サモンナイト ー生贄の花嫁ー   作:ハヤクラ派

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季節は秋、そして十月。
ハヤト達にとっての激動の夏が終わりついに秋へと季節は移り替わる。
相も変わらず、二人は並んで高校へと通学しているが、その通学路はいつもの違っていた。

「勇人。紅葉が目立ち始めてますよ」
「おー、もう秋かぁ」
「……ふふ、綺麗」
(………こういう時、君の方が綺麗だよ。とかいうべきなんだろうか)

何かいい言葉を言おうとするが普段からこういう事をしてない勇人は悩む、
実にどうでもいい悩みだった。
やがて二人がコンビニ、酒屋橋本を通る時、コンビニの扉が開いて夏美が出てくる。

「あぁ~疲れた~」
「おはよう夏美」
「ん?あ!おはようクラレット!」
「朝からどうしたんだ?」
「いや、肩がこっちゃってさ。もう重くて重くて」
「…………?」
「何その無言」
「こる肩あるのか?」
「はぁっ!?喧嘩売ってるわけ!?」
「ぎゃぁーっっ!!」

勇人に掴みかかる夏美、そんな光景を見ながらクラレットを含む周りの学生は笑っている。
季節は変わろうとしているが、何時もの光景は変わることはなかった……。


制服

「いってぇ…、本気で引っかきやがって」

「アンタが気にしてる事ほじくるからでしょ!」

「嫌だって、クラレットが胸が大きいからこるんだって」

「ほほう…」

「こ、こっちに振らないでくださいよ!?」

「…あのね二人とも、正直な話。私の友達なぜか全員大きい気がするんだけど、結構気にしてるからやめてくれない?」

「「…はい」」

「次言ったらトンカチで叩くからね?特に勇人」

「気を付けます…」

 

 夏美の言う、友人。

 クラレットは巨乳、綾は美乳、春奈はトランシスタグラマーと妙に自身の持てるスタイルをしている。

 その中で唯一の胸の無い夏美が気にするのは至極当然の話だ、日比野定食で絵美と熱く語り合っている姿を見かける。

 

「たく、なんで新堂家はあんなに大きいんですかね?クラレットはともかく春奈がよくわからんわよ」

「まあ、春ちゃんは身長を吸われてる感ありますけどね…」

「最近絵美に抜かされてっ言ってたわね。あの子、身長上がってるの?」

「……変わってない気がする、そういえば結局なんで肩こってたんだ?」

「!?」

「朝一で酒屋の卸し手伝ってたのよ。うちってコンビニだけど酒屋が本店だからね?名前にも書いてあるし」

「なるほど、確かに肩こるわそれ」

「あはは~、ホントに疲れたわよ」

「そ、そんな事より、もう秋ですよね?」

 

 空気を読まない勇人があの話題は蒸し返すような気がしたクラレットは話題の路線を変更する。

 今は秋の季節、色々な話もあるだろうと考えた。

 

「あぁ~、そういえばもう秋よね。ところで二人とも衣替えの服用意した?」

「「………衣替え?」」

「いやなんで知らないのよ。ほら周り見てみなさいって」

 

 周りを見ると、新しい制服。

 セーターっぽい制服を着始めている生徒がちらほら見える。

 

「セーターっぽいな」

「いえ、あれはカーディガンですよ?」

「そうなのか?」

「いやアタシ服の名称気にしないし、分からないわよ?」

「あなた達は……」

 

 二人の性格に少し頭を抱える、そして那岐宮高校が見えてくると奥から誰から走ってきた。

 

「おーおー来ましたよ?新堂勇人君?」

「むっ」

「……ちょっと腹痛で帰るわ」

「勇人くーん!おはよー!」

 

 新しい制服を着た樋口綾が勇人に向かって駆けてくる。

 とても優しく愛の溢れた笑顔だった、横にいるクラレットの方は見たくなかった。

 

「うん、おはよう綾」

「うん、おはよう!あ、夏美とクラレットさんもおはよう!」

「…おはようございます」

「あはは、ついでっぽいわね。おはよう綾」

「ねえねえ勇人君。この服どうかな?」

 

 くるりと一回転して自分の制服を進めてくる。

 周りと同じ服にもかかわらずその中で一層似合っている気が勇人にはした。

 

「うん、とてもよく似合ってるぞ?」

「ホント!? えへへ、仕立てあげて貰ったんだ♪同じ制服でも皆より良くしたくてね」

「流石樋口組…」

「……同じじゃないですか」

「ん?」

「なんでもありませーん」

 

 ムウっとするクラレットに綾は気にするが、特に追及はしない。

 多分わかっててやっている、男には理解したくない攻防戦だった。

 

「じゃあ、勇人君の服も仕立ててあげるね?」

「え、おわ!?」

「ちょ、ちょっとなに勇人にしがみ付いているんですか!?」

「もう一つ空いてるんだからそっちにしがみ付いてもいいんですよ?」

「そういう事を言ってるんじゃないです!離れなさい」

 

 クラレットが綾に掴みかかろうとするが、クラレットが綾の手をつかんだ瞬間クラレットが吹っ飛ぶ。

 正確には力を全く別の方向に受け流されたのだ。クラレットは魔力で姿勢を制御して身構えた。

 クラレットの様子は可笑しかった、その目は殺意に満ち溢れている。

 これは彼女の本質であることを勇人は知っている、手綱を握らなければ悪そのものなのだ。

 そして右手を殺意を滾らせてバチバチ発光させ始めた。

 

「いい機会ですよね?殺してもいいですよね?」

(やばい…目がマジだ…マズイ本気でマズイ)

「だから私は第二夫妻でいいって言ってるよね?勇人君の独占は良くないよ?」

「独占?そもそも私は勇人のモノで勇人は私のモノなんです。出会った日も一緒に居た日も全て私の方が上なんです?わかりますか?」

「ううん、分からない」

「そうですか……なら……」

「ッッ!!!全員校舎内に走って!巻き添えく食うわよ!!」

 

 ―――やべぇ!またあの二人だぁ!!

 

 ―――逃げろぉぉぉーーー!!!

 

 まさに阿鼻叫喚、夏美の声に気づき、周りの生徒たちが校舎内や学校外へと逃げてゆく。

 勇人は綾に盾にされて逃げられなかった、正直な話、那岐宮では勇人の誓約者の力はほぼ使えない。

 常人よりは魔力に長けているが、それでもクラレットには雲泥の差をつけられるほどだ。

 

「勇人どいて!そいつ殺せない!」

「いや殺すな!っていうか綾も放してくれ!」

「大丈夫、クラレットさん。勇人君の腕まだ空いてるよ」

「へぇぇぇーーーッ!いい度胸ですね」

「何煽ってるんだ綾ぁぁーーーっっ!?」

 

 完全にキレたクラレットが勇人ごと始末にかかる。

 綾は勇人を庇いながら盾にしてクラレットと対峙する。

 そして勇人は……。

 

「どうしてこうなった」

 

 現実逃避するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お前達は馬鹿か」

 

 バンバン!と二人して出席簿で叩かれた。

 おまけに二人とも容姿は最悪、綾は所々焦げており服もビリビリ、

 クラレットは全身泥だらけになっており、何度も投げ飛ばされたのか打身の後があった。

 

「全く、認識阻害も万能じゃないんだぞ。お前たちが普段からやり合ってなきゃ辻褄合わせが出来なかったんだ」

「「よかった~」」

 

 更に二人が叩かれる、二人して涙目で頭を抱えてた。

 

「普段から争うなと言ってるんだ!全く、大宮の奴がひーこら言いながら校庭を直しているんだぞ」

「「すいませんでした」」

 

 校庭ではメガネをかけた小柄な女性が不思議な力を使って穴ぼこだらけの校庭を修復していた。

 一つ修復するだけでも、肩から息をするほど体力を彼女が消耗しているようだった。

 それを生徒指導室から見ていた綾とクラレットは罪悪感に見舞われていた。

 

「とにかく今日はジャージで授業に参加しろ、分かったな」

「「……はい」」

「行って良し、さて…私も修復に参加しないとな…」

 

 担任は二人の退室を促して二人は頭を下げながら外に出た。

 二人が互いの顔を見合わせると大きく息を吐き歩き始める。

 

「なんか…ごめんなさい」

「私も浮かれちゃってごめんなさい」

 

 浮かれて殺し合いに発展するのだから洒落にならないが。

 

「初めての高校で新しい服だったから勇人君に見てもらいたくて…ダメでした?」

「そんな事はないですけど、それでもやり方が問題です」

「本当に分け合う気ないんだねぇ」

「そもそもその発想が理解できないんですけど?」

 

 ジト目で綾を睨むクラレット、相変わらず余裕なのかニコニコしてる綾。

 このまま一触即発の雰囲気が続くと思われていたが…。

 

「「ふ、あはははは」」

 

 笑い合う二人、そこに先ほどの雰囲気はなかった。

 

「制服ボロボロにしてゴメンね?」

「ふふ、自業自得だしいいよ。そうだ、クラレットさんも一緒に仕立て直す?」

「いいんですか?」

「うん、勇人君の横に一番いるのクラレットさんだから、いい服着ないとね」

 

 綾は勇人とクラレットが一緒にいる事を否定しない、ただその中に自分を含ませてほしいだけだ。

 だがクラレットはそれを絶対に認めようとはしないのだった。

 

「なら勇人の服も仕立ててほしいですね。なんか黒焦げになってましたし」

「容赦ないねー」

「全部の元凶は勇人ですからね」

「うん、そうだね」

 

 二人は談笑しながら教室に向かう、その服はズタボロだったがなぜか様になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「し、死ぬかと思った…」

「お疲れー」

「自業自得だな」

 

 机に伏っしている勇人を夏美と籐矢が見下ろしている。

 二人とも勇人の事を自業自得とみていた、何せ二つの爆弾を育て上げたのは勇人自身だからだ。

 

「他人事だと思ってよ…」

「いや、他人事だし。見てる分は楽しいわよ♪」

「性格悪いな橋本…」

「何時かこうなるかなって思ってたんだから、もう予想以上で楽しいわよ」

「これが修羅場か…」

 

 がくりと机に伏す勇人、ガラガラと扉が開かれそっちの方を見ると勇人は固まる。

 

「みんな、おはようございます」

「朝は迷惑をかけました」

 

 仲良く同時に入ってきた二人、それを見て勇人は相変わらず理解できない。

 何故あそこまでの惨事になりながら普通の行動を取れるのか……コレガワカラナイ。

 

「うわ、こっち来た…」

「………」

 

 無言というか無音で籐矢が勇人の下から離れてゆく。

 死角に入り込み、意識外を暗歩と呼ばれる、今この場で必要ない高度な歩行術で離れてく。

 夏美は普通に離れてく、勇人は夏美に手を伸ばしたがその手は空を掴むだけだった。

 

「勇人君」

「勇人」

「…な、なんでしょうか」

 

 蛇に睨まれた蛙、まさにそんな状況の勇人をクラス全員は見ていた。

 大半の男子は「新堂ざまぁ」と思っていたのだが。

 

「勇人君、今日の放課後開いてる?」

「え、えっと…」

「綾がお詫びに私達の冬服を仕立ててくれるみたいなんですよ?一緒に行きましょう勇人」

「え?え?」

「じゃあ、今日の放課後に家の車に乗っていこう。クラレットさん」

「うん、そうだね綾」

「…?」

(なんでこの二人殺し合いしてたのにこんなに仲いいの?)

 

 女って本当にわからん。

 勇人はつくづくそう実感した、特にこの二人の関係は謎だ。

 自分を差し置いてドンドン話が進んでいくが、残念な事に勇人君には選択権はなかった。

 

「じゃあ、私達着替えてくるね」

「またあとでね、勇人君」

 

 二人が着替えを持って教室を出てゆく。

 それを苦笑いで手を振りながら勇人は見送った。

 

「はぁ」

 

 一息つく、ほぼ諦めている、そしてクラスメイトに視線を向けると…。

 

「「「「「「ぐぬぬ!」」」」」」

 

 男子たちが握り拳を固めてこっちを見ていた。

 そして新堂勇人に向けて全員が突っ込んでくる。

 

(ああ、またこの展開か…)

 

 何時もの展開、何時もの閉め、まさに出来損ないのラブコメだった。

 

「「「「「おのれ新堂!!!」」」」」

「俺は被害者だ―!!」

 

 とある紅葉の美しい日、勇人の新しい季節が幕を開けるのだった……。

 

 

 ちなみに次の日、新しい冬服を着た二人の姿はクラスメイト(男子)の目の保養だったそうだ。

 あとなぜか勇人の服が変わっていたりした。




お題編に突入してからドンドン頭の悪い話ばっかり書いてる気がする。
シリアスばかり書きたいわけじゃないんだ。
ただサモンナイトがダークファンタジーよりなんだ。

今回は後々のネタバレを一部公開して執筆しました。
まあ、終わったら書くから頭ゆる~く見といてくだせぇ。
一応、気になる所を説明文で記載しときます。

※樋口綾
夏に起こったとある事件で諦めていた勇人の想いを燃やし始める。
積極的に勇人にアピールし始めてたせいでクラスのマドンナ的存在だった為か、
勇人はクラス中の嫉妬の炎に燃やされることになる。
クラレットと二人で勇人を愛そうと考えているが、クラレットは認めない。

※樋口組
那岐宮の極道、某暗黒サモナイの財閥のリスペクト。
極道と言っても別に非道な事をしてるわけではなく那岐宮の顔として信頼されている。
綾は組長の孫で組員にすごく親しまれている。
ちなみに勇人の事も信頼しており彼が近づくと一部、発砲や抜刀してくる。

※樋口護身術
あくまで護身術、殺気に対して反応して相手を投げ飛ばす。
力が強ければ強いほど相手に返す力が大きくなる。
一応乙女のたしなみだそうだ。

※担任
何時の間にか変わった担任。
色々な出来事があり、それで勇人とクラレットの那岐宮での裏の保護者になる。
スタイル抜群の体育教師。

※大宮さん
小柄で普段は白衣を着てる保険医。
保険医なのだが保健体育はやらない。
裏の人で物の修復や色んな術を使える。
弱い。

※コンビニ、酒屋橋本
橋本夏美の実家、
元々酒屋だったが儲からなくなり学校の近くだった為コンビニを始めた。
これが大成功で昼時になると大量の生徒で溢れる。
酒屋としても営業しており、早朝卸売を行っている。

※暗歩
キルアのアレ。

※おのれ新堂。
クラスのマドンナを二人も掻っ攫った勇人に対する男子生徒の魂の叫び。
ちなみに夏美はマドンナに入っていない。

書いてて思いました。
頭の悪くなる話だなと。次回、パートナー。
………デート回?

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