由比ヶ浜悠斗を含め、奉仕部員はなにかと問題を抱えている。   作:オロナイン斎藤。

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比企谷八幡はなにかと面倒事に巻き込まれている。

 

戸塚からテニスの技術向上の依頼を受けた俺たちは昼休みにテニスコートへと集まってテニスの練習をしている。

 

とはいっても、俺たちがテニス部相手の練習になんて付き合えるはずもなく、好き勝手に時間を過ごしているわけだが。

 

今日も今日とて鬼教官雪ノ下による鬼レッスンが始まるのかと思いきや、今日からは数日ぶりに奉仕部に顔を出した部長の由比ヶ浜先輩が指導するようだ。

 

一部始終を見る限りだと先輩は依頼の件を聞かされてなかったようだが、雪ノ下が説明すると快く了承したらしい。

 

そういえば元テニス部とか言ってたなこの人。2日で辞めたらしいけど。

 

「戸塚ー、まずはフォアからなー」

 

「は、はい、お願いします!」

 

ボールの入ったカゴから由比ヶ浜先輩が一球一球丁寧に放り投げる。しごきにしか見えない雪ノ下の特訓とは対照的な光景だった。というかテニスの練習ってこっちが本当のちゃんとした練習メニューなんじゃねぇの?

 

「...一応強豪校の練習を参考にメニューを組んだのだけれど」

 

「うおっ」

 

ボーッとしながら練習を眺めていると、いつの間にやら雪ノ下が腕を組みながら俺の横に立っていた。

 

「気持ち悪い声を出さないでくれるかしら。比企谷菌が移るわ」

 

「おい、なんで俺の小学生の時のあだ名知ってんだよ...」

 

 

『わー!比企谷菌だー!』

『タッチー!』

『ぶー!今バリアしてましたー!』

『ざんねーん!比企谷菌にバリアは効きませーん!』

 

 

なんて言われてたことを思い出しちまったじゃねぇか。というかバリア効かないとかどんだけ強力なんだよ比企谷菌。

 

「比企谷くんの過去はどうでもいいのだけれど、とりあえずこの件は由比ヶ浜先輩に任せておけば問題ないわ」

 

どうでもいいって...まぁいいんだけど。

 

「あぁ、なんか元テニス部だったらしいな。2日で辞めたとか言ってたけど」

 

「断片的にしか話を聞いてないと長続きしない人にしか聞こえないけれど、あの人は指折りの実力者よ。調べればすぐに出てくると思うわ」

 

そう言われたので携帯を開いて調べてみると名前に続いて『県大会優勝』やら『ジュニア日本代表』の文字が次々に表示された。

 

「マジだった...」

 

「普段の姿からは想像できないでしょうけど、あの人はテニスに限らず特別な人間よ。次元が違う、とでも言うのかしら」

 

俺からすれば雪ノ下も相当規格外だと思うのだが、その雪ノ下にそこまで言わせるほどの何かが由比ヶ浜先輩にーーー

 

 

『俺の妹マジで可愛い』

『兄妹の壁とかぶち壊して結婚したい』

『可愛すぎて目に入れても痛くないレベル。むしろ目に入れたい』

 

 

ーーーあるとは到底思えなかった。俺にとって由比ヶ浜先輩は相当残念な位置付けになっていた。

 

「え、えい!...あれ?」

 

気がつけば先程まで木陰で眠っていたはずの由比ヶ浜が練習に参加している。といっても打球はまともに飛んでおらず、ホームランか空振りするかのどちらかだった。

 

ただ邪魔しているようにしか見えないのだが、先輩は手を休めることなく器用に両手で二人に向けて球を放っているので練習に支障はないようだ。

 

...まぁそんな由比ヶ浜を見てる先輩の口元は緩みっぱなしなわけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、テニスしてんじゃん、テニス!」

 

練習も中盤に差し掛かった頃、きゃぴきゃぴとはしゃぐ声がコートに響き渡る。振り返ると葉山と三浦を中心にした一大勢力がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 

由比ヶ浜先輩も三浦達が視界に入ったのか球を放る手が止まる。

 

「え、なに、なんか頭悪そうな連中がこっち向かってきてるんですけど」

 

あんた怖いもんなしか!とは思ったがよく考えればクラスも学年も違うので、そう思うのはわからなくもない。実のところ俺もそう思ってるわけだしな。口に出して言わないだけで。別に三浦が怖いとかそういうわけではない。本当だよ?ハチマンウソツカナイ。

 

それにしてもスクールカースト上位の奴らを『頭悪そうな連中』という言葉でまとめてしまうあたりさすが我らの部長である。いや、部長関係ないけど。

 

それに対して由比ヶ浜は複雑な表情をしており、戸塚に至っては三浦達、というより三浦を見て完全に萎縮してしまっている。

 

「ね、戸塚ー。あーしらもここで遊んでいい?」

 

三浦は俺や由比ヶ浜ブラザーズをちらりと見たきり、軽く無視して戸塚に話しかけた。どうやら材木座は最初から眼中にないらしい。そういや雪ノ下のやつはどこいったんだ。

 

「三浦さん、ぼくは別に、遊んでるわけじゃ、なくて...練習を...」

 

「え?何?聞こえないんだけど」

 

「いや、だから、その...」

 

「おいおい、俺達は遊びでやってるわけじゃないんだ。遊びでやりたいならスポッチャに行くことをオススメするぞ」

 

三浦の言葉で押し黙ってしまった戸塚を庇うようにして由比ヶ浜先輩が抗弁に出た。でも千葉にラウンドワンはあってもスポッチャはないんだよなぁ...。

 

「でもさ、あんたらは部外者なのに使ってんじゃん。ってことは男テニだけでコート使ってるってわけじゃないんでしょ?」

 

「まぁ、そうだな。でもここは戸塚が貸してもらってるコートなわけであって、それでその練習に俺達が付き合ってるってわけ。業務委託っつーかアウトソーシングっつーか...まぁそんな感じだ。な、比企谷」

 

「は?...え、えぇ、まぁ...」

 

え?この先輩はここで俺に振るの?いきなりすぎてろくに言葉も出てこなかったんですけど。

 

「はぁ?なに意味わかんないこと言ってんの?キモいんだけど」

 

先輩相手にどこまで不遜なんだこの女...。しかも先輩は先輩で「人語が通用しない種族とか無理。どうにかしろよ比企谷」とか耳打ちしてくるし。どうにかしろと言われてもな...。

 

「まぁまぁ、あんまケンカ腰になんなって。みんなでやった方が楽しいしさ」

 

それを見かねた葉山がとりなすように間に入ったが、俺はその言葉にカチンときた。

 

「みんなって誰だよ...かーちゃんに『みんな持ってるよぉ!』って物ねだるときに使うみんなかよ...。誰だよそいつら...。友達いないからそんな言い訳使えたことねぇよ...」

 

「比企谷...お前...」

 

由比ヶ浜先輩が完全に哀れみの目で俺のことを見ていた。というより軽く引いていた。

 

これにはさすがの葉山も動揺したのか、

 

「あ、いや、そういうつもりで言ったわけじゃないんだ。...なんかごめんな?その、悩んでるんなら俺でよければ相談乗るからさ」

 

...ものすごい勢いで慰められていた。

 

「おい、比企谷。右の縦ロールの馬鹿は別としてこっちのさわやか金髪はいいやつなんじゃねぇの?お前のことを心配してくれる人間なんてなかなかいねぇぞ」

 

「浅はかですね、先輩。その程度の安い同情や言葉で救われてたらとっくにぼっちなんて卒業してるんですよ」

 

「...どこまでも残念なやつだなお前は」

 

「自覚してますよ」

 

とは言ったものの葉山がいい奴すぎて思わず「ありがとう...」と言ってしまいそうになったのは秘密である。

 

「それでどうする?さわやか金髪野郎に言葉は通じてもあの縦ロール馬鹿には通じないぞ。それに年上に対しての礼儀もなってない。さらにあの縦ロール、生徒会副会長の俺を知らないとなると相当重症だな...うわぁ...今年で任期終わるのにまだ知られてないとかヘコむわぁ...」

 

先輩は先輩で勝手に一人でヘコんでいた。クソめんどくせぇ...。

 

「いやいやそんなことでヘコまないでくだーーー」

 

ヒュン!

 

次の瞬間、俺の言葉を遮るようにテニスボールが俺と由比ヶ浜先輩の間を通りすぎていく。...は?

 

「さっきからなにコソコソと話してんの?あーしいい加減テニスがしたいんだけど」

 

打った本人であろう三浦がラケットを担ぎながらそれはもう不機嫌さながらに言った。

 

「んー、じゃあこうしよう。部外者同士、俺とヒキタニくんで勝負する。それで勝った方が今後昼休みにテニスコート使えるってことで」

 

「え、えーと...」

 

葉山の提案に戸塚が戸惑っていた。ていうか誰だよ、ヒキタニくん。

 

「もちろん戸塚の練習にも付き合う。強い奴と練習した方が戸塚のためにもなる...いいかな?それと先輩もそれでいいですか?」

 

「あぁ。というか部外者同士ってことなら俺がシングルで参加してもいいか?ハンデとしてそこの縦ロールも入れてお前らはダブルスでいいから」

 

「いや、いくらやってたからって先輩それはさすがに」

 

厳しいのではないかと言おうとしたのだが、よく見ると由比ヶ浜先輩は三浦以上に不機嫌そうな顔をしていらっしゃった。というより今までに見たことのない表情だった。

 

気づかなかったのだがどうやらこの先輩、三浦の不遜な態度を相当根に持っていたらしい。

 

「いや、でも...」

 

「そう言ってんだからいいじゃん隼人。あーし早くテニスしたいんだけど。あ、言っとくけどあーし手加減とかできないから」

 

「奇遇だな。俺も手加減とかできないからよろしく」

 

三浦と由比ヶ浜先輩は二人して獰猛な笑みを浮かべる。その瞬間、わっと取り巻きの連中が沸き立った。

 

今、戦いの火蓋が切って落とされるのだ。

 

...かっこよく言ってみたものの、まぁ要するにテニスコートを賭けて勝負、ということである。

 

 

ていうか由比ヶ浜先輩キャラ変わりすぎじゃないですかねぇ...。

 

 





おはこんばんにちは。
お久しぶりです。オロナインです。


しばらく更新していないと、こいつ逃げやがったなと思われがちですが、実はそんなことはなかったんですよね。


やり遂げたよ...最後まで...、みたいなの最近ありましたね。

小鳥の翼がついに大きくなっちゃったり、
夢の中で描いた絵のように切なくなっちゃったりね。

私は過去の良かったことを糧にしてなんとか今を生きている根暗な人間だったりするので、今が最高という言葉に関しては異議を唱えたい感ある。

ちなみに私はラブ○イバーではなく、
アイ○スPなので。楓さんが大好きです。結婚したい。


まぁ本編をやり遂げてはなく話はまだ続くわけだけれども。


そんなわけで本編はようやくテニスしてます。

どうやら悠斗くんは礼儀がなってない人が嫌いみたいですが、あの平塚の静ちゃんに対する態度は一体なんなんでしょうか(すっとぼけ)

次回は解決編。語り部はまた八幡だと思われます。


更新予定は4月14日です。
きっとまた遅れます。

よろしくです。





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