由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。 作:オロナイン斎藤。
「悠斗くん、これお願い」
「あいよ。めぐり、この資料に決済印を頼む」
「はーい」
試験も無事に終わり、一般的には梅雨と呼ばれる時期である。しかしそれとは裏腹に雨が降ったり陽が照ったりと気まぐれな天気に振り回される毎日だ。
そんな中、生徒会は来週の代表議会に向けて大忙しなわけで、俺達は社畜よろしく連日仕事に追われていた。
「めぐり」
「んー?」
「帰りたい」
「だーめ」
「ですよねー。この書類の確認よろしく」
「はーい」
俺の戯言を受け流してめぐりは笑顔で書類を受けとる。安心安全安定のめぐりっしゅスマイルだった。癒される。
「あの二人、今日も息ピッタリっすね」
「んー?悠斗とめぐりのこと?」
「そうっす」
「まぁ私も含めて一年からの付き合いだからね」
「一年の時からでしたっけ?」
「そーそー!そう考えると私達ってベストパートナーだよね、はるくん!」
そう言って生徒会書記の折本 香澄(おりもと かすみ)が向かい側に座っている俺達に対して某ダンディ坂なんちゃらのようにビシッと指さす。
「うん、そうだねー」
「おー、そうだなー」
お仕事モードの俺たちは受け流すように答える。あと『はるくん言うな』とも言いたいところだが、こいつにはいくら言っても無駄なので諦めている。というか早く仕事終わらせて帰りたい。
「反応薄っ!でも仕事してる二人の姿、嫌いじゃないよ!」
「あぁ、俺も仕事してる自分は嫌いじゃない。あと仕事しろ、松浦」
松浦というのは香澄の隣で口だけ動かしている二年の書記だ。
俺は基本的に名前呼びをするはずなのだが、いかんせんこいつの名前を覚えていない。というか覚える気がない。所詮、松浦は松浦なのである(松浦)
「すいません!あと西浦っす!」
...どうやら俺は名字すら覚えていなかったらしい。それどころか物覚えが悪いことを露呈してしまった。
「まーまーいいじゃないのー、もうすぐ終わるんだしー」
「いや、それでも早く終わらせて早く帰れるに越したことはないだろ」
「わかる」
わかっちゃうのね...。
「でもそういえば先輩達みたいに息ピッタリなのってなんていうんでしたっけ?阿吽の...呼吸でしたっけ?」
「おー、西浦博識!ちなみに私と悠斗は身体の相性もバッチリ!」
いきなりなにを言い出すんだこいつは...。
「お前なぁ...うちの会長そういうの弱いんだからやめろよ...」
隣でめぐりが顔を真っ赤にさせてプルプルしていた。無垢で純粋なめぐりん超可愛い。
「ごめんめぐり...ごめんぐりん...ごめぐりん!いい!それある!」
「ねぇよ...」
自分で言ったごめぐりんが相当ツボに入ったのか香澄は五分ほどずっと笑っていた。自分で言って自分で笑ってるとかなかなか気持ち悪いなこいつ。
「...と、ところで、会長と副会長って付き合ってるんですか?」
「えっ!?」
香澄の一人笑いが落ち着いた頃、次は西浦がぶっこんできやがった。
そういやこいつめぐりに一目惚れして生徒会に入ってきたんだっけな...。
俺と香澄はそれを一発で見抜いたが、めぐりだけ見抜けていなかった。
まぁめぐりはそういうの疎いしな。むしろ今でも気づいてないまである。
ていうかめぐりさん、せっかく赤みが引いてきたのにまた真っ赤じゃないですか。
「仮にそうだったとして何か問題あるのかね、西浦くん」
まぁ仕方ない。もうすぐ仕事も片付くし西浦の相手でもしてーーー
「い、いや、問題はないんですけど...その...」
やろうかと思ったがどうやら早々に試合終了しそうだった。
「問題ないなら話は終わりだ。口じゃなくて手を動かせ」
「そうだぞー、仕事しろー西浦ー!」
「いやいや、香澄先輩も話してばかりじゃなくて...って、あれ?」
「んー?どしたのー?」
西浦が香澄のデスク上の書類の量を見て頭を抱えている。
「そうだ...この人も天才タイプだった...」
彼女がいくらうるさくても俺が彼女に仕事しろと言わないのは折本香澄が話しながらでも仕事のできる人間だからである。しかもこれがなかなかどうして優秀すぎて困るのだ。
さっきなんか一人で笑いながら書類を何枚も書き上げてたしな。あの光景はかなり気持ち悪かった。
彼女曰く『警察に追われながらでも仕事できる!超ウケる!』らしい。別にウケないしそれ以前になにやらかしたんだよお前。
「まぁあれだ、めぐりと付き合いたければ俺の屍を越えていくんだな!」
「もう!悠斗くん!仕事して!」
「すいませんでした」
西浦のせいで顔を真っ赤にしためぐりに怒られてしまった。激おこめぐりん丸だ。ぷんぷん。なにそれ超可愛い。流行らせようぜ。
といってもまぁ俺の分はもう終わったのであとはめぐりに確認してもらうだけーーー
ガラッ
「すまん、追加分が入った。では頼んだぞ」
...のはずだったのだが、嵐のように現れた平塚先生が書類の束を置いて去っていきやがった。
「「「「......」」」」
「...やるか」
「サービス残業!略してサビ残!超ウケる!」
「いやウケねぇから...」
再びお仕事タイムである。帰りてぇ...。
「もう無理疲れた仕事したくない西浦調子のんな」
「なんで俺なんすか...」
ブラック上司の年増(誰のこととは言っていない)が追加した書類をなんとか捌いた俺たちは四者四様くつろいでいた。
もうあれだけの書類を捌いた今の俺はもはや無敵といえる。嘘。後ろから刺されたら多分死ぬ。ていうか死ぬ。というより既に死にそう。
それにしてもあの連戦連敗教師(婚活のこととは言っていない)は人遣いが荒すぎる。それに応えられてしまう俺たちも俺たちで問題なわけだが。
社会に出て下請け企業とかに就職したら、こういう無茶ぶりばっかなんだろうなぁ...さらにサービス残業は当たり前で低賃金。そしてその環境に慣れてしまい、あげくの果てに社会の豚へと成り下がっていくんですねわかります。
「おつかれさま~」
「おぉ...ありがとう...」
屍のように机でくだばっている俺の前に女神が現れた。その名はめぐりん。紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操る...じゃなかった。紅魔族はトイレになんか行きません。
「おー!ありがとー!」
「あ、ありがとうございます!」
各々の席にめぐりがお茶を置く。前から思ってたけどあれだけ仕事こなしといて疲れを感じさせない笑顔振りまけるとかめぐりって意外とタフなんだよね。タフネスめぐりん。
「ほんっとめぐりの淹れるお茶って美味しいよねー!」
「わかる。超わかる。それ。ほんとそれ。もうそれしかない」
その言葉には賛同しかない。どんな粗茶でもめぐりが淹れれば上等なお茶に早変わりだ。多分めぐりが発してるマイナスイオンかなにかが原因なんだと思われる(俺調べ)
「さすがにそれは言い過ぎだって~」
「言い過ぎってことはないだろ。な?西浦」
「えっ!?あ、あぁ...美味しい...です...はい」
「ふふっ、ありがとね。西浦くん」
西浦が俺の問いに驚きながらもたどたどしく返事をするとめぐりは笑顔で礼を言った。西浦は笑顔を向けられたからか何故か頬を染めて顔を伏せていた。
...なんだこいつ、乙女かよ。
「ねぇねぇ!このあとカラオケいこーよ!」
「いきなりどうした...いや行かないけどね?」
香澄とカラオケに行くとこいつマイク離さないから必然的に部屋が折本香澄コンサート会場になるんだよなぁ...。
歌は上手いから聴いてて飽きないけどテンションを上げるような歌、いわゆるテンあげソングとやらしか歌わないから香澄みたいにテンション天井知らずだぜヒャッハー!ならまだしもこっちは三曲目くらいで既にカンストし始めるので終わった頃の疲労感がハンパじゃない。
「えー!久しぶりに文化祭の時の悠斗の歌聴きたいんだけど!」
「俺は別に歌いたくないんだが...」
「じゃあめぐりは?」
「ごめん、このあと塾なんだ」
「そっか...」
俺もめぐりも駄目となると香澄が向ける矛先はひとつしかない。
「...お先に失礼しまーーーぐへっ」
不穏な空気を察知したのか西浦は脱出を試みたようだがどうやら失敗したらしい。証拠に香澄が西浦の首根っこを掴んでいた。
「西浦くーん、ちょーっとお姉さんと遊ぼうか?」
「いやー、残念なことに俺も塾なんすよー」
「西浦は塾行ってないでしょ」
「...」
西浦は思いきり目を逸らして口笛を吹いていた。嘘下手かこいつ...。
「はい、てなわけでレッツゴー!」
「いや、ちょっと、まって、俺行くなんて言ってない!ってか首!首絞まってます!」
「悠斗、めぐり、また明日ねー!」
西浦の言い分を完全に無視して香澄は西浦を連れ去ってしまった。さらば、西浦。
「あはは...相変わらすだね...」
「まぁ西浦だから仕方ないな。それより時間は大丈夫か?」
「んー、私もそろそろ行かなきゃだね。でも片付けが...」
「それなら俺がやっとくぞ。待ち合わせの時間まで暇だしな」
「待ち合わせっていろはちゃんと?」
「まぁ、そんなとこだ」
本当はしてないけど。時間的にあいつもう帰ってるだろうし。
「そっか。じゃあお願いしてもいいかな?」
「かしこま!」
「...?」
めぐりが首をかしげてキョトンとしていた。どうやら通じなかったらしい。
「まぁ気にしないでくれ」
「そう?じゃあ片付けと戸締まりお願いね」
「はいよー。いってらっしゃい」
めぐりがめぐりっしゅスマイルで手を振ると生徒会室を後にした。可愛い。
さーて、片付けでも始めますかね。
生徒会室の片付けと戸締まりを済ませた俺は職員室に鍵を返して昇降口へと歩みを進めていた。
ふと外を見ると陽が延びてきたので外はまだ明るかったものの、雨が窓ガラスを濡らしている。
「まだ降ってるよなぁ...」
みなさんご存じの通り俺は雨が苦手だ。どれくらい苦手なのかといえば平塚先生の長ったらしい婚活失敗談くらい苦手である。超苦手。
雨なんて降らなければいいとすら思っているのだが、起きてしまうものは起きてしまうので諦める他ない。自然現象にはどうしたって逆らえないのである。いわゆるレイニーブルーというやつだ。違うか。違うな。
「せんぱーい!」
そんなレイニーでブルーな俺に対してキュートでスウィートな声が廊下に響きわたる。
振り返るとやはりというべきか、毎度お馴染みのあざとい彼女が何故か膝に手をついて息を切らしていた。
「せんぱい...今...帰り...ですか...!?」
「そうだけど...とりあえず落ち着けって」
「そうですね...久しぶりに走ったので...超...疲れました...」
そう言って彼女は一定のリズムで深呼吸を始める。彼女にしては珍しく髪型が乱れていたが、それに気づいたのか携帯を取り出してそれを鏡代わりにしてささっと整えていた。
「それで、先輩は今帰りですか?」
「あぁ、生徒会の仕事が長引いてな」
主に松本にせいで。あと年増。
「お疲れ様です」
「珍しく労われた...怖い...」
「先輩は私のことなんだと思ってるんですかね...」
「彼女」
「やだなー先輩!可愛い、が抜けてますよ!」
「うぜぇ...」
この子ってば本当に一言余計なんだよなぁ...。
「まぁ先輩が可愛いって言ってくれれば解決する話なんですけどねー」
「あー、はいはい。可愛い可愛い」
「もう!気持ちがこもってない!やり直しです!」
「えぇ...」
女の子というのは自分から言わないくせしてどうしてこんなに言わせたがりなのだろうか。...いや別に俺はかっこいいとか言われたいわけじゃないけどね?
「可愛いとかそういうのって言わせるもんじゃないと先輩は思います」
「そんなこと言ったら先輩は一生言ってくれないじゃないですかー」
「たしかにそうだな。でもお前のことは常に可愛いと思ってるから心配すんな」
ふっ、決まったな。これでいろはすもーーー
「...私がそんな言葉で納得すると思ってるんですか?一瞬ときめきかけましたけどよく考えたら狙いすぎですしあざといのは私だけで十分ですごめんなさい」
「あっれー?」
どうやらうちのいろはちゃんはチョロくなかったらしい。
場所は変わって昇降口。結局いろはと帰ることになったので俺は鬼龍院皐月様ばりに傘に両手を添え、仁王立ちで待ち構えていた。
それはそうとあの人の声ってどっかで聞いたことあるんだよなぁ。結構身近な人間で多分休日にスポーツカー乗り回してて婚活は連戦連敗で酒とタバコが大好きな人に似てる気がする。誰とは言わないけど。
ちなみにいろはすはお花を摘みにいってらっしゃいます。「長くなりそう?」と聞いたら「最低ですデリカシーなさすぎです」と罵られました。訴訟。
「おまたせしました!」
「おう。そういやお前傘は?」
「えーと、忘れちゃいました」
「朝から雨降ってたのに忘れるってどういうことなの...」
「まぁそんな日もありますよー」
すると彼女は『こんなときどうすればいいか先輩ならわかりますよね?』と言わんばかりの視線を向けてきた。
なぜか試されてる俺は足りない頭を使って思考をめぐらせる。
めぐめぐめぐりん☆めぐめぐめぐりん☆ぱわー☆(CV.諏訪部順一)
...思い...ついた...!!!
俺は鞄の奥底から折りたたみ傘を取り出して彼女に渡した。
「つまりこういうことだろ?」
「...先輩のそういう準備が良くて気が利かないところ好きじゃないです」
いろはが蔑んだような目で俺を見ていた。どうやら違ったらしい。というかその顔やめてくれ。超怖い。
「や、やだなー、冗談に決まってるじゃないですかぁ」
思わず敬語になってしまったが、元より俺は鈍感系主人公ではないので彼女がなにをお望みなのか大体わかっている。さっきのはちょっとしたジョークだ。ユイガハマンジョークってやつだ。
「...ほれ、行くぞ」
俺は外に出て傘を広げてから振り返り彼女に傘を傾ける。それを見た彼女は満足そうな顔をして同じ傘の下に入った。いわゆる相合い傘というやつである。
「ふふん、先輩もやればできるじゃないですか」
「なんで上から目線なんだよ...」
相合い傘とか濡れるからあんまりやりたくないんだよなぁ...あとシンプルに恥ずかしい。
「せっかく忘れてきてあげたんですから感謝してくださいよぉ」
そう言っていろはが腕を組んできた。彼女特有の甘い匂いが悪戯に鼻腔をくすぐってくる。いろはスメルはグットスメル!
...自分で言っといてあれだがなかなか気持ち悪いな。
「やっぱりわざとだったか...」
「えー、だって」
と、そこで言葉が途切れた。何事かと思えば急に彼女の顔が近づいてきて
「...そうすればこうやって先輩に近づけるじゃないですか」
そっと俺の耳元で囁いた。
「っ...あざとい」
その仕草に不覚にもときめいてしまった。どうしよう可愛すぎるんですけど。不整脈が止まらねぇよ。いや脈が止まったら死ぬわ落ち着け俺。
とりあえず深呼吸でもしてーーー
「...みたいな感じでやってみたんですけど、どうですか?この演出」
「台無しだよ!」
せめてもう少しだけ余韻に浸らせてほしかった!返して!俺のドキドキ返して!
「反応を見た限りだとなかなか良かったみたいですねー。さすが香織ちゃん先生」
「あの人が一枚噛んでんのかよ...」
「主演 私、脚本演出 香織ちゃん先生です」
なにその凶悪タッグ。二度と会わせたくないんですけど。映画とか作らせたらヤバそう。
「悪趣味だな」
「一応言っておきますけど私が先輩と一緒にいたいのはホントですよ?」
「あざとい」
「もう!あざとくないですってば!...なので、このままでもいいですか?」
いろはが上目遣いで俺を見る。
それをされるとこれが演技だろうと本心だろうと俺の中に断るという選択肢は存在しない。実質一択。なにそれ俺ってばいろはすの手のひらの上で転がされ過ぎじゃない?
「...まぁこうしてないと濡れるからな。仕方ないな」
「私、先輩のそういうとこ、嫌いじゃないですよ」
「うっせ。ほら行くぞ」
「はーい。せんぱい、どこか寄り道しましょう!」
「行かない。今日は歩きだし帰る」
「え~行きましょうよ~!あ!せんぱい!チューリップ咲いてますよ!」
「君は話がコロコロ変わるね...まぁいいんだけどさ」
腕に彼女の微かな温もりを感じながら、雨の落ちる帰り道を歩く。
たまにはこんな日も悪くない、柄にもなくそんなことを思った。
そんなわけで多分19話目くらいです。
おはこんばんにちは。
就活したくない斎藤です。
今回は生徒会と雨の日のお話ということでお送りしたわけですが、まぁ、ちょっとした小休止だと思って読んでいただければと思います。
...ただでさえ〆切ぶっちぎるし更新遅いのになにが小休止だ殺すぞと思ったそこのあなた。間違ってないよ。むしろそれ。それしかないまである。
さて、前半は久しぶりにめぐりっしゅパイセンが出てきたわけですが、まぁこの代の生徒会は悠斗がいたらこんな感じなんだろうなという妄想想像虚像を入り交えながら勝手に書きました。
多分めぐりんは常にニコニコしてるけど〆切とか絶対に守らせるタイプだと思うわけですよ。怒らせたら多分ヤバい。
香澄ちゃんに関してはお察しの方もいらっしゃるかもですが某それある!の人のお姉さんです。姉妹揃って騒がしい。
松浦は...まぁ、松浦です(松浦)
後半は雨の帰り道のお話。
簡潔にまとめると思った以上に悠斗はチョロイン。以上。
本来このお話を執筆するつもりはなかったのですが、ふと思いついてしまったので書いたら長々とダラダラグダグダとこんなことに。
次回からは本編に戻ります。
多分いろいろあるんじゃないかと思います。
そんなわけで次回予告です。
次回更新予定は8月18日(木)です。
みなさんご存じかと思いますがあくまで予定ですのであてにしないでください(クズ)
それと、たくさんのお気に入り登録と感想ありがとうございます。沢山のご縁に感謝です。
感想もお待ちしております。
心を込めてお返事いたします。
ではまた末代でお会いしましょう。
以上、生まれ変わったら女の子のメロンになりたい斎藤でした。