由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。   作:オロナイン斎藤。

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由比ヶ浜悠斗は年下に対してどうしても見栄を張ってしまう節がある。

 

「せんぱい、この問題がわからないんですけど」

 

「ん?あー、それはこの公式に当てはめてからやらないと解けないぞ」

 

「なるほど、そうなんですねー」

 

相変わらず奉仕部には依頼もなく、中間試験が近づいていることもあったので、昨日から奉仕部の活動は試験が終わるまでお休みです。

 

そんなわけで俺はいろはすセレクトのオサレな喫茶店でいろはとお勉強会である。といっても俺が一方的に教えているだけだが。

 

ちなみに結衣はどこか別の店で雪ノ下と戸塚と勉強しているらしい。おい、比企谷はどうした。

 

「...」

 

いつもは「総武高のアイドルいろはちゃんだよー!」みたいな感じできゃぴきゃぴとレッツ猫被りしてる彼女も試験前になると珍しく真面目さんである。

 

高校に入学してから初めての試験ということもあってなのか、いろいろと身構えてしまうのはわからなくもないのだが、内容云々は別として実際は中学の試験と対して差はない。

 

それに高校生活に慣れてきて味をしめてくると向上心がない輩は『赤点さえ回避すればなんとかなる』という考えに至るので、勉強なんてものはしなくなる。

 

勇者たちは前日の一夜漬けに命を賭すのだ。しかし睡魔という名の見えない怪物に誘惑され、一時の快楽に身を投げ出して翌朝に命を落とすまでが様式美。ソースは俺。

 

小学生『100点とれなかった...』

中学生『80点いかなかった...』

高校生『っしゃぁ!赤点回避ィ!』

 

歳を重ねるに連れてこんな感じになるのはどうしてなんでしょうね。いやぁ不思議。

 

きっと大学生になったら『でも大丈夫!もう一年遊べるドン!』とか言い出すのだろう。はたしてなにが大丈夫なのか。

 

「...ふぅ」

 

教科書とにらめっこしていた彼女が顔をペンを置き、一息ついてから俺を見た。

 

「せんぱい」

 

「どうした?」

 

「私の今日の髪型どうですか?」

 

「飽きたんだな...」

 

まぁ一時間くらいずっとガリガリやってたからな...。飽きても仕方ない。ましてや俺なんて開始三分で部屋の片付けを始めちゃうレベルの飽き性さんなので俺からすれば彼女は頑張った方だと思います。あと俺はもう少し頑張った方がいいと思います。

 

「ち、違いますよー。先輩が暇そうにしてたんでかまってあげようと思って」

 

この子はまた人のせいにしてくれちゃって...この現代っ子さんめ。

 

「そりゃお気遣いどうも。でも心配無用だ。この店のウェイトレスさんみんな可愛いから割と退屈しない。むしろ超楽しい」

 

先程から店内を見渡しても可愛い店員さんしか目に入ってこない。べっぴんさん、べっぴんさん、ひとつ飛ばさずともべっぴんさん、って感じ。

 

ここまでくるとブスは面接で落としてるんじゃねぇかと思わざるを得ない。世知辛い世の中だな...。

 

「こんなに可愛い彼女と一緒にいるのに他の女の子を見てるとか先輩最低です」

 

「えぇ...」

 

「じゃあ仮に私が『あの男の人かっこよくないですか?』とか言ったら先輩はどう思いますか?」

 

「『えー!私は隣の長身で細身の人の方が好きかなー!』って答えてやるよ」

 

「なんで女子トークみたいになってるんですか...」

 

「賛同してほしかったんじゃないの?違うの?」

 

「違いますよ...ならそれが私じゃなくて結衣先輩が言ってたらどうですか?」

 

「男の目を潰す。縛る。沈める」

 

「この差は一体...。ていうか超物騒じゃないですか」

 

「結衣ちゃんに近づく野郎は誰であろうと潰すのが俺の流儀だからな」

 

由比ヶ浜結衣マイスターの称号をものにしている俺は、もはやプロフェッショナルすぎてそろそろNHKらへんで特集を組まれちゃうまである。

 

あとマイスターとマイシスターってすげぇ似てる。超どうでもいい。

 

「うわでたシスコン」

 

「ほっとけ。俺には彼女と妹さえいればいいんだよ」

 

「...だから先輩は友達が少ないんですよ」

 

「言うほど少なくないからね?意外といるからね?」

 

ほら、例えばめぐりんとかめぐりんとかめぐりんとか。...あれ?俺ってばクラスでめぐりんとくらいしか話してなくなくない?

 

最近クラスで話しためぐり以外の奴といえば佐々山くらいだろうか。といっても「由比ヶ浜、平塚先生が呼んでるぞ」「了解」くらいの会話だけど。会話というよりただの業務連絡だった。ていうか誰だよ佐々山。

 

「およ?もしかしてお兄さんじゃないですか?」

 

「ん?」

 

ふいに声をかけられたのでそちらに視線を移すと、そこには見知った男女が二人。嘘。男子の方は知らないが、ぴょこんとアホ毛が立っている女の子の方は知っていた。

 

「小町ちゃん、久しぶり!」

 

「どうもどうも~、ご無沙汰です~!」

 

結衣の総武高校入学式当日の朝。結衣はサブレと散歩をしていたのだが、ふとした拍子にリードが外れ、ひとりでに走り出したサブレが車に轢かれそうになったのだが、それを見た小町ちゃんのお兄さんが身を挺して庇った。その結果サブレは助かったものの、お兄さんに全治三週間もの怪我を負わせてしまった。

 

その件に対する謝罪と見舞いを兼ねて結衣の付き添いで家を訪れたときに知り合ったのが小町ちゃんだ。

 

てっきりそのとき限りの付き合いだと思っていたのだが、通学中などに偶然会うことがあったりしたのでそれなりに交流がある。にしても会うのは久しぶりだ。相変わらず可愛い。

 

「えーと...もしかして隣にいるのは彼女さんですか?」

 

小町ちゃんが目をキラキラさせながら聞いてくる。女子中学生ともなればこの手の話は好きだろうからなぁ。

 

「もしかしなくても彼女だよ」

 

「一色いろはです。よろしくね、小町ちゃん」

 

すかさず彼女が挨拶をする。一度の会話でちゃっかり名前を覚えているあたりさすがというかなんというか...。

 

「それと...」

 

「あ、自分は川崎大志っす!」

 

いろはの視線に気づいた隣の男子が元気よく答えた。名前のわりに厄除けとは全く無縁そうだな。

 

「よろしくね、大志くん」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

不意に、いろはスマイルを向けられた川崎少年は何故かどぎまぎしていた。こいつ童貞だな、多分。いや知らんけど。

 

女子慣れしてない=童貞とかいう謎の風潮。それある!

 

「あー、俺は由比ヶ浜悠斗。小町ちゃんの...なんだろう...」

 

「小町のお兄ちゃんですよね!」

 

「それだ!」

 

「そうなんすか!?」

 

「いや違うでしょ...」

 

いろはが呆れ顔で俺を見ていた。

 

「でも小町的に悠斗さんがお兄さんになってくれるのは大歓迎ですよ」

 

「俺も小町ちゃんが妹になってくれるのは大歓迎だが、でも小町ちゃんお兄さんいるよね?」

 

「あー...うちの兄は駄目ですよ。目腐ってますし、将来は女性に養ってもらおうとしてる駄目人間ですし」

 

そういやうちの部活にも該当するのが一人いるなぁ...。

 

「あはは...。そういや小町ちゃん達はこんなとこでどうしたの?勉強?それともデート?」

 

「まっさかー!大志くんはただの友達ですよ!」

 

小町ちゃんは何の気なしに言ったようだったが、川崎少年の表情が曇ったのを俺は見逃さなかった。ご愁傷さまです。

 

「今ちょっと大志くんの相談にのってるんですけど...そうだ、大志くん!お兄さん達にお姉さんのこと話してみたら?」

 

「いやでもそれはお兄さん達に迷惑なんじゃ...」

 

申し訳なさそうに俺といろはを見る川崎少年。どうやらテーブルに勉強道具が広がっているのを見て気を使ってくれているらしい。

 

「俺は別に構わんが...いいか?」

 

そう言って俺は正面に座っている彼女に確認の視線を向ける。

 

「全然オッケーですよ。私は先輩と一緒にいたかっただけで、そこまで勉強する気なかったですし」

 

「それはそれでどうなんだ...」

 

 

 

 

「お姉さんが不良化、ねぇ...」

 

姉の名前は川崎紗希。総武高の二年生。今まで真面目だった彼女が二年になってからは帰りが遅いらしく、何をしてるのかと聞いても「アンタには関係ない」の一点張り。

 

両親も共働きで下に妹と弟がいるため姉にはそこまで強く言わないそうで、そのこともあってか顔を合わせても喧嘩ばかりで姉と少しこじれてしまっている。なので前のような優しくて真面目な姉に戻ってほしい、と、そんな感じだ。

 

「しかもこの前なんてエンジェルなんとかってとこの店の店長から家に電話がきたんすよ!絶対ヤバい店っすよ!?」

 

小町ちゃんと向かいの席に座った川崎少年がエキサイトしていた。きっと『エンジェル』という響きが思春期男子の妄想を掻き立てているのだろう。

 

ちなみに俺はエンジェルと聞くとトレンディな方を思い出しますね。ガハマさんだぞ。

 

「えーと...何がやばいのかな?エンジェルって可愛くない?」

 

あ、いろはすマジのやつだ。わからないフリをしてるわけじゃなくてマジでわかってないやつだこれ。

 

こいつ、たまにこういうとこあるんだよなぁ...。

 

「えっ!?それは...あれっすよ...その...」

 

ゴニョゴニョと口ごもる川崎少年。からかいとかではなく純粋にわかってないあたりタチが悪い。

 

「女は女でいろいろあるように男は男でいろいろ思うことがあるんだよ。察してやれ」

 

「はぁ...わかりまし...た?」

 

どうして疑問系なんだよ...まぁ仕方ないんだろうけど。

 

「...とりあえず調べてみるか」

 

そういって俺が取り出したのは文明の利器、スマートフォンである。わからないことがあるときはグーグル先生の手を借りるのが得策だ。彼はなんでも知っている。知らないことなどないのだ。

 

グーグル先生に「千葉 エンジェル 店」と安直な検索をかけると、川崎少年が想像していたであろう風俗店などの名前が表示されたが場所的に遠いのでその線はなし。

 

他にも様々なお店があったものの、エンジェルの名を冠していて千葉市内で朝方まで営業しているのはメイド喫茶とホテルのバーだけだった。

 

つーかメイド喫茶って朝までやってんのかよ...。

 

「...大志、もしお姉さんがメイド喫茶で働いてたらどうする?」

 

「っ!?ないないない!ないっすよ!あの姉ちゃんに限ってそれはないっす!絶対ないっす!」

 

どこまで想像したのか定かではないが、この過剰なまでの反応を見る限りメイド喫茶というのはなさそうだ。実質一択みたいなもんだな。

 

そこにいるという確証はないのだが...メイド喫茶よりは充分に可能性があるだろう。

 

「オーケー、わかった。お兄さんに任せなさい」

 

「いいんすか!?」

 

「ああ。総武高の生徒の問題ともなれば見過ごすわけにもいかないからな。これも奉仕部の活動の範疇だ。大志のお姉さんが変わってしまった原因、彼女自身が抱えている問題をどうにかすればいいんだな?」

 

「は、はい!よろしくするっす!」

 

 

 

 

会計を済ませて店を出た俺達は小町ちゃん達と別れた後、いろはの要望により一通り店を回ってから帰宅路についた。

 

ただいま絶賛ダブルダッシュ中である。

 

「ところで先輩どうするんですか?」

 

「ん?なにが?」

 

「大志くんの話ですよー。たしか奉仕部ってお休み中ですよね?」

 

「緊急召集でもかけようとは思ってるけど、大志の姉ちゃんがいる場所の目星はついてるから最悪俺一人でもなんとかなるだろ」

 

「てっきり私はなにか考えがあるのかと思ってたんですけど...」

 

「まず彼女が抱えている問題がわからないからな。会って話してみないことにはなんともいえん」

 

実質ノープランだな、と言葉を付け足す。

 

「にしても先輩が進んで依頼を引き受けるなんて珍しいですね。いつもは『うわー、めんどくせーのきたわー』とか言ってるのに」

 

「さすがにそこまで酷くねぇだろ...まぁ妹の友達のお願いだからな。仕方ない」

 

「小町ちゃんは妹じゃないでしょ...」

 

「いや、あれはもう妹だね。俺が決めた」

 

「...せんぱいってホント年下好きですよねー」

 

「その言い方やめろよ...つーかお前も年下だろ」

 

間違っても年上とか良い思い出がないので勘弁してほしい。陽乃さんとか超怖い。

 

「じゃあ私のこと好きですか?」

 

「...まぁ嫌いじゃないな」

 

「んーもう!」

 

「お、おい!急に暴れんな!倒れちまうだろ!」

 

「わーたーしーのーこーとーすーきーでーすーかー!」

 

荷台の上で大声を出しながら暴れだす彼女。そんなに騒いだら目立ってーーーー

 

「ちょっとそこ!止まりなさい!」

 

あぁ...やっぱり...。国家権力様のおでましだ...。

 

「おい!振り切るからちゃんと掴まってろよ!」

 

生徒会副会長としてあるまじき行為ではあるが、そこは一介の男子生徒としてどうかひとつ目をつぶっていただけるとありがたい限りです!だって反省文とか嫌だもん!

 

「わーたーしーのーこーとー!」

 

「ブレねぇなオイ!」

 

こいつ、なんだかんだでしっかり抱きついてやがる...。まずいということは把握できているらしい。意外とドライだな。ドライモンスターいろはすと命名してやろう。

 

......にしてもこれは身体の感触がモロにくるのでまずいですね(俺が)

 

「せんぱい、ドキドキしてますね」

 

「...あぁ、たしかにヤバいな。警察とか超怖い」

 

「そうじゃないんですけど...もういいです。早く走ってださい。捕まっちゃいますよ」

 

「お前なぁ...しっかり掴まってろよ」

 

そう言って後ろに乗ったわがままドライモンスターの温もりを感じながら俺達は街を駆け抜けるのであった。

 

...ドライなのに温もりとか。ふっ。

 

 

「先輩...それ超つまんないですよ」

 

「...ほっとけ」

 

 

 





どどどんどん(擬音)
というわけで大変長らくお待たせいたしました。
忘れている方もいらっしゃるかもしれませんが、
お久し振りです。斎藤です。

なんだか後書きを書くたびに「お久し振りです」と言ってるような気がするんですけどそれは気のせい...じゃないですねそうですね。

相も変わらず更新日を守れない私は5月14日でなんと20歳になりました。いぇーい。ぴーすぴーす。

さらば10代というわけですが、特に何も思うことも喜ばしいこともなく、しいて言うなら合法的にお酒が呑めるようになったことくらいですかね。ちな斎藤は梅酒が好きです。超どうでもいい。

あと「相も変わらず」と「アイムエンタープライズ」って語感が超似てる。ないか。ないな。


まぁそんなことはどうでもよくて第13話?14話?でした。いかがだったでしょうか。

今回は満を持してみんなの妹 小町が登場しました。
なんかもう可愛いって言葉しか出てこなくなるレベルで小町ちゃん可愛い。大志は...まぁ、うん。頑張れって感じ。

最近いろはす出番多めでそろそろパッケージ詐欺とか言わなくなるんじゃねぇかと勝手に思ってます。いや言われたことねぇけど。

次回はサキサキが登場すると思われます。
サキサキに呆れられながらも甲斐甲斐しくお世話されたい人生だった。サキサキ!サキサキ!



そんなわけで次回予告「城之内、死す」

更新予定は6月6日です。ゾロ目。
学校の作品製作を言い訳にどうせまた遅れると思うので末永くフォーエバー21な感じでお待ちください。


遅れましたが、たくさんのお気に入り登録と感想ありがとうございます。沢山のご縁に感謝です。

「いろはすをぞんざいにしやがって!あいつは許せねぇ!」やら「いろはすという存在がありながら他の女を見やがって...爆死しろ!!!」などの作品に対する感想や

「アボカドと結婚した夢を見た」やら「付き合うなら何カップの女性と付き合いたいですか?」などの超どうでもいいコメントも受け付けております。

機を見て心を込めてお返事致します。
ではまた。




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