由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。   作:オロナイン斎藤。

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由比ヶ浜悠斗は基本的に私利私欲にまみれている。

 

「そんなわけでやってきましたメイドカフェ」

 

「あの...俺、こんなとこ来るなんて聞いてないんすけど...」

 

「そりゃ言ってないからな」

 

時刻は午後七時半。奉仕部部長である俺は部員三人とゲストメンバーの戸塚を連れて、川崎姉がいると思われる候補のうちのひとつ『えんじぇるている』に訪れていた。

 

先日、依頼を受けて帰ったあとに『緊急召集。明日、午後七時。総武高校門前、来たれ』という俺が知る限りの武士知識(?)を駆使したメールを奉仕部の面々に送ったのだが、全員出席とはなかなか優秀である。

 

ちなみに戸塚は間違えて送ってしまったにも関わらず律儀に来てくれたらしい。いいやつかよ。

 

...にしてもメイドカフェってのは初めて見たが『えんじぇるている』って店名がからしてもうアレだな。それに外装のネオンと電飾がキラキラペカペカしてて胡散臭さが増していらっしゃる。

 

しかも極めつけに看板にはよくわからないイラストと共に『おかえりにゃさいだワン♪』の文字ときた。

 

...はたしてエンジェルはどこへ旅立ってしまったのか。

 

「へー、千葉にメイドカフェなんてあるんだ...」

 

結衣が興味深そうに看板を眺める。対照的に雪ノ下は胡散臭そうな顔をしているのできっと俺と似たようなことを思っているのだろう。

 

「ぼく、あんまり詳しくないんだけど...。メイドカフェってどういうお店なんですか?」

 

「実は俺も詳しくはしらないからその手に詳しそうな特別講師を呼んである」

 

本人には現地集合の旨を伝えてあるのでそろそろ来てもおかしくないのだがーーーあ、きたきた。

 

「悠斗殿ー!」

 

俺の名前を呼びながら改札から現れたのはこの手に詳しい特別講師たる人物。

 

「本日の特別講師、材木座くんだ!いぇー...い...?」

 

戸塚はパチパチと手を叩いていたが、他の三人の表情は浮かないものだった。というか物凄く嫌そうな顔だった。

 

「...あれ?みんなどした?」

 

「お兄ちゃん...なんでちゅーにがいるの...」

 

嫌そうな顔をしながら結衣が俺の隣にいる材木座くんを指さした。こら、人を指さすんじゃありません。

 

「なんでってそりゃ俺が呼んだからだけど...あれ?もしかして友達?」

 

「友達...ではないかなぁ...うん」

 

なにその微妙な反応...。他の二人も表情から察するにそれなりに面識はありそうだが、良い印象ではないらしい。比企谷に至っては嫌すぎて目が濁りきっている。久しぶりにその顔見たぞ...。

 

「前に先輩が学校を一週間ほど休んでいた時に一つだけ依頼があったという話をしたと思うのですが、彼がその時の依頼人です」

 

いまいち関係性が把握できていない俺を見かねた雪ノ下が補足するように言った。

 

「そうだ...この前ちゅーにが来たときお兄ちゃん学校休んでたんだった...」

 

「えーと...俺が一週間も休んでいたとなるとーーー」

 

 

木炭テロの時か。

 

 

 

 

以下、回想。

 

 

「ただいまー」

 

「おー、おかえりー...ってなにその荷物!?」

 

「なんか材...なんだっけ?忘れたけどちゅーにから自分が書いたラノベ?ってやつの感想を聞かせて欲しいっていう依頼がきたんだけど...」

 

「なに、そのちゅーにって子はワナビなの?」

 

「...わなび?...おもち?」

 

「あー、ワナビってのは小説家志望の人のことだ」

 

「そうそう小説家!それで小説家を目指してるらしくて、言ってることはよくわかんなかったけどヒッキーはその人のことをちゅーに病?って言ってた!」

 

厨二病のことか。ワナビで厨二病ってろくな奴いねぇんだよなぁ...。ソースは俺の中学の同級生。

 

俺が男子トイレに行くと必ずといっていいほど鏡の中の自分と対話していた佐々山は今どこで何をしているのだろうか。どうでもいいけど。

 

「へぇ...それで結衣は明日までにそれを読まないといけないのか」

 

「そうなんだよねー...あ、そうだ!お兄ちゃんも一緒に読もうよ!お兄ちゃん本読むの好きでしょ?」

 

「まぁ嫌いじゃないけど...」

 

といっても読むのは古典文学のような崇高なものじゃなくてラノベくらいだけどな。

 

「じゃあ決まり!着替えてくるから先に読んでて!」

 

そう言った結衣から分厚い紙の束を渡される。正直めんどくさかったが妹の頼みを断れないのが兄の性である。てかめっちゃ重いんですけどこれ...。

 

「さて、とりあえず読んでみるか」

 

さっそく数ページ流し読みをしてみたが、設定に既視感があったり文章が支離滅裂だったりと、なんとも言えない気持ちになった。

 

特に主人公が右手で電撃を放って左手で相手の能力を打ち消せるという設定がなんともいえん。パクリにも程があるぞこれ...。

 

なんかもう...読むのが辛いです...。

 

「おまたせ~...って泣いてる!?」

 

「結衣ちゃんこれは読まなくていいよ...俺がどうにかしとくから...」

 

これを有害図書認定した俺は夜な夜な添削作業に勤しんだという。

 

 

 

回想終了。俺は初夏だというのにコートを着て汗をかいている隣の男子を見据えた。

 

「な、なんでござるか?」

 

「...あ、いや、あの見るに耐えないパクリ小説を書いたのは材木座くんだったのかと思って」

 

「ぐふぅっ!?」

 

「由比ヶ浜にしてはまともな感想だと思ったらそういうことだったのか」

 

「ちょ、それどういう意味だし!?」

 

結局作業が終わった頃には夜も更けて朝になってたし、木炭テロによるダメージもほぼ完治して翌日は学校行くつもりだったのに疲れ果てて結局次の日も寝込んだし、踏んだり蹴ったりだった。

 

へんしゅうしゃにはぜったいになりたくないとおもいました。まる

 

「言いたいことはいろいろあるけど時間ないから材木座くん、説明よろしく」

 

「しょ、承知した...」

 

崩れ落ちそうになった材木座くんだったが、なんとか踏みとどまったのか雪ノ下達にメイドカフェの説明を始める。

 

それにしてもどうして候補から消えていたはずのメイドカフェにいるのかと疑問に思っている方もいるかもしれないが、とある情報筋から聞いた話によると、ここのメイドカフェはメイド服を着てメイドさんと一緒にメイド体験をすることができるらしい。

 

そして俺の隣には結衣ちゃん、と。

 

...つまりそういうことだ。

 

「まぁ黙って我についてこい...メイドさんにちやほやしてもらえるぞ...」

 

「ちやほや...」

 

魅力的な言葉に惹かれた比企谷が一歩踏み出そうとしたのだが、その動きが止まる。結衣が裾を引いたからだ。

 

「...なんだよ」

 

「べっつにー。ヒッキーもお兄ちゃんもそういうお店行くんだなーって思って。...なーんかヤな感じ」

 

「いやいやまて落ち着け結衣ちゃん!それは誤解だ!俺は初めてだ!童貞だ!」

 

「先輩...焦りすぎて余計なことまで言ってますよ...」

 

由比ヶ浜悠斗の生態その二。

結衣ちゃんに極力悪い印象を与えたくない。

 

ついでにいえば誤解もされたくない。

だって、お兄ちゃんだもの。

 

でも今回ここに訪れた経緯に関しては少しばかり下心があったことを認めます。

 

だって、お兄ちゃんだもの。はるを

 

「てかさ、これって男の人が入るお店でしょ?あたしたち、どうすればいいの?」

 

それを聞いた雪ノ下がえんじぇるているの看板を指した。

 

「ここ、女性も歓迎してるみたいよ」

 

雪ノ下が指さした先にはメイドさんの写真と共に『女性も歓迎!メイド体験可能!』と書いてあった。まぁ俺は言わなかっただけで知っていたわけだが。

 

「へぇ...あ!はいはーい!あたし、メイド服着てみたーい!」

 

 

お 兄 ち ゃ ん は そ の 言 葉 を 待 っ て い た

 

 

 

「おかえりなさいませ、ご主人様!お嬢様!」

 

男女六人で店に入ると定番のフレーズを頂いたあとにテーブル席へと通された。

 

結衣と雪ノ下はメイド体験に向かい、席に着いているのは男子メンバー四人だけである。

 

うーん...華がないですねぇ...。

 

「ご主人様、なんなりとお申し付けください」

 

席に着いてしばらくすると猫耳カチューシャを着けた赤フレームの眼鏡お姉さんがメニューを差し出してくる。

 

そこには『ふたごのくまたんおむおむ』だの『くまたんばぁぐ』だの『くまくまかりい☆』だの丸文字が連発されたお品書きの数々。

 

なんでも平仮名で書けばいいってもんじゃないと思うんですが...。

 

他にもオプションとして萌え萌えじゃんけんやらフォトセッションやら総武線ゲームやらいろいろと記載されており...まぁ細かいことはベテランの材木座くんにおまかせするとしよう。

 

「ところで材木座くん的にどの子が...ってどした?」

 

入る前はあんなに乗り気だった剣豪将軍様に目を向けると何故か身を縮こませてひたすら水を飲んでいた。

 

「む...わ、我はこういうお店自体は好きだが、入ると緊張してしまってな...。メイドさんとうまく話せないのだ」

 

「...なるほどわからん。比企谷、なに頼む?」

 

特別講師として呼んだはずの彼が使い物にならなかったので俺は比企谷を見た。

 

「無難にカプチーノとかでいいんじゃないですか?」

 

丸文字オンパレードのせいで見落としていたが、メニュー表をよく見るとどうやらカフェモカやらホットココアなどの通常メニューもあるようだ。

 

「じゃあとりあえずそれにするか」

 

そう言ってテーブルに置かれた鈴を鳴らすと、さっきと同じ赤フレーム眼鏡のメイドさんがやってきた。

 

「おまたせしました、ご主人様」

 

「注文でカプチーノが三つ...と、そこの彼には水のおかわりを」

 

「はい、かしこまりました♪ご主人様がお望みでしたらカプチーノに猫ちゃんなどをお描きしますが、いかがいたしますか?」

 

「じゃあお願いします。絵柄はおまかせで」

 

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ♪」

 

メイドさんは素敵スマイルを浮かべ会釈をしてからフロアへと戻っていく。その姿は一挙一動に無駄がなく、それでいて優雅だった。

 

...メイドカフェもなかなか悪くない。

 

「先輩、なんか楽しそうですね」

 

「メイドさんの対応は丁寧だし、メイド服も可愛いし文句なしだ。戸塚がメイド服着たらもう満点だな」

 

「僕、男の子なんですけど...」

 

「そうだな、男の娘だな」

 

「先輩...それいいっすね」

 

「八幡!?」

 

まさか比企谷が悪ノリしてくると思ってなかったわ。こいつ戸塚のこと好きすぎだろ...。

 

「にしても本当にこんなとこに黒レース...じゃなかった。川崎なんているんですかね」

 

「いや、九分九厘いないだろうな」

 

「じゃあなんでこんなとこきたんすか...」

 

「ふふん、それはだなーーー」

 

俺はある場所を指さす。そこにはぷるぷると震える手でトレイを支えながらカップを運んでくるメイド姿の結衣がいた。

 

「ああメイド体験の...って先輩まさか...」

 

どうやら比企谷後輩は俺の策略に気づいてしまったらしい。

 

「...ふふん。知れたこと、俺の趣味よ」

 

「あんた私利私欲の塊だな!」

 

「なんとでも言え!本能のままに生きて何が悪い!」

 

かの性欲煩悩ヴァルキュリアとは俺のことだ。崇め。そして奉りたまえ。

 

「お、おまたせしました...ご、ご主人様」

 

定番のフレーズがよほど恥ずかしかったのか、結衣ちゃんは真っ赤な顔でカップを置く。

 

「に、似合うかな...?」

 

結衣はトレイをテーブルに置くと控えめな速度でくるりと回った。着ているのはわりとスタンダードなタイプのメイド服で、黒と白を基調としたふりふりのレースがついており、スカートが短く胸元がやけに強調されているやつだ。

 

そんなわけでお兄ちゃんのボルテージは最高潮です。もう最高。メイドカフェ最高。

 

俺的には天真爛漫な笑顔も好きだが、恥じらう姿もまた良しである。もうロマンティックと動悸が止まらない。不整脈ですね。

 

もしかして:恋

 

...違うか。違うな。

 

「わぁ、由比ヶ浜さん可愛い...」

 

カシャッ

 

「わかってるな戸塚。なんせうちの妹が一番可愛いからな。な?比企谷」

 

カシャカシャッ

 

「...え?あ、あぁ、そうっす、ね」

 

カシャカシャカシャッ

 

「そか...よかった...。えへへ...ありがと...って、ちょ、ちょっと!お兄ちゃん撮りすぎ!」

 

「そうでもないだろ」

 

カシャカシャカシャカシャッ

 

「いやいや撮りすぎだし!そんなに撮ってどうすんの!?」

 

「ママンに送る...かな」

 

「それは恥ずかしいからやめて!」

 

「えー...」

 

あの人の場合『あら、可愛い!ママも着てみたいわ』とか言い出しそうで怖い。なにが怖いかって意外と似合いそうで怖い。

 

「そろそろいいかしら?」

 

平淡な声がして振り向くとそこには大英帝国時代をモチーフにしているメイド服を着た雪ノ下が立っていた。

 

「あー、悪い悪い」

 

「うわ、ゆきのんやばっ!めっちゃ似合ってる。超きれい...」

 

ロングスカートに長袖。暗色系のモスグリーンにワンポイントであしらわれた黒いリボン。重厚なイメージが地味な服装に一種の豪華さを漂わせていた。端整な顔立ちの雪ノ下にとても合っている。

 

「おつかれ雪ノ下。よく似合ってんな」

 

「ありがとうございます」

 

「それでどうだった?」

 

「このお店に川崎さんはいないみたいです」

 

「今日が非番の可能性は?」

 

「バイトのシフト表も確認しましたが川崎さんの名前はありませんでした。家に電話がかかってきたというのを考えると偽名という線もないでしょう」

 

「んー、了解。お疲れ様」

 

やっぱハズレか。まぁ元々いないと踏んでたわけだし、ほとんど私利私欲で来たような感じだったしな。

 

「ちゃっかり仕事してたんすね...」

 

「まぁ働いてたのは雪ノ下だけどな。よし、お前ら撤収だ」

 

結衣も満足そうだしメイド服姿も撮れたし、悠斗さんは満足です。ありがとう材木座くん。店に入ってからはポンコツだったけど。

 

ひとまず今日は時間も遅いのでお開きにするとしよう。

 

...あ、ひとつ忘れてた。

 

「なぁ、雪ノ下」

 

「はい?なんでーーー」

 

 

カシャッ

 

 

 

 

 

「ふんふんふふーん...ん?」

 

「せんぱいからメールだ。珍しい」

 

「『可愛い』...って、私のこと...じゃなかった。画像ついてる。なんだろ」

 

「...あの先輩は自分の妹になにさせてんの...」

 

「...あ、もう一件きた」

 

「雪ノ下先輩までなにやってるんですか!?」

 

 

 





みなさんこんにちは!私はオロナイン斎藤!
どこにでもいる更新予定を守れない専門学生!
ある日Twitterを眺めていたら『俺ガイルゲーム発売延期』の文字が!
でも発売延期ってことは本来よりも可愛さがグレードアップしたいろはすが見れるってことだよね?

いろはすってば元々可愛いのにこれ以上可愛くなっちゃったら私達一体どうなっちゃうの~!?



はい、そんなわけで安定の亀更新。
改めてこんにちはオロナイン斎藤です。

多分16話目くらいだった気がします。
いかがだったでしょうか。


まず残念ながら今回サキサキは非番でした。
次回必ず出てきます。ていうか出てきてもらわないと困る(切実)

今回は悠斗パイセンの欲にまみれた回でした。

書いた私が言うのもなんですが妹にメイド服を着せたがる兄って倫理的にどうなんだって思いますマジで。

超ド級の変態としか言いようがないレベル。
まぁ結衣にメイド服を着せたいと思うのはわからなくもない(変態)


ちなみにメイドカフェには行ったことがないので
メニュー名に関してはグーグル先生を頼らせていただきました。先生マジ優秀。


オチにいろはすを使ったのはご愛嬌ということで。
多分これでオチてた...よね、うん。



そんなわけで次回予告のコーナー。てってれー
次回更新予定は6月24日です。
どうせ遅れるのでばかうけとぱりんことハッピーターンでも食べてのんびり待っててください。


それと、たくさんのお気に入り登録と感想ありがとうございます。沢山のご縁に感謝です。

気がつけばお気に入りが600を超えてたので驚きですです。
みんな物好きだな(暴言)

感想もお待ちしております。
心を込めてお返事いたします。

ではまた次の機会にお会いしましょう。

いい夢みろよ








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