由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。   作:オロナイン斎藤。

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由比ヶ浜悠斗はなにかとズレている。

 

三浦達が着替えている間、俺は由比ヶ浜先輩に連れられて校舎の外に設置されている自販機の前にいた。

 

目の前にいる先輩は何を買うか悩んでいたが、自販機がゴトンと音を立てたのでどうやら決まったらしい。

 

「比企谷、ほれ」

 

「おっと」

 

振り向きざまに先輩がこちらに投げてきたのは俺が愛飲しているMAXコーヒーだった。この先輩、なかなかわかっていらっしゃる...じゃなくて。

 

「あー、やるよ。お前それ好きだろ?」

 

俺はポケットから小銭を取り出そうとしたのだが、先輩は先回りするように手でそれを制した。

 

「いや、でも」

 

「借りを作るのは嫌、か?」

 

「...」

 

またも先回りされてしまった。

 

「お前ホントそういうとこ律儀だよなぁ...」

 

そう言いながら先輩がボタンを押すと再び自販機がゴトンと音を立てる。

 

「別に借りとかそういうのじゃなくてさ、なに、親切の押し売りっていうの?そんな感じだ」

 

「余計タチが悪いじゃないですか」

 

この人たまに言葉の意味わかってて使ってんのかって思うときあるんだが、そういうところ由比ヶ浜に似てる。って、兄妹だから当たり前か。

 

「んー...じゃああれだ、間違えて押しちゃったんだよ」

 

「もはや理由が適当っすね」

 

仮にそれを理由に使うとしても最初に使うのがセオリーだろ。どこまで適当なんだよこの人は...。

 

だがしかし先輩がここまで言っているのだからありがたく貰っておくべきなのだろうか...いや、しかしだな...

 

「往生際が悪いぞ、比企谷後輩。論理的に生きているお前からすれば暴論だと思うかも知れないが、先輩があげると言っているのだから後輩は大人しく受け取っておけばいいのだよ」

 

それすら暴論ではあったが、ここまで言われてしまってはさすがに折れるしかあるまい。というよりこれ以上話を長引かせても何かと理由をつけられて押し切られる気しかしないので諦めた。

 

これはきっと先輩の純粋な好意なのだ。...そういうことにしておこう。

 

「...うっす」

 

「よろしい」

 

由比ヶ浜先輩は満足そうな顔をしてベンチに腰かけると缶コーヒーを開けた。

 

「ところであんな大口叩いちゃっていいんすか?」

 

「ん?なにが?」

 

「テニスですよ、テニス。いくらテニスやってたからってさすがに2対1はキツいと思うんですが」

 

「おいおい、なめてもらっちゃ困るぜお兄さん。俺のことは雪ノ下から聞いてるだろ?つまり...そういうことだよ」

 

由比ヶ浜先輩は指を鳴らして謎のポーズを決めていたが......駄目だ、まったくわからん。

 

「まぁあれだよ、一介の高校生相手なんて俺からすればちょちょいのちょいってこと。この由比ヶ浜部長に任せておけばいいのですよ」

 

泥船に乗ったつもりでな、と先輩は付け加えてたがそれだと沈んじゃうだろうが...なんてツッコまないぞ。俺はツッコまないからな。

 

毎度毎度思うのだが先輩のこの自信はどこから出てくるのだろうか。

 

「...先輩がそう言うなら任せますけど。というか俺がどう立ち向かっても太刀打ちできそうな相手じゃないですし。それに由比ヶ浜が言ってたんですけど三浦は経験者らしいですよ」

 

「なにその情報。三浦ってあの縦ロールのことか?まぁたしかにビッチっぽいからわからなくもないけど」

 

「...テニスの話なんですけど」

 

「...え?あいつの下半身事情のことじゃないの?」

 

先輩といい雪ノ下といい、下半身事情って言葉流行ってんの?もしかして俺が知らないだけなの?

 

「まぁ冗談はさておき、だ。勝算は充分にある。むしろ勝算しかない。なんせ俺は千葉随一のテニスプレイヤーだからな。千葉で俺と対等にテニスやれるのなんて陽乃さんくらいだよ」

 

「は、はぁ...」

 

変わらず自信に満ち溢れた先輩を前に俺は思わず腑抜けた声を上げた。千葉随一のテニスプレイヤーというのは自称なんだろうけど、その陽乃さんとやらは一体何者なんだよ。

 

「そんなわけで心配御無用ってことだ。まぁ調子に乗ってる後輩ちゃんに本物のテニスってもんを見せてあげますよ」

 

負けフラグが乱立するような台詞をはいた由比ヶ浜先輩は缶コーヒーを一気に飲み干すと空き缶をゴミ箱に投げ捨ててテニスコートへ向かった。

 

 

ちなみにゴミ箱には入っていないので俺が責任を持って捨てておいた。相変わらず俺の先輩は締まらねぇな...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあって現在に至るのだがーーー

 

 

 

「げ、ゲーム由比ヶ浜 カウント4ー0」

 

 

「またリターンエースかよ!」

「うおおお!!!副会長すげぇ!!!」

「ぬわっはっはっはっはっは!我が軍は最強だぁ!凪ぎ払えぇ!」

 

 

 

 

少し狼狽えた表情の戸塚がゲームカウントをコールすると、いつの間にやら増えているギャラリーのボルテージは最高潮に達していた。あと材木座うるさい。

 

それに対して葉山達は完全に失意のドン底に突き落とされていた。あの不遜で横暴な炎の女王である三浦が今にも泣きそうな顔をしており、葉山は苦笑いを浮かべて完全にお手上げ状態といった感じだった。

 

なんせ俺の記憶が正しければ三浦達はサーブ以外でボールに触れていないからだ。

 

...なにを言ってるのかわからないって?俺もわかんねぇよこんなの。テニスってあれじゃないの?ネット越しにラケットでボールを打ち合う競技なんじゃないの?

 

それがどうしてサーブとリターンで全て決まってるんですかね。もはや打ち合ってすらねぇよ...。

 

 

「ふんっ!」

 

 

バコォン!と轟音が炸裂して葉山が一歩も動けず立ち尽くす。またもサービスエースである。

 

変わらず5ゲーム目も自称千葉随一のテニスプレイヤー様は完全にマジだった。俺自身も先輩の実力を疑っていたのだが、素人相手だからという話ではなく、これはさすがに納得せざるをえない。雪ノ下が言っていた『次元が違う』というのは実に的確な表現だった。

 

(まぁこの様子なら負けることはないか)

 

そんなことを思っていた矢先、ギャラリーを掻き分けて一人の少女が現れた。

 

「せ、せんぱい!なにやってるんですか!」

 

「げっ...マジかー...」

 

息を切らしながら現れた亜麻色の髪の少女は呼吸を整えると少ししてからゆっくりと由比ヶ浜先輩に近づいた。

 

彼女が誰なのか俺にはわからないが、どうやら先輩とは面識があるらしい。

 

「あれ?ヒッキーいろはちゃん知らないの?一つ下の子なんだけど...」

 

「ばっかお前、同じ学年はおろかクラスですら知らない奴ばかりなのに後輩の知り合いなんているわけないだろ。俺の交遊関係の狭さなめんな」

 

「何故か自慢げだ!?」

 

先輩も先輩で知ってるのはコートで説教されて、こうべを垂れているあの先輩だけである。

 

「てっきりお兄ちゃんから聞いてると思ってたんだけど...」

 

「ん?なにがだ?」

 

「いろはちゃん、お兄ちゃんの彼女だよ」

 

「...は?え?」

 

一瞬、由比ヶ浜が何を言っているのかわからなかった。むしろ思考回路はショート寸前で月の光に導かれちゃうまである。

 

「ヒッキー?」

 

「...由比ヶ浜、お前さっきなんて言った?」

 

「え?だからいろはちゃんだって」

 

「名前じゃなくてそのあとだ」

 

「えーと...お兄ちゃんの彼女?」

 

「マジか...」

 

どうやら聞き間違いではなかったらしい。まさかあの重度のシスコンで変人の先輩に彼女とは...。

 

「ほら、いきますよ!」

 

「いや待ってくれ、今いいとこなん痛い痛い!首絞まってる!首絞まってるから!」

 

...現に首根っこを掴まれて後輩に引きずられている先輩という光景を見せられてるわけで、どうにも信じがたいわけだが。

 

「葉山先輩、お手数おかけしました」

 

先ほどの険相とは一転して落ち着いた表情で一色は頭を下げた。そこからさらに一転してきゃるんとした顔で

 

「それではまた部活でよろしくですー」

 

と葉山に可愛らしく敬礼して由比ヶ浜先輩を引きずりながらテニスコートを去っていった。

 

突然の出来事に周りは唖然呆然。戸部だけが「っべーわぁ、いろはすやっべーわぁ!」と騒いでいた。うるせぇ。

 

「えーと...どうしようか?」

 

葉山が苦笑いしながら俺に視線を向ける。先輩がいなくなった以上、試合続行は不可能なわけで。...だからって俺に聞くなよ。

 

「...終わりでいいんじゃないか?もうすぐ休み時間も終わるし」

 

「それもそうだな。優美子もそれでーーー」

 

「あーし帰る」

 

葉山の問いかけを待たずに一言発して三浦は背を向けた。どこまで自分勝手なんだこいつは...。

 

「ははは...。悪かったね、戸塚。それにヒキタニ君も」

 

「ううん、僕は大丈夫」

 

「俺はなにもしてねぇよ」

 

あとヒキタニじゃなくてヒキガヤだからね?

 

「それと今度由比ヶ浜先輩に会ったら謝っておくよ」

 

さして葉山が失礼なことをしたわけではないのだが、三浦が機嫌を損ねる度に取り繕ったり、代わりに謝ったり大変だな。どんだけいいやつなんだよこいつ。

 

 

結局テニス対決はよくわからないまま幕を閉じた。なんだこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある二人の帰り道にて

 

「もう!なにしてるんですか!」

 

「悪かったって...」

 

「それに先輩だけの身体じゃないんですからね」

 

「そう言ってるわりには俺の扱い酷くなかった?首絞まってたんですけど?」

 

「でも...」

 

「ん?」

 

「...その...久しぶりに先輩がテニスしてるとこ見れてよかったです」

 

「...そりゃどうも」

 

「あれー?もしかして先輩照れてますー?」

 

「...照れてねぇっつーの。ニヤニヤすんな」

 

「先輩のそういう素直じゃないとこ嫌いじゃないですよ」

 

「うっせ。んなこと言ってるとチャリ乗せねぇぞ。お前だけ走らせんぞ」

 

「こんなにか弱くて可愛い彼女を置いてくなんて彼氏失格ですよ!」

 

「...」

 

「あぁ~待ってくださいよ~!」

 

 

 

 

 

 





そんなわけでにゃんぱす!斎藤だよ!
いろはす誕生日おめでとう!誕生日に更新したかったけどいつも通り無理です。知ってた。

バースデー新規書き下ろしイラストは毎度ながらあざと可愛かった。即保存したよね。


まぁそんなわけで13話でした。いかがでしたでしょうか。
元々いろはすを登場させるつもりはなかったのですが、誕生日ということで友情出演ならぬバースデー出演(?)させてみました。

その結果、本編さながら微妙な感じで終わってしまったわけですが。己の文章力に限界を感じた瞬間だった。

どちらにせよ悠斗くんはフェードアウトさせる予定ではいたのでそこんとこは予定通りってことでひとつ。

最後の会話はおまけというかボーナストラック的な感じです。絵師さんでいう落書き的なあれ。


悠斗くんのテニスの実力については私の理想をとことん突き詰めた結果です。というか元々私はテニスをやってたんですけど、目指してたのが悠斗くんのプレースタイルってわけです。ゴリゴリパワーサーブテニス。まぁ結局完成せずに引退してしまったわけですが。

物騒な考えかもですけど圧倒的な力でねじ伏せるのが好きなんですよね私。スマブラとかガノンドロフとか超使ってる。

でもなんか俺TUEE系の作品はあんまり見ないんですよね。魔法科は好きだけど。真由美先輩に翻弄されたい人生だった。



毎度ながら話が脱線しましたが当てにならない次回更新予告のお時間がやって参りました。

次回更新予定は4月29日です。
どうせ遅れるわけなんですよね。
ネックをロングにしてお待ちください。




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