由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。   作:オロナイン斎藤。

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由比ヶ浜悠斗は真面目に物事を考えたりもする。

 

ラーメンを食べた後、改札で戸塚と材木座くんと別れた俺達はホテルロイヤルオークラに訪れていた。

 

それにしてもイマドキの高校生は友人と牛丼じゃなくてラーメンを食べに行くのか。歳は一つしか違わないのに老いを感じるぜ...。

 

なるほど、これが巷で噂のジェネレーションギャップってやつか。静ちゃんの気持ちがよくわかった。やべぇ殺される。

 

「...先輩、俺、帰っていいですかね...」

 

「いや、無理。駄目」

 

至極どうでもいいことを考えている俺をよそに比企谷はホテル内の雰囲気に完全に気圧されていた。その証拠に顔なんか真っ青だよ。真っ青。

 

それと豪華な内装やらハリウッドばりのレッドカーペットを見て思い出したが、たしかに何回かここに訪れたことがある。

 

店から見える夜景が綺麗で陽乃さんに「見て悠斗!絶景でしょ!」って言われたから「でも陽乃さんの方が綺麗ですよ」なんて柄にもない、どこぞのキザ野郎みたいなこと言ったら予想外にも照れていたので「うぇーいwww陽さん先輩ガチ照れしてやんのーwwwww」とからかったら目潰しされたのを今でも覚えている。とても痛かった。

 

「比企谷は川崎シスターと同じクラスなんだろ?」

 

「まぁ...そうはいっても俺、川崎と話したことないっすよ」

 

「そりゃつんだわ」

 

さすが自称ぼっち様(笑)だった。

 

といっても、そもそも本人がここにいるかもわからなければ、話を聞かない限り彼女の抱えている問題の解決もできない。

 

現状でわかっているのは大志がシスコンということだけである。超どうでもいい。

 

 

これが恋だとしたなら~♪

 

 

ふと携帯が鳴る。画面には結衣の名前が表示されていた。

 

『着いたよ~』

 

『りょ』

 

携帯を閉じて周りを見渡すとラウンジにドレス姿の女の子が落ち着きのない様子でキョロキョロしているのが見えた。

 

「先輩、あれって...」

 

「あぁ...うちの子だな」

 

ドレスアップしているのでパッと見は誰なのかわからないはずなのだが、あの挙動は完全に俺の妹だった。

 

正直見ていられないので俺は手招きすると結衣も気づいたようでこちらに向かってくる。

 

「おまたせ!」

 

「おう、よく似合ってんじゃん」

 

結衣が着ているのは首回りが大きく開かれた深紅のドレスで腰から脚にかけて人魚のようなフォルムを形作っていた。まさに生脚魅惑のマーメイドって感じ。いや、脚は出てねぇけど。

 

「聞いて聞いて!ゆきのんの家こんな服いくつもあってしかも一人暮らしなんだよ!?マジでゆきのん何者!?」

 

「大袈裟ね。たまに機会があるから持っているだけよ」

 

そう言って漆黒のドレスを纏った雪ノ下が現れた。滑らかな光沢を放つ生地が雪ノ下の白い肌の美しさを引き立て、膝丈よりも上のフレアスカートは脚の長さを見せつける。こっちは本当に生脚魅惑のマーメイドだった。

 

...って自分で言っといてあれなんだが人魚って脚なくない?

 

「普通はその機会自体ないんだけどな。っつーか、こんなのどこで売ってんだよ?しまむら?」

 

「しまむら?初めて聞くブランドね...」

 

比企谷の疑問に雪ノ下が素で返していた。安定の雪ノ下クオリティである。

 

「とりあえず全員揃ったし行くか」

 

俺達はエレベーターに乗り、最上階のバーへと向かう。しばらくして最上階に着くとそこには見慣れたバーラウンジが広がっていた。

 

「マジか...」

 

シャレオツな空気に圧されたのか途端に比企谷と結衣がそわそわし始める。なんかもう初めて都会に来た田舎っ子さながらだった。

 

「いっ!」

 

「きょろきょろしないで」

 

しかし雪ノ下はそれを見逃すはずもなく、比企谷の足をピンヒールで踏みつけた。痛そう(小並感)

 

「背筋を伸ばして胸を張りなさい。顎は引く。由比ヶ浜さんは私と同じようにして」

 

そう言うと雪ノ下は俺の右肘をそっと掴んでくる。結衣も言われるがままに比企谷の右肘に手を添えた。

 

「慣れてますね」

 

「まぁな。英国紳士としての当然の嗜みだ」

 

「先輩は生まれも育ちも日本じゃないですか」

 

「お前のそういうとこ嫌いじゃないよ」

 

「恐縮です」

 

雪ノ下が柔らかく笑う。

 

ちょっとした雑談を終えると俺と雪ノ下は歩調を合わせてゆっくりと歩く。開かれた重厚な木製のドアをくぐるとギャルソンの男性が脇にやってきてすっと頭を下げた。そしてそのまま一歩半先行して俺達をバーカウンターへと案内する。

 

そこにはすらりと背の高い綺麗系の女性のバーテンさんがグラスを磨いていた。

 

前に大志に姉だと言われて見せてもらった写真に写っていた人物と髪色が少し違っていたので戸惑ったが、そうは変わらぬ端整な顔立ちと目の下にある印象的な泣きぼくろがあったので、おそらく彼女が川崎紗希で間違いないだろう。

 

「川崎さん...だよな?」

 

川崎さんだと思われる人物に話しかけると少し困ったような顔をした。

 

「申し訳ございません。どちら様でしたでしょうか?」

 

「あぁ、そうか。総武高三年の由比ヶ浜...って言ってもわからんか」

 

「たしか...生徒会の副会長やってる人?」

 

「それそれ」

 

「それで、その副会長様がどうしてこんなところに?」

 

「ちょっとある依頼を受けてね。聞きたいことが少しばかり」

 

その言葉を聞くと川崎さんは訝しげな視線を俺に向ける。まぁそうなりますよね...。

 

「...ところで、隣にいるのは」

 

「こんばんは、川崎紗希さん」

 

「雪ノ下...」

 

隣にいた雪ノ下が涼しい顔で挨拶すると川崎さんの表情がさらに険しいものとなる。ふえぇ...怖いよぉ...。

 

「ど、どもー...」

 

「由比ヶ浜か...一瞬わからなかったよ。じゃあ彼も総武高の人?」

 

「あ、うん。ヒッキー。比企谷八幡」

 

比企谷が軽く会釈をする。ていうか比企谷くん?話したことがないうんぬんの前に覚えられてすらないじゃないですか...。

 

「そっか、ばれちゃったか」

 

何かを悟ったのか川崎さんは諦めたような笑みを浮かべて壁にもたれかかった。

 

「...何か飲む?」

 

「私はペリエを」

 

「わ、私も同じやつ!」

 

「あっ」

 

比企谷が結衣に先手を打たれていた。さすが俺の妹!お兄ちゃんは鼻が高いよ!

 

「じゃあMAXコー...」

 

「彼には辛口のジンジャーエールを」

 

比企谷がMAXコーヒーと言いかけたがそれを遮るように雪ノ下がオーダーする。

 

「先輩は?」

 

「じゃあトニックウォーターで」

 

「かしこまりました」

 

すると川崎さんは慣れた手つきでそれぞれの飲み物をグラスに注いで俺たちに差し出した。

 

「それで、なにしにきたの?」

 

川崎さんは先程と変わって気だるげな様子で聞いてくる。きっとこれが本来の彼女なのだろう。

 

「君の弟から相談を受けてね」

 

「大志が?」

 

「そう。君の帰りが遅いから心配してるよ」

 

「あいつ...」

 

「それで君は夜遊びするようなタチでもなさそうだし、帰りが遅いのはここでバイトしてるからなんだろうけど、どうしてそこまでしてんのかなーって思って」

 

「別に。お金が必要だから」

 

返ってきた言葉は極めてシンプルだった。しかしそれは答えであって理由ではない。

 

「いや、そりゃそうなんだろうけど...法を破ってまで働くワケってなにさ?」

 

時刻は午後十時三十三分。十八歳未満が午後十時以降に働くのは労働基準法で禁止されているにも関わらず、まだ働けているということは年齢を偽っているということになる。

 

「アンタには関係ない」

 

「あぁ、そうだな。まったく関係ない。でも大志はどうだ?」

 

「...関係ない」

 

ほんのわずかだけ間が生まれた。確信はないけれど少なからず家庭的な事情かなにかなのだろう。

 

「そっか。やめる気はないの?」

 

「ないよ。ここを辞めることになったとしてもまた別のところで働けばいいし」

 

「メイド喫茶とか?」

 

「は?」

 

「すいませんなんでもないです」

 

思いきり睨まれた。恐すぎて思わず謝っちまったじゃねぇか。どっからそんな覇気が出てくんの?覇王色とか使えちゃうんじゃないのん?

 

「あ、あのさー、川崎さん。私もお金ないときバイトしたりするけど歳を誤魔化してまで働かないよ?」

 

落ち着かない様子で会話を聞いていた結衣が恐る恐る口を開いた、が、

 

「こっちは別に遊ぶ金欲しさに働いてるわけじゃない。そこらのバカと一緒にしないで」

 

あっけなく一蹴されていた。無念。

 

「由比ヶ浜先輩、だっけ?あんたも偉そうなこと言ってるけどあたしの代わりにお金用意できるの?あたしの両親が用意できないものを肩代わりできるんだ?」

 

「そりゃ無理な話だな」

 

「でしょ?それならーーー」

 

「いい加減にして」

 

沈黙を貫いていた雪ノ下が凍えるような声で川崎さんの言葉を遮った。川崎さんは一瞬だけたじろいだが、小さく舌打ちして雪ノ下に向き直る。

 

「...ねぇ、あんたの父親さ、県議会議員なんでしょ?そんな余裕がある奴にあたしのこと、わかるはずないじゃん」

 

「おい、それはーーー」

 

 

カシャン

 

 

「...遅かったか」

 

隣を見ると雪ノ下は唇を噛み締めて俯いていた。倒れたシャンパングラスからはペリエが広がっている。

 

ただならぬ光景に比企谷も思わず雪ノ下の顔を覗き込んでいた。

 

「ちょっと!ゆきのんの家のことと今関係ないじゃん!」

 

「結衣、やめとけ」

 

「で、でも!」

 

「大丈夫よ、由比ヶ浜さん。ちょっとグラスを倒してしまっただけだから」

 

「ゆきのん...」

 

雪ノ下は結衣をなだめるとおしぼりでカウンターを拭き始めた。にしても結衣があんなに叫ぶなんて珍しいな...。

 

基本的に雪ノ下に家の話をするのはタブーといってもいい。俺も今まで極力それに触れないで接してきた。雪ノ下も雪ノ下で必要以上に踏み込んでこないし、俺も必要以上に踏み込まない。俺と雪ノ下の関係はそれでこそ成り立っている。

 

しかし彼女は周囲が思っている以上に儚げで、脆い。

 

現にこの状況だ。これ以上彼女がこの場にいるのは危ない。

 

「先輩もお手数をおかけしました。お召し物は大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ。どこも濡れてない」

 

俺は両手を挙げて問題ないことを示すと、比企谷にアイコンタクトを送る。

 

しばらくして意図を汲み取ったのか比企谷は立ち上がった。

 

「今日はもう帰ろうぜ。正直眠いわ」

 

「そうだな。もうこんな時間だし、うちのママンも心配するしな。結衣と比企谷は雪ノ下を連れて先に行っててくれ。...雪ノ下もそれでいいよな?」

 

「...はい」

 

弱々しく返事をした雪ノ下は結衣達に連れられてバーを後にした。

 

「それで、あんたは帰らないの?」

 

「これを飲み終えたら帰るよ。それにまだ話し足りないしね」

 

まだグラスには半分以上残っている。かっこつけて知ってる名前を言ってみたけど炭酸苦手なのすっかり忘れてた。今更ながら物凄く後悔してる。

 

「...あんたはわかってるんだ」

 

「さぁね。でも大方の見当はついてる」

 

おそらく比企谷も。

 

「...言うつもりはないよ」

 

「知ってる。だって君、頑固っぽいもん」

 

ざわざわ森から不機嫌そうな顔して出てきて石とか投げてきそう。だけど心はポッカポカ。めげないしょげないドラゲナイ。

 

「あたしは別に頑固じゃ...」

 

「でもどんな理由であれ家族のために働くのは良いことだ。決して悪いことじゃない。ましてや君の両親が用意できないものを俺が肩代わりできるわけでもないし、君のしていることはある種正しいとも思う」

 

「それならーーー」

 

「だからといってそれは家族に心配をかけていい理由にならないよ」

 

「っ...!」

 

「見ず知らずの俺に今こうして働いている根本的な理由を言わないのはわかる。実際今日初めて会ったわけだしな。でも家族にも言えないほどの理由ってなに?」

 

「それは...」

 

「君は一人で抱え込みすぎだと思う。もっと周りを見た方がいい。もう少し違う解決法があると思うよ」

 

そう、例えばーーー

 

 

 

 

後日談。というか今回のオチ。

 

 

俺は川崎紗希(以後サキサキ!)と大志の強制遭遇イベントを発生させて、事の顛末を話した。

 

サキサキが不良化したのは高校二年になってからだと大志は言っていた。進学校である総武高では高二になると進学を意識して塾へ行くのを考え始める生徒が少なからず現れる。サキサキもそのうちの一人だ。

 

しかし大志が今年から中学三年生になり塾へ行き始める。ここで問題が発生してしまった。

 

この時点で既に彼の学費の件については解決しているのだが、ここでサキサキが塾に通い始めるとなると更に家計を圧迫してしまう。

 

そこで彼女は考えた。

自分で塾の学費を稼ぐしかない、と。

 

要は家族や大志に迷惑はかけられないという想いからバイトをしていた、ということである。

 

まぁいくら家族の為とはいえ、説明くらいはしておいてもいいんじゃないかなーって俺は思いますけれど、

 

それは置いておくとして、

 

どうやら大志が言っていた家族想いで優しい姉ちゃんは健在だったらしい。よかったな!シスコン!

 

しかしそれだけでは彼女の抱えている問題の解決にはなっていない。いずれにせよお金は必要でバイトを辞めるわけにはいかない。

 

そこで比企谷が提案したのがスカラシップだ。能力や学力に応じて学費や授業料が免除されるシステムである。

 

それだけではサキサキは納得しなかったが、小町ちゃんのアシストやらなんやら加わり、ついに折れたサキサキは大志と和解する。

 

全額免除は難しいと思うが、そこは努力次第でなんとでもなるだろう。サキサキほどの家族愛の持ち主なら尚更だ。負けん気強そうだし。

 

 

そんなわけで今回の依頼は一応解決ということで幕を閉じた。

 

 

...あー、サキサキバーテン辞めたらメイド喫茶で働いてくんねぇかなぁ。

 

 

 

 

 





てなわけで鷺沢ふみふみイベントで慢心した結果100ポイント差で上位報酬を逃した斎藤ですこんばんは。

ふみふみすげぇ欲しかったのにあの後半勢の追い上げは一体なんなの(半ギレ)


いやぁほぼほぼ1ヶ月ぶりの更新でしたね。しかも2話連続。明日雨降るんじゃないのこれ。

そんな私は何をしていたのかといえば中間審査とやらに追われてました。そして今は就活真っ最中です。死にてぇ。


そういえばはるのんが本編初登場でしたね。あと誕生日おめでとうございまする。

しかも更新しない間に結衣ちゃんと陽乃さんが誕生日を迎えてしまうというね。

一度でいいから誕生日にそのキャラに合わせた話を書区というシャレオツなことをしてみたいものです。計画性ないから無理だけど。



まぁそんなわけで相変わらず本編ノータッチで参りましたが当てにならない次回更新予定のコーナーです。うぇい

次回更新予定は7月27日(水)ですです。
いつも1週間後とかにしてるけど今回余裕を持って2週間後にしやがったよこいつー!斎藤さんチキってるー!

しかしそれすらも凌駕するのが斎藤さんクオリティである。

超どうでもいい話をぶっこむつもりです。


とりあえずロングネックで首ロンガーにして待っててください。

あとロンガーって打とうとしたら予測変換でリンガーハットって出てきた。どうしたアンドロイド。ポンコツかよ。裸になっちゃうぞ。




それと、たくさんのお気に入り登録と感想ありがとうございます。沢山のご縁に感謝です。

感想もお待ちしております。
心を込めてお返事いたします。

ではまた来世でお会いしましょう。



以上、来世は可愛いJKのスカートになりたい斎藤でした。



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