由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。   作:オロナイン斎藤。

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由比ヶ浜悠斗は雨の日がどうしても苦手である。

 

妹というのは不思議な存在で目に入れても痛くない。手を合わせてお願いされれば叶えてあげたくなってしまうし、なにをされても大抵のことは許せてしまう。

 

他所の家庭には思春期特有の反抗期というものがあるらしく『マジうざい』やら『キモい。死ねば?』やら『ちょっと!洗濯物一緒に洗わないで!』やら言われるらしいのだが、幸いなことにうちの結衣ちゃんはそれを迎えずに良い子に育ってくれたのでよかった...本当によかった...。

 

もし結衣ちゃんに『死ね!クソ兄貴!』なんて言われた日にはゲイボルカーで壁に突っ込んで本当に自害してしまうだろう。この人でなし!

 

 

『一緒に洗濯しないで!』ってのも地味に傷つくよなぁ...。

 

そんな俺なので結衣ちゃんに彼氏ができたなんて日には当然ながら祝えるわけがなければ許せるはずもない。むしろ発狂して虎になっちゃうまである。

 

時に比企谷が『妹の下着なんてただの布だ』と言っていたわけだが、それは全くの嘘っぱちだ。だってただの布を見ただけで下心が源泉の如く沸き上がってくるはずがないじゃないですか。

 

ちょっとあれですね、うちの妹ってば発育が良すぎるんじゃないですかね?

 

「...先輩、口元が緩んでますよ。気持ち悪いです」

 

「おっと失礼。少しばかり俺のザ・ワールドにトリップしてしまっていたようだ」

 

本日は生憎の雨。重い足取りで歩きながら妹という存在について思考を巡らせていると、隣を歩いている後輩に罵られてしまった。

 

いつもは一人で登校している俺なのだが、彼女の要望により今週一週間は一緒に登校することになった。命名するならいろはすウィークというやつである。

 

ちなみに彼女とは家が近所というわけではないし、むしろ逆方向なので彼女の家から登校とするとなるといつもより二十分ほど早く家を出なければならない。とてつもなくしんどい。今日は雨だしチャリが使えないのでさらにしんどい。

 

しかしながら、なんだかんだで来てあげる俺ってばマジ律儀。略してマジリチ。なんか頭おかしい人みたいになっちゃったじゃねぇか。

 

「はっ!?もしかして私で変な妄想してたんですか先輩のことは嫌いじゃないですけどそういうのはまだちょっと早いですごめんなさい」

 

「いや、それはないから心配すんな」

 

「それはそれで複雑なんですけど...」

 

「...お前も難儀な女だな」

 

女の子というものはとても難しい。気がコロコロ変わることなんてままあるし、当然のように前と言っていることが違ったりもする。

 

女心と秋の空とはよく言ったものですよねホント。

 

「基本的に女の子ってめんどくさいものですよ。ていうか、めんどくさくない女の子なんていません」

 

「そうだな。そもそもめんどくさくない人間がいないしな」

 

「その考えが既にめんどくさいですよ...」

 

今日の天気さながらに彼女は溜め息をついた。完全に呆れていらっしゃる。

 

「溜め息ついたら幸せ逃げるぞ☆」

 

「なんですかそのテンション。気持ち悪いのでやめてください」

 

「あれ?いろはす?今日なんか当たり強くない?」

 

 

 

 

一年生とはフロアが違うので昇降口で彼女とグッバイした俺が向かった先は保健室。別に怪我をしたわけでもなく、誰かが怪我したわけでもない。

 

しいて言うならーーー

 

「心の病ですかね」

 

「そんなこと言ったらあなた年中病気じゃないの...」

 

無駄にドヤ顔の俺を見て呆れている女性は養護教諭の千歳 香織(ちとせ かおり)先生。端整な顔立ちに黒フレームの眼鏡。そして黒タイツ。おまけにグラマー。まさに日本男子の理想をそのまま体現したような先生だ。ちなみに平塚先生の同期で養護教諭らしく常に着用している白衣はお揃いの物らしい。超どうでもいい。

 

なお理科教師の船橋先生は「キャラが被るから」という理由で白衣を着ていない。なるほどわからん。

 

「私も学生時代はサボってたクチだからあまり強く言えないけど、あなた出席日数とか大丈夫なの?」

 

「そこは抜かりないのでご心配なく」

 

出席日数なんて定数を下回らなければ休んでも大丈夫なのに人はどうして休まないのか。もはや皆勤賞なんてクソくらえだし、ギリギリでいつも生きていたいのだ。ついにあいつら三人になっちゃったけどな。本当にギリギリすぎて俺が入ってやるしかないまである。それはない。

 

「はぁ...どうしてあなたが生徒会副会長なんてやれてるのか不思議で仕方ないわ」

 

「奇遇ですね、俺もそう思います」

 

「一年目は...まぁ陽ちゃんのせいにしても二年目は辞退できたでしょ?元々あなたそういうことするような柄じゃないでしょうし」

 

「二年目に関しては気まぐれですよ。他意はないです」

 

本当はめぐりにお願いシンデレラされたからなんだが、それを除けば本当に気まぐれだ。むしろ気まぐれ過ぎてアーティストデビューしちゃうまである。

 

「ふーん...まぁいいわ。そういうことにしておいてあげる」

 

「なんで上からなんすか...」

 

「上だからよ」

 

「あぁ、年齢がーーーすいませんでした」

 

それ以上言ったら殺すと言わんばかりに俺を目掛けて投擲されたカッターは俺の頬をかすめて壁に突き刺さった。

 

「よろしい」

 

にっこりと笑みを浮かべる香織ちゃん。わー、いい笑顔だなー。

 

「でもまぁこの歳だからそろそろ身を固めないといけないんだけどねー」

 

え?さっきカッターナイフが飛んできたのは女性に対して年齢の話はご法度みたいな感じじゃなかったの?違うの?

 

「...いい男ならたくさんいるじゃないですか。先生くらいの容姿とスキルならよりどりみどりで選びたい放題でしょうし」

 

魅惑のグラマーボディに愛想もよく家事全般できて料理も得意。趣味はお菓子作りにアロマオイル集めと女子力高めで男が求めるスキルを兼ね備えている。

 

しかしながらいくら完璧に見えても必ず欠点というのは存在するものでーーー

 

「男性とのお見合いの話はいくつかあるんだけど、静ちゃんを越えるような男性がいないのよ...ほら私、恋愛に妥協はしたくない人だから」

 

「...そのわりには片っ端から男女問わず食ってるじゃないですか」

 

「...てへぺろ」

 

年不相応にペロッと舌を出すこの教師、実は両刀(バイ)である。しかもかなりの肉食系。体育教師の林(二話参照)なんて可愛く見えるレベルでこの人はヤバい。

 

「だ、だって仕方ないじゃない。この学校という大きな鳥籠には若さと性欲をもて余した迷える子羊達がたくさんいるんだからそれを導いてあげるのが私たち教師の仕事よ。適材適所ってやつね!」

 

...はたして我々は子羊なのか鳥なのか。

 

それは置いておくとして、どうしてこうもスラスラとわけのわからない言い分が出てくるのだろうか。雪ノ下に言い訳する比企谷に超似てる。導く方向間違えてるし適材適所の汎用性ハンパない。

 

「...前から思ってたんですけど、どうしてこんなことしてるんですか?」

 

「えーと...静ちゃんとの本番までの経験値稼ぎ...的な?」

 

「最低だこの人...」

 

あくまで狙いは静ちゃんなんだな...。その本番は一生こないと思われるけども。

 

「あ、そういえばこの前ここにきたわよ」

 

「え?誰が?」

 

「いろはちゃんよ、いろはちゃん!相変わらず可愛かったわぁ...食べちゃいたいくらい」

 

「おい」

 

目の前で恍惚とした表情を浮かべている女教師を見て思わず俺は凄んだ。

 

「い、いやだなー、そんな怖い顔しないでってば。冗談よ冗談」

 

「あんたがそれ言うとシャレにならないんでやめてください...」

 

「いろはちゃんとあなたの妹ちゃんにもし手なんて出したら私の看護教師としての人生終わっちゃうから絶対にそんなことできないわ。私は!もっと!若い子達と!遊びたい!」

 

勢いよく椅子から立ち上がり右腕を振り上げて声高らかに宣言する香織ちゃん。やばい。この人やばい。

 

俺と香織ちゃんとの間には一定の条件付きで彼女の所業を黙認する代わりに保健室を自由に使ってもいいという、まさにwinーwinで合理的なパートナーシップ協定が結ばれている。

 

...ふっ、急に途中から意識高い系になってしまったぜ。あとなんか海浜高校の生徒会にいたキャラが無駄に濃いやつのこと思い出しちまったじゃねぇか。

 

「外まで聞こえますよ...」

 

「おっと失礼」

 

こほん、と咳払いしてから座り直した。

 

「それにしても学年問わず人気よねー、いろはちゃん。どうしてあなたと付き合ってるのか不思議なくらい」

 

「そりゃあんだけ人当たり良くて可愛かったら人気でますって。あと一言多い」

 

入学してから二ヶ月ほどしか経ってないのにあんだけ騒がれてるというのも不思議な話だが。なに?あいつ何したの?

 

「彼氏としては彼女があんなに人気だと不安なんじゃない?学年も違うわけだし」

 

「いや別に。というか彼女が人気者ってのは彼氏として割と良い気分なんですよ」

 

「ぶっちゃけたわね...」

 

「いいじゃないですか人気者。実際ひいき目抜きにしても可愛いですし」

 

「うわぁ...急にノロケてきたよこの子。そういうのは本人に直接言ってあげなさい」

 

「無理。恥ずかしい。死ぬ」

 

「女子か」

 

言ったら言ったであいつは調子に乗るからなぁ...。それ以前に自分で可愛いとか言っちゃってる時点でアウトだけど。

 

けどまぁ、あんなに可愛い妹と彼女がいて俺は幸せ者だと思いますホント。

 

「それで?キスくらいはしたの?」

 

「...相変わらず話がコロコロ変わるなあんた」

 

「ヘタレ」

 

「おいまて、まだ何も言ってないでしょうが」

 

「じゃあどうなのよ」

 

「...ノーコメントで」

 

「...はぁ。あなたって本当「由比ヶ浜ぁ!」」

 

急に保健室の扉が開いて香織ちゃんの言葉がかき消された。扉の向こうには鬼の形相をした平塚先生が立っている。もう嫌な予感しかしなかった。

 

「私の授業をサボるとはいい度胸してるじゃないか」

 

バキバキと指を鳴らしながら近づいてくるその姿はまさに世紀末覇者だった。もはや消される未来しか見えない。

 

「まって静ちゃん、悠斗くんは私が呼んだのよ。話があったから」

 

結んだ協定のこともあるのか、俺を庇うように香織ちゃんが前に出る。その声色は先ほどと違い落ち着いていた。切り替え早いなぁ...。

 

「...香織...あまり由比ヶ浜を甘やかすな」

 

「別に甘やかしてないわ。それに話終わったら教室に向かわせるつもりだったしね」

 

香織ちゃんが一瞬こちらを向いてパチリとウィンクをした。やめてくださいよ、ちょっとドキッとしちゃったじゃないですか。

 

「はぁ...それで話は終わったのか?」

 

「ちょうど終わったから連れていっちゃっていいわよ。ありがとね、悠斗くん」

 

「いえ、こちらこそお役に立てたようでなによりです」

 

しれっと会話する俺達を平塚先生は怪訝そうな顔をして見ていたが、諦めたのか踵を返した。

 

「そうか。ではいくぞ、由比ヶ浜」

 

「うっす」

 

俺は立ち上がり平塚先生に着いていく。振り振り返ると香織ちゃんが両手を合わせて申し訳なさそうな顔をしていたが、気にしないでください的なジェスチャーを返して保健室を後にした。

 

俺の本日は雨の日なのでサボタージュ計画は終了しました。

 

 

 

 

 

「にしてもどうして俺のいる場所がわかったんですか?」

 

「君の彼女が言ってたんだよ。『今日先輩と学校きたんですけど、もしかしたら保健室でサボタージュしてるかもなのでよろしくです』ってな」

 

...ほんっと良い性格してんなあいつ!

 

「いい彼女を持ったな、由比ヶ浜」

 

俺の肩に手を置いて親指を立てる平塚先生。いい笑顔だった。

 

 

結局このあとはサボタージュすることもできず、普通に授業を受けて普通に奉仕部に行っていろはと一緒に帰って俺の一日は終わった。

 





おっす!斎藤だよ!
お久しぶりです。相変わらずの更新詐欺でしたすいません。
最近は僕のヒーローアカデミアにお熱です。お茶子可愛いよお茶子。


本日はオリジナル(?)ということで新キャラ登場でした。両刀の香織ちゃんです。なんか強そう。二刀流的な。

元々登場させるつもりだったのですが、なかなかタイミングが掴めなかったというかなんというか。そして今回満を持しての登場です。今後もぼちぼち出てくる...んじゃないでしょうか多分。


話は変わりまして俺ガイルの新作ゲームの情報解禁されたわけですが、特装版の特典が10.5巻原作のいろはす回DVDということで即予約しました。あの話は好きだったしまさかアニメーションで観れるとは思ってなかった。優秀かよ。

ゲマズの店舗特典がいろはすタペストリーだったのでゲマズで予約したよね。むしろそのためだけにゲマズのカード作っちゃったまである。

ついでに絵師100人展にも行ってトモセシュンサク先生の絵は相変わらず素晴らしかった...。クリアファイル買えんかったけど。


相変わらず本編にほぼノータッチな後書きですが更新予告のお時間です。

次回更新予定は5月14日。なんと誕生日です(私の)
どうせ遅れるんです。
誕生日だからいいべ!とか言って遅れるんです。

ゆっくりたっぷりのんびりお待ちいただけるとありがたいです。



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