由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。   作:オロナイン斎藤。

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由比ヶ浜悠斗は相変わらず彼女に振り回されている。

 

社畜よろしく資料作成に追われた代表議会も終わった翌週初めの昼休み。

 

二年生は学校行事の職場見学なるものに行っているらしく、校内は穏やかな雰囲気に包まれていた。

 

 

「...ーい...」

 

 

はてさて、一つの学年がいないだけでどうしてこんなに静かなのか。もしかしてこれはあれですかね、逆説的に言えばこの学校で一番騒がしいのは二年生ということになるんですかね。

 

 

「...せん...い?」

 

 

慣れない手つきで牽制しあい互いの距離感を模索中の一年生。受験ということもあり落ち着きを取り戻しつつある(一部を除く)三年生。

 

そして高校生活にも慣れてきて修学旅行などの行事も多いことから我らこそが学校の中心なのだと錯覚し始めるパリピな二年生。

 

たしかいつしかの金髪縦ロールとかその取り巻きのウェイウェイ言ってる奴とか年中バリピってそうだったしな。というかあいつらは見た目が騒がしい。

 

そう考えると一理どころか百理ある。むしろ理がありあまるまである。ありあまるまるまる。

 

まぁ一部の印象だけで全体の印象があらかた決まってしまうのは世の常なので仕方のないことであってーーー

 

 

「...せんぱーい、私の話聞いてますかー?」

 

「ッ!?」

 

 

至極どうでもいい思考を働かせていたせいで見えていなかったのだが、気がつくと彼女の顔が目の前まで迫っていた。

 

近い。近いですよ一色さん。

 

「...お、おぉ...聞いてる聞いてる。あれだろ、あれ」

 

顔をそらしながら話し半分で聞いているお父さんの常套句のような言葉を並べた俺に対して彼女はジト目になりながら少し頬を膨らませた。

 

この表情から察するに次にとんでくる言葉はわかっている、が、

 

 

「あれだけではわからないので具体的にお願いします」

 

 

...それはあくまでわかっているだけであって対応できるかどうかは別の問題である。つまり全く聞いてませんでしたすいません。

 

「...あ、あー...米大統領選でトランプが当選したことによってデモがうんたらかんたら...」

 

「私、そんな政治的な話まったくしてないんですけど...」

 

その手の話に興味がない上に俺が話を聞いてなかったことが露呈してしまったため、いろはすは完全に呆れていた。

 

いや、別に俺もさほど大統領選に興味があるわけでもないんだが、街頭アンケートとかで「今回の大統領選の結果についてどう思いますか?」と聞かれたら意識高い系(笑)のそれっぽいコメントをできるくらいの教養は身に付けている。出番は一向になさそうだけど。

 

「はぁ...まぁそんなことだろうと思ってたのでいいんですけどね」

 

やれやれとアメリカンな感じで彼女は肩をすくめる。トランプだけにアメリカン、ってね......ふぅ。

 

「さいですか...」

 

「それで、駅前に新しくできたパンケーキ屋さんに今日の放課後行くっていう話なんですけどー」

 

「ちょっといろはす?初耳なんですけど?てか絶対そんな話してないよね?」

 

「えー、聞いてなかったのにどうしてそんなことが言えるんですかー?」

 

「む...」

 

どこか白々しく彼女は言っていたが、しかしそう言われてしまうとそういう話をしていたような気がしなくもなくなってくるので不思議だね。ダネフッシェ!

 

「...しゃーない。行くか」

 

もはや考えるのも面倒なので思考放棄して従うことにした。まったくもう!いろはすってば強引なんだから!

 

...なんか最近こういうこと多くない???

 

「言質、頂きました!」

 

「どこぞの水色髪メイドの真似だか知らんが、お前がそれ言ってもただ怖いだけだからな」

 

でもあの子ってば可愛い割に意外とシビアなんだよなぁ...。それに途中からすごいヒロインヒロインしすぎて久しぶりに白髪のハーフエルフが出てきたときはてっきり新キャラかと...おっと、モブリアさんの悪口はそこまでだ。

 

「は?青髪メイド?」

 

急に彼女の声色が低くなる。いろはすってば思いきり素が出ちゃってるんだよなぁ...。

 

「まぁ...あれだ、独り言だから気にすんな」

 

「彼女と話してるはずなのに独り言を言っちゃう彼氏さんの将来が私は心配です」

 

「なんですか放課後にパンケーキ食べに行く約束したくらいで彼女ヅラですかそういうのはまだ早いと思うのでもう少し段階を踏んでからにしてもらえますかごめんなさい」

 

「ちょっと!それ私の持ちネタですよ!それに私、先輩の彼女ですし!」

 

「持ちネタとか言うなよ...」

 

あと大声で『先輩の彼女ですし!』とか言うの恥ずかしいのでやめてください...みんなこっち見てるじゃないですかぁ...。

 

「...あ」

 

「どうしたんですか?」

 

「...今思い出したんだが母上に結衣を迎えに駅に行くように頼まれてるんだったわ。たしか18時くらいなんだが、そんぐらいまででいいか?」

 

「全然オッケーですよ。18時ならパンケーキ食べて少し落ち着いたらちょうどいい感じですしねー」

 

「悪い。そう言ってもらえると助かる」

 

「ふっふーん。気遣いのできる彼女が持てて先輩は幸せ者ですね!」

 

「あ、はい。そうですね」

 

「なんで敬語なんですか!?」

 

 

 

 

 

時の流れというのは早いもので放課後。我々調査班は新しくオープンしたといわれるパンケーキ屋さんに訪れていた。

 

周りを見るとやはりというべきか、いかにもスイーツ(笑)が好きそうな感じの女の子で溢れていた。特に隣のテーブルで先程から聞こえてくる「やばい!」と「それな!」と「それある!」というワードだけで会話を成立させてる海浜高校の女子高生二人がヤバい。なにがヤバいかってマジヤバい。

 

そして例外なく、俺の前にも一人。スイーツ(笑)好きの女の子がいるわけで。

 

「んー、おいしいです!」

 

「そりゃよかった」

 

彼女、一色いろはは幸せそうにパンケーキを頬張っていた。いろはすのこういうところを見るとまだまだ女の子なんだなー、と僕は思いますね。いや、ちゃんと女の子なんだけども。

 

それにしてもこのパンケーキ甘いなー...ハチミツの量とかハンパじゃないんですけど...。

 

本当にこれが店のナンバーワンなのん?とりあえず店員さんに「オススメはなんですか?」って聞いておけばハズレがくることはないってまとめサイトに書いてあったから実践してみたんだがアテにならなかったな。やっぱまとめサイトはクソだわ。

 

しかも店頭に『東京のパンケーキ!上陸!』とか書いてあったけど千葉には上陸っつーか、ただ県境をまたいだだけなんだよなぁ...。

 

でも千葉のとりあえず流行を取り入れていくスタイル、嫌いじゃない。さすが千葉。さすちば!。

 

「先輩のパンケーキはどうですか?」

 

「普通に美味い。食べる?てか食べていいぞ?むしろ全部食べてくださいお願いします」

 

「微妙だったんですね...。一口もらってもいいですか?」

「おうよ」

 

所望されてしまったので俺は甘々パンケーキを一口サイズに切り分けてからフォークで刺して彼女の前に差し出したのだが、

 

 

「...!」

 

 

なぜか彼女は驚いた表情をしていた。

 

「どした?」

 

「いや、その、先輩がそういうことするの珍しいなーって思って...」

 

そう言われ、現状を客観視してみるーーーと、

「...なるほど」

 

数秒を要したが理解した。

 

俺は今、俗にいう「はい、あーん」をしている状態であって、端から見れば今の俺たちは常に俺が蔑んだような目で見下しているバカップルと同様の行為をしていることになる。なにそれ死にたい。

 

「悪い。完全に無意識でやってたわ...早く食べちゃってくれ」

 

しかしながら無意識とはいえ、出してしまった手前、引っ込めるのはどこか負けな気がしたのでそのまま敢行することにした。

 

「え?あぁ、はい、わ、わかりました」

 

彼女は少し戸惑いながら、どこか恥ずかしそうに俺が差し出したパンケーキを口に含んだ。

 

「...どうだ?」

 

「...甘いです。めちゃ甘です」

 

「だよなぁ...」

 

どことない恥ずかしさからか互いに黙りこむ。

 

いや、理由はわかってるんだけどね?

 

なーんか急にラブコメみたいになっちゃってるじゃないですかぁー!やだー!悠斗くんは久しぶりに羞恥心で死にそうです!

 

「ところで先輩。ふと思ったんですけど」

 

幾分かの沈黙のあと彼女が口を開いた。

 

「どした?」

 

「無意識に、とか言ってましたけど他の女の子にこんなことしてたりしませんよね?」

 

なんでこの子は掘り返してくるかなぁ...。

 

「ばっか、こんなことするのお前だけに決まって...んだろ?」

 

「今なんで一瞬だけ考えたんですか...」

 

「いや、結衣ちゃんによくやってるなぁって思って」

 

家で桃とか食べてるときに『ひとつちょうだい!』って言って雛鳥のように口を開けて待っているので俺は親鳥が雛鳥に餌を与えるかの如く口移しでーーーと、そんなわけもなく普通にフォークで運んであげてますよ。

 

そのときの結衣が美味しそうに食べる顔といったら...まぁ、兄冥利に尽きるというかなんというか。

 

「...せんぱい、顔が緩んでますよ」

 

少し引いたような表情の彼女から指摘が入った。どうやら無意識のうちに顔が緩んでいたらしい。

 

「おっと失礼」

 

こほん、と俺は咳払いを挟む。そして一呼吸おいてから、

 

「まぁとにかくだな、断じて結衣ちゃん以外にはやってないから心配すんな」

 

そう言ってキメ顔でサムズアップした。

 

「そう言われてもなんか腑に落ちないんですけど...あとその顔は気持ち悪いです」

 

「ですよねー」

 

当然ながら納得してくれなかったらしい。あと顔が気持ち悪いってのは僕もそう思いました。

 

「だって百歩譲って結衣ちゃんは許すにしてもそれだと不平等じゃないですかぁ」

 

「不平等じゃないですかぁとか言われてもなぁ...」

 

「なので先輩は今まで私にしてなかった分をやらなければいけない義務があると思うのですよ」

 

これは遠回しに同じ事をしろって言ってるんだろうなぁ。わかるよ、僕、鈍感系主人公じゃないからこういうのわかるよ。

 

でもまたこのパンケーキ食べたいとかいろはすはチャレンジャーだなぁ...まぁいっか。

 

「ほれ」

 

俺は再度パンケーキを切り分けてフォークで刺して彼女に差しだす。こういうことは早めに済ませた方が吉だ。だってほら、周りの目もあるしね、うん。そういうことにしておこう。

 

「あ、えっ、は、はい」

 

少し躊躇してから彼女は差し出したパンケーキを口に含んだ。

 

「...甘すぎるのでこれはもういいです。あとは先輩が食べてください」

 

「お前もうなんなの...」

 

 

 

 

 

時刻は18時15分。無事にパンケーキを食べ終えた俺たちは予定通り結衣を迎えに改札に訪れていた、のだが、

 

「来ないな」

 

「ですねぇ」

 

一定の間隔で改札から人は流れてくるのだが、それらしき姿は見えない。

 

(人が流れてきてるから電車が止まってるってことはないんだろうけど...)

 

なんて思っていると、ふと背中に衝撃が走った。

 

「ん?」

 

振り替えるとそこには結衣の姿があったのだが、どこか様子がおかしかった。

 

「お兄ちゃん...」

 

うちの妹は笑顔がよく似合う。それに明るい性格でみんなを笑顔にさせる天才だ。そして可愛い特にえへへーと言いながら笑うところとかマジ天使だと思う。

 

 

しかし、その妹から、常に底無しの笑顔を絶やすことのない由比ヶ浜結衣からーーー

 

 

「わたし...どうしよう...」

 

 

笑顔が消えていた。

 

 

 





みなさんやっはろー!ハッピーハロウィン!メリクリ!大晦日!

はい、148日ぶりくらいの更新です。斎藤です。
とりあえずなんとか生きてました。

書くのも久しぶりだったのでいろはすとのイチャイチャ回(?)でリハビリがてら書かせていただきました。

その期間なにをしてたのかといえば、まぁ就活やらなんやらいろいろと、まぁ、うん。

まぁいろいろと無事に一段落したので年の瀬に更新するという粋なことをね、してみたかったわけですよ。ふふん。

まぁ散々放置しておいて何が粋だとか思ってる方もいらっしゃるかもしれませんが、それはご愛嬌ということでひとつ。



相変わらず本編はクソスローペースなので3歩くらいしか進んでないけどまぁいいよね。大晦日だし。いや関係ないけど。

世間はコミケ真っ盛り、というか今日が最終日だったわけですが、ファビュラスな姉妹がいらっしゃったそうで。実にエレガントですね。マーベラス!グラッチェ!スパシーバ!

なんかそれっぽい単語並べとけばそれっぽくなる感ある!それある!



てなわけで後書きは何書いてんのか自分でもよくわかってないので、文章めちゃくちゃな気がしなくもなくなくないですが、まぁいいよね!大晦日だし!


はてさて、2016年も終わりますが数えてみると1年間で20話しか書いてないという超スローペースなんですよね。なにやってんだ。

まぁなんだかんだありましたが今年もたくさんのご縁に感謝です。

お気に入り登録や感想もありがとうございます。

謎の失踪で更新してなかったときも、いくつかメッセージを頂きまして、とても嬉しかったです。

たくさんのご縁に感謝です(2回目)


来年もよろしければこんな私のグダグダな感じにお付き合いくださいませ。

それではみなさん。よい御年を。






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