由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。   作:オロナイン斎藤。

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由比ヶ浜悠斗は思いのほか歓迎している。

 

「書類はそこにある机にでも置いておいてくれ」

 

「あ、はい」

 

場所は変わって奉仕部部室。あの後、静ちゃんは俺達に大量の書類を押し付けて職員室へと戻っていってしまった。

 

「飲み物は紅茶でいいか?といっても紅茶しかないんだがな」

 

「あ、はい。大丈夫です」

 

「了解した。そうそう、椅子は後ろあるから適当に出して座ってくれ」

 

「あ、はい。わかりました」

 

......さっきからこいつ『あ、はい』しか言ってねぇな…。まぁいいんだけど。ちなみに面接で受け答えするときに『あ、』から入る奴は一発でアウトだからな、って進路担当の先生が言ってました。知らんがな。

 

「......」

 

「......」

 

電気ケトルに水を入れてスイッチオン!数分でお湯が沸くスグレモノである。日本の技術は世界一ィィィィィィ!!!!(尚、電気ケトルはほとんどが中国製の模様)

 

「そういえばーーー」

 

互いに黙りこくっているのもあれなのでなにかしらの話題を振ろうかと、振り返って比企谷を見ると落ち着きがなさそうに教室を見渡していた。

 

「...なにか気になるものでもあったか?」

 

「い、いえ、別に」

 

「そうか」

 

話題を振るとは言ったもののまったくのノープランでした私。そもそもこんなただ机と椅子が積まれているだけの質素な部屋に気になるものなんてあるはずがない。

 

「......」

 

「......」

 

再び沈黙。電気ケトルのお湯を沸かす音だけが教室に流れていた。

 

...まぁまぁここで無理して話を繋げる必要もない。それに比企谷と出会ってから数分しか経っていないからな。共有できる話題がなければこうなるのも当然だ。何一つとして不思議なことではない...ということにしておこう。

 

見知らぬ誰かに言い訳をしているうちに時間は過ぎ、電気ケトルからピーッと機械的な音が鳴った。

 

あらかじめ温めていた茶葉の入ったポットにお湯をいれて蓋をした。いくつかすると教室中に紅茶の香りが広がる。

 

「もうすぐできるからな~」

 

「...いい匂いですね」

 

「だろ?完璧主義の雪ノ下様クオリティだからな」

 

「その...職員室から先生と先輩が言っている雪ノ下というのは雪ノ下雪乃のことですか?」

 

突然の比企谷クエスチョン。初めて自主的に話題を振ってきた気がする。少し感動した。引っ込み思案の生徒が初めて授業中に手を挙げて質問してきた時の教師の気持ちってこんな感じなのだろうか。いや違うか。違うな。

 

「もしかして雪ノ下と友達...ってことはないか。友達いなさそうだもんな」

 

「ナチュナルにメンタル削ってくるのやめてくれませんかね...」

 

「いやいや、お前のことじゃなくて雪ノ下の話だよ。たしかにあのレポートを見る限りお前も友達いない感じはするけどさ、そんな奴でもさすがに友達の一人や二人くらいはーーー」

 

「......」

 

紅茶を淹れながら比企谷に視線を移すと、どこか気まずそうな表情で黙りこくっていた。さいですか。

 

「...まぁ紅茶でも飲めって」

 

「...いただきます」

 

この話はなかったことにした。

 

 

 

 

 

 

「改めて...奉仕部へようこそ」

 

「ど、どうも...」

 

紅茶を飲んで一息ついたところで改めて挨拶から入った。

 

「...といっても特に話すことはないんだが、なにか質問はあるか?答えられることなら答えるぞ」

 

「あの、結局奉仕部ってのはどんな部活なんですか?」

 

シンキングタイムスタート!と言おうとしたのだが間髪いれずに質問がとんできた。

 

「んー、そうだなぁ...静ちゃん曰く、自己変革を促すための部活。俺曰く、面倒事を押し付けられる下請け部」

 

「現段階だと後者の方がしっくりきますね...」

 

「だろ?でも依頼なんて月に二回くるかどうかだし、後はたまに今日みたいに静ちゃんの手伝いをするくらいで基本的には雪ノ下の淹れた紅茶で放課後ティータイムって感じだな」

 

余談だが雪ノ下の淹れる紅茶は本当に美味しい。同じ紅茶なのにも関わらず彼女が淹れた紅茶と俺が淹れた紅茶では比べ物にならないほど味に差がある。

 

つまりそんな比べ物にならない紅茶を現在進行形で出されている目の前の男子生徒がとても不憫で仕方がない。ごめん比企谷。

 

「なるほど...具体的にはどんな依頼が?」

 

...グイグイくるなぁ。意識高い系の就活生かよ。

 

「しょうもない恋愛相談だったり人間関係のもつれがどうたらみたいな依頼が多いな。そんなの知らねぇよ自分で解決しろよ、って思うようなくだらない依頼ばかりだよ」

 

「それを言ったら元も子もないっすね...」

 

比企谷は少し呆れたような顔をしていた。

 

「奉仕部に入ってから三年目だけど、いまだにこの部活の存在意義とかわからない...というか全くわからん。なに奉仕部って。そもそも二人じゃ部活動は成り立たないからね?同好会だからね?」

 

だってほら、部として活動するために最低でも四人は必要だってさわちゃんも言ってたし?

 

「ならどうして奉仕部に入ったんですか...」

 

ここにきてシンプルかつ当然の質問が投げかけられる。

 

「俺ってば一年の時にテニス部だったんだけど、その時に...なんていうの?入部二日目にして先輩とモメたんだわ」

 

「なにしたんすか」

 

「...どうして俺がやらかしたのが前提なんだよ」

 

「先輩の性格からして色々やらかしてくれそうじゃないですか」

 

「会ってからまだ二時間も経ってないのに言うねぇ、比企谷」

 

まぁやらかしたのは俺で間違ってないんだけども。十中八九俺がやらかしたわけなんだけれども。

 

「伊達にぼっちやってないんで人を見る目はあると自負してるんですよ」

 

「俺の性格がどうこうってのは認めるとして、自称ぼっちって一番痛いと思うんだよなぁ...」

 

「ぐっ...」

 

自称ぼっち(笑)の比企谷くんの表情がドヤ顔から一瞬にして歪む。濁った目がさらに濁っていた。これは重症ですね。

 

「まぁ自称ぼっち(笑)にしてはきちんと質疑応答できてると思うけどな」

 

「ぼっちだからといって話せないわけじゃなくて話さないだけなんですよ」

 

「ただ単に独りが好きってことか」

 

「まぁ少し違いますけどそんな感じですかね」

 

「曖昧だな」

 

含みのある言い方で少し気にはなったものの、それ以上追求することはしなかった。

 

「俺の話はいいんです。先輩の話の続きを聞かせてくださいよ」

 

早々に話を切り上げたいのか比企谷は少し早口になっていた。意識してないんだろうけど。

 

「え、なんでそんなグイグイくるの?もしかして俺のこと好きなの?」

 

「それはないです」

 

「即答かよ」

 

「逆に悩む要素がないですよ...」

 

「違いない」

 

意外と仲良くなれるんじゃないか、と比企谷との雑談に少しだけ心地いいものを感じた自分がいた。

 

 





そんなわけで八幡回(?)でした。
いかがだったでしょうか。

悠斗が奉仕部に入った経緯などはまた後日ぼちぼち書いていこうかと思ってます。


次回はついにいろはすが登場します。
相変わらずあざといです。だがそこがいい。


更新は2日後を予定してます。多分。



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