぞ」
「へぇ...物好きもいたもんですね」
「その言い方やめろよ...」
比企谷だって好き好んで入部したわけではないだろうしな。というより好き好んで奉仕部に入るやつなんているのだろうか。いや、いない(反語)
「そんなことより早く帰りましょうよ~」
さほど新入部員の話に興味がないのか、彼女は足をブラブラさせながら退屈そうに言った。実際、自分に無関係な他人の話なんてそんなものである。
「そうだな、行くか」
俺はまとめた書類を持って立ち上がる。それに続いて彼女も立ち上がった。
「職員室にこれ出してくるから教室の戸締まり頼んでもいいか?」
「りょーかいです!」
「いつも悪いな。すぐ戻る」
そう言って俺は職員室へと向かった。
「そんでもってスタバなのね...」
「いいじゃないですかぁ、スタバ。新作でたんですよ!新作!」
俺達は警察の目を掻い潜りながら二人乗りをして千葉駅へと繰り出した。二人乗りしてる時ってマリオカートダブルダッシュをやってる気分に浸れて僕は好きです(照)
ちなみに乗りながら器用に前後を交代できるはずもないので俺が常に前衛でした。もう足ぱんぱんです。
今、俺達がいるのは千葉駅前の商業施設が立ち並ぶ千葉のメインストリートともいえる場所の一角に位置するスターバックス、通称スタバだ。そういえばスターバックスはスタバって略すのにどうしてオートバックスはみんなオトバって略さないんですかね。訴訟。
「それで先輩はどうしますか?新作いっちゃいます?」
ワクワク顔で俺を見る彼女。この子どうしてこんなテンション高いの...。いろはに連れて来られているので何回か来たことはあるものの、相変わらずスタバなるものは苦手だ。なに、なんていうの?店員とか目がくらむほどニコニコだし、店内はめっちゃオサレな音楽流れてるし、メニューとか理解不能な文字の羅列だし。イミワカンナイ!
「どれも同じにしか見えないからいつも通りお前に任せるわ...」
「了解ですっ」
軽い足取りの彼女に続いて俺もレジへと向かった。こっちが少し引くレベルでニコニコしている店員さんに彼女は魔法の呪文をすらすらと唱えていた。わー、すごいなー(棒)
「いろは、席取ってきてくれ」
「え、でも急ぐほど混んでないですよ?」
「あの端のソファーがある席がいいんだよ。ほれダッシュ」
「は、はぁ...」
不承不承といった感じで彼女は俺が指をさした席へと向かっていった。
「すいません。会計いくらですか?」
そう言ってさりげなく会計を済ませるために財布を取り出す俺。実にスマートにしてクールガイである。こういうときこそ男の甲斐性というやつをーーー
「はい、4点で2680円です!」
「うぇっ!?」
あいつ何頼んだんだよ...思わず変な声でちまったじゃねぇか...。
てっきり新作コーヒーとやらだけだと思ってたわ...。
「ありがとうございました~」
野口様を三人ほど生け贄にして会計を済ませた俺は二人分のコーヒーとケーキが乗ったトレーを持って彼女が座っている席へと向かう。甲斐性を見せるのは違う事でいいと思いました。まる
「もう、遅いですよぉ~」
待ちくたびれたように言ってるけどそんなに時間経ってないからね?充分早かったからね?
「悪い悪い。んで、俺のはどっちだ?」
「私のがこっちなので先輩のはそっちですね」
そう言って彼女が指さしたのは表面がチョコでコーティングされているザッハトルテなるものだった。
ザッハトルテをチョイスするとかいろはすはオシャレさんだなぁ...。
ちなみに彼女のケーキはイチゴタルトだった。女子力高ぇ。
「それで私の分いくらでした?」
「いや、いいよ。バイトしてるし...それにあれだ、入学祝いってやつだ」
「この前もそう言われて払ってもらった気がするんですけど...」
「細かいことは気にすんなって。まぁバイト始めたら飯でも奢ってくれよ」
「...わかりました。それでは今回もお言葉に甘えて見栄っ張りな先輩にごちそうになります!」
「君は本当に一言多いよね...」
わかってても言わないのが優しさだと思うんです。マジで。
スタバにて雑談に興じたあとは一通り店をまわった。
何軒かまわると頃合いの時間ということでお開きにして、警察を警戒しながら再びダブルダッシュで彼女を家まで送ったあと、我が家へと帰宅した。
「たでーまー」
「お兄ちゃんおかえり~。ご飯できてるよ」
パタパタとスリッパを鳴らして俺を出迎えてくれたのは愛しきマイシスターこと由比ヶ浜結衣だ。一つ下の妹なのだが、俺が帰ってくるとこうして今でも送り迎えてくれる。これはもう愛でるしかないですよね。
...いい子に育ってくれて本当によかった...反抗期とかきたらどうしようと心配な今日この頃です。多分死んじゃう(俺が)
「わかった...って、え?もしかして結衣ちゃんご飯作ったの?」
「いやいや、作ったのはママだけど」
「...ふぅ」
「なんで安心したし!?」
「え、いや、なんていうの?あの...結衣ちゃんの手料理を受け止めるには心の準備が必要っていうかなんというか...」
業界人さながら手でろくろを回しながら自分でもよくわからない言い訳をする俺。
会話からお察しの通り、結衣ちゃんが料理をしたとなると由々しき事態である。それはもう国家存亡の危機レベル。わりとマジで。
「またよくわかんないこと言ってるし...それよりママも待ってるし早くいこう?ご飯冷めちゃうよ?」
「そうだな、いくか」
家に上がって一家団欒。いろいろあったが振り返るのも面倒なので今日もそれなりにいい日だった、ということで俺は一日を終えるのであった。
そんなわけでいろはす初登場です。はすはす。
いろはす可愛いよいろはす。悠斗くんにはもう少し甲斐性を見せてほしいものですね。がんばれ。
男ってのは見栄っ張りなもので、そのくせして予想外なことが起きると大体動じます。それを見事に悠斗くんが動じてくれたわけですが。
アクシデントが起きても動じずに落ち着いて物事を対処できるダンディな男に私はなりたい。イメージ的には渡部篤郎さん。こいよ
そして満を持して結衣ちゃんの登場です。少ししか出番なかったけども。
お兄ちゃんと呼ばれて舞い上がってます(病気)
早くも動じてしまった私。ダンディ失格である。
気づいた方もいるかもしれませんが書きかけの状態で投稿される事案が発生しました。まぁ気にしない方向でいきましょう。
予定より更新が遅くなってしまって申し訳ないです。
それと大変遅くなりましたが、お気に入り登録していただいている皆様ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
次回は5日後くらいに更新予定です。
学期末製作の現実逃避がてら執筆させていただいておりますので少しお時間いただきます。申し訳ないです。