鳥取県にある那岐宮は小さい土地ながら非常に色々と詰まっている街だ。
東西南北、そして中央にあるハヤト達が通う那岐宮中央高校。
その中で北町と呼ばれる地域に那岐宮スカイブレードと呼ばれる電波塔が立っている。
展望台としても解放されている那岐宮の名所の一つだった。
「こうしてみると私達の街って大きいですよね」
「ああ、まあサイジェントより小さい気がするけど」
「何と比べているんですか…」
本日は日曜日に為か、非常に人がごった返すスカイブレード内部。
そこに私服で着替えていた勇人とクラレットは互いに手を繋いで立っていた。
他の人から見れば兄妹見える…訳がない、どう考えても二人はカップルだった。
「うぅ…クラレットせんぱいいいなぁ…」
「はぁ、新堂先輩がうらやましい」
「………おぇ」
「うわ!?春奈よだれ垂らすな、てかなんで甘い匂いがするんだこのよだれ!?」
「(モグモグモグモグモグモグモグ」
「………(ギリギリ」
「ね、ねぇ綾ぁ…こめかみ痛いんだけど…」
「………帰っていいか?」
二人から見えないギリギリの位置でそれを除く謎の7人組、
明らかに目立つ彼らの事を周りの人たちはそっと見守っていた…。
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「「デート?」」
「うん、デートだよ!デート!」
突然春奈が勇人たちに向けてデートと言い放つ。
「デートって誰とだ?命か?まさか克也?」
「…?なんでその二人?私が言ってるのはお兄ちゃんとクラ姉の話なんだけど」
「私達のですか…?」
「お兄ちゃんもしかして忘れてるでしょ、私の誕生日プレゼントは遊園地のチケットだったでしょ!」
「ん…?あぁ、そういえば…」
「勇人、そうなんですか?」
「確か貰ったんだよな…取ってくるわ」
リビングから飛び出した勇人は自身の部屋にある遊園地のチケットを取りに行く、
幸いなことに引き出しに閉まっていた為、紛失することはなかった。
「これだったよな」
「うんうん、それそれ♪じゃあ今度の日曜ににでも行って来てよ。私の予定じゃ遊園地で告白して恋人になる予定だったんだけど――――まぁ」
兄と姉の話を思い出すクラレット、世界終わる瞬間、告白して恋人になり世界を救った勇者。
自分の予定では見劣りするなぁ、とわかっていた。
「私はロマンチックで嬉しかったですよ?」
「俺もっと普通がよかったな。ま、明日にでも行ってみるか!」
「うん、行ってらっしゃい♪」
「ところで気分よく話を進めるのは楽しいんですけど…」
クラレットがチケットの一部に指を指し示す。
→期限:05月25日
「これどう見ても過ぎてますよね?」
現在:8月初夏
「「………参ったなぁ」」
(この兄妹は…)
そんなやり取りがあったが、結局遊園地はなしという事だったが、
二人は開発が行われている北町の繁華街に向かう事に決まった。
そしてそんな二人に合わせて彼らも動き出した……。
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北町の路地裏、そこには謎の人物が立っていた。
ニット帽子を被り、サングラスを付けて全身を隠せるジャンパーを着た女の子。
そしてその周りをうろつく黒服の集団、相当目立っていた。
「お嬢、新堂のくそg…坊ちゃんは電車に乗ったようです」
「うん、ありがとね」
お嬢と呼ばれた少女はサングラスを外す、そこにいたのは樋口綾だった。
どこからか情報を入手したのか勇人を尾行する気満々でこの場に来ていたのだ。
「お任せください、既に新堂のガキを抹殺する為の戦力を駅に張り巡らせてます、その数20」
「流石だね。じゃあすぐに下がらせて」
「なぜっ!?」
「いやなぜって、あんたら相当目立ってるわよ」
「あ、夏美おはよう!地味だね!」
「尾行なんだから地味な服装で来るべきでしょ!なんで夏なのにニット帽とジャンパーを昼間に来てるのよ!?」
「……お爺様が進めてくれて」
「早く脱ぎなさい、そして解散しなさい」
「しかし橋本のお嬢さん、俺達は新堂のクソガキを始末せんと…」
「あんたら早く帰れ!!」
ビシッ!っと指をさして黒服の集団を駅へと促す夏美。
「夏姉ぇー!」
そんな指をさした駅から春奈が姿を現した、なぜか横に西郷克也までいる。
いやそれだけなら納得できる、問題は…。
「駅にあんな連中配置しないでくれないか?勘違いしたんだけど」
なぜか一緒に出てきた深崎籐矢、竹刀袋を担いでいるが中身はしないとは限らない。
というかその袋に血痕がなぜかついていた。
「なんだっけ?ピリピリした雰囲気凄かったよね?」
「反射的にノシてしまった…」
「なに!?………連絡が途絶えている」
「全滅しちゃったね。じゃあ解散させて」
「ぐぬぬ、おのれ新堂!」
なぜかヘイトが新堂勇人に集まるがそれはいつもの事、
黒服の集団は綾に命令され、駅で倒れているであろう仲間を連れて帰っていった。
「ふう、これでよしっと」
「まだ何人か視線を感じるんだけど、樋口さんいいのか?」
「まあ、一応護衛って言うかそういうのだから気にしなくていいよ?」
「なら僕から言う事はないよ」
「そういえばなんで深崎君がここにいるの?」
「偶々北町に来る用事があったんだ、そしたら…」
「面白そうだから引っ張ってきた!」
「そういうことなんだよ。橋本さん」
「あぁ~…」
夏美は何となく理解した、まあそれはさておき。
「克也だけ?絵美と命は?」
「絵美は今日お店のお手伝いだから伝えなくて、望月の奴は用事があるってさ」
「ふむふむ、なるほど」
「ホント付き合い悪いよねぇ~」
「いや、よく付き合ってる方だと俺は思うだけど…」
普段の春奈に付き合う命の事を思い出した克也はそう答える。
それを聞いた全員、「あー」と納得していた。
「で、勇人は今何してるの?」
「お姉ちゃんが先に来て、そのあと向かうって話をしてるからまだ来ないと思うよ」
「あれ?一緒に来たんじゃないのか?」
「待ち合わせとか女の子には大事なのよ!デートもした事ないのあんた、深崎君を見習いなさい深崎君を」
「夏美もした事ないんじゃなかったっけ…」
「僕もしたことないんだけど……帰っていいか?」
「あ!来たよ!」
全員の視線、籐矢以外が駅の方に集中する、
そこから出てきたのは着飾ったクラレットの姿だった。
バランスが整っているワンピース姿、いつもとは違い少しだけ大人っぽく見える。
というより、彼女は大人っぽいのだが普段はそれを控えめにしているのだが。
「うおぉー、クラレット先輩綺麗だなぁ」
「当然でしょ克也、私のクラ姉なんだから!」
「うん、まあまあかな」
「なんでアンタは上から目線なのよ…。それで勇人はまだ来ないわけ?」
「あと10分もすれば来るんじゃないのか?まあ、僕は帰らせてもらうけど」
「えぇー、深崎先輩もうちょっといてよ。これから面白くなるんだから…」
「あのなぁ…」
そんなこんなで10分ほど過ぎる、さすがに籐矢もそろそろ帰ろうと思ったとき事件は起きた。
「そろそろイベントが起きる気がする」
「うん、そうだね」
「いや、あんたら何言ってるの?」
「美人なクラ姉が駅前で待ってるんだよ?ナンパイベが起きる前兆でしょ!?」
「どうな前兆よ!どんな!」
「でも夏美、ほら」
「え……嘘ホントにきた!?」
どう見ても髪の色を変えてる茶髪と金髪の男性二人がクラレットに話しかけているのを全員が確認する。
穏便にお断りしようとクラレットが話してる姿が見えるが男たちは中々離れようとしない。
「アレってチャラ男って言うんだっけ?」
「正直あんな感じでよくナンパできるの?とか思うわよね」
「そうなんですか、気を付けないと…」
「克也は気にしなくていいって、絵美ちゃんいるじゃん」
「なんでそこで絵美が出てくるんだよ…」
「……あんな人に声かけられたら沈められそう」
「樋口組怖すぎでしょ…」
「あ、マズイぞ」
「ん??」
中々なびかないクラレットに我慢できなくなったのか男がクラレットの手を掴む、
それでも断ろうとクラレットが話しかけるが男はしつこかった。
やがて我慢出来なくなったクラレットが、男の握っている手を上に持ち上げて自身の視線と合わせる。
男は何か怯えたように手を放して後ずさりした。
「……なんかピリピリする」
「はぁ、クラレットさん大人げないなぁ」
「アレってなにやってるの?」
「ん?あぁ、殺気飛ばしてるんだよ」
「ふ~ん、殺気ねぇ。殺気?」
「一般人にぶつけるもんじゃなんだけどな、ほら逃げた」
春奈はなんとなーくわかり、綾はよく理解してるのかため息を吐く。
クラレットに殺気をぶつけられた男はそのまま走って逃げだした。
もう一人残った男はしつこくクラレットを責め立てるがそれも続かなかった。
駅の方から新堂勇人が姿を現したのだ。
「よし!よしよしよし!お兄ちゃんきたぁー!」
「勇人君かっこいいなぁ」
「先輩人気あるなぁ、うらやましい」
「これ本人になると途端にうらやましくなくなるパターンだから気にしない方がいいよ?」
「そういうもんなんですか?」
「そんなもん。ところで勇人は…うわぁ」
「足払いしてひっくり返したな」
最初は話をしてたのだが、男がしつこかったので勇人は困ってるようだった。
そしてついに苛立ったクラレットが男の足を払ってひっくり返したのだ。
男はそれについて文句を言おうとしたがクラレットが殺気をぶつけてまた先程の様に逃げ出してゆく。
それについて勇人は頭を掻きながらため息をつくがクラレットはやっと自分と勇人の時間が来たので笑顔になった。
勇人が手を差し出し、クラレットが笑顔でその手を握る、二人は繁華街へと歩き始めていった。
「あんな事してため息だけで許す勇人と勇人よね」
「だってお兄ちゃんクラ姉にベタ惚れだもん、この程度じゃ嫌いにならないよ?」
「私も勇人君と手を繋ぎたいなぁ」
「今日は譲るって言ってたでしょ。ほら行くわよ!」
「あ、置いてかないでください先輩!」
「深崎先輩も行こう!」
「いや僕は…ちょっと手を放してくれ!」
繁華街に向かう二人を逃がさないように春奈達も移動を始める。
なぜか勢いで春奈が深崎籐矢の手を引っ張っていたが…。
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二人は互いに談笑しながら笑顔で街を歩いている。
何となくそれを見ていた春奈達はある事に気づいた。
「いつもと同じだね」
「いつもと同じね」
「いつもと同じですね」
「いつもと同じだな」
「これってデートなんですか?」
何時もと同じすぎる、誰もがそう思ってしまった。
「もしかして……お兄ちゃんとクラ姉っていつもデートしてるって事?」
「単純にデートの仕方知らないだけでしょあれは、春奈、アンタなんて説明したの?」
「街に出向いてぶらぶらすればデート」
「その説明で既にデートが破綻してる件について」
「誰かデートした事ないんですか?」
「「「誘われた事なら」」」
「私誘われた事ないんだけど…」
「大丈夫、僕は断った」
「受けたら受けたで組員の皆さんが…」
「一日ぐらい付き合ったけどなんか疲れたって言われてそれぐらいかなぁ…」
「まあ、春奈だし…。って俺達中一なんだけどいつの話?」
「小学生」
「やばいだろ…」
何気に少しばかり闇のある春奈の過去に驚いた。
「しかしそう考えると、命ってよく春奈と一緒にいるわよね」
「えへへ~そりゃ命だもん」
「望月がかわいそうに思えてきた」
「大丈夫、私と一緒に居れば安心だからね!」
「自然系ヤンデレとか新しいジャンルね」
「あ、望月君」
「本当に望月が可哀そうだ…」
「ううん、そういう事じゃなくて…」
「確かにアレは望月だな」
「うおっ!?ほんとだデュウもいる!ミコト――ッ!」
「飛び出そうとするんじゃないわよ!ばれるじゃない!」
飛び出そうとする春奈を押さえつけ、一同は勇人達に視線を向ける。
ちょうどパン屋から紙袋を抱えて望月命が出てきたのだ。
横には小学低学年くらいの身長の小さな女の子がメロンパンをモグモグしながら立っている。
望月デュウ。つい先日、望月家の養子になった眼帯を付けた謎の少女だ。
パン屋から出てきた二人が勇人に話しかけられて挨拶をしていた。
デュウも少しお話した後二人が離れる、そして望月家がこっちに向かって来たので確保した。
「命ー!」
「うわぁ!春奈だぁー!?」
厄介事だと瞬時に理解した命は逆方向に走り出す。
▼もちづきみことはにげだした。しかしまわりこまれてしまった!
「幼馴染からは逃げられない」
「……なんであの日慰めたんだろ」
「ハル、おはよう」
「おはようデュウ!」
イェーイとハイタッチする二人、身長差はあるが楽しそうにハイタッチしていた。
デュウも表情は変わらないが嬉しそうである、曰く表情筋が死んでるとかなんとか。
「ああ、西郷か、それに先輩達もおはようございます」
「うん、望月君おはよう」
「おはよう命、何してたのよ?」
「貯蓄のメロンパンが無くなって買いに来たんですよ。デュウの奴メロンパンがないとぐずるんで」
「(もぐもぐ」
小動物が如くメロンパンを食らう望月デュウ。
よほど好きなのかずっと口を動かしているようだ。
「そういう事なら言ってくれればこの大イベントに合わせたのに」
「趣味悪いぞ」
「あはは~。兄妹なんだからOKー!」
「幼馴染だからOK!」
「第二夫妻予定だからおっけー♪」
「さらりと捏造してますね…」
「じゃあ、僕はそろそろ帰るとするか…」
「ちょ、ちょっと待ってください!俺だけ置いていかないでください!」
「いや、だから…」
「あ!お兄ちゃんたち居なくなる!よし皆行くよ!」
「おー(もぐもぐ」
デュウの手を引っ張り、春奈がピューっと進んでいってしまう。
春奈を連れていかれれば命も一緒に行くしかない、しかし常識人よりの命はこのメンツの相手はキツイ。
トラブルメーカーの春奈と夏美、新堂勇人限定の綾、流される役立たずの克也、そして何考えてるか分からないデュウ。
このメンバーに巻き込まれた命は深崎籐矢を手放したくなかった、彼の腕を掴み無理矢理春奈を追っていったのだった。
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繁華街でショッピングを楽しんだ勇人とクラレット。それを尾行する、チーム春奈。
時折何度か勇人やクラレットがこちらの方を見たりするが奇跡的にバレることはなかった。
そしてついにお昼時、お食事タイムが始まったのである!
とりあえずオシャレっぽいお店に入る二人、それを見ていた春奈は…。
「お腹すいた。ねぇデュウ」
「(モグモグ(ぶんぶん!」
口を動かしながらデュウが首を振る。
「うーんケチ―」
「食べ過ぎだぞデュウ」
「……(ピタリ」
「一応言う事聞くのね。てかクラレットお弁当広げたんだけど大丈夫なの?」
「うん、あのお店は飲食持ち込みありのお店だから大丈夫だよ」
「クラレット一応下準備してたわけね。てかなんで綾はそんなこと知ってるの?」
「だって勇人君と一緒に行ったことあるんだもーん♪」
「え!?勇人が!?」
「それって僕たち全員で勉強会をするって目的で騙して店に連れ込んだ時の話だったんじゃないか?」
「おのれ樋口」
「ふふ~♪」
「しかし確かに腹減った…、俺達も食事にしませんか?」
「そうだな、じゃあ僕はこの辺で…」
「もしもし、日比野定食ですか?北町の〇丁目〇番地に出前をお願いします。皆なに食べたい??」
「何さらりと出前取ろうとしてるんだ!?一応尾行中だろ!?」
「……肉まん」
「じゃあ俺、冷やし中華」
「「「ラーメン」」」
「……はぁ、日比野定食」
「はーい!じゃあ日比野定食と肉まんと冷やし中華にラーメン三つ、あと私はカルボナーラで」
「しかし相変わらず統一性がないメニューよね…」
「おいしければ何でもいいんだけどねぇ」
「……流れでラーメン注文してしまった」
「どんまい」
ポンと腰に手をやるデュウ、逃げる機会があったのにも関わらず籐矢は逃げられなかった。
出前を取ったので勇人達に目線を戻すと、何と言うかイチャイチャしていた。
お弁当を互いに食べあいっこし始めて店の視線を独占している、夢中になってるのか二人とも気づかない。
それを見ていた春奈達もなんか気分がおかしくなってきた。
「うらやましい…うらやましい…」
「痛、痛たたたたた!?肩握りつぶさないで綾ぁ!?」
「だってクラレットさんずるい!」
「ずるくない!あれずるくないから!二人とも恋人だから!」
「むぅー!」
「俺は…あんな風にはなりたくないな…」
「目立ってるからな、見ろ。窓際の席のせいで通行人まで見てるぞ。僕は御免だ」
「しかし覗きは趣味悪いが先輩達も目立ちすぎ……なんだこれ」
ポタリポタリと甘い香りを出す液体が命の頭の上から滴る。
不思議に思って頭上を見上げると…。
「うへぇ……砂糖吐きそう」
「うわっ!?春奈お前何やってるんだ!?」
「砂糖吐いてる」
「きたな!?俺の上で吐くんじゃない!?」
「美少女の唾液が汚いとか可笑しいでしょ!?」
「美少女でも唾液は唾液だー!!」
そんなあほなやり取りをして10分後、チリンチリーンと鈴を鳴らしながら出前用自転車が春奈達の前に届いた。
「はーい、日比野定食です…って春奈達じゃない、何やってるの?」
「砂糖吐いてる」
「……え?」
「あ、気にしないで日比野さん。こいつの言う事は特に」
「うん、気にしない。はいこれ出前」
「わーいラーメンだー」
「やっぱり日比野定食のラーメンよね!」
「週一は絶対食べたくなるな」
「にくまん…(もぐもぐ」
「この冷やし中華、絵美が作っただろ(モグモグ」
「あ、わかる?」
「店長より美味しくないからな」
「し、仕方ないでしょ!でもお父さんのお墨付きなんだから!」
「カルボナーラうめぇ」
「なんだこれ…」
路地裏でラーメンを食べ、肉まんを飲み込み、冷やし中華を食い、カルボナーラを食べる。
日比野定食の味噌汁を飲みながら命は思っていた。おかしい集団だ、と。
「しかし本当に統一性のないメニューよね。たまに気分でメニューコロコロ変わるし」
「正月のお雑煮とお汁粉たべたい…」
「おしるこ?」
「甘~いあんこの入った汁」
「おぉー!」
「半年先だろ…」
「あ!勇人君が!」
「まだ、食べてる最中なんだけど!?」
「よし!このまま追おう!」
「え!?お会計は!?それにせんぱいがどうしたの!?」
「かくがくしかじか。OK?」
「いや伝わらないから!」
「せんぱいとクラレット先輩がデート、なんで呼んでくれなかったのぉ!」
「伝わった!?」
カラカラと自転車を動かして絵美が二人を追い始める。
「おい絵美、家の手伝いどうするんだよ!」
「そんな事よりせんぱいの事が先!」
「よし!行くよ絵美!」
「うん!」
「いいのかぁ…?」
そんな絵美を引き連れてカルボナーラを啜りながら春奈が走ってゆく。
命も定食片手に置いてかれないと必死に走っていた。
彼らは忘れていた。料理を食べてから二人を追えばいいという事を…。
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この後の展開は割愛させていただく、何故ならただひたすら勇人とクラレットがイチャイチャしていただけだからだ。
ショッピングモールでクラレットが二時間近く買い物をしてたが勇人はそれを笑顔で付き合ってた。
春奈達はそれを見ながら近くのゲーセンで暇をつぶしてた。
そんな春奈達のゲーセンに勇人達が来るとプリクラに7人全員で飛び込んだ、ちなみにプリクラは撮った。
そのあとたい焼きの中身はカスタード派、粒あん派、こしあん派で血肉(たい焼きの中身)を巡る災厄(落とした)が起きたり、
かき氷を食べてびっくりしたデュウがビームを天に放ったり色々あった。
そして時は那岐宮スカイブレードに移っていく。
「………むぅ」
「どうしたクラレット?」
「あの、さっきから誰かつけてる気がするんですけど、気のせいじゃないですよね?」
「ん?あぁ、どうせ春奈達だろ?」
「勇人、分かってたんですか?」
「いやぁ、だって春奈達だろ?知ってたら絶対つけてくるに決まってるじゃないか」
「確かに…」
わははは!。脳内で笑う春奈が二人にはイメージできた。
ちなみに視線がある方を見ると全員隠れるがデュウだけ眼帯を付けてるせいで隠れていない。
サッと命がデュウの頭を掴んで引き込むがバレバレすぎた。
「楽しめましたし、もうすぐ夕方ですね」
「じゃあ帰るか?」
「ううん、もう一つだけ、もう一つだけ行きたいところがあるんです…その為に」
クラレットが春奈達のいる方に視線を移す。
「さてどうやって振り切りましょうか…」
「ははは…」
打算的に冷徹に、そんなクラレットが普段隠してる部分をあらわにする。
それを見た勇人は乾いた笑い声を出すと、穏やかな笑みでクラレットを見ていた。
ひた隠しにしてたモノを自分の前で自然に出してくれる、それが勇人は嬉しかった。
彼にかかれば彼女の隠し事程度など単なるのろけ話に変わってしまうのだ。
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「エレベーターに乗ったよ!」
勇人とクラレットがエレベーターに乗るのを確認して全員がエレベーターの前に立った。
「よしさっそく…」
「待って!」
「綾どうしたのよ?」
「多分、このまま降りたら待ち伏せされると思う」
「待ち伏せ……」
夏美の脳裏に怒っているクラレットの姿が過る、
よく見ている姿故、それが自分に向けられるのを彼女は恐れていた。
「じゃあ、あっちから降りる?」
「非常階段…」
「ここ高さ何メートルだと思ってるの!?」
「よし!レッツゴー!」
「ま、待ってよ春奈―!」
「勝手に下りていいのか!?」
「こなくそー!」
「おい、全員待てって!」
バタバタと春奈達が非常階段から降りて行った。
そして…。
「二人は下りないのか?」
「(もぐもぐ」
「非常階段から降りるの疲れるからね、窓から二人が出て行ったの確認してから降りますよ」
「疲れるからヤダ」
「やっと帰れるな…」
空気をある意味呼んでいるデュウ、籐矢、綾の三人はまだから勇人達の姿を確認しようとしていた。
「あ」
そして綾が何かに気づく、それは……。
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「よっし!いっちばーん!」
「に、にっばーん」
「ぜぇぜぇ…絵美付いたぞ降りろ」
「ひゅーひゅー」
「お前なんで無理して春奈達に付き合おうとしたんだよ…」
「つ、疲れた…」
克也の背中で息継ぎしてる絵美、両手で膝に手をついて休んでる命。
へこたれた夏美、そして元気いっぱいの春奈、子供の体力は無尽蔵だがそれは春奈だけに適応された。
「さてお兄ちゃんはと…」
春奈が目配りをし始めるとチーンとエレベーターから音が鳴り響く、
そこから出てきたのは樋口綾とデュウ、深崎籐矢だった。
「お疲れー」
「ノシ(もぐもぐ」
「本当に展望台から降りて来たんだな」
「な、なんで先輩達がエレベーターから出てくるんですか!?」
「勇人君が展望台から出たの確認したから降りただけだけど、あとね…」
「あー!その手があったかー!」
「な、なら教えて…ください…よ…」
「ひゅーーーーー」
「日比野さん、息を吸え!吐きっぱなしじゃ死ぬぞ!」
「あはははは!」
「笑い事じゃない!」
大笑いする春奈、だが問題はそんな事じゃない。
今から勇人の行方を追わなければならないのだ。
「それで勇人達どこに行ったのよ。綾」
「飛んでったよ」
「え?」
「だから飛んでった、途中の階層で外に出たみたいでそこからビル越しにジャンプしてどこか行っちゃった。気づかれてたみたいだね」
怒られずに済んでほっとした綾だったが春奈はそうではない。
追わなければ、追わなければいけないという使命感が春奈の背中を押す!
「これから最大のビックイベントが待っているはず!皆追うよ!」
「私もういいかな、だってこれ以上したら嫌われるかもしれ――」
「―――お兄ちゃんとクラ姉ってね、まだキスしてないんだよ」
「もしもし、私綾。うん、すぐに那岐宮全組員に連絡して勇人君の行方を追って。あと那岐宮スカイブレードに車を寄越して、自転車もあるから」
「樋口組動かしやがった!?」
私欲で組を動かす綾に驚愕する夏美。
必ず見届けるとか呟き始めた綾を見てなんか夏美は諦め始めた。
正直勇人達もここまでやるとは思っていないだろ。
「………」
「絵美死ぬなー!」
「いやギリギリ息はしてる大丈夫だ」
「深崎先輩詳しいんですね」
「職業上な」
「(くいくい」
「どうしたデュウ?」
「メロンパンない」
「もう食ったのか!?10個は買っただろ!?」
「動くとお腹減るし、今日ビーム撃ったから」
「……妹が燃費悪すぎる」
「…デュウの方がお姉さん」
「はいはい…」
「むう…」
「はいデュウこれ」
「ん?おぉー!ハル大好き!」
「メロンパン…これどこから買ってきた?」
「そこの売店」
「お前なぁ……あんまりものやるなって」
「デュウが可愛いのがいけないと思います!」
「…デュウの可愛さは罪深い(もぐもぐ」
「デュウお前また、昼ドラ見ただろ!?教育番組にしろって言われただろ!?」
「……やだ」
「さあ皆、車来たよ!行きましょう!」
「樋口先輩がやる気満々な件について」
「ほら絵美行くぞ」
「……う、うん」
「………なんだこれ」
カオスってるメンツがリムジンに詰め込まれてゆく。
スカイブレードという観光名所故にものすごく目立ってた。
大抵春奈が絡むと目立つ、目立ってしまう。
「よーし!追え―!」
「ええ、新堂のクソガキを今日こそ始末しましょう!」
「ちがうよ?」
元気いっぱいで春奈が指示をする、果たして春奈達は勇人に追いつくのか。
そしてそんな春奈達から勇人は逃げ出せるのか!?
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「はぁ…はぁ…」
「ぜぇ…ぜぇ…」
勇人とクラレットは駆け抜けた。走って跳んで、駆け抜けた。
ビルを飛び越え、路地裏を抜けて、誰にも追ってこられないように遠回りして。
やがて真っ赤な夕焼けが那岐宮を照らし始めるころ、やっと彼らは足を止めた。
「はぁーーー…」
「ぜぇーーー…」
肩で息をしていた二人は大きく息を吐きだして互いの顔を見る。
「ふふふ…あはははは!」
「あははははは!」
お互い笑いあっていた、何かおかしい事が会ったからではない。
全部がおかしかったのだ。
「いやぁ、何とか撒けたな。ここまで苦労するとは思わなかったわ」
「ええ、まさかここまでしつこいとは思いませんでした……何人か始末しそうでしたし」
「やめろ」
妙に恐ろしい事を呟くクラレットを窘めて勇人とクラレットはベンチへと腰を下ろした。
二人で夕焼けを見つめる、眩しくもあったが夕焼けは見つめるには十分な輝き具合だ。
「「…………」」
ただ、ただ二人で夕焼けを見つめていた。
この夕焼けが完全に落ちれば家へと帰宅するのだろう。
そんなことを考えていたが、やがてクラレットが口を開いた。
「私…」
「ん?」
「怖いんです」
「怖い?」
「……はい」
勇人はクラレットの顔を見る、怯えていた。
表情には出さないが怯えているのを勇人は理解できた。
「今が幸せで、暖かくて、でもきっと終わりが来そうで…。那岐宮でもリィンバウムのせいで色んな事が起きています。だったらリィンバウムではきっともっと恐ろしい事が起きていると思うんです。魔王召喚の時以上の…」
魔王召喚、勇人とクラレットを引き込んだ全ての元凶と言える事件。
勇人はその事件の末にリィンバウムの運命を握る存在、誓約者へと至った。
メイメイは長くて百年後に結界が修復されると言っていたが勇人はそう思わなかった。
今こうしてるときでも結界は修復されているのかもしれない、
もしかしたら明日にでもリィンバウムへ行けるようになるのかもしれない。
「あの日、ここで私は知りました。自分の運命を、生贄になって終わりを迎えるという宿命を、そしてそれをどこか受け入れてしまった。もし心から拒絶できればきっと抗えたのに…」
クラレットの経緯を知っている勇人はそれをきっと無理だったと思う。
彼女は一度に多くの事を思い出していた。
つらくも暖かい思い出を思い出してしまったのだ。
それを拒絶するなど出来るはずがなかった。
「私はあの日……勇人を、家族を裏切ったんです…」
零した罪を含んだ言葉、あの日クラレットは家族を裏切った。
どうしようもない事は分かっていた。
彼女は最後の時まで自分の事を責め続けていたのだから。
だがそれは…、勇人も同じだった。
「俺もだよ」
「え?」
「俺も裏切ったんだ」
勇人は語る、メイメイさんの言葉、ヒトカタのクラレットを連れて帰還しようとしてた事を。
あの時、彼女の手を自分から握っていれば恐らく那岐宮に帰ることが出来ただろう。
たとえ偽りでも、クラレットを連れて帰れる、それでいいじゃないかと勇人は思っていた。
「あの時、俺は全部投げ出して逃げることを選んでたんだ。もしヒトカタのクラレットが止めてくれなかったらきっと俺は逃げ出していた、フラットの皆を、クラレットを見捨てて逃げだしていた」
「勇人…」
「死ぬのが怖くて、戦えなくなって、敵がどうしようもないほど大きい存在に感じて……もうどうにでもなれって思った。自分はただの人なんだ。力を借りる事しか出来ない自分があんな連中に勝てるはずがないって…思っていた」
「………」
「だからおあいこだ。俺達は互いに裏切ったんだよ。でもそれを乗り越えて今ここにいる、それでいいんじゃないか?」
「そう、ですね…」
再び夕焼けに視線を向けたクラレット、その姿を勇人はジッと見ていた。
彼女はこれからも苦しむだろう、自身の罪人の血を心を蝕まれていくだろう。
勇人は想う、彼女をどう支えればいいのかと? どうすれば彼女の心を救えるのだろうかと。
そう想っていたら、いつの間にかクラレットの手を勇人は握っていた。
「勇人?」
「…………もう」
僅かな時間、考えて考えて考えた。
彼女がもっとも笑顔でいた時の事を、作り笑顔ではない、心からの笑顔だった姿を。
だから勇人は心の奥からその欲をクラレットへ伝えた、誰でもない、勇人の望む事を伝えた。
「勝手にどこかに行かないでくれ」
「勇人…」
「これからずっと俺の隣にいてくれ、二度と誰かに連れ去られないでくれ……もう離れないでくれ」
ギュッと両手でクラレットの縛るように勇人は抱きしめた。
クラレットは苦しく痛んだが、それでも勇人の想いを嬉しく思えていた。
(自分を欲している)
勇人は自分を望んでいる、自分を縛り付けようとしてくれる、自分を……愛してくれている。
他の誰でもない、勇人は自分だけを見つめてくれている。
多くの人が勇人を見ようと最後には自分を選んでくれる、それが、それが何よりも嬉しい…。
クラレットもまた、縛るハヤトの腕を受け入れながら勇人を強く抱きしめた。
魔力も何も使わない、ただクラレット自身の力で勇人を力いっぱい抱きしめた。
「私を離さないでください、手放さないでください、私だけを愛してください」
「勿論だ。俺はクラレットだけを愛する。その為だけに俺はずっとあの世界で戦っていたんだから…」
誰もいない公園で二人はただずっと抱きしめあっていた。
やがて二人は互いに見つめあう、互いに最も愛する人の顔が近づいてくる。
戸惑いも覚悟もなかった、そのまま二人の口が重なり合う、二人は口づけを交わした。
「勇人…勇人…!」
「クラレット…!」
互いを求めあうように、心から結びつくように、口からその想いを互いに貪る。
羞恥心も何もない、ただお互いにしたい事を勇人とクラレットはしていた。
5分、10分、もしくは1時間と立っていたのかもしれない、気が付くと夕焼けは終わり周囲は闇に変わっていた。
二人は口を離して肩をくっつけ合いベンチに座る、両手で互いの手を握り合い手放さなかった。
今はただ、この手を離したくないとお互いに思っていた。
「何かが変わると思っていたんですけど」
「何にも変わらないんだな」
恋人になり、口づけをして、きっと何か変わるのではないかと思った。
だが何も変わらない、今までの二人のままだった。
「でも、分かったよ。俺達はもう変わらないんだって」
「ええ、こんなに幸せなんですから、変わる必要なんてないんですよね」
自分達は変わらない、互いに愛し合う心はこれ以上変わらないと理解できた。
だけど、二人は思う、あそこまで望み合って変わらなかったのだ。ならその上はと…。
「……クラレット」
「なんですか?」
「俺はクラレットが欲しい」
「……私は勇人のモノですよ」
「そっか……じゃあ帰ろう」
「はい」
手を繋げあったまま二人は帰路に向かう。
その道中、再び色々な出来事があったが二人はその手を離すことはなかった。
きっとこれからも勇人とクラレットの絆は永遠に変わる事はないだろう。
何故なら二人は永遠のパートナーなのだから……。
なんか結構長くなってしまった。
おまけにまた頭の悪い話を…仕方ないじゃないサモンナイトはダークファ(略
パートナーの話なのに気が付くと春奈達の阿保話になっていたという展開。
まあ、ラストはきちんとしめたんで多少はね?
なんか初回からディープキスするというやべぇ事やってますけど普通だと合わないというかまあ、この二人だから多少は押しが大事なんですよ。
この先に展開はR18なんで私は書きません、だれか書いてもいいんですよ?
次回は初めて見た笑顔………うーん、どうしよう。
いや本当に…どうしよう。
※那岐宮スカイブレード
後々、ワイバーンが乗ったり人が空から降ってきたりする予定の電波塔。
一応展望台としては人気だが、観光名所として人気が出るかは不明。
今回勇人達は途中の作業員用の出口から降りた。
※メロンパン
デュウの大好物、挿絵でトースト食ってる姿を見て小動物っぽさから考え着いた。
ちなみになぜメロンパンなのかは単なる作者の趣味である。
モグモグ系幼女とか大好物。
※日比野定食
週替わりでメニューがコロコロ変わる風変わりなお店。
一応大衆食堂に分類されている。
パスタはやるし焼きそばもやる、お好み焼きもたまにやるしステーキだって焼く。
だが安く美味い為、地元民にとても好かれている。
ちなみに勇人、夏美、綾、籐矢の四人はここのラーメンが大好物だ。
※ハヤトのキス。
50の質問で話した通り最初は夏美(覚えてない)
二番目はミニスで三番目はとある人物、そして四番目はクラレットなんです。
なんだこのクソガキ、なんで彼女が四番目なんだ(暴論